61。メルティと壊れた鏡
ようやく私の小説の読みにくい点がわかりましたよ。
メルティちゃんが主人公なのにキツネちゃんの魔法が特殊すぎて影が薄いんですよね、メルティちゃん。
キツネちゃんを薄めるしかないね。
はい、おまたせしました。そろそろ終盤です。
〜メルティside〜
なぜだろう。
気持ちが晴れない。
ーーーこんなにも、圧勝だというのに。
「【巨人ガロミヤ】……【悪意一縮】」
久しぶりの感覚だ。
巨石の膚。
身に包むと、こんなにも重たい。自分自身がまるで、巨人になったかのような感覚。
まだまだ、まだまだ膠着した悪意が、霜のようにこびりついている。
「……【触れずの盾】」
構えた両腕は次第に変形して、柔らかさを失っていく。
「いくよ」
星の数ほどの形を失った【烏】が、混ざり合う。
それは、まるで空中に浮揚する滑降路のよう。
わたしは【烏】たちに身を任せ、相手の懐に入った。
隙あり。
「防御、しないほうがいいよ」
「……っ」
【触れずの盾】。
これはまさしく、殴るための盾。
……本当に盾と呼んでいいのかは怪しいけれど。
構えて対抗するも虚しく、彼は衝撃に打たれてバランスを崩した。
唸るものの、起き上がって来ない。
反撃もして来ない。
手応えがない。
……一応、捕まえておいたほうがいいよね。
わたしはもう一枚のカードを抜きとると、更なる【悪意】を解放した。
今のところ、許容範囲だ。
「【スケイプ】、ちょっと手伝ってーーー……【万年雪の鎖】」
悪を捕まえるのに、とても使い勝手の良い魔法。
その人の「悪行」の重さだけ、氷の質量となる。
【巨人ガロミヤ】の魔法と拮抗するように、岩に覆われた私の腕に更に、繊細な刺繍が刻まれた。
もはや、別人の腕のようだ。
「ぐおっ……」
追い打ちをかけるように、氷彫刻の鎖が彼の周りにとぐろを巻いた。
ぴきり、びきり。
ぴきり、ぴきり。
ーーーやがて、時間は止まった。
……とは言えそれ以上、追撃をするつもりはない。
そのまま気絶してくれれば、あとはどこかに引き渡すだけだ。
けれどわたしは氷漬けを俯瞰したまま、なにかに「迷っていた」。
何かが、足りないのだ。
イメージを言うなら……古くなったシールを剥がしたけれど、接着剤がまだそこにべた付いている感じ。
わたしが頭を傾げていると、ガロミヤの声が届いた。
『主ヨ。マタ、自ラ巻キ込マレニ行カレタカ』
……まるで、わたしがこういう混乱を欲しているかのような言い方よ。
そんなわけがない。
「わたしは……できれば何も起きずにのんびり過ごしたい。シール集めたりしたい。……巻き込まれたのは、偶々」
『……哀シキ存在哉』
「……それって、もしかしてこの人のこと?」
戦意喪失したのか、びくともしないまま項垂れている大男。
鎖から放たれた冷気に若干の肌寒さを感じつつ、わたしは彼の足元に歩み寄った。
『然リ。此ノ者ハ、巨人族二非ズ』
「えっ」
『明ラカナル虚空。何ノ薬ヲ用イタカハイザ知ラズ。所詮ハ人ノ手。天ノ計ライニ抗オウト思ワヌコトダ』
ガロミヤの言葉遣いは時々わかりづらい。
要はこの人は、薬を使って無理やり体を大きくしたということかな。
それで大きくなったはいいものの、中身はすっからかんだったと。
ーーーそりゃあ、力が出ない訳だ。
むしろ体の中を空っぽにして、よくこれ程の被害を出したなあ。
逆に感心してしまう。
しかも、もしこの人が全ての元凶なら、先生たちが用意した核を回収して違法のモノと入れ替えた、という筋立てになる。
その間、一人として教師と対面してはいけない。
……なぜここまでリスキーで回りくどい試みを、この人はやろうと思ったのだろう。
『主ヨ』
「ん?」
『討取ラヌノカ』
「……うん」
『何故カ?』
「え」
なぜこの人を殺さないのか。
改めて聞かれると、困るものだ。
殺しは良くないから?
ううん、わたしは正直のところ殺生そのものに罪があるとは思っていない。
殺しが怖いから?
