32。後日談・終
ついに一章最終回です!!
「やあ、待たせてしまったね」
夕食がすんで、一通り落ち着いた後。
メルティはキツネと共にネコラに呼ばれて、職務室にやってきていた。
「うん、うん、大丈夫。全然待ってない。全然待ってないから早く、欲しい」
「メルティちゃん、ステイステイです」
メルティたちの目の前には今、二つの箱が置かれている。
「いやぁ、済まないね。本当は一昨日とか、昨日くらいに報酬を渡すつもりだったんだけど、追加の品がなかなか届かなくてね。どうかな。まずは金貨かい?それともこっちを開けたいのかな?」
「シール」
「右に同じです」
「あはは。では、どうぞ。依頼お疲れ様」
「わぁ」
前も見たはずだが、その時に負けず劣らずの興奮を見せるメルティ。
「何度見ても、これは綺麗ですよね」
キツネもうんうんと頷いて見入っていた。
「キラキラ星」と題したくなるような、半球を薄くした立体シール。
まるで夜空を、小さく切り取ったようだ。
「こっちが、前に見せた方。ブランド『融』の開発したシール。……実用性と見た目で迷ったんだけど、君の感性に沿ったモノは僕があげるより、君自身がお小遣いで買いに行くほうがいいと思ってね。
ま、僕もこれを見たときは驚いたよ。説明書は下に挟まっているから是非確認してくれ」
紹介された通りに説明書を開くと、そこには小さくて丸い字がびっしり詰まっていた。メルティは声に出して読んだ。
「整理番号00971S――タイトル《銀糸》――含有物、(中略)――貼り付けた場所どうしの間を自由に転移することができる。ただし距離制限がある。また魔力を貯蓄しておく必要がある――」
「な、なんですかこの高性能は……!」
「すごい。キラキラしてる。きれい」
「そうですよね。なんだか星空みたいですよね!」
「試すのは是非後でやってくれ。……それでもう一個の方は成功の追加報酬。こっちは僕が――」
「みてください可愛いすぎますよこれ!」
「うん。ぷにぷに触感たまんない」
「ですです!」
何か話したげにするが、かといって娘たちの興奮を遮るのも抵抗がある。
ネコラは苦笑いを浮かべて「ま、いっか」と小さく呟いた。
二人が落ち着いた後、ネコラが言った。
「これだけ喜んでもらえると、カイ君とアイディアを捻り出しあった甲斐があったよ。……こっちは追加だから量産品のもの。つぼみの時に魔力を勝手に吸収して、花っぽい魔法を咲かせるおもちゃだ」
「そんなことよりこのプニプニ。……このプニプニはギルティ。たまんない」
「ですです!!あぁ、いいなぁ、私もちょっと欲しかったです〜」
「後で、山分け」
「いいんですか!? やったぁ!」
そんな、きゃっきゃうふふしている背景で、ネコラが内心、
(値段が桁三つくらい違うんだけどなぁ)
とちょっと複雑な気持ちになっていることには、当然二人は気づいていない。
「はい、報酬金の方はこんな感じ。かなりの大金をカイ君、出してくれているよ。これは危ないからギルドに預かるなりなんなりしたほうがいいね。……さて、今度はキツネの実物報酬に移ろうか――」
「ふぇ!? 私のですか!?」
「ありゃ、いらなかったかな?」
「そ、そんなことありません!ちょっとびっくりしただけです!……その、報酬の量に」
少しそわそわしているキツネを見て、ネコラはなるほどと納得した。
「たしかに、ちょっと指名依頼にしても多すぎるくらいだね。けれど考えてみてほしいんだ。君達が今回採取した『デジタリアの博愛』、どれくらい持つと思う?」
「ええと、……多くて十年、とかでしょうか。貴重ですから汁の一滴でもかなりの人が救えるとは思いますが」
指折り数えるキツネ。
「残念。――あの量で、百年は持つのさ」
「「百年……!?」」
「そう、百年。少なくともね。質が良ければその倍も行くらしいよ。とにかく、これでわかったね、今回の依頼はそれだけの価値があるものなんだ。そう考えると報酬は妥当じゃないかな?
