69。メルティとすべき仕事
遅れました
近頃は忙しくて。。。
水着のボーナスに。
権限譲渡に。
メルティの核の返還。
一通り「夏イベント」とやらの報酬の話を終えたところで、キツネが口を開く。
「……あの、先生に相談したいことがあるのですが」
「ん、なに?恋患い?」
「じゃないです!……あの、ツェドリカさんについてです」
キツネはソリュに、ここ数か月の経験を大まかに明かした。
フラッペに入っていた幼虫を、危うくメルティが呑むところだったこと。
シャルメイから、「生徒総括注意報」が出されたこと。
実習の日に、グロテスクな大男を見たこと。
その男とツェドリカが、どうやら同胞であったこと――。
話し終えるとキツネは眉を八の字にした。
後半の二行はキツネだけの体験だったので、メルティも「知らなかった」と言う顔をしていた。
(でも、たぶんその『大男』って、あの【鏡】だと思う。つじつまが合うし)
メルティは、実習の時に張り合った巨人を思い浮かべた。
先生はこくりこくりと何度か頭を振ってから、二人の目線を集めた。
「……それはもしかしたら、思い違いかもしれないね」
「え」
「あ、別にサメちゃんが嘘ついているとか言うつもりはないよ。その『幼虫』がツェっちゃん関連というのも本当、でも思い違いも本当。……ってこと」
ソリュが解説を加えた。
「キッちゃんが見たっていう男は、たぶんメッちゃんが倒したアレだよね」
メルティは頷いた。
「それなら、ボクの予想通りだよ。ツェっちゃんは何かしらのモノと関わっている。けれど、『直接的には関わっていない』。そんな感じ」
恋の雑談でもするかのような、のほほんとした口調。
その反面内容は沈むように重く、キツネの心にのしかかっていた。
メルティは直接【鏡】と戦ったというのもあり、ツェドリカの本性を把握していた。一方で案外情報を伝えられていなかったキツネは、困惑を極めていた。
「では先生は、ツェドリカさんが虫を入れたと思いますか」
――メルティちゃん、何も悪くないのに。
「ん、どうだろうね。あり得るとおもう。ま、ボクもよくわからないけど」
ソリュの返事はあっさりしていた。
メルティは黙ったままだ。
既に、あの男から話を聞いていたからだ。
ツェドリカは、キツネにあこがれている。けれど、キツネは自分にべったりだから、ツェドリカにとっては面白くない話だったのだろう。
わかりやすく言えば、嫉妬である。
ここまでは、普通の女の子が持ち得る感情だ。
しかし、話のとおりならば、ツェドリカはそんなドンピシャのタイミングで、変な人たちと出会ってしまった。
そうして、気づかぬうちにうまく憎悪を、使われているのだ。
なお皮肉なことに、核心となるキツネ自身は微塵も気づいていない。
(……キツネに、伝えるべきなのかな)
「わからないんですね」
「うん。だってなにも物的証拠がないから。あとあったとしてもツェッちゃん本人は虫なんか入れてないんだと思うよ。……二人だから言うけど、だって、あの子が意地悪をするとしてもそんな堂々としないだろうから」
「……堂々?」
「もしツェッちゃん由来なら、調べようとすれば絶対にあの子にたどり着く。あの子はそんなわかりやすいことはしない」
「……なんだか知っているみたいな言い回しですね」
先生は少し苦い顔をした。
腐りきった種を掘りかえすみたいに、昔の記憶を探っているようだった。
「ん、ボク学生の頃、あの娘の両親と同じクラスだったんだよね」
「そうだったんですか」
「世間、せまい」
「ん。でね。そんときも色々変な事があってさ。……あの時はカイ君とかネッ君とかオッちゃんとかがいたからすぐ解決したけど。なんか似ているなって」
ちょっと、残念。
そう言いたげの顔だった。
「で、あまり個人情報言うのはよくないとは思うけど……。あの娘、ツェっちゃんはね。いつも『親と違うようになりたい』って言っていたんだよ。それなのに、同じようなことをするのは……ショックかな」
「……別に、ツェドリカさんだけが問題って決まってはいませんよね」
「ま、そうあってほしいね」
先生は体をぐんと伸ばした。
「……何故、シャルメイ様、ツェドリカさんにこの悪戯を結びつけたのでしょうか」
「ん、多分だけど、あんなデタラメな指示が出来る生徒が、本当に一握りだからじゃないかな。そのわずかな選択肢の中で、ツェッちゃんが一番メッちゃんに食ってかかりそうって思ったからじゃない?」
「メルティちゃん、こんなにもいい子なのに」
「や、キッちゃんがそう思うのはいいけど、他の人が同じ見方をするとは思わないようにね。例えばこの世界で古くから媚薬に使われている『ガーフェ』だって、それを麻薬として忌避する種族もある。メッちゃんを嫌う人が、この学園に二十人いてもおかしくないよ」
「……」
「ま、ボクも一応先生という立場だから言えるのはここまでかな。ただ、アドバイスをするなら――」
「「……するなら?」」
「ツェッちゃんの親御さん、学生の頃すごい努力家だったんだよ。けど、真面目すぎるところがあってね。……だから逆に、一度踏み入れてはいけない道に進んでしまうと止まらなくなるんだ」
彼は、言葉をつづけた。
「いい人達なのに、すぐに誘惑されて道を違えてしまう。……ツェっちゃんも、なんとなーく同じ匂いがしたんだ。もし今後、ツェッちゃんと喧嘩になったとしても……できれば、あの娘を正しく導いてほしい、かな」
――本来は、先生達がすべき仕事なんだけどね。
ノーソリューションはそう付け加えた。
強引に笑おうとしていたが、笑えてすらいなかった。
無情にも、予鈴が響いた。
かすかに、響いた。
重々しく立ち上がり、キツネとメルティの頭に順番に手を乗せると、彼は狭くて乱れた部屋から歩み去ったのであった。
次回更新は11/14(木)。
お楽しみに。




