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25:申し子と過ごす予定

「冬休みの予定ですか?」


 夜ご飯を作っている最中、白花が鍋を混ぜて煮込んでいる時に、届は暇になって予定を聞いていた。

 白花は悩んだ様子を見せつつ、鍋を混ぜる手を止めていない。


「……今年は実家に帰らないから特に無いですね。夜ご飯作りのお手伝いは来られますから」

「神様ありがたや」

「誰が申し子と?」

「言ってないから」


 白花は「分かっていますよ」と言って鍋に視線を向けているが、明らかに目は笑っていなかった。

 申し子と言われるのは、本当に嫌なのだろう。しかも、届限定で。


 届は謎の限定感に顔をひきつらせた。


 白花は実家に帰らないだろう、と叶夢から聞いていたが、いざ聞くと少し驚きを隠せないでいる。

 彼女の事だから、てっきり帰省するとばかり思っていたのだから。


「そうゆう望月さんは、予定がおありで?」

「特にないかな」

「お互い様ですね」


 届は由美子に『白花ちゃんと仲良くすれば』と辛らつだが、どこか温かいようなメッセージを数日前に受け取っていた。


 また予定といっても、紡希と夜にゲームをするくらいだろう。


 冬休みの予定という体で大雑把に聞いたのが原因だが、白花からクリスマスの話が出なかったのは意外だ。


「……話変わるんだけどさ、クリスマスは暇か?」

「クリスマス……イブも同等に暇ですね」


 白花は表情一つ変えず、淡々とした声で返事を返してきた。

 彼女が周りから誘われづらい、というのは以前に聞いていたが、女子会にすら誘われていなかったのだろうか。


 もしくは、届のクラス的に皆で集まって何かをするというのが無いのだろう。

 学科が特殊なのもあり、一人一人に強い個性がある為、何かと初期グループごとに分かれているのだ。


 ふと気づけば、白花は思い出したように「あ」と声を漏らした。


「暇ですが、クリスマスやイブに私を誘おうとしてきた方々は多かったですね」

「へー、そんなにいたのか」

「そんなに私を誘って良いことでもあるのでしょうかね。異質な目で見てきていたので、全てお断りしましたが」

「やっぱり、そうゆうのが分かる感じなのか?」

「視線もそうですが、相手を表面上しか見てない人はそもそも苦手なので」


 白花にあっさりと切り捨てられたであろう男子諸君に、届は心の中で哀れんでおいた。

 白花が届から離れていないのは、届が不純行為に至らず、申し子ではなく白花という存在を見ているおかげだろう。


 もしくは、忌み子という周囲が近寄りにくい存在だから、白花が慈悲で近寄っているのだろうか。


 結局のところ、現に彼女のお世話になっている為、頭が上がらないのも事実だ。


「……みんなお前に近づきたいんだな」

「望月さんはそう見えませんが?」

「興味無いからな」

「……そうですか」


 間を置いた後に小さく呟かれた言葉は、どこか寂しそうに聞こえた。


 白花に興味が無いよりも、申し子に興味が無い、という方が正しいだろう。

 どこか近寄りがたいよりかは、申し子と忌み子の壁に阻まれた、謎の圧を感じるのだ。


「先ほどから質問ばかりですが、望月さんはクリスマス予定があるのですか?」

「お前と同じく無いな。いつも通りに過ごすくらいだな」

「何というか、変わりない退屈な日々ですね」


 そう言った白花は、悩んだような表情を見せながらも、鍋の蓋を静かに閉じた。


 ある程度の準備が終わったのか、白花は手を洗っている。


 届からしてみれば、白花と居る時間が変わりある日常で、過ぎていく時間に退屈を感じさせていない。


(そういや、その日の手紙の順番って)


 ふと思えば、クリスマスイブの日は白花が届に手紙を渡し、クリスマスは届が白花に手紙を渡す日となっている。


 その時、届は『暇だったらきよりんを誘ってあげて』という叶夢の言葉を鮮明に思い出した。


 様々な男子諸君が白花を誘って折れ去った中、自分が白花を誘えるのか、と思ってしまう。

 白花に先ほど言ってしまった言葉を考えても、うなずいてくれる可能性は低いだろう。


 それでも、申し子や忌み子関係なく、届は誘ってみたいと思えた。

 お互いにここで立っている時は――届に白花という、一つの生を受けた形なのだから。


「……あのさ」

「なんでしょうか?」

「いきなりで大変申し訳ない言葉ですが、二十五日のクリスマス、一緒に過ごす、というのはどうでしょうか」

「イブではなく?」

「え、あ……イブは行事の意味合いを考えても、多分少しは一緒だろうしさ」

「イブは作りに来ると思いますが……一緒にクリスマスを過ごすといっても、何をするのですか?」


 届はなにも考えずに誘った為「ああ……」と声を漏らした。


 家の中で遊ぶとしても、特に何か持っているわけでもなく、遊べるものは無いに等しい。

 届が無理を押し通そうとしたのもあり、悪いと思って断ろうとした――その時だった。


「なら、遊んでみたいものがあるので一緒にやってくれませんか?」

「え、何をするんだ?」

「ふふ、その時までの秘密です」


 小さく微笑む白花の表情は、直視していたいものではなかった。


 白花が遊びを用意してくれるというのなら、どこまでも付き合う気でいる。

 夜ご飯の手伝いの恩を少しでも返したい。誕生日に希望を差し伸べてくれた、貸しを返してでも。白花が、申し子である、と忘れさせてあげられるくらい。


「それじゃあ、その日はお昼から作りに来ますよ」

「いいのか?」

「ええ、そっちの方が遊べると思いますし……その、望月さんがやっているゲームのどれかもやってみたいです」


 恥ずかしそうに言うので「別に構わない」とだけ返しておいた。

 白花の隣でスマホゲームをすることはあったが、気になっているとは思いもしないだろう。


「適当にお前に似合いそうなゲームを詮索しとく」

「ありがとうございます……クリスマス、楽しみです」

「……俺もだ」


 クリスマスのどちらも一人になるかと思っていたが、ここに優しき申し子は居たようだ。


(それよりもイブの昼、どうするか……)


 届が悩んでいる様子を、白花は鍋の蓋を開けつつも届をじっと見ていた。

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