64。後日談①夢と目覚め
お待たせしました。
メルティちゃん。
私です。
キツネです。
先ほど、お疲れ様会が終わりました。
ええ、そうですよ。夏前の実習の、お疲れ様会です。
本当はメルティちゃんが起きてからにしようという話だったのですが、夏季休業に入ると帰省する生徒さんも多いので、今日に決まってしまいました。
それなのに皆さん、口をそろえて「メルティが居てほしい」と言うのです。
やれやれ、困ったものですね。
メルティちゃんの魅力に気づくのが、遅いではありませんか。
そうしたらウチのルイザちゃんが、「『びっくり箱』でやりませんか?」と提案したのですよ。
ただでさえ家事で忙しいというのに、追加で十名弱ほどのパーティ用のメニューなんて。
だから、私は最初、渋ったのですよ。
ルイザちゃんは頑張りすぎって。
ですがあの子、ああ見えて意外と頑固なところがあるんです。
「尊敬するお姉さまがたのためですから」
そう言って止まなかったのです。
あ、なぜ「十名弱」と言ったかと言いますと、私とメルティちゃんのグループの合併パーティだからです。
そうそう、ちょうど私たちが困っているタイミングだったんです。
狙って出たのかもしれませんが、ソリュ、要はノーソリューション先生が、ぽんと現れて、「みんなで作ればいいんじゃないかな」
とアイディアを出してくれました。
普段はふざけている格好と言動しかしないクセに、こういう時はバッチリ先生らしくなっちゃうんですから。
しかも、ですよ。
先生もかなり強いはずなのに、どうしてメルティちゃんの助太刀をしないのかと訊いたら、「メッちゃんの成長の妨げになるから」としか言わないのです。
まったく。
まあ、ともかく。
おかげで話は一気にスムーズに。
具材は持ち寄り。メニューは当日のお楽しみ。
家でいつもお世話になっているメイドさんを連れてくるという先輩も、お二方いらっしゃいました。
そんなこんなで今日が、パーティです。
あれだけの人数が居れば、パパっと家事も終わると思いますよね。
ですが、そんなこと全くありません。
やれ卵が割れた。
やれ添えるソースがどうたらこうたら。
用意が一通り終わったころには、すでに日が暮れていました。
もう、くたくたで。
もはや楽しむどころではありませんでした。
ええ、まあ。
それでもそれなりに、楽しかったですよ。
疲れたといいつつ、わいわい賑やかに騒ぎました。
気づけば、もうお開きのお時間でした。
みんなが帰っていく中で、二人だけ、最後までずっと残っていました。
マルコーさんと、シャオワンさんです。
マルコーさんの方は初印象というのもあって、少し不安でしたが、案外先輩らしかったです。
「メルティの容態がもう一度見たい」と言ってきかなかったのです。
良い意味でも、悪い意味でも聖騎士らしい人なのかもしれません。
そしてお見送りするときに、私に謝ってきました。
先日メルティちゃんに向かって、かっとなってしまったことに対してだそうです。
それで私が「それはメルティちゃんに言ってくださいな」と言うと、とても複雑そうな顔をしていました。
ああ、あと。帰り際に、無言で小箱を手渡されました。
私たちへのお詫びの品だそうです。
目を醒ましたら、一緒に開けましょうね。
そしてシャオワンさんの方は、パーティ中ずっとメルティちゃんのことを、気にかけていました。
詳しいことは教えてくれませんでした。
ですが、「信じてよかった」とお帰りの際に零していましたよ。
メルティちゃん、良かったですね。
そうそう実は、シャオワンさんからもプレゼントを頂いているのです。
猫人族に大評判の「みゃおみゃお袋」が十個。
要は、収納機能がついた巾着袋です。
旅が好きな猫人族たちは、持ち運びが便利になるような魔法を開発してきました。
そしてその成果が、「みゃおみゃお袋」だそうです。
これで、楽に旅ができますね。
え、実習はどうなったか、ですか。
……実のことを言いますと、詳しいことはわかっていません。
公的には「モンスター関連のトラブル」、ということにされているらしいです。
私が見ている限りですと、あれはトラブルなんかではありません。
初日の夜に起きたことも踏まえると、あれは起こるべくして起きた「侵入」です。
……まあ、一応国家一の学園というのもあって、説明がしづらいですものね。
侵入されちゃいました、なんてことが広まったら、警備を疑われてしまいますから。
なお実習では点数が測れなくなったので、代わりに実験のレポート提出が課されました。
あ、メルティちゃんはやらなくていいそうですよ。
「実習での雄姿故に、その優秀な成績を十分に讃えるべし」。
要は、満点あげちゃえ、だそうです。
……一部上層部がかなり渋ったらしいですが。
「……」
メルティちゃん。
もう、すっかり夜ですよ。
メルティちゃんが眠ってから、もう三日が経ちました。
……もう、寝ているふりをしようとしても無駄ですよ。
観念して、目を覚ましてくださいな。
……ほら、ルイザちゃんが寝ちゃったではありませんか。
二人分の膝枕なんて、私、できませんってば。
あ、また可愛らしい寝言を漏らしちゃって。
「スズナ、わたし、つよいでしょ」
……と、言っているのでしょうか。
つよつよに、決まっているじゃありませんか。
あと、スズナさんと仲良くするのは構いませんが、最近、全然「キツネ」と呼んでくれませんね?
私、嫉妬しちゃいますよ?
ふうん、いいのですか。
そのツヤツヤなほっぺた、噛んじゃってもいいのですか。
理性を、コントロールできなくなって。
本能が、溢れ出てしまって―――。
どうか。その前に。
起きて、くださいな。
メルティちゃん―――。
……ねえ、メルティちゃん。
私、絶対に忘れませんからね。
だって。
だって。
その、翌日の朝。
薄っすらカーテンを透けて通る光に、揺らされて。
私は、その柔らかなまつ毛からそっと覗く、瞳を見つけちゃったのですから。
「……んむ。……おはよう。キツネ」
……まったく、「おはよう」と言わないでくださいな。
「おはよう」と、返すしかなくなったではありませんか。
言いたい言葉が全部溶けてしまって、ぐちゃぐちゃに、なってしまったではありませんか。
今日だけは。
今日だけは、どうかお許しくださいな。
おかえりなさい。
おかえりなさい。
―――私のギルティな、メルティちゃん。
次回更新は10/27(日)




