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38:申し子の両親の来訪

 次の日の昼過ぎ、家の中にインターホンが鳴り響いた。

 届は誰が来たのか分かっているので、戸惑いもなく玄関のドアを開ける。


 開けて一番初めに視界に映るのは、白花だ。そして後ろには、白花と同じような雰囲気をしている人物が二人立っていた。

 届は思わず、白花の両親に息を呑んだ。


「望月さん、こんにちは。私のお母様とお父様です」

「こんにちは。……玄関ですと冷えますし、良ければお上がりください」

「初めまして、望月さんだね。ここは君の自宅だ、そんなに謙遜せず、力を抜いてもらって構わないからね」

「届君、久しぶりね。急にごめんなさい」


 届は二人に警戒する様子を見せないで、自然な振る舞いでリビングの方に案内した。

 警戒していないというよりも、警戒する必要が無い、の方が正しいだろう。


 また、二人がこちらの事を知っているのは、白花が話したからだと理解はしている。


 リビングに通せば、二人はしっかりとした立ち振る舞いでこちらを見てきていた。

 届の隣に立っている白花が凛とした立ち振る舞いなのは、親を見習ってきたからだろう。


「自己紹介が遅れたわ。私は白花の母、星元紅葉(くれは)。幼い頃に一回会ったことがあるのだけど、覚えているかしら?」

「お母様、望月さんが困惑しちゃうから……」


 白花の制止が入り、紅葉は「あらあら」と楽しそうな笑みを浮かべていた。


 白花の母と名乗った紅葉は、爽やかながらも清楚な服装に、華奢でふくよかな起伏を持った体型をしており、女性からすれば憧れの形とも言えるだろう。

 そして、艶のある黒い髪のポニーテルに、美しい艶肌が視界に映りこんでくる。


 柔らかく温かで芯のある声を持つ紅葉に、届は言葉が出なかった。

 見た目で分かるのは、白花よりも明るい雰囲気を醸し出しており、白花の肌や髪の遺伝は母親譲りということだろう。


 呆気に取られていれば、白花の父親がにこやかな表情をしていた。

 多分、家族揃って柔らかな雰囲気を持っているのだろう。


「お会い出来て光栄だよ。白花の父、星元蒼真(そうま)と申します。娘の白花から望月さんの話を伺っているよ。いつもお世話になっています」

「初めまして。……望月届です。いえ、俺の方が娘さんにはすごくお世話になっています」


 届が軽く会釈すれば、蒼真も凛とした立ち振る舞いから会釈をする。

 顔を上げ、届は蒼真の顔を見上げた。


 白花の父親――蒼真は、凛とした雰囲気で届よりも背丈が高く、年齢にそぐわないような若々しさを持っていた。

 明るいブラウン色の瞳をしており、白花と瓜二つの瞳と言える。

 凛とした雰囲気ながらも、穏やかで温かな声を持っているせいか、届は安心を感じていた。


 蒼真はこちらを見て「なるほど」と興味深そうな様子を見せている。


 届からすれば意味が分からず、首を小さく傾げるしかなかった。


「……お茶入れますね」


 そう言って動こうとした時「私が入れますから」と白花が率先して動いていた。

 届は、押入れに収納していた二人分の椅子を取り出し、白花の両親が座れるように並べる。

 椅子が多めに用意されているのは、両親に感謝しかないだろう。


 届と白花の様子をまじまじと見ていた蒼真は、笑みを浮かべてうなずいている。


「うん、仲がよさそうで何よりだ」


 分担作業をさも当たり前のようにこなしたのもあり、仲が良いと思われたのだろう。

 仲が良いかはさておいても、白花と物事の分担効率がよくなっているのは事実だ。

 二人から微笑ましいような視線を送られる中、届は相向かいになるよう椅子に腰をかけた。


 数分後、白花が四人分のお茶を用意し終わり、テーブルに静かに置いていく。


「すまないな」

「いえ、私が勝手にやった事ですから」

「白花ったら、素直じゃない子ね」

「紅葉さん、今はそれくらいにね」


 蒼真の言葉で宥められている紅葉を見るに、白花の両親は仲睦まじいと見て取れる。

 白花が届の隣に座りつつ、呆れたようにため息をこぼすあたり、目の前でこの光景をされると思っていなかったのだろう。


「お前の両親、仲が良いな」

「ええ、娘として誇らしいまでに、仲が良いですよ」


 小声で話していても、白花の瞳は輝いていた。

 また、白花は何故かぎこちないように見えて、申し子らしさがにじみ出ている。

 家族との関係、というよりも、白花自身の問題に近いのかも知れない。


 届がどうこう言える立場では無いので、今はそっとしておくことにした。


「ところで、娘の白花とはどういった関係か、君の口から聞いてもいいかな?」

「星元さんとは、一緒にご飯を食べて、手紙を渡し合ってやり取りしている関係です」

「白花が言っていた通りね」


 にこやかな表情で見てくる紅葉と蒼真に、届はいたたまれなくなりそうだ。

 また、隣で白花が頬を赤くし始めているので、他にも何か話していそうで怖いものだろう。


