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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
1章。指名依頼編〜それは、確かな繋がり
35/80

32。後日談・終

ついに一章最終回です!!

「やあ、待たせてしまったね」


 夕食がすんで、一通り落ち着いた後。

 メルティはキツネと共にネコラに呼ばれて、職務室にやってきていた。


「うん、うん、大丈夫。全然待ってない。全然待ってないから早く、欲しい」

「メルティちゃん、ステイステイです」


 メルティたちの目の前には今、二つの箱が置かれている。

「いやぁ、済まないね。本当は一昨日とか、昨日くらいに報酬を渡すつもりだったんだけど、追加の品がなかなか届かなくてね。どうかな。まずは金貨かい?それともこっちを開けたいのかな?」


「シール」

「右に同じです」

「あはは。では、どうぞ。依頼お疲れ様」


「わぁ」


 前も見たはずだが、その時に負けず劣らずの興奮を見せるメルティ。


「何度見ても、これは綺麗(キュート)ですよね」

 キツネもうんうんと頷いて見入っていた。

「キラキラ星」と題したくなるような、半球を薄くした立体シール。

 まるで夜空を、小さく切り取ったようだ。


「こっちが、前に見せた方。ブランド『融』の開発したシール。……実用性と見た目で迷ったんだけど、君の感性に沿ったモノは僕があげるより、君自身がお小遣いで買いに行くほうがいいと思ってね。

 ま、僕もこれを見たときは驚いたよ。説明書は下に挟まっているから是非確認してくれ」


 紹介された通りに説明書を開くと、そこには小さくて丸い字がびっしり詰まっていた。メルティは声に出して読んだ。


「整理番号00971S――タイトル《銀糸》――含有物、(中略)――貼り付けた場所どうしの間を自由に転移することができる。ただし距離制限がある。また魔力を貯蓄しておく必要がある――」


「な、なんですかこの高性能(ハイブリット)は……!」

「すごい。キラキラしてる。きれい」

「そうですよね。なんだか星空みたいですよね!」


「試すのは是非後でやってくれ。……それでもう一個の方は成功の追加報酬。こっちは僕が――」

「みてください可愛いすぎますよこれ!」

「うん。ぷにぷに触感たまんない」

「ですです!」


 何か話したげにするが、かといって娘たちの興奮を遮るのも抵抗がある。

 ネコラは苦笑いを浮かべて「ま、いっか」と小さく呟いた。


 二人が落ち着いた後、ネコラが言った。


「これだけ喜んでもらえると、カイ君とアイディアを捻り出しあった甲斐があったよ。……こっちは追加だから量産品のもの。つぼみの時に魔力を勝手に吸収して、花っぽい魔法を咲かせるおもちゃだ」


「そんなことよりこのプニプニ。……このプニプニはギルティ。たまんない」

「ですです!!あぁ、いいなぁ、私もちょっと欲しかったです〜」

「後で、山分け」

「いいんですか!? やったぁ!」


 そんな、きゃっきゃうふふしている背景で、ネコラが内心、

(値段が桁三つくらい違うんだけどなぁ)

 とちょっと複雑な気持ちになっていることには、当然二人は気づいていない。


「はい、報酬金の方はこんな感じ。かなりの大金をカイ君、出してくれているよ。これは危ないからギルドに預かるなりなんなりしたほうがいいね。……さて、今度はキツネの実物報酬に移ろうか――」


「ふぇ!? 私のですか!?」

「ありゃ、いらなかったかな?」

「そ、そんなことありません!ちょっとびっくりしただけです!……その、報酬の量に」


 少しそわそわしているキツネを見て、ネコラはなるほどと納得した。


「たしかに、ちょっと指名依頼にしても多すぎるくらいだね。けれど考えてみてほしいんだ。君達が今回採取した『デジタリアの博愛』、どれくらい持つと思う?」


「ええと、……多くて十年、とかでしょうか。貴重ですから汁の一滴でもかなりの人が救えるとは思いますが」


 指折り数えるキツネ。


「残念。――あの量で、百年は持つのさ」

「「百年……!?」」


「そう、百年。少なくともね。質が良ければその倍も行くらしいよ。とにかく、これでわかったね、今回の依頼はそれだけの価値があるものなんだ。そう考えると報酬は妥当じゃないかな?

