表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
1章。指名依頼編〜それは、確かな繋がり
33/80

30。後日談③ 親の心なんとやら

やあやあ。おまたせっす。

「さあ、行きますよ!」

「ん」


 ひと二人分離れたところから、一気に距離を縮めるキツネ。

 半身で隠した木剣に力を込め、鋭くメルティの顎元を払う。メルティはそれを間一髪で躱す。


 大きく脚を回して蹴りを入れ、キツネの退路を断つ。


「ここです!」


 足の軌道から外れ、突進するように拳を振りかざすキツネ。

 ――と、急所狙いが成功しそうなのだが。


「残念」

「わっ!?」

 メルティに足を引っ掛けられて、キツネは訓練所の床に転がった。


「はぁ、はぁ……」

「大丈夫?どこか怪我した?」


 大の字に寝転がるキツネの顔を、メルティが覗き込む。


「いいえ、大丈夫ですよ、メルティちゃん。……はぁ、はぁ。あぁーっ、もう、メルティちゃんずるいですーっ」


 小さい子供が駄々をこねるように、キツネが手足をジタバタさせた。


「ずるい……足引っかけるの、まずかった?」

「あ、いえ、そういうことではありませんよ。ただ、メルティちゃんの『見極め』が凄いなぁって。出る時は出て、引く時は引く。頭ではわかっていても、体がうまく動かないですよ」


 キツネは上半身を起こして苦笑いをした。

 まだ、肩で息をしている。


 さて。

 どうして彼女らが訓練所にいるかといえば。


 話は簡単で、ルイザに会った翌々日の朝、キツネが突然「このままでは強くなれません!メルティちゃん、特訓です!」と言い出したのだ。

 訓練所と言っても、キツネの家の地下にある部屋のことだ。

 キツネも、初めて入ったという。

 メルティはその時、延々と下へ続いていそうな階段を見て、「キツネの家も実は、かなりの大きさなのではないか」と思った。


「ところでメルティちゃん、木剣は使わないのですか。依頼の時も思いましたが、痛くないのです?素手で攻撃するのって」


 メルティはひと休憩と、キツネの横に座って言った。


「んー……「痛い」、がわからない」

「へ、痛みを感じないということですか!でもそれでも、素手素足では、普通攻撃をしても潰れてしまうでしょう」


 キツネの疑問は至極当然である。

 ぷにぷにの顔。

 すべすべの肌。

 メルティはどこからどう見ても、武闘派ではない。


悪意一縮(マリス・ガウン)】を知ったキツネは最初、彼女がその闇魔法とでも呼ぶべき術で、体を固めているのかと思った。


 が、実際に一緒に依頼をこなして見ると、「違う」と気づく。


 彼女は素で殴って蹴っているのだ。


 本来、打撃や蹴撃の強さは、その放つ者の重さに起因する。

 ――しかしその点で見ると、彼女は重い攻撃ができるほどのポテンシャルは無さそうである。


 ――そう、見た目は。


「あぁー、んー、どう説明すればいいのかな」

 メルティが唸る。

 自分の中ではわかっているが、相手に解説するとなると難しいものである。


「あ、もし難しいようでしたら、無理に話す必要はありませんからね」

「んー、ちょっと待って、まとめる。この話は、ちゃんとキツネにしておきたいから。その。大事な、なかま?だし」


 やや目線を外して、床を指でなぞり始めるメルティ。

 頭の中をまとめているらしい。

 なおその横で、キツネは心の中で「悶え死」していた。


(ねぇ今聞きましたか奥様!?仲間ですって!私のメルティちゃんが、仲間って言いましたよ!?しかもちょっとツンデレ感のある感じではありませんかやだぁー!ツンデレって、ちょっとつんってしてて、かつ照れている感じでしたっけ。さすがですよね、この言葉を考え出した方!誰ですか全く、けしからんです!ということはですよ、……なかまはなかまでなかま……つまりこれはもう、実質プロポーズなのでは……!?え、ここは野性を解放するシーンではありませんか、奥様??)


