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29:申し子との連絡先と写真

 慣れるとまではいかないが、白花がソファに座ったのを見てから、届も横に腰をかけた。

 以前にも変わらず、人一人分の距離は空いている状態だ。


 気持ちが落ちつかない状態で座っていた時、白花が思い出したようにカバンの中を探っていた。

 唐突に動きだすことが多くある為、何かと気になってしまうのだ。


 白花がこちらに振り向いたかと思えば、手には便箋を持っている。

 明るいブラウン色の瞳は、届を映してしっかりと見てきていた。


「手紙、まだ渡していませんでしたね。どうぞ」

「そうだったな。ありがとう」


 交互に渡し合っているこの手紙は、お互いを知れるようで、心の中で嬉しかった。

 ふわりとした笑みを向けながら白花はいつも渡してきているが、白花はどう思っているのだろうか。


 本当の言葉を口に出せないから、お互いに気持ちを文で綴り、存在を悩みとして打ち明けていたりもしている。


(……今度書いて聞いてみるか)


 そう思いながらも、届は軽く便箋を眺めた。


「……どうされました?」

「この手紙、今読んでもいいか?」

「別に構いませんよ。というか、私は普段あなたの前で読んでいますし……今回の内容は目の前で見られると恥ずかしいですが」


 苦笑しながら「やめようか」と聞けば、「別に読んでも構いせんから」と白花は引き下がる様子を見せなかった。


 白花にじっと見られながら、届は綺麗に折りたたまれた便箋を開いていく。


 便箋を開けば、クリスマスイブなのもあってか、トナカイのプリントが美しく印刷されている。

 彼女は季節を楽しむように便箋の絵柄も変えて渡してきている為、気づけば開く楽しみの一つとなっていた。


 便箋に目を通せば、何気ない出来事とイブの日の小ネタが書かれている。

 白花らしくもあり、何気ない出来事を教えてくれるのは嬉しいものだろう。


 ふと気づけば、白花は頬に赤みを帯びさせて、視線を泳がせていた。

 別にこちらも同じように出来事を書いている為、本人の目の前なのもあり、表情は崩さないように気を付けているつもりだ。


 微笑ましいと思っても、本人の前でにやりと微笑むのは間違いだろう。とはいえ、彼女は当然のように読んでから笑みを向けてくるが。


(……これは。なるほどな)


 文章を最後まで読んだつもりでいたが、一番下に小さく可愛い文字が書かれていた。


『言葉で言うのは恥ずかしかったので、ここに小さく記載させていただきました。望月さんさえ良ければ、連絡先を交換したいと思っています。お母様とはさせていただきましたが、望月さんとは交換していませんでしたから』


 読んでいる届ですら、動揺して恥ずかしくなりそうだ。

 白花の小さなわがままみたいな本音に、届はついつい鼻で笑っていた。


 ふと視線を白花の方に向ければ、白花は未だに頬を赤くさせて恥ずかしそうにしている。

 勇気が必要な彼女の行動を無下にしたくない、と思った届は、白花の瞳を真剣に見ていた。

 それは、自分を存在とし認めてもらえた気がしたからだろう。


「あのさ、俺なんかでいいのか?」

「望月さんだから、お願いしたいです……」


 白花の言葉に思わず胸を打たれた届は、そっと息をこぼし、ポケットからスマホを取り出した。

 行動を見ていたらしく、白花は太ももの上に置いていたスマホを手にしている。


「アプリはこれでいいよな?」

「そうですね」


 白花と連絡のアプリを確認し、互いの連絡先を交換した。

 届の廃れたような連絡欄に、白花の柔らかなアイコンが花を添えている。

 多分、金輪際一生ないであろう貴重な経験かもしれない。


 連絡は親か紡希とくらいしかしないため、ほとんどしないに近しい存在だ。

 おそらくだが、彼女は多くの人とやり取りをしているため、届より華やかな画面なのは間違いないだろう。


 白花は連絡先を交換したのが嬉しかったのか、輝かしい笑みを宿している。

 釣り合うはずがないであろう男と交換出来て、彼女は何が嬉しいのだろうか。


 それでも、ちょっとだけ近づけた気がするというこの事実は、届自身も心の中で嬉しかった。


「ありがとうございます」

「俺なんかで喜んでもらえて何よりだよ」

「望月さん、どうして自信を持てないのですか……傍からすれば、やる気が無くて、愛想の悪い人間かも知れません。でも、私はあなたの優しさを見てきたから、こうして連絡先を交換したいと思ったのですよ」

「……すまん。迂闊だった」


 白花の言葉は嬉しく、心にはしっかりと届いている。

 自分に自信は無いままだが、いずれは希望に手を伸ばすつもりだ。


「俺の方からもお願いしていいか?」

「なんでしょうか」

「お前と写真を撮りたい」

「……は?」


 白花は困惑したように首をかしげていた。また、眉をひそめたのを見るに、こちらを警戒しているのだろう。

 白花は数分悩んだ様子を見せた後、真剣に届を見てきていた。


「わかりました。一枚だけですからね」

「え、いいのか?」

「言い出したのはあなたの方ですよね。……それに、見せびらかすとか変なことはしないと思いますし」

「お互い学校での立ち位置を考えても、当たり前だろそんな事」

「ですので、思い出にいいかなと思いました」


 白花があっさりと承諾するとは思わなかったが、ありがたく実行に移させてもらった。

 スマホの角度を調整していれば、白花の方から近づいてきた為、届は一瞬スマホを落としそうになる。


 白花は写真写りなのもあってか、髪を軽く整え、小さな笑みを作っていた。

 異性と取る日が来ると思っていなかったせいか、鼓動は鳴りやむのを知らず緊張させてくる。

 それでも、届は軽く深呼吸をし、思考を安定させた。


「それじゃあ、撮るぞ」

「はい」


 スマホは二人の姿を映し、シャッター音を立てた。



 写真を撮り終わってから、白花が欲しいと言ってきた為、写真を転送していた。

 便利な道具を持てる時代に生まれてきて嬉しい反面、災いを呼ぶ種でもあるのだから皮肉だろう。


 白花との初めてのメッセージに添えられたのが、お互いに笑みを宿して写っている写真、というのはこそばゆさがある。


 白花からは「こんな良い笑顔出来たんですね」と何故か煽られるほどだ。彼女からしてみれば煽りでは無いかもしれないが、言葉はもう少し選んで欲しいものだろう。


「そういやさ、明日はお前が遊べるやつを持ってくるんだったよな」

「ええ。それから、昼からでしたよね。楽しみを一つやった後、望月さんが選んでくれたゲームをやるんでしたよね」

「そうだな。お前が遊びたいってやつが何なのか知らないけど、楽しみにしとく」


 白花は照れてしまったのか、顔を後ろにして背けてしまった。

 彼女が何を持ってこようが、全力で相手をする予定の届からすれば、楽しみで仕方ないものだ。


「……本当に、望月さんでよかった」


 白花が小さく呟いた言葉に、届はついぞ気づかなかった。

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