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メルティ✕ギルティ〜その少女はやがて暗夜をも統べる〜  作者: びば!
1章。指名依頼編〜それは、確かな繋がり
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23。メルティとピンチ

今日はぱぁりぃぴぃぽぉになる。

うん。決めた


900pv突破ーーー!

ありがとう大好きだよみんなぁ!

 〜メルティside〜


 多分、あの魔法陣のせいだと思う。

 だから、精霊の悪戯にかかってしまった。

 悪意を感じなかったから、その場では気づかなかった。


 しかし今はそれを考察する時間ではない。


 極太の蔦で作られた厳重な繭に閉じこめられ、身動き一つ取れない状態だ。

 まともに戦えない。


 とはいえ相手も、余程のことがなければ、私を傷つけることはできない。

悪意一縮(マリス・ガウン)】で防御壁を身につけているから、ある程度の攻撃なら弾けるのだ。


 わたしがぼーっとしていると、心の中に一つの声が響いた。


『ヘコンデイル場合デナイ。……外ノ、(アルジ)ノ片割レカラ……悲シミを感ジタ』

「別にへこたれてないよ。まあ、まずいのは間違いないけど」


 というか、片割れって、たぶんキツネのことだよね。


『ナラバ力を使ウノダ……下ラヌ依頼ナルモノヲ終ワラセヨ』

「……下らなくはないよ。たぶん。少なくとも、それで助かる人がいる」


 キツネなら、そう言う気がした。


『……シカシソノ結果ガコレダ。ソノヨウナモノニ守ル価値は…………ナイ』

「……」


 言葉が出なかった。

 別にこの「ガロミヤ」という巨人が、正しいことを言っているとは思わない。

 けれど彼の言う通り。厳しい状況に陥ってしまったのも事実だ。


 そういえば、この巨人。彼の名前のラベルに【忘却された巨人――ガロミヤ】とある。

 ということは、この巨人は「忘れ去られた」存在なんだよね。

 何に、忘れられたのだろう。

 だから、守る者に価値をつけるようになったのかな。

 ……わからない。


 ふと、昔の自分――キツネと出会う前の自分を思い出す。

 あの頃のわたしだったら、どういう行動をとるかな。

 一週間もかけて、探索なんてするかな。

 わからない。でも、今のわたしはする。

 一ヶ月でも。

 一年かけてでも、やると思う。


 別に、依頼の相手の子……「ルなんちゃらちゃん」のことは知らない。その娘が仮に死んでしまっても、わたしは泣かないと思う。……言い方がきついかもしれないけれど、


 でも、依頼されたら、絶対に頑張る。

 頑張れる。


 ……なんでかな。


 やっぱり――キツネがそばにいるからかな。


 わたしはゆっくりと手を伸ばした。

 力は入らないけど、ちゃんと動く。


 最近、ずっと横にいてくれた存在。

 キツネ。


 いるときは気がつかなかったのに、今さら、自分にとってキツネがどれほど大事な存在になったのかを実感した。


「すぅ……」

 わたしは深呼吸した。

 心の中で、キツネのいつもの笑顔を思い浮かべると、なんだかいける気がした。

 心の中から靄が溶けて、スパークするような感じ。


 ――今なら、いけるかもしれない。


 そう思って私は言葉を口にした。

「【マリス・ガ――】……」


 その瞬間だった。


 ――どっと、噴き出した。

 形容できないなにか、黒いものが。

 わたしの体の中から勢いよく噴き出した。


 わかる。

 これは、わかる。


 わたしの中で押さえつけられていた、【悪意】たちだ。


 恨み。妬み。苦しみ。悲しみ。無力さ。底なしの恐怖――。


 ――【髯カ驟斐?閠??繝シ繝シ繧「繝ゥ繧「繝」】――

 ――【轣ス蜴??譫懊※繝シ繝シ繝シ繝溘ヨ繝ュ繧オ繧ャ繝ェ】――

 ――【鮟偵?縲碁ァ偵?阪?繝シ繝シ繝槭?繧ク繝」】――


「……ダメ……」


 ――【蜍????遖肴?ケ繝サ繝ャ繝吶Ν2繝シ繝シ繝シ繧オ繝阪Λ】――

 ――【鬲皮視繝サ逾晉ヲ上?繝ャ繝吶Ν2繝シ繝シ繝シ繧ォ繝阪Λ】――


「やらか……した……」


 ――【隱ュ縺ソ蜿悶l縺セ縺帙s隱ュ縺ソ蜿悶l縺セ縺帙s隱ュ縺ソ蜿悶l縺セ縺帙s隱ュ縺ソ蜿悶l縺セ縺帙s隱ュ縺ソ蜿悶l縺セ縺帙s隱ュ縺ソ蜿悶l縺セ縺帙s隱ュ縺ソ蜿悶l縺セ縺帙s……】――


「キ……ツ……」


 自分の身体が、侵食されていくのを感じる。

 頭のなかに、雪解け水のように雪崩れ込む情報。

 使ったことがあるカードから、ないものまで。


 無数。


 無数の、悪意。


「精霊の悪戯」で、わたしという束縛が弱まったのだ。

 みんな、我慢していたんだね。


 血のような、粘液がわたしの口、鼻、目、耳から溢れ出す。

 身体が、悲鳴をあげている。

 四肢が変形して、視界がぼやけ、服は破れた。


 結晶。靄。蔦。雨水。茨。巣窟。触手。眼球。棘。鰓。嘴。牙。鉤爪。角。花托。果実。蜜。粘液。翼。岩壁。溶岩。硝子。音声。錆。瓦。剣――。


 ソレは潔白(イノセント)か?それとも罪深い(ギルティ)か?


