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21:申し子と母親

 白花が目元に涙を流しながら眠っているのは、理由が不明だった。

 由美子からは、届が泣かすようなことをしたの、という視線が飛んできている。


 白花は届の家に来て、寝落ち等をしてしまう事態は今まで一切なかった。

 また不思議なのが、彼女が涙を頬に伝わせて流していることだ。

 届が白花を泣かす事態おかしな話であり、先ほどまで由美子と話していたのだから。


(……もしかして)


 一つだけ思い当たる節があるとすれば、順位の話をした時だろう。

 白花は申し子であるからこそ、忌み子でやる気のない届が一位を取っていたと知れば、何か突っかかる思いがあったのかも知れない。


 頬から雫がベッドに落ちた時、由美子は白花の方に近づいていた。

 そして、前屈みになって白花の涙をハンカチで拭っている。


「届、何で白花ちゃん泣いているの?」

「知るか」

「……わかったわ」


 何故か由美子に息をついて呆れられているが、知らないのは事実だ。


「……あっ」


 白花は話し声が聞こえたのか、小さく喉を鳴らし、ゆっくりと瞼を開けた。

 明るいブラウン色の潤んだ瞳は届を見ている、というよりも焦点が合ってないらしく、正しくは届の居る方向を見ている。


 由美子が軽く後ろに下がれば、白花はぼやけた様子でベッドから頭を上げていた。


 覚醒し始めたのか、白花の頬が徐々に赤みを帯びているのを見るに、今の状況を認識できたのだろう。

 母親が帰ったら呼ぶと言ったのにも関わらず、その母親が目の前に居たら焦るだろう。

 白花はこちらを横目で見てくるが、届は首を横に振るしかなかった。


「白花ちゃん、おはよう」

「え、あ、おはようございます……えっと、星元白花です」

「ちゃんと挨拶できて偉いわね。私は望月由美子。由美子でいいからね」


 白花がクッションに顔をうずめながらも頷くのを見て、由美子は彼女の手を取った。

 そして、二人でゆっくりと立ち上がる。


「ここでお話しするのもあれだし、リビングの方に向かいましょうか」

「え、は、はい……」

「……本当にすまん」


 届が申し訳なさそうに謝れば、白花は照れたように「望月さんが謝る事じゃないですから」と言葉をこぼしていた。

 二人のやり取りを見ていた由美子は、微笑ましいような目で静かに見ている。


 白花が慣れた手つきでお茶を由美子に出せば、「本来なら届の役目なのにね」と言いながらこちらを見ていた。


 多分、届がお茶を出せばどうなるのか分かった上で言っているのだろう。


 白花が届の隣の椅子に座るのを見てから、由美子は口を開いた。


「白花ちゃん、届の夜ご飯作るのを手伝ってあげているのよね?」

「え、はい……望月さん一人だと危なかったのでつい……」

「届が迷惑かけてごめんなさいね」

「迷惑だなんてそんな……私も、彼からは色々と貰っていますから」


 小さく縮こまる白花を横目に、由美子はにやりとした視線を向けてくる。

 届からしてみれば、別に白花に対して何かをしたわけでもないため、なぜそんな目で見られているのか不思議でならなかった。


 白花とは一緒に帰って、食事をした後に少し話すくらいの仲であり、若気の至りをしようと思っていない。

 彼女が居なければ、健康で母親と話せていなかった可能性もある為、心から感謝している。

 ふと気づけば、空間にコップを置く音が鳴り響いた。


「それにしても届、出会えたのが星元さん家の娘さんでよかったわね。本当に警戒していれば、届は家に上げないだろうし」

「別に、こいつは警戒するに当たらなかっただけだ」

「失礼過ぎませんか、それ?」

「ふふ、ごめんね白花ちゃん。届は素直じゃないから」

「い、いえ……気にしていませんから、大丈夫です」


 ゆったりとしたように微笑む由美子に、内心で嫌気がさした。

 そして、父親に来る際は連絡を入れるようにお願いしようと、届は心に決めた。


 ふと気づくと白花は由美子を見ては目をぱちくりとさせ、瞳が揺らいでいる。


 今思えば、母親である由美子も美人の分類に入るほどの容姿をもっており、年齢にそぐわないので仕方ないだろう。

 紡希から果実の話をされた際に動じなかったのは、母親の容姿で見慣れていたからだ。


 白花は華奢な体にふわりとしたふくらみを持つため、届が変な目で見てこない理由を気になっていたのだろうか。


「白花ちゃん、立派に成長しているわね。それに比べて、届ったら……」

「あの由美子さん、彼も彼なりに努力して成長しています。確かに彼の努力は傍から見れば知りえませんが、小さな努力を積み重ねているって、私にはわかります」

「俺を無理に庇おうとしなくてもいいから」

「庇っていません、事実ですから」


 白花の揺らがぬ瞳に、届は気づけば押されていた。

 理解できるのは、自分の部屋で待っていてもらった際に、白花は届の机を見たのだろう。


 届は白花の言葉をありがたく思いつつも、息をつきながら肩を落とした。


「二人共、仲いいわね」

「仲良くねえよ」


 否定すれば、由美子は椅子から立ち上った。


「じゃあ、私はそろそろ帰るわ」

「ちょっと待ってくれ」

「どうしたの?」

「何で結局こいつの事を知ってたんだよ?」

「あー、そういうことね。会社関連繋がりでね、届と白花ちゃんは幼い頃に一回だけ会ったことがあるのよ」

「覚えてねえよ」

「それは私も初耳ですね」

「幼稚園児くらいだったもの」


 それ以上を教える気が無いらしい由美子は、白花に手招きをして近くに呼んでいた。


「白花ちゃん、連絡先教えてちょうだい」

「え、はい」


 さらっと白花の連絡先を訪ねている由美子は、抜かりが無いのだろう。

 一緒に居る届ですら、白花の連絡先を知らないくらいだ。

 白花があたふたしてスマホを取り出して入れば、由美子は微笑んだようにこちらを見てきていた。


 連絡先を交換し終わった後、「よければ食事を作りますよ」と白花は言っていたが、忙しいからと断っている。

 そして、みかんを持ってきていたらしく、二人で分けて食べてね、と言い残した。


 届は白花と共に母親を見送りながらも「二度と無言で来させるな」と父親に連絡を入れて、どうにかしてもらおうと決意した。

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