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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
2章。学園編〜それは、蝕まれた憧れ・上
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63。メルティと「しゅうけつ」

集結×終結。

 ぺきり。ぱきり。

 その満身創痍の心。取り戻すことのできない過去。

 食われて形を失ってもなお、役立たぬ悔恨だけはこびりついている。

 ―――ああ、どうか、我のことをすっかり忘れておくれ。


 メルティは、巨人の痩躯を這いまわるナニカの幼体が、肥大化していることに気が付いた。

 母体を食らうスピードが格段に上がっている。皮、肉、腸。そして骨にすらもかじりついて、ひたすらに腹を肥やしていた。


「……」


 頭が反応するよりも早く、メルティは体を投げ出していた。

 風を切る矢のように滑空し、形容できない肉塊へと手を伸ばす―――。


()ーっ。()ーっ」

「【烏】……っ⁉」


 先ほど帰還させたはずの【烏】の一匹が、彼女の視界を突如遮った。

 花弁のように舞う黒羽根に紛れて、いくつもの手腕が伸びていた。

 一歩遅かったら、その暴発に巻き込まれていた。


 危険を察知して、【烏】はメルティを守ったのであろう。


 しかし彼女の表情は、悶々としていた。色一つ変えない顔に、一筋の不安がよぎった。

 人格を完全に失った彼が、いったいどれほどの力を蓄えているのかが把握できていない。

 その状態で懐中に潜っては無謀だ。


(でも、このまま待ってはいけない気がする)

 誰のため?何のため?

 そんな風に聞かれたら困るけれど、とにかく行かなきゃ。


「【烏】、ごめんね」

()ーっ⁉」

 翼の拘束をほどき、メルティは一枚のカードを引きずり出した。

 黒く濁った粘液が、メルティの腕を指先から侵食した。


「……【いちご丸】。……【アーミーナイフ】、用意して」


 ―――pi・pi・pi。

 ―――検索中……検索中……一件、一致シマシタ。


「ありがとう。……いいナイフ」

 ―――pi・pi・pi。


 構えるのはラージブレード。

 刃渡り数センチの反射光が、空中に弧を描いた。


 一閃。

 短刀とは思えぬ威力をもって、一片の肉塊が切り落とされた。


 ぼとりと草地を転がると、ソレはすぐさま空気に散逸した。

 吹き荒れる風の中で、匂いすら残らない。

 まるで、最初から生まれてこなかったかのように。


 一閃。

 既に半数の幼体は消滅していた。


 ―――そこだ。


 目がけるのは、食いかけの巨人の右腕。青白い血管が、いまだに脈打っていた。

 大岩に着地し、軸足をばねにして直線に切り込む。


 おぎゃあ、おぎゃあ。

 ぼこりぼこりと、再び赤子が湧き出していた。泣きわめき、そして巨人の腕まで這い上がってこようとする。

 そんな時だった。

 ―――メルティは、その巨人が薄っすらと笑ったような気がした。

 初めて見る表情。


 体を毟り取られつつ、彼は確かに腕をメルティへと伸ばしていた。高く、高く―――。


「……わかった」

 きっと、二人の間で、何気ない会話が交わされたのだろう。


 指先が、触れ合う。

 その、刹那。


 ―――巨人の腕は、彼の身体から離れた。


 メルティはその手腕を両手で抱え、まじまじと観察した。


 なめらかに切り取られた断面。

 その完膚なきまで損壊した肉からは、一滴たりとも鮮血が垂れることがなかった。

(もう、限界だったんだね)

 メルティは幾度かその手のひらを撫でて、そしてウサギポーチの口に押し込めた。


 けらけら、カラカラ。

 操られているかのように、全ての赤子がメルティのほうに顔を向けた。


 ―――否、正確に言えば、ソレに顔など存在しない。

 受胎し、鼓動が始まり、四肢がはっきりしつつある頃。

 その状態で母体から引っ張り出し、牙を、爪を取ってつける。

 ……そんな不釣り合い感が、ソレらにはあった。


 どうやら自分たちの「餌」を奪われてしまって、癇癪を起こしているらしい。

 けらけら、カラカラ。


 わらわらと、彼女に這い寄ってくる。

 その動作はまるで、糸が絡まった操り人形のよう。


「ほしいの?……だめ、これは、私たちが持っていていいものじゃない」


 けらけら、カラカラ。


「そんなに、あの腕が食べたいなら……奪ってみてよ、ほら」


 ソレらに、「煽られた、むかつく」という感情があるかはわからない。

 しかし確かにメルティの言葉に反応して、激昂していた。


 がたりがたり。

 萎れた草木が、震えている。


 メルティは【烏】を呼んだ。そして口を紡ぎ、聞き耳を立てた。

 夏らしからぬ風に紛れて、何かの音が集まってきていた。

 四方八方。


「……もしかして」

 思い当たるのは、誰もが最悪だと感じるシチュエーション。

 そしてそれは、さも当然のように当たってしまった。


 各エリアでうごめき、そして生徒らを襲った奇形の肉片。

 ソレらは、今、()()()()()()()()()()