 ――否。


 ソレは――ソレらは、そんな言葉では表せない、人知をはるか超えた存在。

 覗いてはならぬ存在。

 意識が、遠のいていく。

 自分の肉体がボコボコと変形していき、異様な「モノ」になっていくのを感じながら。


 ……キツネ。


 ごめんなさい。




 一刻、一刻と無音の時が流れていく。

「……ここは……」

 ここは、どこだろう。

 真っ暗だ。

 本当に、何もない空間だ。

 でも、どこか落ち着く。

 体が、動く。

 前に進んだり。

 後ろ戻りしたり。

 沈んだり。

 浮いたり。

 けれど、限界が見えない。

 どこまでも遠く、遠くへ行けてしまいそうな感じがする。


 わたしは目を瞑った。

 すると無意識に、手が横に伸びた。

 そして、虚空を掴む。

 その、横にいつもあった手が。

 あの、身体を融かしてしまいそうなほどに暖かい手が。


 なかった。


「……不思議」

 今まで、どれほどのモンスターを倒してきたのか。

 数えきれない。


 いつから、自分が生きていたのか。

 ……わからない。


 その、悠久かもしれないし、すごく短いかもしれない時の流れの中で。キツネと一緒にいる時間なんて、ほんの一瞬だ。


 なのに。

 どうして。


 こんなちょっと離れただけで。

 会えなくなるというだけで。


 ――わたしは、モヤモヤするのだろう。


 今まで、「死」という言葉を考えたことがなかった。

 そもそも、自分が死ぬような相手とは会わなかったし、強い相手でもなんとかなった。

 けれど今回は――他の人達の気持ちが、ちょっとわかった気がした。

 どうにもならない相手への恐怖。忌避。


 こんなこと、はじめてだ。

【烏】の鳴き声がおかしいことから、薄々嫌な予感はしていたが、さすがにここまでの怪物だとは思わなかった。


 それと、もう一つ。

 認めなければいけないこともあった。


「……わたしって、弱いんだね」


 モンスターを狩ってくるたびに、ギルドマスターに呆れられて、他の職員にすごいすごい言われて。


 ああ、自分って強いのかもしれないという思いが少なからずあったのだとおもう。

 確かに、手札の面では有利な方なのかもしれない。

 でも、総合的な面――実戦の面で見れば、わたしの弱点は数えきれないほどある。

 まず、これといった強みがないこと。

 それから、案外簡単に精神のキャパシティを超えてしまうこと。

 他、諸々。


「……そういえば、なんでわたし、【悪役カード】なんて持っているんだろ」


 不思議でならない。

 わたしって、悪なのかな。

 なんだか、すでに悪の親玉みたいになっているけど。

 それにわたしに、彼らをまとめるほどの力がある気がしない。

 現に、彼らに体を乗っ取られている。

 そんなに強い力があるならどうして今まで、ポーチの中に大人しくいたんだろう。


 わたしは、軽く自分の腰に触れた。

「……あれ」

 ポーチが、ない。

 どこかに落したのかな。

 あれ、よく触ってみれば下着もない。

 ……服はあるのに、なぜだろう。


『カノモノハ、悪意ヲ遥カ超エタ存在。……トテモ、コノ空間ニ収マレルモノデハナイ』


 そんな声がふと耳に入る。

 振り返って、びっくり。


「……でかい」

 それは、巨人と呼ぶにも規模が小さく思えるほどの、巨躯の持ち主。

 わたしが使い慣れた力の、持ち主。


【忘却された巨人――ガロミヤ】だ。


 大きさは、わたしの数百、数千……いや、数万くらいあるんじゃなかろうか。その岩のようにゴツゴツした皮膚から薄っすら覗く瞳すらも、わたし十個分くらいありそうだ。

 キツネが見たら、チビってしまうレベルなんじゃないかな。

 ……本人に言うと、たぶん怒られるけど。


 身体の先が、見えない。

 あちこちに霞がかかっていて、森らしいものも見える。


 ……体毛に見えるのはわたしだけかな。


『……森モ肉体ノ一部。体毛ト呼ンデモ、間違イトハ言エヌ』

「……なんで心の声が聞こえるの」

『……繋ガッテイル、故。普段は、大事ナコトガナイ限リ、……ソノ感覚ハ閉ザサレル』


 今の、大事だったのかな……。


「それで。……わたしは今、どこにいるの。この暗い空間、なに」

『私ノ、居場所』

「……ここに住んでいるの?」

『然リ』

「……寒くないの?」

『感ジヌ』

「……淋しくはないの?」

『……淋シサトイウ哀レナル感情ハ――遥カ昔ニ棄テタ』

「……」


 こう言われては、どう返せばいいかわからなくなる。

 わたしは、あるのかな。