 ――さて、キツネの報酬に今度こそ移ろうか。君、植物はまだ好きかい」


「……!? はい!大好きです!」

「ふむ。……ではそれが、珍しい植物だったら?」

「もっと大好物(ラヴ)です!!」

「地底植物でも?」

「大歓迎です!!」

「肉食でも?」

「ウェルカ――……え?肉?」


「そうだね。……その子、実はちょっと前から君に懐いていてね。依頼が終了するまで待たせておいたから、二人は今日がはじめまして、かな。実際に見てもらった方が早いね」


 そう言ったところで、ドアの前に控えていたメイドが一礼した。

 生肉をステーキ皿ほど運んで来ると、手袋をネコラに手渡した。


 ネコラは丁寧に手袋をはめると、手品をするようにその肉を摘んだ。


 それから、地面に落とすと――。


「ほら、おやつの時間だよ」


 その瞬間。

 地面があたかも沼で出来ているかのように、何か巨大なものが「湧き上がって」きた。


「「……」」


 これにはキツネ、メルティ、そしてめったに表情筋を動かさないメイドたちでさえ、目を丸くして固まっていた。


 ソレは悠々として宙に跳ね、天井すら無視して一回転をする。

 その鋭い顎は、的確に肉を啄んでいた。

 緑色でも。

 生まれが植物でも。

 キツネには少なからず、その仲間とでも呼ぶべきものがわかった。


 かつて、自分がまだ幼かったころ。

 あの先生から、聞いた覚えがある。


『しぇんしぇ、うみのなかで、いちばんちゅよい、おさかなってなぁに?」

『おっと、それってコッチの世界の話かなー?』

『んーなんでも!』

『なんでもかぁ。……ボク、コッチはあんま知らないんだよねー。ただ多分あの子だったら、ボクの世界でもこっちの世界でも、海の最強になれるかもね』


 その獰猛さ、止められる生き物などいない。

 その悪名高きこと、海原を生きて知らぬ者はいない。


 人呼んで、「海のギャング」。


「……シャチ……!!」


「この子は通称『ネッテヴァンダ』。普段は地中に棲んでいる地底植物。――きっと、君たちならいい関係が築けるとおもうよ」


 ネッテヴァンダはキツネとメルティの前まで泳いで来ると、ひょっこり頭を出した。


「……んと、よろしくお願いしますっ」

「きゅう」


 キツネはそっとその鼻先に触れた。

 メルティも横から手を伸ばした。


「よろしく、……シャチ。でもキツネを守るのはわたし」

「きゅう、きゅう」

「鳴いてもダメ」

「もう、なにを張り合っているんですか」

「もらえる果実が減ったら、困る」

「まだまだありますから、ケンカはめっですよ」

「うん。でもダメ」

「もう〜、メルティちゃんわがままは行けませんよー」


 二人の他愛無い会話を聞きながら、ネッテヴァンダはまた「きゅう、きゅう」と鳴くと、二人の周りをくるくる泳ぎ始めた。


 ――――


 黒一色の空間。


 仄かに一箇所だけ、明るい場所がある。


 その場所とは――。


「姫……姫……」


 一人の氷柱を纏った青年が、飲み干したグラスを握り締めたままテーブルに伏していた。

 メルティの攻撃牽制担当、【白の『駒』――スケイプ王子】だ。

 ……否、ここでは単に、「スケイプ」と呼ぶべきか。


 小さな影が一つ、テーブルの方から彼に近づく。


『悩ンデモ主ハマダ来レヌ。今ハ酒デソノ悲嘆ヲ抑エルベキ』


 スケイプは顔を力無く上げた。


「あぁ……ままならない。どうすればいい、ガロミヤよ。ままならないのだ」

『高貴ナ身分ノ空気ガ払エテイナイゾ』


 呆れたような顔で座り込むガロミヤ。

 ちなみにこの場にいるのはガロミヤの依代人形――いわば、「リモート飲み会」状態だ。

 サイズはちょうど、ジョッキと並ぶくらい。


『ココデハ"駒"デアルコトヲ捨テルノト同時ニ、"王子(ソレ)"モ捨テタト言ッテイタガ』


 そう言って、ガロミヤは徳利を傾けた。

 その言葉に、恨めしそうな目をして返すスケイプ。


「ならばガロミヤよ、貴公のほうもこの際野性を抑えてはどうだ?その服に胡座はやめてくれ。目の行き場に困るんだ。ああ、ただでさえこちらは恋煩いをしているというのに」

『ム、ソレハ私ノ問題デハ決シテアルマイ。アヤツガ施シタ依代ガ少女デアルコトガ問題ゾ』

「それはおれに言わないでくれたまえ。言うならばシューネランダ嬢にどうぞ。しかしその人形、聞くに原価で言えば金が山ほど積まれるほどと言うじゃないか。……大事にしたほうがいい」

『……カノ娘ハ、私ヲ怖ガラナカッタ。"ウチら、同胞じゃんか" トシカ言ワヌ』

「ああ、言うよね、彼女なら」


『ソレヨリ……ソノ姫トヤラハ、主ノコトデハナイト見タガ?』


 猪口の中身を飲み干して、ガロミヤはスケイプをちらりと見る。

 相当精巧な人形で、見た目はただの小人族だ。

 スケイプは答えなかった。

 代わりとばかりに、頬杖をついてボソッと感想を漏らした。


「ああ、……本当に変わった。まるで氷が融けたようだ」


『質問ニ答エヨ』

「今はそういう時間じゃないさ。君に聞かせられる話ではない。それより……考えてみてくれ。"彼女"は近頃、変わったんだ。きっと、運命は動き出した。おかげで、こんな施設が闇の中にふつりと現われたんだ」

