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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
1章。指名依頼編〜それは、確かな繋がり
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29。後日談② 夜は語る

お待たせですー!!



 時間帯は変わって、夜。


 いつもよりも十倍は大きい浴槽を満喫したメルティとキツネは、ルイザの部屋でパジャマパーティをしていた。


「そういえば気になっていたけど。……キツネの家は貴族だよね。でも物売りとしてはハロケス家のほうがえらいの?」


 メルティはもこもこ猫パジャマに着替えて寝転がっている。横並び三人のうち、一番左だ。その次中央がルイザ、最後にキツネという順番である。

 ちなみにルイザのパジャマはアザラシ(っぽいもの)で、キツネは……狐である。


 ルイザとキツネが顔を見合った。

「えっと……」


「偉いとかは、基本的に格式的なものですコン、メルティちゃん。ウチは貴族ではありますけど、特殊だから一般的な土地所有はないのですコン。逆にルイザちゃんのお家が貴族ではないのは、『なれない』のではなく『ならない』からなのですコン。ヒトの文化にわざわざあわせずとも生活できる時代ですからコン」

 とキツネが説明する。


「えっと、うちのおとうさまが、何時でも何処にでも足を伸ばせるように、って言っていたきがします……キュン」

 とルイザが付け足す。


「……うん。うん。なんか大事な話っぽかったけど、二人のその変な語尾で全部、吹っ飛んだ。あと、ルイザも無理にキツネに付き合ってやらなくて大丈夫」

「ちょっと、メルティちゃんもやるのですコン」


「さあ、さあ!」と言いたげのポーズを取るキツネ。


「何をやるの」

「え、えっと、語尾です……キュン」

「……ルイザのそれは、なんの生き物?」


 返事をしない二人。

 顔からにじみ出るのは、「語尾をつけて話せ」というオーラ。仕方なく、メルティもパジャマのとおり猫っぽい語尾をつけた。


「ルイザのそれは、なんの生き物……にゃあ?」

「アザラシですコン」


 ようやく満足したように、キツネが満面の笑みで答える。


「えっと、ち、違います……キュン。『エアレスモ』という空飛ぶ芋虫です……キュン」

「……えあ? なんちゃら虫は、『キュン』って鳴くの……にゃあ?」

「えっと、鳴きません……キュン。どちらかといえば『ブモォ』です……キュン」

「じゃあアザラシは『キュン』って鳴くのにゃあ?」

「鳴きませんコン」


「……」


「……やめない?もう。疲れる」


 メルティは枕に顔を埋めた。


「……仕方ないですね。また今度にしましょう」


 キツネも枕に倒れた。


「……えっと、では、早めですが……寝ますか?」

 最後にルイザも真似して横になった。

 川の字である。


 メイドが一人ノックして部屋に入ってきて、照明を暗くした。

 その後、わちゃわちゃとガールズトークを繰り広げていた三人は、ルイザをはじめ一人ずつ夢の世界へと入っていった。


 深夜。


「……お、おとうさま……た……たすけ……!!」


 極度に緊張した面持ちで、上半身を起こすルイザ。

 梳いた髪が、はらはらと顔にかかる。

 手を握ってみる。

 力が入らない。

 脂汗で、背中がびっしょりだ。

 微かに、体が震えてさえいる。


 左右を見ると、二人は良く眠っていた。


(キツネさんはすごいなぁ。なんで、ぐっすり眠れるんだろう。ルイザと同じように、怖いおとこのひとに捕まったのに)

(メルティちゃんもすごいなぁ。ルイザと同い年くらいなのに、冒険者をやって、あんな大きい人を相手に勝つなんて)