 高所からでもよく見える、放射線状の軌跡。

 聞くに堪えない、慟哭の合唱。


 まもなくして、ソレは出来上がってしまった。

 天を支えるほどの巨躯と、地を生みだせるほどの屈強な魔力。


 ―――ドラゴン。


 無数の屍が互いに食らいあい、そして生まれた雄大な存在の「模造品(レプリカ)」。

 明白な意識を持たぬニセモノとはいえ、そのふざけた体積は援軍を怯ませるのに十分であった。

 しかし、それでも。

 ―――メルティの口角は微かに吊り上がっていた。


「……いいよ。付き合って、あげる」


 急降下。

 身体をひねらせ、そして旋風のように腕にスナップをかける。

 ゼリーの断面を取る音。

 残るのは、一文字(いちもんじ)の痕。

 浅い。

 このままでは、アレの効果が出ない。

 返ってくるのは、耳朶を震わせるほどの咆哮。

 もしも鼓膜があったなら、すでに破裂していたことだろう。

 メルティのコートですら、風の爪痕を残した。

 落下する。

「【烏】、手伝って」

「悪ーっ」

 黒い翼は層を成し、踏み台となる。

 足場ができた。

 一度着地をしてから、再度跳躍する。

 全体重がかかった体のばねが、メルティを持ち上げた。

 位置、よし。

 体勢、よし。

 腰をかがめて、繰り出されるのは乱切り。

 関節の邪魔を受けない強かな連撃が、ドラゴンの胸部を抉った。


 ―――そこだ。


【白の『駒』―――スケイプ王子】。

 かの悪意を、纏え。


「―――【氷心】」


 たとえ肉体をどれほど肥大化させようとも、これを防ぐことは到底不可能。

 芯より身を凍らす、一触の魔法。

 青白く鋭利な華は、やがてドラゴンの暴発を抑え―――。


「……っ。これは予想外」


 メルティは目を見開き、一歩引きさがった。

 ―――効いていない。


 それなりに体力を消費して、繰り出したというのに。


 あの巨人が暴露目的でばらまいた「幼児の核」。

 それが異変を起こし、虫に変わった。

 そしてそれらが集結して、ドラゴンになったのだから、中心となる核くらいはあるはずだった―――のに。


「……っ、溶けている」


 ドラゴンの心臓に縫い付けたはずの氷の刺青。

 それが、徐々に蒸気をあげて融解しつつあった。

 ―――自ら、高温を発したのか。

 しかし、どうやって?

 その冷めきった寄せ集めの身骨から、どうやって―――。


 ―――『……我は、鏡だ』―――


「……!鏡。……もしかして、これは……()()()()()()()?」

 辺りを、見渡してみる。

 視界が届く範囲でも、数人の生徒が土にうずくまっていた。


「……それは、だめ……!」

 このドラゴンは、【鏡】の巨人の身体を受け継いでいる。―――魔法、心情などを映し出す力でさえも。

 ……では、その原本となる魔法はどこからもらうのか?