 自分で聞いておいてなんだけど、「淋しい」という気持ちは、あるのかな。


 ――ある。


 最近、生まれた。

 多分今感じているもやもやも、「淋しさ」なのかもしれない。

 ……あっているのかな。


 わたしが黙りこんでいると、目の前の巨人が口を開いた。


『……主ハ、今モ……生キテイル』

「そうなんだ」


『ソモソモ、私ノ予想……主ニハ、死トイウモノハ存在シナイ。……アルノハ、生、或イハ……"仮死"、今ノヨウナ状態。……"ギルティ"曰ク……クリプ……以下略ダ。スマヌ、主。……記憶ニハ長ケテイナイ種ダ』


「……待て待て待って待って」


 わたしは頭を抑さえた。

 なに、なに、なに。

 いきなり、情報が多すぎる。整理しきれない。

 ただでさえ、頭がボーッとしているのに。


「一個ずつ、……いい?まず、わたしは生きている。あってる?」

『然リ』


「で、……仮死状態になっているから、ここの空間に来たと」

『ソレハ――違ウ。私ガ呼ンダノダ。主ガ、イツマデモ……下ラヌコトニ油ヲ売ッテイルカラ』


 下らぬこと。

 依頼のことだよね。

 あれ、下らなくないよ、って言って聞かせた気がするんだけど……。


「なるほど。……つまり、本来ならわたしが安全になるまで眠っているなりなんなりしているけど、……今回みたいに呼び出しを食らうこともあると」

『然リ』


「じゃあ、次。……こうして喋れるようになったから、言いたいこと……言う。――事ある毎に、乗っ取られるのは、……なに」


 これが解決できるのなら、わたしはまた一つレベルが上がる。

 キツネもきっと、安心するはずだ。


 今度は、長い間が空いた。


『……細カイコトハ、私ニモワカラヌ。……ガ、ソレハ"マダ会得デキナイ力"ダト予想』

「まだ会得できない力……」

『私ハ……拒ンデモ、スデニ主ハ強制的ニ力を使ウコトガデキル』

「そんなこと、しない。嫌なら、言って」

『嫌デハナイ……嘗テアッタハズノナニカヲ、呼ビオコシテクレル。故ニ、嫌デハナイ』


 うん。うん。……よくわかんない。

 でも、憑依についてはだいたいわかった。

 つまり、「俺を使いたいなら俺に勝て!」ということなのだろう。


「わたし、あなたに勝てる気がしないんだけど」

『否、勝テル。ソレニ、言葉デ説得サレタ悪モ存在スル。……カノ、氷ノ王子ガソノ好例』


 要は、使う許可がもらえれば、なんでもいいという事だろうか。

 ん?

 氷の王子。

 それって……。


「スケイプ王子のこと、知ってるの?」

『……近頃、繋ガッタ。毎日主ヘノ悲恋ヲ嘆イテイル。……近イウチニ、見ニイクトイイ』

「えぇ……。悲恋?こい?なんで」

『……亡キ姫ニ重ネ、葛藤ヲシテイルトイウ。……我ニモ、ワカラヌ』

「う、うん、そうなんだね」


 亡き姫。

 たしかにあの王子、姫がどうのとか言っていたっけ。

 ……わたし、別に姫と天秤にかけられるほどの人物じゃないんだけど。


「それで、憑依されないようにするには?されたらどうするの」


『サレナイニハ、声ヲ聞ク他ナイ……ガ、憑依ヲウケタノナラ、他人ガ引ッ張リモドス。……カノ娘ノシタヨウニ。……モシクハ、談話。ソノ悪ノ言葉ヲ、聞イテヤル……タダ、ソノ一言ガアルダケデ……救ワレル者モイル……ハズ』


 そして、巨人(ガロミヤ)は続けた。

 頭を下げている。


『――主ヨ。ドウカコノ際、私ノ言葉ヲ受ケトメテ……クレマイカ』


 わたしは、ゆっくりと巨人に寄った。

 それからそのごつごつした額に触れた。


「……いいよ」


 わたしに、今はキツネがいる。

 温もりも、しっかりと感じる。

 今までの、生きるとはちがう。

 生きてる、そんな感覚がある。


 ――でも、この中に住んでいる沢山の悪たちには、あるのかな。


 温もりは、感じてきたのかな。

 悪なのは、その通りだと思う。

 けれども、放置でいいのかな。

 寂しいを、そのまま無視して。


 ――いいんだよ、わたしとは関係ない。

 と、かつてのわたしが囁く。


 ――ダメ。

 と、今のわたしが破る。


「……えぇと」


 キツネからもらったもの。

 大きな、贈り物。


 今度は――わたしが贈る番なのかもしれない。



「ガロミヤ。――お話……聞かせて」



読んでくれてぇありがとぅーね


次回更新は6月2日(日)だぁよぉ。

お楽しみにぃ。


……あ、ちなみにシリアスはこれで終わりです。

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