「……ルイザとは、大違いです。……やっぱり、ルイザ、なにもできません」


 そう思えば思うほど、冷たい涙が溢れ出してくる。

 考えれば考えるほど、理不尽で――。


「そんなことないよ」


 ふとした声に、びくっと体を震わせるルイザ。

 メルティの声だ。


「ルイザにも、できることはあるよ」

「で、でもっ、えっと……こわくて……」

「怖いのは当たり前。まだ若い。これから」

「……め、メルティちゃんだって――」

「わたしは違うよ。そもそも自分の年齢なんて、知らない。……ええと、怖いって気持ちは大事だと思う」


 考えをまとめるように、天井を見つめるメルティ。


「わたし、キツネと出会うまで、……嬉しいとか、淋しいとかもわからなかった」

「えっ、そうなんですか」

「うん。それで、マー坊さん――副ギルマスに、オススメされたのが、『救助依頼』」

「……」

「それがあって、キツネに出会って。ようやく、今のわたしが出来た。ううん、多分まだ出来途中」

「えっと、今は十分普通だと思いますが……」


「今回の依頼は、キツネがいるからついて行った……最初はね。ルイザのことは、全然考えなかった。依頼達成しなかったら残念だけど、正直、()()()()()()()。キツネならもしかしたら泣くかもしれないけど」

「……」


「嫌なひとでしょ、わたし」


「そ、そんなことありません!……ルイザだって、他の子の気持ちを考えられていません。男の人が全員悪いわけじゃないってわかっているのに……怖いんです。……あの暗くて、震えが止まらないところはもう、いたくないです……あっ」


 ルイザは自分が後ろから包まれるのを感じた。


「だーれでしょーか」

「えっと、……キツネさん、ですか」

「呼び捨てで構いませんよ」

「で、でも……」

「では、『キツネお姉さま』と呼んでください。私、一度は呼ばれてみたかったんです」


 どうしてそうなったのかと、突っ込んではいけない。


「では、えっと、それで。……キツネお姉さま、起こしてしまいましたか」

「眠れなかっただけですので、ルイザちゃんは悪くありませんよ。それで、ルイザちゃんは……男の人が怖いのですね」


 後ろからハグされたまま、顔を隠すように俯くルイザ。


「怖いままで、いいと思います」

「「えっ」」

 キツネのこの回答には、メルティも声を上げた。


「悪い人に誘拐されて、怖いことがあって、怖くなるのは当たり前です。私だって怖かったですよ。あのときは、精神安定の魔法がかけられていて、なにも思わなかったと思いますが、後々振り返ると、トラウマものですよ。私にとっても」


「……キツネも思っていたんだ」


「それはそうです。たしかに変なことはされていませんが、……どう考えてもおかしい空間でしたから。でも、私はなんとか乗り越えられました。乗りこえて、残るものは――『()()()()()()()()』という気持ちです。『次は夜なるべく外に出ないように』という教訓です」


 キツネは続けた。


「だから、怖いと思っていてもいいのです。正しい感情ですから。……ただ同時に、()()()()()()()


