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32:申し子との大掃除

 クリスマスが過ぎ去り、行き交う人々は年末に向けて動きを見せている。

 白花に鍵を渡して以降、毎日のように昼から来たりするため、届は年末までの空いた時間を寂しく過ごすことは無かった。


 時は今、大晦日前の十二月三十日となっている。

 掃除道具の買い出しから帰宅し、お昼ご飯を食べた後、届は大掃除をしようとしていた。


 普段から家の掃除を欠かさずしているが、白花と過ごす時間が増えたのも考えれば、更なる余裕は持ちたいものだろう。


 白花には少しでも安心してほしい、一緒に居る時間を増やしたい――そう今では思い始めている。だからこそ小さな努力を積み重ねて、白花という存在に、手を伸ばそうとしているのかも知れない。


(……リビングに自室、それから――)


 掃除の順序を考えていた時、玄関の鍵が開く音が聞こえてきた。

 昼過ぎに来る、ましてや鍵を持っている相手とすれば、彼女くらいしか居ないだろう。

 玄関の方にあるドアを見ていれば、静かに開き、艶のある黒色ストレートへアーが特徴である少女――白花が姿を見せた。


「こんにちは」

「望月さん、こんにちは……もしかして、お邪魔でした?」

「別に邪魔じゃないし、掃除しようとしてただけだから気にするな」


 白花は届のジャージ姿と手に持った箒を見て「ああ」と納得した様子を見せていた。

 突然の来訪者、というよりかは予定に入れておくのを忘れてしまい、悩むしかないだろう。


 大掃除は日をずらせばいくらでもできるが、白花と話せる時間はいつまで続くかわからないのだから。

 悩んでいた時、白花がじっとこちらを見てきていた。


「大掃除、望月さんさえ良ければ手伝います」

「別に俺は構わないが……その格好だと、色々不味くないか?」


 家に来た白花はワンピースを着ており、掃除をするのに適しているとは言えないだろう。

 掃除を手伝おうとしてくれる気持ちはありがたいが、白花の服が汚れるような真似は届のプライド的にさせたくなかった。


「あ……一旦着替えるために帰って、戻ってきますね」

「悪くないか、それ?」

「私がやりたいって決めたことですから、ご心配には及びません」


 そうじゃない、と声をかけようとしたのも束の間、白花はリビングから姿を消していた。

 白花の行動に苦笑しつつ、掃除道具の使用順を仕分けることにした。



 白花が着替えて戻ってきた後、掃除を開始した。


 普段ワンピースの可愛い姿ばかりを見ていたせいか、白花の服装に軽く動揺してしまう。

 彼女は白色の長袖シャツに、ジーンズを着用している。スタイリッシュな服装さえ似合っており、美少女は着る服を選ばないのだろうか。


 服に着られているような届とは違い、服の着こなしに姿勢の正しさは、申し子と呼ばれる所以の一つとすら思わせてくる。


 また、白花は今着ている服を掃除用として使っているらしく「汚れても問題ありません」と言っていた。


 白花が髪を結び終わったのを見計らってから、届はハンディモップを白花の前に差し出す。


「ほい、これ」

「ありがとうございます。高いところから順でいいですよね?」

「ああ、その為に渡したからな」


 白花は掃除すらも完璧なのか、渡したハンディモップでエアコンの上や、ライトの上などをてきぱき綺麗にしていく。

 元から綺麗にしていたのもあってか、上に積もっていた埃は目につきやすく、着々と埃は姿を消していた。


 数分程はリビングを共に掃除していたが、届は自室の方に移動している。

 白花の姿を見続けているのもそうだが、二手に分かれた方が効率は良いだろう。


 机の掃除をしていた時、ふと最近置いた写真立てを手にした。


「これは大事にしないとな」

「何を見ているのですか?」

「……びっくりさせんなよ」


 人というのは不思議なもので、本当に驚けば体が震えるだけで、先に声が出ないのだから。

 息を吐きながら胸を撫でていれば、白花は届の持っていた写真立てを見て、瞳を丸くしていた。


 彼女が驚くのも無理はないだろう。写真立てに入っている写真は、初めて白花と撮った写真なのだから。

 白花からクリスマスプレゼントをもらう際、現像した写真を一緒に貰った為、届が用意したわけではない。


 多分、写真立てに入れて飾られるとは思っていなかったのだろう。

 付き合っていない同士で撮った写真であろうと、届からしてみれば、己の存在を意味する大事な一ページそのものだ。


「大事にしていたのですね」

「飾ってたの不味かったか?」

「いえ、私も同じ……忘れてください」

「無理」

「忘れてください」

「嫌――しゅんませんした」


 白花が恥ずかしそうに顔を赤らめながらも、モップの持ち手の先で頬をぐりぐりしてくるため、素直に謝っておいた。

 痛いとまではいかないが、やられて嬉しいほどに落ちた記憶はない。


 白花はぐりぐりを止めた後、勉強机に目をやっていた。

 机の上は掃除どころの話では無いと言えるくらい、書き綴られた文字のページが開いたり、本が重なっていたり、と散らかっている。


「机……以前より汚くなっていますね。でも、勉強頑張っているの、偉いです」

「どうも。申し子様にお褒めいただき光栄です」

「……今は見逃しますが、次はありませんよ」

「どうだか」


 白花から呆れたように肩を落とされたが、こちらが悪いわけでは無いだろう。

 ちょっとした仕返しで言ったのは、彼女も理解しているらしい。


 届としては、白花に対して故意で申し子と言う気はない。それは、白花の暗い表情を見ると、身に染みて理解しているからだ。


 白花の表情が曇っていないことを安堵しつつ、届は写真立てを撫でながら定位置に置いた。


「思い出を大切にしたいから、これからも飾らせてもらうからな」

「私が勝手にあげたものですし、個人の範囲内なら自由にしてください」


 白花が何気にくぎを刺してきたが、他人に見せびらかすことは無いため、安心してほしいものだ。


 ドアの方を向いた白花はふわりとした笑みを浮かべつつ、ちらりとこちらを見てくる。

 服装も影響してか、白花がかっこよく見えつつ、あどけない一面が露わになっていた。


 再度白花が前を向いて歩を進めた時、事件は起こった。


「きゃっ」


 白花が驚いたような声を上げ、足を滑らせ後ろに倒れてきたのだ。


(まずい)


 とっさの判断で足を前に踏み出し、彼女の背に腕を回し、膝裏の方にもう片方の腕を回した。

 勢いを殺すようにしつつ受け止めたのが幸いしてか、白花の体をふわりと持ち上げられ、体が床に当たるのを未然に防いだ。


 白花の体は華奢なのもあってか想定しているよりも軽く、食べていないのではないか、と不安になってしまう。


 白花は怖かったのか、震えたように届の服を強く握ってきている。


「大丈夫だから、安心しろ……」

「も、望月さん……ありがとうございます」

「気をつけてくれよ。お前が傷つくのは見たくないからな」

「わ、わかりました」


 白花をゆっくりと下ろせば、何故か頬を赤らめこちらを見ていた。

 届は息を吐き、そっと言葉を口にした。


「掃除の続き、頑張るか。……大丈夫か?」

「は、はい……だいじょうぶです」


 届が掃除の続きを再開すれば、白花は息を整えながら静かに目で追っている。


「……驚いた。というより、気づいてない?」


 白花から小さく呟かれた言葉に、届が気付くことはなかった。

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