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F:芽吹く命の歩き道

 白花と付き合えた。

 言葉にすれば、これ程までに短いものだ。


 次の日、届はいつものように一人の時間を過ごしていた。

 昨晩は、白花との距離感は近くなったものの、笑みを浮かべて食事を共にし、ソファに座って他愛もない話をしたくらいだ。


 普通であれば、落ちつかない気持ちでいるべきだろうが、届は現状を受け入れきっている。

 ただ普段よりも、白花が来ないかな、と首を長くしかけていた。


(……白花の笑み、好きだな)


 そう思った自分に、鼻で笑った時――久しぶりに玄関のチャイムが鳴り響く。

 チャイムを鳴らすのは、知っている範囲では一人しかいないだろう。


 チャイムを鳴らす必要が無いであろう存在に、届は首をかしげつつも、玄関の方に向かう。

 玄関に向かっている際、やっと会える、といった感情が出ていたことに本人は気付かなかった。


 玄関のドアを開ければ、昨日から付き合い始めた彼女――白花の姿が視界に映る。


「白花、おはよう」

「届くん、おはようございます」


 挨拶をほどほどにしつつ、届は白花の服装を瞳に映す。

 白花は白色のワンピースに、桃色のカーディガンを羽織っている。また、首元には以前白花にあげた、蝶のネックレスが存在を主張していた。


 髪は艶のあるなめらかなストレートヘアーであるものの、サイドを三つ編みにして肩から流している。


 昼前に来ているため、お出かけしようとしていたのであれば、身だしなみを整えていても不思議ではないだろう。

 その時、届は白花の頬がうっすらと赤みを帯びていることに気がついた。


「……どうしたんだ?」

「え、あ……一緒にお散歩したいな、って思って」


 白花が恥ずかしそうに言うため、届は思わず息を呑み込んだ。

 また、お散歩をしたいと誘われ、動揺を隠せないでいる。


「俺なんかでいいのか?」

「付き合っているのですし、おかしいことでは無いですから」

「……準備する」

「ふふ、手伝ってあげますね」


 そう言って、届は白花と共に一度家の中へと入った。



 数十分後、準備が終わり、届は白花と手を繋ぎながら外に出ている。

 届の髪は白花の手により綺麗に整えられ、服は清潔感のある爽やかな感じになっていた。


 白花の隣を歩いているのもあってか、届は心からの安心を感じている。


 お互いにゆっくりとしたペースで歩いていれば、丘上の桜並木の道を辿っていた。

 白花曰く『桜を一緒に見てみたいです』とのことだったので、お眼鏡に叶ったのだろうか。


 白花の顔を横目で覗けば、隣には桜よりも綺麗な、美しくも可愛らしい花が咲いていた。


「そう言えば、付き合ったのに、あまり実感が無いですよね?」

「普段から……付き合っているようなもんだったんだろ」


 日に照らされる中、届は宙に舞う桜の花びらを手にする。


「あの……届くんは、数日前から私が手紙を渡してこなかったこと、怒っていますか?」


 ぽつりぽつりと呟くような白花に、届は笑みを返す。


「怒ってない。どうせ、白花には何か考えがあって、止めていただけだろ?」

「そう、ですけど」

「なら、渡したいときに渡せばいいさ。俺はお前を、白花を幸せにしたいからな」

「うう、軽々しく言わないでくださいよ。……でも、嬉しいです」


 太陽よりも眩しい笑みに、届は目を逸らしたかった。それでも、目を逸らさずに見られるのは、白花という存在を見たいからだろう。


 お互いにただゆっくりと、桜並木を静かに歩いていく。


 ――小さな手を離さないように、二度と失わないように、希望を手にして。


 数分ほど花を見ながら歩いて行けば、空を見上げて、届は足を止める。

 白花も届の速度に気づいていたのか、同じ瞬間に足を止めた。


「『大切な人と巡り合えた時、いつしか望む場所となる』って言葉、今なら分かる気がする」


 ふと小さく呟けば「いい言葉ですね」と白花から柔らかな声が聞こえてきた。


 大切な人……白花とはこの先、切っても切れない、そんな未来を届は望んでいる。望むよりも、届けたいが正しいだろう。


 白花とは本当の家族となり、親になるかも知れないのだから。

 白花を大事にしていきたい、とあの日の恩人の言葉と共に、届は愛を誓ったのだから。


 両親に白花と付き合った、という連絡は入れてあり『自分の進むべき道が分かったのなら、悔いの無いように生きろ』と鼓舞を入れられたほどだ。


 由美子や父親は、白花と付き合うことや結婚することに反対はないらしく、未来への安心があるらしい。


 また、気づかぬうちに声が明るくなっていたようで、付き合ったのは本当と確信を持ったようだ。


 届はそのおかげで、いつかの休みの日に白花に挨拶しに行く、と予め父親から予約を入れられている。

 未来に浸りかけていれば、体を温かな感触が包み込む。


「おわ、と。甘えんぼめ」

「私の届くんですから」

「ああ、俺は白花以外眼中にないから安心しろ」

「届くんが私の初恋の人で……よかった」


 正面から急に抱きしめられ、届は体勢を崩しそうになったものの、白花を支えるようにして安定させる。

 白花は届の言葉が嬉しかったのか、ぎゅっと顔を胸元に当ててきていた。


 初恋の人、という言葉にむず痒さがあるものの、届は素直に受け入れておく。


(こいつ、付き合う前よりも柔らかくなったな)


 届は花びらを持った手を上にあげ、風に届ける。


「白花、これからもよろしくな」

「届くん、こちらこそよろしくおねがいします」

この度は『申し子と忌み子の存在証明』を最後までお読みいただき、誠にありがとうございました!

存在証明までを描く、という当初の目的通り、ここまでやり通すことが出来ました。

この物語が良かったよって方は、ブクマや評価、感想やレビューなどをしていただけると嬉しい限りです。

今後も夢に向かって頑張ってやっていきますので、応援していただけると幸いです。

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