「キツネお姉さま……」


 怖くても、悲しくても。

 進むものは進んで行ってしまう。

 戻ってくることは、二度とない。


「せっかくの時間が、()()()()()()に奪われてはもったいない――なんて、お世話になった先生に教わったものです」


「もったいない、ですか」


 我が子を撫でるように、キツネはルイザの髪を指で梳いた。


「はい。――それに、乗り越えられたのは、今回のことを良い方向に考えられたからですよ」

「良い方向、ですか?」

「たとえイヤなことがあっても、それがいいことに繋がるかも知れません。今回も、あんなことがあったから私は――」


 そこまで言うと、キツネはメルティの方を向いた。

 暗くて、表情までは見えない。

 けれど、たしかに、その言葉にはじんわりと温かみがあった。


「メルティちゃんという、大事な存在に出会えたのです」


「メルティ、さん」

「『お姉さま』って、わたしのことも呼んでほしい」


「へ?あ、えっと、……メルティお姉さまは、すごいですよね。ルイザだけじゃなくて、きっといっぱいの子がメルティお姉さまを尊敬していると思いますよ」


「そんなに?」

「はい!あのときは、ちょっと冷たそうで怖かったですが、思い返せば、どんって入ってきて、ずばばばって倒して。カッコ良かったです!」


「……」


 メルティは口を紡ぐと、窓の外の方に顔を逸らした。


「おっとぉ?珍しくメルティ()()()()が照れているようですよ、ルイザちゃん。これは貴重(レア)です」

「そうなんですか?」

「ですです」


「……照れてない。それにあの時、【悪意】に憑依されかけた。むしろすごかったのは、キツネの割り込み」

「キツネお姉さまもすごいです!!」


「そうでしょうか?えへへ。でも、そう思うと、ワンダフルなイベントスチルが取れたって思えるでしょう?」


「「?」」


 ハテナマークな二人をみて、固まるキツネ。


「先生仕込みです。無視してください。……要は嫌な事件だったけど、いいところもあったでしょうということです」


「あっ」

 口に手を添えるルイザ。

「たしかに……あれそう思うと、あまり怖くなりました……?」


「よかったです。乗り越えられたのですね。ぶり返すかもしれませんが、その時はもっともーっと楽しいことを思い浮かべるのですよ。あとは、大事な人でもいいですよ」


「さすがキツネお姉さまです!参考になります!あの、えっと、お二人にお願いがあるのですが……」

「??」


 ルイザは体をくねらせ、深呼吸してから声を少し張った。


「……今日は……。えっと、お姉さま方に手をぎゅってしてもらいながら、寝てもいいですか?」


 メルティとキツネは顔を見合った。

 あまり良く見えないけれど、きっと同じような顔をしているはず。


 二人はルイザの手を片方ずつ包むと、川の字になって再び目を瞑ったのだった。




 その頃、職務室。


 ・メルティが「児童誘拐事件」の依頼を受ける直前、正体不明の怪物を討伐した。

 ・怪物の大きさは邸宅ほどあり、異臭がする。スライム状の体は空気に溶けることができ、獲物を腹中(見た目はただの竪穴)に招き入れて、硬質な歯で噛み砕くと思われる。

 ・その後、指名依頼で「デジタリアの博愛」が必要になり、メルティ、キツネの二名が捜索。

 ・曰く、前述の怪物と同じような相手。とても強力。

 ・曰く、人工的な祭壇があった。魔法陣が怪しい。


「なるほどねぇ」


 ネコラは腕を組んだまま、カイの作業机に置かれたメモを眺めていた。

 その向かい側では、カイが眼をじっと閉じている。


「どう思う、カイ君」

「明白。メルティ嬢が先日討伐した個体は、幼少個体。……あるいは、出来損ないか」

「あーやっぱり『デジタリアの博愛』は人工物って説かい?」


 ゆっくりと頷くカイ。


「元々デジタリア自体、あまり知られた存在ではなかった。存在が確認できたのも百幾年前に北の国で、一件のみ。……今回のように、討伐してかつ祭壇のようなものが見つかるのは……有史以来か」


「ということは、あの祭壇にあったらしいガラスの壺も、たまたまそこにあって、たまたま割れただけというわけではないと」

「そんな偶然があってたまるか」

「やだなー、言ってみたまでさ。……そうなると、精霊の悪戯も『黒』かい」


 ネコラが体を乗り出す。


「……灰色」


「ふぅん?」

 言い切らないカイに、ネコラが眉をあげる。


精霊(アレ)が見える種族がそもそも珍しい。その中で付き合いが最も深いエルフ族でも、全員が全員、精霊が見える訳ではない」


「しかもメルティ君曰く、魔法陣をうっかり踏んだらすぐに罹ったらしいね。『精霊の悪戯』に。あの子はかなりタフだよ、カイ君。拷問なんて彼女にとってはお遊び程度なんじゃないかな。……そんな彼女が拒否反応を起こすレベルの精霊魔法というのは――とんでもない代物だよ?」