――さて、キツネの報酬に今度こそ移ろうか。君、植物はまだ好きかい」
「……!? はい!大好きです!」
「ふむ。……ではそれが、珍しい植物だったら?」
「もっと大好物です!!」
「地底植物でも?」
「大歓迎です!!」
「肉食でも?」
「ウェルカ――……え?肉?」
「そうだね。……その子、実はちょっと前から君に懐いていてね。依頼が終了するまで待たせておいたから、二人は今日がはじめまして、かな。実際に見てもらった方が早いね」
そう言ったところで、ドアの前に控えていたメイドが一礼した。
生肉をステーキ皿ほど運んで来ると、手袋をネコラに手渡した。
ネコラは丁寧に手袋をはめると、手品をするようにその肉を摘んだ。
それから、地面に落とすと――。
「ほら、おやつの時間だよ」
その瞬間。
地面があたかも沼で出来ているかのように、何か巨大なものが「湧き上がって」きた。
「「……」」
これにはキツネ、メルティ、そしてめったに表情筋を動かさないメイドたちでさえ、目を丸くして固まっていた。
ソレは悠々として宙に跳ね、天井すら無視して一回転をする。
その鋭い顎は、的確に肉を啄んでいた。
緑色でも。
生まれが植物でも。
キツネには少なからず、その仲間とでも呼ぶべきものがわかった。
かつて、自分がまだ幼かったころ。
あの先生から、聞いた覚えがある。
『しぇんしぇ、うみのなかで、いちばんちゅよい、おさかなってなぁに?」
『おっと、それってコッチの世界の話かなー?』
『んーなんでも!』
『なんでもかぁ。……ボク、コッチはあんま知らないんだよねー。ただ多分あの子だったら、ボクの世界でもこっちの世界でも、海の最強になれるかもね』
その獰猛さ、止められる生き物などいない。
その悪名高きこと、海原を生きて知らぬ者はいない。
人呼んで、「海のギャング」。
「……シャチ……!!」
「この子は通称『ネッテヴァンダ』。普段は地中に棲んでいる地底植物。――きっと、君たちならいい関係が築けるとおもうよ」
ネッテヴァンダはキツネとメルティの前まで泳いで来ると、ひょっこり頭を出した。
「……んと、よろしくお願いしますっ」
「きゅう」
キツネはそっとその鼻先に触れた。
メルティも横から手を伸ばした。
「よろしく、……シャチ。でもキツネを守るのはわたし」
「きゅう、きゅう」
「鳴いてもダメ」
「もう、なにを張り合っているんですか」
「もらえる果実が減ったら、困る」
「まだまだありますから、ケンカはめっですよ」
「うん。でもダメ」
「もう〜、メルティちゃんわがままは行けませんよー」
二人の他愛無い会話を聞きながら、ネッテヴァンダはまた「きゅう、きゅう」と鳴くと、二人の周りをくるくる泳ぎ始めた。
――――
黒一色の空間。
仄かに一箇所だけ、明るい場所がある。
その場所とは――。
「姫……姫……」
一人の氷柱を纏った青年が、飲み干したグラスを握り締めたままテーブルに伏していた。
メルティの攻撃牽制担当、【白の『駒』――スケイプ王子】だ。
……否、ここでは単に、「スケイプ」と呼ぶべきか。
小さな影が一つ、テーブルの方から彼に近づく。
『悩ンデモ主ハマダ来レヌ。今ハ酒デソノ悲嘆ヲ抑エルベキ』
スケイプは顔を力無く上げた。
「あぁ……ままならない。どうすればいい、ガロミヤよ。ままならないのだ」
『高貴ナ身分ノ空気ガ払エテイナイゾ』
呆れたような顔で座り込むガロミヤ。
ちなみにこの場にいるのはガロミヤの依代人形――いわば、「リモート飲み会」状態だ。
サイズはちょうど、ジョッキと並ぶくらい。
『ココデハ"駒"デアルコトヲ捨テルノト同時ニ、"王子"モ捨テタト言ッテイタガ』
そう言って、ガロミヤは徳利を傾けた。
その言葉に、恨めしそうな目をして返すスケイプ。
「ならばガロミヤよ、貴公のほうもこの際野性を抑えてはどうだ?その服に胡座はやめてくれ。目の行き場に困るんだ。ああ、ただでさえこちらは恋煩いをしているというのに」
『ム、ソレハ私ノ問題デハ決シテアルマイ。アヤツガ施シタ依代ガ少女デアルコトガ問題ゾ』
「それはおれに言わないでくれたまえ。言うならばシューネランダ嬢にどうぞ。しかしその人形、聞くに原価で言えば金が山ほど積まれるほどと言うじゃないか。……大事にしたほうがいい」
『……カノ娘ハ、私ヲ怖ガラナカッタ。"ウチら、同胞じゃんか" トシカ言ワヌ』
「ああ、言うよね、彼女なら」
『ソレヨリ……ソノ姫トヤラハ、主ノコトデハナイト見タガ?』
猪口の中身を飲み干して、ガロミヤはスケイプをちらりと見る。