「ん、まとめ終わった。あれ、なんで服を脱ごうとしているの。暑い?」

「え、別にやましい考えなどありませんが、はい。これは合法ですから」

「ちょっとよくわからない。……いい?話して」

「どうぞです」


「わたしは――普通の『人』じゃないんだと思う」


 それに気づいたのは、ほんの数日前。

 デジタリアの博愛の最終討伐戦の時。


 メルティは久しぶりに、本気を出した。

 すると、自分の皮膚が。

 自分の四肢が。

 自分の五臓六腑が。


 ぐにゃり、と形を変えた気がした。


 腕が千切れても、まるで水を切っているかのように。

 内臓が潰れても、まるで餅を捏ねなおすかのように。

 元通りになってしまうのだ。


「だから、わたしのパンチも、実は普通のパンチと違う」


 一般の武人が岩を殴ったとする。

 岩を割るほどの一突きであったとしても、それは衝撃によるものだろう。

 しかし、メルティは違う。


「わたしは、他の人の中に入れるんだ」


 拳が触れた瞬間。

 メルティの拳は形を崩す。

 そして、相手の中に浸透する。

 まるで細い長い腕を、体内に伸ばす感じ。


 ダメージを受けるのは、表面だけではない。

 臓器。

 骨。

 ひいては魔力――。


 メルティに体を占領されたが最後。

 待ち受けるのは、砕け散る運命のみ。


 どんな仕組みなのかは、メルティ本人にもわからない。

 が、そこには圧倒的な「異常さ」が滲み出ていた。


 キツネは考え込んでから、言葉を選ぶようにして言った。


「んー、つまりメルティちゃんの皮膚は特殊で、植物の根っこのように相手に入り込めるわけですか」


「やっぱり例えは植物なんだね。まあ、殆ど正しいと思う。ただ」

「ただ?」

「正直、私に皮膚があるかも、怪しい。たぶんこれは、皮膚を真似た何か」


 周りの人が、目を持っているから。

 周りの人が、二足歩行だから。

 周りの人が、食べるから。


 ただそれだけ。

 メルティの肉体は、そうして色づいている。



 キツネは唇を紡いだ。まるで、メルティの瞳の中を垣間見る様にして。

 メルティはキツネの手に、自分の手を重ねた。


「大丈夫。わたしは、わたし」

「……はい」

「今日はもう、終わりにする?……お腹空いた」

「ふふ、はい、そうしましょうか。でもまずは体をさっぱりさせてからですよ」



 お風呂の中で。

 キツネはお返しとばかりに、自分が新たに得た魔法を説明した。

 メルティを救出するときに使った、ガントレットと魔法【逆サオ手玉】だ。

 メルティはそれを聞いて、なぜか「お手玉」の方に興味が向いたらしく、その後二人でエアお手玉を遊んで無駄に汗をかいたという。


 お風呂から上がりお昼を平らげた二人は、今度は街を回ることにした。

 当然、キツネの要望である。

 どうも、そろそろ学園のほうが始まるらしく、その前にメルティとの時間を出来るだけ作りたかったらしい。

 向かうのは常に賑わっている、この街最大の商店街。


 冒険者ギルド近くの広場を、ぐるりと一周囲うようにして置かれている店たち。

 フリーマーケット。

 出店。

 或いは、高級そうな服飾店――。

「足りないものは人手だけだ」と、揶揄されるほどの規模である。


「それにしてもあんなトレーニング、意味あるのでしょうか。……剣術の先生に教わったとおり、ここ二日試していますが」


 二人揃って、今は蛇肉の串焼きを頬張っている。


「むぐ。……ん、意味はある、はず。最初の日よりも、キツネのフォームが良くなった。たぶん」


「そこは言い切ってくださいよお……。あれ、メルティちゃん。そういえばナナちゃんと遊ぶ約束したとかなんとか、言っていませんでしたか?」


 ぴたっと立ち止まって固まるメルティ。

 これは完全に、忘れティの顔だ。

 無心に一口スパイスの利いた肉をかじって咀嚼し、飲み込んでから「……うまし」とだけ返すと、メルティはまた歩き出した。


「……え、ちょっと大丈夫なんですか、メルティちゃん!」


 掴みかかるように横に並ぶキツネ。


「んー」

「ちゃんと答えてください」


 メルティは心の中で(あ、これはマジの顔)と分析しながら、「……だいじょばない」と答えた。


「ですよね」

 頭を抱えるキツネ。


 はっきり言おう。

 まずい。

 というより、何が起きるかわからない、のほうが正しいのかもしれない。

 キツネは先日、メルティがナナ――【童心の底なし沼――ナナ】の「力」を借りられたことを知った。


 そのときに、三人で遊ぶ約束をしたことも聞いている。

 今までの流れを知っているキツネだからこそ、感じたのだ。


 ――あの力を貸してもらったら、「お返し」が必要だと。

 ――あの約束は、決して破ってはならないと。


「どどどどうすればいいんですか。あの子、ソラちゃんと違ってお外に出られませんよね。どうやって三人で遊ぶのですか」


「……わかんない」


「じゃあなんで約束したんですかぁ……私、学校始まったらほとんどこっちに居られないのですよ?……もう……」

「……ごめんなさい」

「許します」

「やった」


 メルティの無自覚上目遣い(身長差の問題)には勝てない。

 キツネは腰に手を当てて、ため息をついた。


 甘い。

 甘々だ。


 メルティへの慰めのつもりか、細長い果実を摘んで一粒渡した。

 メルティはそれを直接口で受け取ると、美味しそうにもぐもぐし始めた。

 喉元過ぎれば熱さを忘れる。

 彼女にぴったりの言葉である。

 それを横目で見て、改めてため息が出るキツネであった。


 ――(キツネ)の心、(メルティ)知らず……である。



 夕焼けが、オレンジ色のカーテンを街中にかける頃。

 二人は商店街を一通り回って、ちょうど帰路につこうかというところだった。

 ふと何かを思い出したように、メルティは顔を上げた。


「どうしたのですか、メルティちゃん」


 キツネが声をかける。

 二人の手にはいくつもの紙袋が提げられていて、先へと伸びた影が振り子時計のように、左へ右へと揺れている。


「この街で一番高いところって、……どこ」

「それなら『地平線の塔』ですが……登ってみたいのですか?」

「うん」

「そうですね……家からまぁまぁ近いので、荷物を預けたら行ってみましょうか」

「うん……ありがとう」


後編に続くっす。

次回更新は6/27(木)っす。


お楽しみにっす。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