 ひと頷きするカイ。


「もう一つ、気になることがある」


「なにかな?」

「あのあと、振動を嗅ぎつけたウチの偵察が、現場を見に行った」

「へぇ」

「そしたら、殆ど何も残っていなかった。あるのは、穴と、そこに敷き詰められた巨大な植物群だ」

「ま、そうだろうね」

「……知っていたのか」

「ま、()()現場にいてね。あれは十中八九、メルティ君の魔法だろう」


「……ならば、メルティ嬢も『灰色』というわけだ」


「へぇ――どういうことかな?」


 少し、ネコラの声のトーンが落ちる。


「植物魔法に長けた者の多くは、精霊魔法に長けているという。あるいは、そういった者と関わりを持っているか。だから、純白ではないと見た」


「なるほど、いい推測だね」

「……賛成はしていないだろう」


 ネコラは肩を竦めて、グラスの水を飲み干した。

 カランと、氷が音を立てる。


「まあね。僕のほうが、メルティ君を知っている自信があるからね」

「それは――『奴』の情報か」

「うーん、それもあるけど。……やっぱり大きいのは、『僕が彼女と同類』ってところかな」


「奴と同類でなければ、わたしはなにも言わない」


「だいぶ尖っているね、今日。どうしたんだい。娘の反抗期が来てショックを受けたとかかな?」

「そんなことはまだあり得ない……はずだ。そうではなく、むしろおまえが『出せ出せ』と煩かった、指名依頼に問題がある」

「あれ。でも、いい子達だったでしょ」


「そっちではない。むしろいい子だと思い愛でるのなら、なぜ彼女らに黙ったままなんだ。――()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ことを」


「簡単さ」

 ネコラは笑みを浮かべると、席を立ち言葉を続けた。


「最初から用意してあったのは、一応のためだよ。仮に失敗したら、被害を受けるのはルイザ君。だから、申し訳程度に効果を弱めるくらい、しておこうと思ってね。……量は少なかったから完治は厳しかったろうけど」

「……」


「そう、それに、僕が持っているのはあの誘拐犯――彼が用意していたものだからね。あの男、ヤなやつだけど、ちゃんとメイドに仕立てた子達の身体状況に合わせて、薬やらなんやらをどこからか購入していたんだ。管理能力だけを見るなら、大したものだよ」


 ネコラは肩を竦めた。

 それから言葉を続けた。


「ちょっと整理をしようか」

「ああ」


 ルイザが誘拐される、少し前。

 彼女は行商の付き添いか何かの理由で、精霊の森に入ってしまった。

 そして、『精霊の悪戯』を受けた。

 ルイザは夢遊病に罹ったように、身体が勝手に動いて、精霊の森へと向かうようになった。

 やがてタイミング悪く狙われて、攫われてしまった。


「と、いう感じかな」


「行商の付き添いではない。王族との会談で『聖域』――精霊の森付近の状況視察だ」


「それなら、猶更何も言わないほうが吉さ。あの類いは掘り返す鉱山ではないよ。彼女が乗り越えて、嫌なことを忘れてしまえるのならそれが一番いい。……『黒』の世界なんて、おいおい学んでいけばいいからね」


 カイは答えなかった。


「もう夜明けも近いよ。カイ君も少し、休んだほうがいい」


 それだけ言って、返事も待たずにネコラは職務室を出た。


 外はまだ暗くて、そしてやや寒い。

 物音一つしない廊下の中に、ネコラはよく溶け込んでいた。


「僕は、味方でいるつもりだよ。それこそ、誰もが君の存在を否定したとしてもね。君は、君自身が思っている以上に英雄にふさわしいんだ。だから――」


 楽しみにしているよ、メルティ・イノセント君。

 ……いや。

 ――メルティ・ギルティ君。


お読みいただきありがとうございますー!!

ちなみに最後に出てきた「鉱山を掘り返す」というのは、毒のある鉱山は封じておくことから、転じて「わざわざ嫌な話を掘り返す」ことで使われています。


オリジナルですー!!


次回更新は6/23(日)ですー!!

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