『ソノ関連性ニハ同意シカネル。モット、他ノ要因ガアルト見タ』

「……」


 スネイプは黙ったまま、グラスの縁をなぞった。


『シカシ――私コソハ変ワッタ。ワダカマリガ、消エカケテイル気分ダ。アンナニモ、身体ニマトワリツイテイタ粘着質ナモノガ』

「……ああ、それはおれも実感した。クソ帝国に対する報復心が、クソ父上に対する腹立たしさが、ほとんど消え失せた。……これは姫の効果か……?」

『ソレハ同意スル。……ダガ、ソレダケデハナイハズダ。言葉ト、ソレカラコノ空間。……与エテクレタモノハ――繋ガリダト見タ』


「――繋がり、ね」


 長いため息のあと、スケイプは両腕で体を支えて立ち上がった。

 そんな時。


「ぶぐぇっ」


 スケイプは背後に激突を受けて、テーブルに顔を突っ込んだ。何事、と顔を強ばらせるスケイプとは対照的に、ガロミヤはあくまでも平然としていた。


『……小娘ガ来ル場デハナイ』

「えぇ?だって、ここあかるかったんだもん! 他の場所がね、まだ暗くてー、もうあきた!もうやなの!だからこっちにきたんだぁ!」


 (きた)るは、純真の奈落。


【童心の底なし沼――ナナ】だ。


 頭に生えた双葉を揺らしながら、スケイプを無理やり引っ張りあげる。

 どこからそんな腕力が出るのか、不思議だ。


「もう離してくれ」

「えぇーっ、じゃあ、いっしょに遊んでくれる?」

「何をだ」

「んーと、じゃあ、あのお人形さん!」

『ナッ……!!』


 ついに、ガロミヤまでが流れ弾を食らった。

 じりじり、じりじりと寄って来るナナ。

 そこにいるのはすでに可愛らしい少女ではなく、ただの肉食獣か何かである。


 ――少なくとも、ガロミヤにとっては。


『ヤッ、ヤメ……離……』

「おじさん、このお人形で、浮気ごっこしよ!」

「うっ……お、おじさん……おれは、おじさん……!? というか浮気……ああ、それは触れてはならないよ……」

 そしてついに。

()ーっ!()ーっ!」

【災禍の黒烏――ソル・ゾラ】――烏が、何羽も飛んできた。


 それを皮切りに、なんだなんだと寄ってくる悪たち。

 いつの間にか、そこはバーベキュー会場か居酒屋かのような雰囲気になった。


 ――と、その時だった。


 その場にいたほとんど全員が、体をひりつかせた。


 強力な気配が、彼方からこちらへと向かってきている。


 彼ら彼女らは各々手を止め、ある者は武器を構え、あるものは立ち上がり静観し、あるモノは目を瞑った。


 敵意の雪崩のようなものが、やがて形成されていく。

 しかし。

その気配は動じることなく、ただ悠々として彼らに近づいた。


 そして、ついに姿を現す。

 そこにいるのは、一人のメガネの青年。そして横に、化粧を濃くした女学生がいた。


「や、みんな元気そうだねー。新しい主にも慣れたようだし、ボクも安心だよー」


 その声がした途端、悪意は霧散した。


 ガロミヤ人形が、代表して前に歩み出た。


『久シイナ、我ガ元主――【ノーソリューション】ヨ……。此度ハ、何故此処ニ?」


 青年は微笑んで返した。


「ま、普通にこの世界に寄ったまでだよー。ついでに、ボクの教え子ちゃんたちに会いに来ようと思ってねー。あと、今日は……せっかく【ふれあいぱあく】が【解放(リリース)】された事だから、新人紹介しちゃおうと思ってさー。

 この子は配信のリョナたん。この中にも彼女のことを知っている子もいるんじゃないかなー?あ、どーぞ、自己紹介を。好きな方の呼び名でいいからねー」


「……」


 セーラー服姿の少女は黙ったまま一歩前に歩み出た。


 そして、にちゃあと獰猛な笑みを浮かべた。




お読みいただきありがとうございます!


おおっとこれは波乱の予感。。。

ついに一章完結ということで、本当に皆さんのおかげで走り切ったという感じです。毎日増えていくプレビューを見るたびにやる気が湧いてくるのですよ。今後ともメルティちゃんたちをよろしくお願いします!


次話からは2章。「学園編〜それは、蝕まれた憧れ」が始まります。

なんだか不穏ですね。。。


次回更新は7/4(木)です。お楽しみに!!


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