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40:申し子は忌み子に弱い?

 届達の住んでいる地域は田舎だが、近くにマンションやビルなどが集結している市があり、お出かけとしてそこの大型ショッピングモールに足を運んでいた。


 車内では白花の隣だったこともあり、届は気まずくもあったが、開けた場所に出て今は気持ちが楽になっている。


 白花が春に備えて洋服を新着したいとの事で、現在は白花と紅葉が服を選んでいる光景を届は見ていた。


 選んでいる二人は楽しそうで、見ているこちらも微笑ましいものだ。


「白花があれだけ笑顔で居るのは久しぶりに見たよ」


 ふと気づけば、蒼真が横に立っていた。

 また、蒼真の言っている事が理解できず、言葉が詰まってしまう。

 そんな届の様子に気づいたのか、蒼真は柔らかな表情を浮かべている。


「笑顔で服を選んでいる二人を見て、望月さんはどう思う?」

「……どう答えればいいのかはわかりませんが、温かい家族だな、と」

「そうだね」


 微笑ましくも温かな声でうなずく蒼真には、気づけば安心感を覚えさせられる。

 多分、白花と同じ感じで距離を詰めてくるので、拒否する反応が出ないのだろう。


 届としては、白花が家族と居る際はなぜ申し子らしさを感じてしまうのか、というのが疑問だった。大晦日前やあの夜に通話で聞いた声は、暗く冷えていたのだから。


 そう思っていたせいか、届は気付かぬうちに浮かない表情を表面に出していた。


「……娘の過去――本人から聞いたことはあるかい?」


 淡々としているのに芯のある声は、ふと届の気持ちをつついてくる。


 蒼真の瞳は一直線に二人を見ているが、かけてきた声はこちらに対してだと思えてしまう。

 白花とは過去を話さなければ、今を、未来に向かう話をするのが主だろう。過去を聞いているとしても、叶夢と中学一年まで一緒だったという事くらいだ。

 白花から過去を聞いたことが無かったため、蒼真の口から聞かれるのは意外に思えた。


「記憶の知る限りでは、聞いたこと無いです」

「……娘はね、過去に親しみを込められて『申し子』と呼ばれていたよ。私の口から細かくは言えないが、ある日を境に怯えていたよ。分かりやすく言うのなら、君が『忌み子』と呼ばれても折れなかった時期かな」


 由美子がいきなり家に来た後に父親から聞いたが、星元家とは今も関わりがある、と言っていたため、届が忌み子と呼ばれていた時期を知っているのだろう。


 白花が今も『申し子』と呼ばれているのを紅葉と蒼真が知っているのかは不明だが、届としては興味深い話だった。


 一つだけ気がかりがあるとすれば――怯えていた、くらいだろう。


 届は違和感を覚えながらも、蒼真を見上げた。


「それ、俺に話してよかったのでしょうか?」

「……君だから、かな」

「そうですか」


 素っ気なく返してしまったが、表情一つ崩さない蒼真に対しては、正解に近いだろう。

 これ以上詮索する気もなければ、白花本人の口から真実を聞きたい、と届は思ったのだから。

 本人が話そうとしない限り、この話は闇に葬り去られるが。


 今はただ、白花が嬉しそうな笑みで服を選んでいる、それだけが届としては嬉しかった。


「そこのお二人さん、そんなところで見てないでこっちに来なさい」

「望月さんも行こうか」

「え、はい」


 蒼真の後を追うようにして二人の方に近づけば、白花は一つのワンピースを手にしていた。

 レースのあしらわれた薄桃色のワンピースを手にしており、白花がじっとこちらを見てくる。


「似合うでしょうか?」

「白花に似合っているね」

「届君はどうかしら?」


 白花の質問にすぐさま返せる蒼真は、女性の気持ちを理解しているのだろう。

 白花から恥ずかしそうにも向けられる視線に、届はどうしても視線を逸らしたくなってしまう。


 ワンピースが白花に似合わない事態、そもそも無いに近しい。

 届としては、どの言葉をかければいいのか、それが分からないのだ。

 蒼真はこちらの気持ちを察してか「君の思う気持ちを言葉にすればいいよ」と耳打ちをしてきたため、少し楽に思えた。


「……お前が着たいと思ったものなら、何でも似合うと俺は思う」

「そ、そうじゃなくて、ですね……」


 白花が頬を薄っすらと赤くしたのもあり、蒼真と紅葉からは微笑ましいような視線が飛んできている。

 ふと気づけば、白花は小さく手招きをしていた。


 不思議に思いつつ白花の方に耳を近づければ、小さく囁いてくる。


「……望月君から見た感想を、聞きたいです」


 その言葉に、気持ちが揺さぶられるようだった。

 おとなしかった鼓動は速まり、言葉として伝えるべきだ、と言ってきているようだ。


 彼女が何を思って聞いてきているのかは理解できていないが、気持ちを言葉にするのは間違っていないだろう。


「柔らかな桃色はお前の雰囲気にもあってるし、ワンピースは清楚ながらも包む温かさがあるようで……お前に似合うと思う」

「……これにします」

「あら、白花は届君に弱いのかしら?」

「お、お母様、そうじゃないから」


 紅葉が白花を茶化せば蒼真が止める、というのがこの家族の雰囲気を生み出しているのだろうか。

 白花は似合うと言われたのが嬉しかったのか、輝くような笑みを浮かべている。それは、周囲の視線すらも集めていた。


 その笑みは付き合う彼氏に向けてくれ、と言いたくなってしまう。


 苦笑して見ていれば、白花は急に腕を引いてきた。


「あの、良かったら望月君の服も決めたいです。今だって、その服装似合っていますし……レパートリーを増やしておいて損はないと思いますよ」

「え、いや、俺は――」

「望月さん、お金の心配なら要らないよ。二人の笑顔が私達は嬉しいからね」

「そうそう! 二人で納得いくものを選んできなさい」


 蒼真と紅葉に後押しされたのもあり、白花が「望月君に似合いそうな服」と言いながら腕を引いてくる。


(てか、なんで俺はこいつに腕を握られてるんだ?)


 白花はにこやかな表情をしており、動揺気味のこちらを微笑ましく思っていそうだ。

 また、真剣に服を選ぼうとしてくれている白花が、本当に何を思っているのか不思議でならなかった。


「仲がよさそうで何よりだ」

「そうね」


 この場から逃げたい、と思っても白花に腕を引かれているため、逃げるのは出来ないだろう。

 白花から、あれやこれやと着せ替え人形にされ、届は服を決めるのだった。

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