35。メルティと新居
わーーーーーーっ
遅れてごめんなさいです。。。
あ、若干R指定です。苦手な方はお気をつけて。
ある程度荷物をまとめたところで大荷物の搬送を頼み、メルティとキツネは新居の方に向かった。
さてここで、彼女たちが家にたどり着くまでの間、この世界の「引っ越し事情」をちょこっとお話しよう。
引っ越し屋さんと聞けば、地球住みの多くの方は体つきのいい人が、ダンボールをトラックに次々と詰めていく様子を思い浮かべることだろう。
しかし実はダンボールというものはかなり高度な技術が使われている。故に使われるのは木か鉄の箱に、馬車(角が生えた馬の)である。
そして搬送担当は大男よりも、出稼ぎの子供のほうが多い。戦争も減り他の種族との交わりも増えてきたため、半数以上がドラゴニュート族(龍人のこと)やらサイクロプス族(一つ目の巨人)の子供だったりする。
彼らは時に成人したヒト族をも凌ぐ腕力を持っていることもあり、こういう業界では引っ張りだこなのだ。
当然、雇い主や、運び屋の子(通称「とびっこ」)へのオプションも存在する立派な職業といえる。
ちなみに子供が担当するようになったのは客側の意見が大きい。
・子供のほうが野心が少ないから盗みの心配が減る。
・見ていて和む。かわいい。
・大人に比べて真面目にひとつひとつを運んでくれるため、損傷が減る。
・交流の場であり、子供達へ「道」を開ける。
……まあ実は大方の理由が「むさぐるしい男衆より子供たちのほうが見栄えがいい」というだけなのだが、これは伏せておこう。
そんなこんなで、彼女らの方もどうやら到着したらしいので、話を戻すとしよう。
「おかえりなさいませ、お姉さまがた!」
「……なんでルイザがいるの」
ここは、大通りからやや外れた場所にある、こじんまりとした館。
そして二人の目の前にいるのは、ドッキリ大成功!!と言わんばかりに顔を綻ばせている、質素なメイド服のルイザである。
「やぁですね、メルティお姉さま。元々ルイザはここでお二人のご奉仕をしていたではないですか」
「……勝手に記憶を改竄しないでほしいけど。……あと、少し元気になった?」
「はい! ルイザはこの上なく元気ですよっ」
きゃぴっと効果音が出そうなウインクをかますルイザ。
たいしてメルティとキツネは心の中で、
(あれ、ルイザってこんなキャラだったっけ??)
と違和感を若干覚えながらその場に固まっていた。
するとルイザのほうも硬直し、それから「えっと……えっと……」とどもりつつ誤魔化すように苦笑いを浮かべた。
「あ、はは……えっと、お話は、なかでしますので、まずはお入りください」
ルイザに丁寧に案内されて館の内部に入った二人はまず、その広さに唖然とした。
「……思っていたのより何倍も広いです」
「幽霊出そう」
「冗談でも言わないでくださいってば」
「なんかごめん」
たしかに邸宅というにしてはやや狭めかもしれないが、この人数では広すぎるくらいである。
インテリアは簡単な額縁や壁掛け、帽子立てと少なめだが、部屋を一通り回った感想は「昨日まで人が住んでいたかのような整備の良さ」だった。
ルイザは一通り内部を紹介すると、休憩室と呼べそうな、落ち着いた色合いの小部屋に二人を招いて座らせた。
「では、説明の前に―――えっと、お姉さまがた、……どうでしょうか、このお屋敷は」
「はい、素敵だと思います!ね、メルティちゃん」
「え、うん。広いし、かくれんぼ楽しいとおもう」
「はい!!ルイザもかくれんぼ楽しいと思います!!……こほん。こほん。失礼しました。喜んでいただけてルイザも大変嬉しいです。えっと、では、説明していきますね。……えっと、何からお話しましょうか」
はい、とキツネが手を上げる。
「とりあえず、どうしてルイザちゃんがメイド服を着ているのか教えてくださいな」
メルティも同調して肯いた。
「それは当然―――お二人のメイドさんになりたいからに決まっているじゃないですか!」
よくぞ聞いてくれました!!とテロップがつきそうな勢いのルイザ。
「ここ数日、素晴らしい英雄のお二人に仕えたいとずっと思っていたんです。でも機会がなくて。普通、メイドさんというのは長い見習い期間を通して苦行をこなしてようやく身につく仕事なんです。しかもルイザみたいなちんちくりんだと、あまり採用されなくて……だから、実は、このチャンスをもぎ取るために、ルイザとてもいっぱいお勉強をしたんです」
「なるほど、ここ数日修行をしていたんですね。えらいえらいです!」
「えへへ。ルイザのお家のメイドさんに色々教えてもらったんですよ!……あ、でも一番大変だったのは、おとうさまを説得することでした」
腕組みをして、真剣そうな表情をするルイザ。背後に二つに結った扇子のような髪がバサバサ揺れる。
「ああ、娘がきっと心配なんでしょうね。あんな事件の後ですし」
「あ、そうじゃなくて。……えっと、おとうさま、しょぼんってしちゃって。しかも『ああーっ、娘がマジの反抗期だぁーっ』とルイザにしがみ付いてわんわん泣くんです。……恥ずかしいからやめてくださいって言っても、きかないし、もう」
少し膨れっ面のルイザ。
しかしメルティとキツネはそれどころではなかった。
二人は語らずとも、心をひとつにした。
『あの厳格そうな親父が……娘にしがみついて号泣……!?』
