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49:未来を見据えて届けたい

『こんばんは。時田君から、望月君がきよりんに関して悩んでいる、って聞いたから来ちゃいました』


 普段は男二人だけしか話さない通話の輪に、一つの綺麗な声が響き渡る。

 紡希が彼女――叶夢を通話に誘えるのは意外に思えるが、問題はそこではない。また、紡希が叶夢といつ連絡先を交換したのか、と考えるのは野暮だろう。


 紡希の人を繋ぐ力を眩しく思える反面、届は呆れたような表情を消せなかった。


「大澤さん、こんばんは。あのさ、紡希……何で大澤さんを? 嫌、とかそういう訳では無いんだけどさ」

『届、言っただろ? 頼れる逸材が居る、って』

『まあ、きよりんの事となれば断る理由がないよね』


 そう言って笑みを浮かべていそうな叶夢は、白花の事を人知れず心配しているのだろう。それは、紡希が届を心配してくれているように。


 叶夢に対して「ありがとう」と言えば、きよりんとは友達だからね、と迷いなく言い切っていた。


 申し子である白花を過去から知っている友達、という存在である叶夢だからこそ、白花に悩むこちらの相談に駆けつけてくれたのかもしれない。

 そう思った届がふと息をこぼせば、スマホに小さな音が鳴る。


 慌てて確認して見れば、叶夢が友達申請を飛ばしてきた音だった。

 さらっと縁を繋げようと出来る叶夢に苦笑しつつ、静かに承諾しておく。


 届はスマホ越しで聞こえない程度に息を整え、本題を口にする。


「単刀直入に聞く、あいつが好みそうな物ってなんだ?」

『あいつねー……というか、結構一緒に居そうなのにわからないんだ?』

「どういうことだ?」

『俺の逸材選びは間違ってなかったな』


 紡希は察したような物言いをしているが、理解できない届は頭に不思議マークが浮かびそうになっていた。

 白花と一緒に居る時間があるとしても、お互いの事を明かしているわけでもないため、知らない事の方が多いくらいだ。


 悩み声が漏れそうになった時『はあ』と呆れ混じりのため息が聞こえてくる。


『逆に聞くけどね、望月君は白花から何をもらったら嬉しい?』


 届の中では、白花から貰えるものなら何でも嬉しく、静かに喜んで使っている程だ。

 以前貰った手作りクッションやマフラーは、今でもソファに置いたり、外に出る時は必ず着用したりするくらいに。


 目を閉じて振り返れば、思い出が後を追うかのように溢れてくるようだ。

 この質問を何故、叶夢がしてきているのかは謎だが、本来であれば自分で答えに気づかなければいけないのだろう。


 溢れ出すような答えに触れ、白花を理解したいと思えてしまう。


「……あいつから貰える物なら、何だって嬉しい」

『お、届が嬉しがるって珍しいな……成長を実感する俺、偉いな』

『はいはい、偉いですねー。望月君、私が言いたい事は分かったんじゃないのかな?』

「あいつにあげるものは、俺が選んだ方が良い、ってことだよな」

『うん、あってるよ。それにね、後悔したくなければ、自分で選んだ方が良いよ。誰かに言われても、最後に選んだのは自分なんだから』


 叶夢の言葉に、思わず胸を打たれた気がした。

 誰かに以前は相談していなかった、というよりも、自分で決めた道を行くと決めていたからだろう。

 それでも今回だけは、選ぶのを間違えて嫌われたくない、と思って届は現実から目を背けていた。


 好むか、拒むか、本来であれば心配なかったはずだ。

 彼女――白花なら、届からのプレゼントを拒まない、と心では思えていたのだから。

 届は白花から目を背けていた自分を情けなく思い、気づけばスマホを持っていた手に力を籠め「っくそ」と声を漏らしていた。


『……それが一度きりになるか、いつまで続くかは誰にもわからないんだから』


 未来を見据えたような真剣な叶夢の言葉に、届は涙を流したかった。

 初めて好きになる、という思いを実感できるようになってから、手放したくないと意識していたからだろう。


 プレゼントをあげて一度きりの終わりにどうしてもしたくない、と届は思っている。

 今後も続けたい、一緒にいたい、あいつの笑顔を見たい、と気持ちが溢れ出していたのだから。


 自分で決めるためにも、届は手を顔に当てて深く考えを巡らせた。

 あげて喜ぶ彼女の笑顔を見るために、手遅れにならないように。


 深く悩みすぎたのか『おーい、届?』と紡希に呼ばれて届はふと我に返った。


「あ、すまない……一人で悩んでた」

『届、一人で悩みすぎるなよ。選ぶのはお前だけど、俺らを信用して頼ってくれよ』

「信用……あの、大澤さん」

『どうしたの?』

「学校の地域でもいいんだけどさ、おすすめのアクセサリーショップを教えてくれないか」

『それなら良い場所があるよ!』


 叶夢が教えてくれたアクセサリーショップは、学校からそう離れていない場所に位置しているらしく、最寄りで行くならそこが良いらしい。


 今までなら白花が受け取りやすい物にしていただろう。しかし、今回の気持ちの固め方は、いずれ届く未来に向けての行動となる。


『なあなあ、届、俺も一緒に行ってもいいか?』

『それなら叶夢も一緒に行ってあげる。道案内も出来るし』

「……二人共、ありがとう」

『届が感謝何て胡散臭いな』

『感謝よりも、きよりんに渡してからの良い報告が聞ければ満足だから』


 二人と話せたからこそ、今を打破する策が思いつき、行動に移すことが出来ている。

 届は、静かに二人に感謝をし、白花が喜びそうな物を想像していた。


 付き合っていないとしても、白花の笑顔を見たいのは限りなく白色だ。


『届が選ぶ時は邪魔しないから、安心してくれよな!』

「別にそこは心配してない」


 紡希が無駄に茶化してきているが、届は苦笑して誤魔化しておく。

 多分、こちらが選んでいる時に、紡希も彼女に対してのプレゼントを選ぶと思われるからだ。


 届が紡希と話している時、叶夢は静かに言葉をこぼした。


『忌み子って言葉だけで毛嫌いするのは、間違っているよね……初恋の人、きよりんは奥手な子だねー』


 囁くような叶夢の呟きに、話していた届と紡希はついぞ気づかなかった。

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