 ―――生徒等。

 ―――教師等。


 なるほど、これは手の出しようがない。

 メルティの相手は、単なるドラゴンにあらず。

 生徒たち―――下手すると全校生徒そして教師を、一人で相手取っている可能性すらある。


 メルティの能力も無尽蔵ではない。


 既に悪意を異常な時間背負っており、瞳に疲弊が映しだされていた。

 できれば、短期決戦にしたい。

 かといって広範囲の魔法を使えば、気絶している生徒等が害を被ることになる。

 そのうえどの魔法を持っているか不明である以上、打ち消されてしまうかもしれない。


 ―――手詰まり。


 メルティはふと、自分がちっぽけに見えた。

 そびえ立ち、四方八方に毒炎を散らすドラゴン。


 あれ。

 いつも、こんなとき。

 わたしは―――どうしていたんだっけ。


 手を、横に伸ばしてみる。

 掴むのは、暖かい虚空。


 ……ああ、そうか。

 ()()()()、ずっと、傍にいてくれたんだった。


「……キツネ」



「お手伝いにぃぃーっ、参りましたぁあああっー‼」


 果実の芳香とともに。

 突風とともに。

 キツネが、そこにいた。


「メルティちゃん、いきますよー!」


「……うん。うん……!どんと、こい」


 ―――【『ヴァルヴァドの実』『レア』×1130に『防御』を付与】―――


 見るからに、堅牢な防御膜がメルティを覆った。。

 蛍光色の網目模様が、まぶしい。


「精霊様ヨ、我ラニ授ケヨ―――【生命の脈動】……っ!メルティ嬢っ、アレはすでに『体力』を六割五分消費している状態だ!胸部を狙ってくれ!」

 この声は、エルフ族の「マージン」。


 ―――【不動】。

 ずしりと重石に潰されるようにして、ドラゴンが地面に叩きつけられた。

 これはたぶん、「スキマ」という子の魔法。


「―――メルティぃ!あたしはあんま手伝えないから、相棒に任せるニャ……!『シャオワン二号』、メルティを助けるニャ!」

 シャオワンの元気な一声とともに、縞模様のモグラがメルティの懐に飛び込んだ。

 モグラはメルティにつぶらな瞳を向けてから、ドラゴンの居座るほうへと潜った。

 一刻。

 ドラゴンの足元がひび割れ、体がずぶりずぶりと沈んでいった。


「【一文字・聖なる岩窟】……!」


 飛来する、一本の長剣。

 うめき声をあげるドラゴンの背に、それは深々と刺さった。

 瞬時に広がる、光の円陣。


「剣が壊れない限り、聖魔法は続く……!だからもう、周りへの被害なんて気にするな!」

「……マルコー」

「だから、メルティ―――……!」


 ―――あとは、任せたぞ。


「……」

 言葉が、出てこなかった。

 ふいに、笑いがこみあげてくる。


 ―――これは、かなわないや。


 メルティは、ドラゴンに歩み寄り、空中で身を翻した。

 身も心も、なんだか軽くなったように感じた。

 ええと。

 あのクサい言葉、なんて言うんだっけ。

 ……あぁ、思い出した。


【みんなのおかげで、わたしはここに立っている】。


「……だからさ、ドラゴン。あなたも……もう、休もう?」


 悪意、解放。


【【古龍・爍爍(しゃくしゃく)樂姫(らき)】】、【悪意一縮(マリス・ガウン)】―――。


 黒と赤の円舞、

 渦を巻き、風を喰らい、曇天を貫く。


 メルティの身体を抱擁し、噴き荒れる一面の火焔。

 やがて、その姫の古き記憶が、実像を結ぶ。


 ―――始祖ノ炎龍。


 実体を成さぬ極大の炎が、双翼を広げていた。

 これぞ真の、「咆哮」。

 圧倒的な巨躯。

 寄せ集めの「ガラクタ」を大地に押さえつけるとともに、その巨口を向けた。


 至近距離。

 一つの息吹。


 赤。

 白。


 音が、消えた。

 色が……消えた。



『……ようやく、できましたわね』

(うん。……そうだね)


『今の貴女、とても輝いていますわ。憎いほど、食べちゃいたいほどに、ね』

(大丈夫、もうすでに食べられた)


『ふふ、安心なさいな。すぐに、お体をお返ししますわ』

(どうも)

『……ほんとうに、懐かしいですわ』

(そう)


『ええ、そして愛しい貴女も、とても懐かしい』

(……わたし?)


『ええ。遥か昔のこと。……ねぇ、貴女』

(どうしたの)


『貴女は、いつ……戻ってきますの?』

(……ちょっと、よくわからない)


『……【メルティ・ギルティ】』

(……?違う。わたしは……)


『……ええ、知っていますわ。メルティ・イノセント。……ですわね?』

(うん)


『今は、そう。……ですが、いつか、きっと、貴女は帰ってきますわ』

(どういうことか、ちょっとわからない。……けど)


『……けど?』

 ……しばらくは、ただの「メルティ・イノセント」で、いたいかな。


『ええ、そうですわね』

 ……ラッキー。もう、疲れた。


『ふふ……おやすみなさい』


 ……うん。



 おやすみ。




(ニ章本編、完)

ニ章本編終了です!!お疲れ様&お読みいただきありがとうございました!!

自分で書いててあれですけど、メルティちゃんかっこよくないですか⁉

こほん。とにかく読者の皆様のおかげでついにここまで来れました。

まだまだ、続きますよ。

次は三章、ツェドリカちゃん救済(?)編です。「憧れ」が衝突する瞬間をご覧あれ!


なお後日談が二話ほど続きます。


次回更新は10/24(木)。おたのしみに!

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