24:クリスマスの予定
「冬休みに入るけど、届はクリスマスの予定あるのか?」
お昼ご飯を食べ終えた届は、お昼休みの残り時間で紡希と話していた。
紡希から聞かれた質問に、届はイラつきを覚えそうだ。
世間はクリスマスムードに染まっており、どこもかしこもクリスマス用品であふれている。
紡希は特に何も言っていないが、彼女と予定がある、とでも言って必ずのろけるだろう。
届が予定を作れているはずもなく、一人になると思われる。
一応、白花の冬休みの予定次第では、夜ご飯に孤独を味わうことは無いだろう。
「俺は特にないかな。別にあっても無くても変わんないだろ」
「ふ、甘いな、届。クリスマスイブの聖夜こそ愛という真実は芽生えるんだぜ」
紡希が自信満々に言い切った時、聞きなれ始めたおとなしい声が聞こえた。
「つまり、聖夜のぼっちに人権は無いってことだよね」
「そう言う……大澤さん、いつの間に居たんだよ!?」
紡希は叶夢が近づいてきているのに気づいていなかったのか、驚いたように引きずった顔をしている。
叶夢が荒みはじめた世界にひょこっと顔を覗かせつつ、紡希の問いに静かに答えた。
「そこら辺の雑草が枯れ始めている時かな?」
叶夢が周りに聞こえないくらい小さく呟くので、ふと周りを見渡してみた。
周囲の独身男子であろう諸君は紡希の言葉が聞こえていたのか、うなだれたように肩を落としている。
届も彼女が居るわけでないが、紡希ののろけに付き合っていたおかげか、心に刺さらず済んでいた。
世間がクリスマスであろうと、何気ない日常を過ごすのは変わらないのだから。
(……気づけば、あいつと一緒の時間増えたよな)
白花と夜ご飯後に話してはいたが、最近は格段に時間が伸びているのだ。
届からしてみれば、白花と過ごす時間を嫌だと思っておらず、ゆったりとした一時を楽しめている。
隣で笑ったように周囲を見ている紡希を横目に、届は呆れたようにため息をついた。
「この馬鹿はほっといてさ、大澤さんは冬休みに何か予定はある感じか?」
「冬休みの予定か、うーん……家族と一緒に過ごすだけかな」
「俺は彼女の予定次第だな」
「紡希、お前の予定は聞いてない」
台本通りのような言葉を言ってくる紡希に、届は苦笑した。
叶夢が家族と一緒に過ごすだけ、と言ったのは意外だが、紡希に関しては目に見えていたから仕方ないだろう。
紡希が「つれない奴だな、このこの」と言ってくるが、明らかに彼女自慢をしているのは目に見えている。
「彼女なんて居ても動きづらいだけだろ」
「そりゃぁ、ぼっちじゃないからな」
「……大澤さん、何で俺をそんな目で見るんだよ」
「可哀そうだなって」
紡希はこらえきれずに笑いを漏らしたが、叶夢が言っている可哀そうは別の意味だろう。
その証拠に、届は白花と一緒でしょ的な視線が叶夢から送られてきている。凛と読書をしている白花をちらっと見て言っている辺り、確信犯だろう。
叶夢に、白花から夜ご飯を作る手伝いをしてもらっていると話したが、ずっとくっついていると思われているなら心外だ。
届と白花の間にあるのは、とげがある彼女の優しさと、お互いを尊重しあう希望くらいだろう。
届が呆れたようにふざけんな、という視線を叶夢に送れば苦笑いしている。
「ははは、俺が届をぼっちにしないように通話に誘うから」
「紡希、なんで勝手に俺を檻に放り込もうとしてんだよ」
「俺の彼女が苦手なん克服してくれよ」
「無理なもんは無理だ」
紡希の彼女と一度話したことあるが、紡希に似たハツラツ系で、相手をしているだけで疲れた記憶しかない。
ゲームをやりながらだったのもあるが、派手なプレイさながらの性格とすら言えた。
紡希はどうにかしてでも誘いたいのか、悩んだように表情を歪ませている。
そんな紡希に呆れながら、届はふと白花の方をちらりと見た。
(そういや、あいつは冬休み予定があるのかな)
白花は話しかけられれば反応をしているが、それ以外は読書をして優雅そうにしている。
直接聞いたわけでもないため真相を知らないが、クリスマスに申し子を誘おうとした男子は多いらしく、全て笑み一つこぼさず頭を下げられ撃沈していると聞いていた。
彼女も彼女で大変そうなため、聞こうにも聞きづらくなっている。
届がそっとため息を吐いた時、叶夢が手のひらで紡希に聞こえないようにしつつ、耳打ちをしてきた。
「望月君、もし冬休み暇だったら、きよりんを誘ってあげて。きよりんは今年の冬休み実家に帰らないだろうし」
届は「それだったら大澤さんが誘ってやれよ」と小さな声で返したが、「私には彼氏が居るから」とわかりやすい返答をされた。
周りに居るこの二名が彼氏や彼女が居るのに対して、彼女が居ない届はいたたまれなくなりそうだ
紡希が「二人だけで話すのはズルいぞ」と不満げな様子を見せているが、元凶の発火原因は紛れもなく紡希である。
届が睨むような視線を送れば、紡希は不思議そうな顔をしていた。
二人から目を逸らせば、ちょうど本から目を離していた白花と目が合い、届は目の逸らし場所を無くしていた。