ううん、怖いと思ったことがない。
ーーーそれなら、どうして?
「それにしても……呆気なかった」
わたしは大男の顔を覗き込んだ。
「……あれ?」
ふと、違和感を覚える。
「鎖、……少なくない?」
わたしがかけた魔法、【万年雪の鎖】。
由来は【スケイプ王子】がかつて行っていた処刑。
この魔法は、本人の罪に比例して枷が重くのしかかる、といったものだ。
それなのにーーー。
目の前の人。彼に巻きつけられた氷の鎖は密であるものの、なんだか頼りなく脆い。
……もしかして、思っているほど悪い人じゃない?
え。でも、じゃあ、今までのことを仕掛けて来たのは一体……誰?
『主、離レヨ……!!』
ガロミヤの張った声に、わたしは跳び上がった。
【烏】を展開し、不意討ちを予防する。
「ぁあぁ……かわいそうに……」
ばきり、ばきり。
鎖が、徐々に握り潰されていく。
「……おぉ」
思わず、嘆声をついてしまった。
わたしの攻撃が効きづらい相手は、それなりに見てきた。
だが、拘束した状態から脱出されたのはーーー案外初めてかもしれない。
再び体勢を整えた大男。
攻撃を仕掛けてくる予兆は、無し。
次はどうしようと考え廻らせていると、一つの声に遮られた。目の前の男のものだ。
掠れていて、トーンが外れている。
「……【虚】よ……。一体、何故ここに居る」
ウツロ?……もしかして、わたしのこと?
「わたしは、『うつろ』じゃない。名前は、メルティ・イノセント」
「……いずれにせよ、仮名であろう」
「……? 違う。わたしの本名」
しかし彼はただ、ひたすらにかぶらを振った。
未だ腐肉臭が取れていない酒樽を掲げると、勝手に仰ぎはじめた。
「……何故、ここに居る」
「実習があったから」
もう、今はそれどころじゃないけど。
「……何故、生まれた」
「……わかんない。考えたことも、なかったから」
……あれ。
どうしてわたしはこの人とお喋りをしているのだろう。
戦うんじゃなかったっけ。
「【虚】よ。……念願の瞬間のためには、いくらカラクリを積んでも足りぬものだ」
「……」
「これほどの精神を冒す毒を受けておきながら、立ち上がれる者が居たとは」
「……慣れているから。やっぱりこの霧、あなたがやったんだね」
男は深々と頷いた。
「……そして、あれほどの『とうときみたま』をばら蒔いたというのに、毛ほどの被害のみだ。……【虚】よ、そなたの仕業か」
「とうときみたま」って、何のことだろう。
もしかして、昨日わたしが集めた、あの核たちのことかな。
ーーーあの、赤ちゃんの息の根を止めて、腹を割いて集めた核。
「……これのこと?」
わたしは試しに一掴みの核を、うさぎのポーチから引きずり出した。
一瞬だけ目を見開いた彼だが、すぐに目を逸らして短く「ああ」と応じた。
(あれ、反応が薄い?)
「……昨夜、烏の大群が夜を横切った。……其方の使いか」
「そうと言えば、そう」
「……なるほど、それらで、『とうときみたま』をかき集めた訳か」
「うん」
「ーーー我は、【鏡】だ」
彼は両手を広げた。右手には炎、左手には植物の蔦。
まるで生き物かのように、自由気ままに蠢いている。
「知る者の心をただただ映しだす、不良品の鏡だ」
「……」
「情緒。信念。そして……魔法。魔力の循環がある限り、我に写せぬものはなかった」
ーーー現に今、我は亡き者の魔法を見せている。
彼はそう付け足した。
「しかし」
語気が、強まった。
「……二度だけ、我は『映せないモノ』と出逢ってしまった」
大男は拳を握り締めた。すると掌中の魔法が、くしゃりと音をたてて消滅した。
彼の声色には、哀愁が漂っていた。
「……一度は、数十年前のこと。あの、忌々しい傀儡である。……そして、もう一度は……」
濁った銀色の目が、わたしをがっしり捉えていた。
「ーーー【虚】よ、其方だ」
お待たせしました。
メルティちゃんがんばれ
なお作者は敵をがんばります
【お知らせ】最初の人物紹介、増えました。名づけの法則わかったらすごい。
「メルティ・イノセント」が仮名だと⁉じゃあ本名は何だ!気になって夜しか熟睡できない!
次回更新は10/17(木)です。お楽しみに!




