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46:申し子のチョコを渡す予定

「そういや、お前はバレンタイン誰かにチョコを渡すのか?」

「唐突ですね。いきなりどうされました?」


 夜ご飯の準備がある程度終わり、待っている時間でソファに座ったところ、届は疑問を問いかけた。

 真正面から聞いたのもあってか、白花は不思議そうに首をかしげている。


 白花のブラウン色の瞳が揺れたところで、届は「ああ」と息を吸うのを思い出したような声を鳴らした。


「あれだ、紡希とバレンタインの話をしたから気になったんだ」

「そういうことですか。少しは前置きを覚えた方が良いですよ?」

「以後気をつける」


 白花が軽く微笑んだのを見るに、内心で素直、とでも思ったのだろう。

 届は今後の自分の役に立つと思った知識は取り入れていくタイプであり、素直というよりは、自己統制能力が高いだけだ。


 白花が実際に何を考えているのかが理解できず、それでいて抜けた一面があり、予想外の行動を取るのが怖いところではある。しかし、それが彼女の良いところ、と思えるようになっているのは白花の優しさに毒されているからだろう。


「チョコを渡す人ですか……今のところ、友チョコを仲のいい女子数名に渡すくらいですかね」

「意外と少ないんだな」

「まあ、叶夢さん以外は高校からの付き合いですし、学年に一つの学科だけと考えれば妥当ですよね」


 白花が淡々と、それでいて凛とした口調の様子から、少数であるのは気にしていないのだろう。

 気にしているのであれば、白花から棘のあるような声と共に鋭い視線が送られてくるため、意外と理解しやすいのだ。


「それでも……唯一、異性の中で一人だけにはちゃんと渡そうと思っていますよ」

「へー、え?」

「ふふ、誰だかは教えませんよ」


 小さな笑みをこぼしながら言う白花は、どこか気持ちの裏側を突っついてくるようだ。

 腑抜けたような声を出したこちらも原因ではあるが、白花本人の口から一人だけにちゃんと渡す、と言われれば仕方ないだろう。


 彼女の事だから異性に渡すことは無い、と思っていたのだから。


 全ての過去を知っているわけではないため、学校の人達限定という面での詮索は出来ないだろう。


 白花からチョコを貰いたい、という願望があるわけではないが、誰にあげるのか気になってしまうのも事実だ。

 そんなことを思っていた届は目をつむって首を振り、ゆっくりと重いような息を吐いた。


 息を吐くこちらを見た白花が不思議そうに首をかしげているが、自身の発言からだとは思っていないのだろう。


「ふん、別に教えなくていいけどな」

「もしかして拗ねているのですか」


 焦ったような表情を白花がしているため「拗ねてない」といつも通りに言えば、息を吐いて胸を撫でていた。


 白花の茶化すような言い方にじれったさがあり、内心で少し拗ねたところはあるが、完全に拗ねた訳では無い。

 届としては、白花が誰にチョコを渡そうが関係ない、という思想に行きついているからだろう。


「……海外の文化が変わって伝授されるって面倒だよな」


 届は天井を見上げ、気づけば口から本音が零れ落ちていた。


 本来であれば、あるべき文化の形が日本人の性質に合うようにして姿形を変えた、と捉えるべきなのだろう。

 バレンタインの意味を軽く調べたことはあるが、二月十四日に起きた一人の犠牲によって生まれたのが『恋人の日』らしい。


(恋人か……今の俺には縁のない話だな……)


 届が一人で自滅して悲しくなっていれば、白花は呆れたように肩を落としていた。


「その文化が良いように……ましてや、普段感謝を言えない人とかに思いを伝えられるのなら、それでいいじゃないですか。物は捉えようですよ」

「いやまあ、そうだけどさ」

「否定的よりも、肯定的であれば何かと楽ですから」


 白花の言っている通り、前向きに物事をとらえた方が良いのだろう。

 届がうなずいて感心すれば、白花は小さく微笑みを見せてくる。

 その笑みは未来の彼氏、もしくはチョコを渡す相手に見せろ、と白花に言っても意味が無いだろう。


 柔らかくチョコのように甘そうな笑みは、見ていて心臓に来るものがあるのもまた事実だ。


 届は自分らしくない自分に呆れ、目をつぶって首を軽く振り、ゆっくりと目を開けた。

 その時、目の前に見える明るいブラウン色の瞳に、変わりつつある自分の姿が小さな笑みを携え反射している。


 自身の気づかないうちに、白花の前で頬を緩ませていたらしい。


 白花は気付いてないフリをしてか「あ」と小さく声を鳴らし、こちらを真剣な表情で見てきている。


「そう言えば、望月君はどのようなチョコが好きですか?」


 唐突な好みの質問に、届は思わず息を呑んだ。

 白花の先ほどの発言からして、チョコの好みを聞かれるとは予想できないだろう。


「……え、あ、別に望月君にあげるとかでは無くてですね……あの、その、男の方はどのようなチョコを好むのかなと思っただけですから」


 白花は慌てたように手を振りながら、白い頬を赤らめていた。

 届は「なるほどな」と言って、何が好きだったかを思い出してみた。


 チョコを普段から食べているわけではないが、格段嫌いでもないため、どうしても悩んでしまう。

 頬を赤めながらじっと見てくる白花の視線を痛く感じるが、仕方ないだろう。


「チョコは基本何でも大丈夫だけど、ホワイト系は好きかな」

「意外ですね」

「まあ、話し相手は居なくとも、珍しいものはとりあえず買ってネタにするタイプだから必然とな」

「自虐しているのに、妙に中和しているのは納得いきませんよ」


 白花には、納得してくれ、とだけしか言えなかった。

 期間限定や季節限定を買い漁っているわけではないが、買う時に偶然ホワイトチョコ率が高く、予想よりも偏っていたのだ。


 自分を肯定してくれる白花の前で、自虐するような話をしたのは申し訳ない、と思うが今回の原因は明らかに白花だろう。


「まあ、あれだ……俺はホワイトチョコが好き、それだけだ」

「白色ですか……良い話を聞きました、ありがとうございます」


 白花は感謝をしているが目を丸くしており、届の好みが想像と違ったのだろうか。


 気まずさがある中、届はふとあることを思い出し、ソファから立ち上がった。


「そういや、今日の手紙まだだったよな」

「そうですね」

「自室に取ってくる」

「なら、私は夜ご飯の盛り付けを先にしておきますね」


 白花の優しさに感謝を告げ、届は自室へと歩を進めた。

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