「すごく仲良く見えるが、付き合っていないとはね。興味が無い感じかな?」

「興味が無いというよりも――」

「お父様、望月さんが困っているからやめてあげて……この人は、本当に良い人だから」

「そうか、すまない。娘の恋愛云々に私達は首を突っ込む気はないから、好きにしたらいい」

「ふふ、蒼真さんは白花の事になると心配性だから、許してちょうだい」

「まさか、君に言われるとはね」


 そんな二人のやり取りを見つつ、届がお茶を口にして置いたとき、手に違和感を覚えた。

 ふとテーブルの下におろしていた手の先を見てみれば、白花がもじもじとした様子で、届の人差し指を優しく握ってきていた。


 両親を目の前にした白花は、普段とどこか違う様子で、先ほどから恥ずかしそうな表情が抜けていない。

 両親に会ってほしいと言ってきたのは白花だが、心の中では震えていたのだろう。

 届は、白花から指を握られているのを知らないふりをして、小さな手を上から包み込んだ。


 白花は焦ったようにこちらを見てきたが、頬の赤みはうっすらと引いてきている。

 こんな俺で落ちつくなよ、と届は言いたくなったが、心の中だけで留めておく。それは、今の白花に、申し子らしさを感じなくなったからだろう。


 ふと気づけば、蒼真がこちらを真剣な目で見てきていた。


「三が日の最終日である明日だが、望月さんはどこかお出かけする予定はあるのかい?」

「明日、ですか……? 特にないですね」

「そうなのね! 届君さえよければ、この四人で一緒にお買い物に行かないかしら?」


 突然の誘いに、脳内は混乱を極めた。

 三が日以前に、届は完全インドア派であり、人混みに自ら足を運ぼうとは考えない程だ。


 また、届は家族関係を苦手としており、何を考えているのか分からない白花の両親を疑問に思ってしまう。


(俺、他人だよな?)


 誘いはありがたく思えるが、家族団欒の場であるところに、赤の他人である自分が混ざるのは間違いではないのだろうか。


 届は首を軽く傾げて悩んだ末、白花には悪いが断りを入れようとした――その時だった。

 服の袖を引っ張られ、ふと視線を送れば、白花が恥ずかしそうにしてこちらを見てきている。


「あの……望月さんと行きたいって、私が言いました」

「……え? お前が?」

「……はい」


 上目遣いで見てくる白花に、届は思わず息を呑んだ。

 そして、寂しそうに眉を下げ、小さく息を吐く白花は見ていて絶えないものだった。


「白花から話を聞いたとき、一番乗り気だったのは蒼真さんだからね」

「家族の時間が大切なのもそうだが、娘と仲良くしている子を知ってみたいからね。それに、可愛い娘とあれば断る理由はないよ」

「望月さん、駄目で……しょうか?」


 紅葉から「ここで引き下がらないわよね」という視線が飛んできて、蒼真からは「娘の頼みを聞いてほしい」といった視線が飛んできている。

 何気に逃げ場を失いつつある届は、苦笑して息を吐いた。


 届としても、白花の誘いは断りづらい半面、他の悩みが生まれてしまう。

 冬休み中で心配ないと思っていた、申し子と忌み子の関係が広まる、という事態が休み明けに起こりかねないことだ。


 紡希にすらバレていない申し子との関係が広まるとなれば、ややこしくなる事この上ないだろう。


「……星元さんのご両親さえ良ければいいのですが、その、一つだけ悩みが」

「私達は断る気などないよ。それよりも、どんな悩みだい?」

「学校の人達にバレたくないという悩みが……」

「紅葉さん、お願いできるかい?」


 蒼真の合図と共に紅葉は椅子から立ち上がり、届の目の前にやってくる。

 そして、手慣れたように届の目を隠していた前髪を上げ、じっと見てきていた。

 隣で見ていた白花からは、何故か羨ましそうな視線が飛んできている。


「うん、届君なら髪型を整えるだけで雰囲気は変わるわ。それに、肌艶や顔立ちも白花から聞いていた通りみたいだしね」

「……お前、どこまで話したんだよ」

「うう」


 白花の抜けたような一面は、やはり注意しておくべきなのだろう。

 紅葉は見終わって満足したのか、前髪から手を離し、元の席に着いていた。


「そういうことだが、望月さんはどうしたい?」

「こいつがそれで満足するなら、行ってもいいかなと」

「ふふ、じゃあ、決まりね! 良かったわね、白花」


 ふと気づけば、白花は恥ずかしそうにして服袖を引っ張ってきていた。

 そして、届の耳元に口を近づける。


「望月さん、ありがとうございます」


 白花から小さく囁かれた言葉に、心臓が鼓動を速めるように打つ。

 笑みを絶やさない白花の家族は、本当に素敵なのだろう。


 蒼真から「明日の朝からでもいいかな」となって、朝から準備をして行くことが決まった。

 届は高鳴る胸を抑えつつも、手を今でも静かに握ってくる白花にむず痒さが残るのだった。

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