「しまいには一日中、しょんぼりした目でルイザの後ろについてくるんです。一日中ですよ、一日中!」
「「……うわぁ……」」
この会話をもしカイが聞いたらどう思うかはさておき。
ルイザは「とにかく、」と言葉を切って話を戻した。
「そんなわけで、お二人に今日からお仕えすることになりました。改めまして、ルイザ・ハロケスと申します♪」
百点満点の仕草と笑顔だ。
よほど色々叩きこんできたのであろう。
「でも、いいんでしょうか。いくら貴族でないとしても、一応豪商の娘さんですよ。次世代のハロケス家の当主ではありませんか」
社会常識上、下の身分の者相手でなければ別に仕える分には問題ない。
しかしだからといっても、体裁というものも存在する。
「それでしたら職業体験とでも思っていただければ」
「えぇ……? そうすると、御掃除とか、ご飯づくりもルイザちゃんが?」
「はい!!」
「……お洗濯も……?……一人でですか?」
さすがに一瞬、言葉に詰まるルイザ。
しかし何を決心したのか、胸をどんと叩いてみせた。
「大丈夫です!!困ったら……えっと、えっと……死ぬ気で頑張ります!これも英雄さまお二方にお仕えするためです!!」
「待ってくださいルイザちゃん、別に私は英雄なんかじゃないですよ」
「……右に同じく」
「英雄というものは、ルイザにとってです。他の人がどう言おうが、ルイザの英雄であることに変わりはありません!!」
「「ルイザ(ちゃん)……」」
しかしすぐにハッと我に返って、キツネは立ち上がってルイザの両肩を優しく掴んだ。
「でも死ぬ気、は禁止です!めっ! 体を壊したら、元も子もありませんし、それこそルイザちゃんのお父様がかわいそうですから。仕方ないですね。こうなるって知っていましたし。……私、学校にいない時は家事お手伝いしますよ」
「わたし基本暇。依頼受ける時以外は家にいる。……いっぱい手伝う」
メルティも両拳をにぎって、立ち上がってやる気をみせた。
「で、でも……」
ルイザはしかし、困惑した顔であった。
「……えっと、ルイザはメイドです。お姉さまがたはご主人さまです。だから―――」
―――お手伝いなんてさせるなんてとんでもないです、と言いかけて、ルイザはキツネに抱き篭まれた。
「え、えっとぉ……キツネお姉さま?」
「私、小さい頃、お父さんに言われたことがあるんです。『メイドさんも、執事さんも―――ウチに貢献してくれている全ての人を"家族"と思いなさい。難しければ、"お友達"と思いなさい。でも、感謝は人一倍するようにしなさい』……って」
「……」
「実は私、あの誘拐事件のあと、あの男の人を考えていました。あの人のどこが悪かったのかなって。……全部が悪かったといえばそれまでですが、もっとちゃんと考えておきたくて。メイドさんを大事にするって、本当に、お薬を出してあげるとか、優しくしてあげるとかそういうことだけなのかなって。
……私は、違うと思います。
お父さんが正しいと思ったんです。……家族って、強要して得るものじゃないと思うんです。だから、それと同じくらい大事なメイドさんだって、そうなんじゃないのかなって」
「お姉さま……」
「だから、疲れたら私たちがやります。さみしかったら頼ってください。お父様に会いたかったら言ってください。メイドと主人だって、立派な家族ですよ?」
そこまで言って、キツネはメルティのほうを見てドヤ顔を浮かべた。
「頑張った、ホメて」のサインだ。
早速、メルティは親指を立てて返した。
「……」
「それに、自分で職業体験って言っていたじゃないですか。それなら、尚更です」
「……たしかに」
ルイザは俯いた。
それから再び決心した顔つきになって、二人をしっかり見つめて言った。
「では……不束者ですが……えっと、よろしくお願いします!!」
「これで三人家族と言っても過言では無いですね!!」
「はい。ようやく、お二人と一緒になれて、ルイザかんむりょうです!」
「待って、もう一人いる。……ネッテヴァンダ、びしっと挨拶」
「え」
メルティの声に反応して、地面が少し波打った。
「きゃあっ!?」
そしてそこから現るのは、地面のなかでずっと「伏せ」をしていたシャチことネッテヴァンダ。
ぐわっと、ルイザに向けてその鋭利な歯が並んだ大きな口を開いた。
これがネッテヴァンダにとっての、「びしっ!」らしい。
すっかり慣れたキツネとメルティ。
しかしどこからどう見ても、獰猛な顔つきである。
―――それが植物であれ、何であれ、オーガという種族は強敵には本能的に逆らえないもので―――。
「ルイザ?」
「ルイザちゃん、どうし…………あっっ」
「……あ……ぁっ……」
へたりと座りこんで涙目になるルイザ。
微かに鼻をつく臭い。
白生地でよく目立つ黄色い染み。
そして、以下略。
「……なんかごめん」
メルティはそう言うが、暖かな雰囲気は完全にぶち壊しである。
たしかに彼女が、ネッテヴァンダに驚かせと指図した訳ではないのかもしれない。
しかしルイザは完全に涙目になっていて、キツネと揃ってメルティのことを厳しめに睨んでいる。
つまり、ペットの躾を云々以前の問題なわけで―――。
判定、ギルティ。
その後、メルティはキツネから長々とお説教を受け、夜までルイザに警戒の目線を送られるのだったとさ。
おしまい。
次回更新は7/14(日)です!
お楽しみに!