相当精巧な人形で、見た目はただの小人族だ。
スケイプは答えなかった。
代わりとばかりに、頬杖をついてボソッと感想を漏らした。
「ああ、……本当に変わった。まるで氷が融けたようだ」
『質問ニ答エヨ』
「今はそういう時間じゃないさ。君に聞かせられる話ではない。それより……考えてみてくれ。"彼女"は近頃、変わったんだ。きっと、運命は動き出した。おかげで、こんな施設が闇の中にふつりと現われたんだ」
『ソノ関連性ニハ同意シカネル。モット、他ノ要因ガアルト見タ』
「……」
スネイプは黙ったまま、グラスの縁をなぞった。
『シカシ――私コソハ変ワッタ。ワダカマリガ、消エカケテイル気分ダ。アンナニモ、身体ニマトワリツイテイタ粘着質ナモノガ』
「……ああ、それはおれも実感した。クソ帝国に対する報復心が、クソ父上に対する腹立たしさが、ほとんど消え失せた。……これは姫の効果か……?」
『ソレハ同意スル。……ダガ、ソレダケデハナイハズダ。言葉ト、ソレカラコノ空間。……与エテクレタモノハ――繋ガリダト見タ』
「――繋がり、ね」
長いため息のあと、スケイプは両腕で体を支えて立ち上がった。
そんな時。
「ぶぐぇっ」
スケイプは背後に激突を受けて、テーブルに顔を突っ込んだ。何事、と顔を強ばらせるスケイプとは対照的に、ガロミヤはあくまでも平然としていた。
『……小娘ガ来ル場デハナイ』
「えぇ?だって、ここあかるかったんだもん! 他の場所がね、まだ暗くてー、もうあきた!もうやなの!だからこっちにきたんだぁ!」
来るは、純真の奈落。
【童心の底なし沼――ナナ】だ。
頭に生えた双葉を揺らしながら、スケイプを無理やり引っ張りあげる。
どこからそんな腕力が出るのか、不思議だ。
「もう離してくれ」
「えぇーっ、じゃあ、いっしょに遊んでくれる?」
「何をだ」
「んーと、じゃあ、あのお人形さん!」
『ナッ……!!』
ついに、ガロミヤまでが流れ弾を食らった。
じりじり、じりじりと寄って来るナナ。
そこにいるのはすでに可愛らしい少女ではなく、ただの肉食獣か何かである。
――少なくとも、ガロミヤにとっては。
『ヤッ、ヤメ……離……』
「おじさん、このお人形で、浮気ごっこしよ!」
「うっ……お、おじさん……おれは、おじさん……!? というか浮気……ああ、それは触れてはならないよ……」
そしてついに。
「悪ーっ!悪ーっ!」
【災禍の黒烏――ソル・ゾラ】――烏が、何羽も飛んできた。
それを皮切りに、なんだなんだと寄ってくる悪たち。
いつの間にか、そこはバーベキュー会場か居酒屋かのような雰囲気になった。
――と、その時だった。
その場にいたほとんど全員が、体をひりつかせた。
強力な気配が、彼方からこちらへと向かってきている。
彼ら彼女らは各々手を止め、ある者は武器を構え、あるものは立ち上がり静観し、あるモノは目を瞑った。
敵意の雪崩のようなものが、やがて形成されていく。
しかし。
その気配は動じることなく、ただ悠々として彼らに近づいた。
そして、ついに姿を現す。
そこにいるのは、一人のメガネの青年。そして横に、化粧を濃くした女学生がいた。
「や、みんな元気そうだねー。新しい主にも慣れたようだし、ボクも安心だよー」
その声がした途端、悪意は霧散した。
ガロミヤ人形が、代表して前に歩み出た。
『久シイナ、我ガ元主――【ノーソリューション】ヨ……。此度ハ、何故此処ニ?」
青年は微笑んで返した。
「ま、普通にこの世界に寄ったまでだよー。ついでに、ボクの教え子ちゃんたちに会いに来ようと思ってねー。あと、今日は……せっかく【ふれあいぱあく】が【解放】された事だから、新人紹介しちゃおうと思ってさー。
この子は配信のリョナたん。この中にも彼女のことを知っている子もいるんじゃないかなー?あ、どーぞ、自己紹介を。好きな方の呼び名でいいからねー」
「……」
セーラー服姿の少女は黙ったまま一歩前に歩み出た。
そして、にちゃあと獰猛な笑みを浮かべた。
お読みいただきありがとうございます!
おおっとこれは波乱の予感。。。
ついに一章完結ということで、本当に皆さんのおかげで走り切ったという感じです。毎日増えていくプレビューを見るたびにやる気が湧いてくるのですよ。今後ともメルティちゃんたちをよろしくお願いします!
次話からは2章。「学園編〜それは、蝕まれた憧れ」が始まります。
なんだか不穏ですね。。。
次回更新は7/4(木)です。お楽しみに!!




