16:申し子と叶夢からの詮索
「望月君は、欲しいものとかあったりするの?」
「……は?」
翌日、電算室で叶夢に欲しいものがあるのか急に聞かれていた。
近くには慣れたように白花もいるため、届は誕生日がばれたのかと思ってしまう。
日付が嫌いと言っただけで、誕生日とは思われていないだろう。
届は驚いた心の熱を吐き出し、二人を冷静に見る。
「急にどうしたんだ?」
「趣味趣向を聞きたくなってね」
「分かりやすく言えば、叶夢さんと私はお互いに異性と話す機会が少ないので、気になっただけですよ」
「……俺は異性に含まれてるよな?」
ちゃんと含まれていますよ、と白花は言うが、本当かよと疑ってしまう。
欲しいものを聞かれ、届は頭を悩ませた。
白花と叶夢に見られているのもあってか、視線を痛く感じる。
「強いて言うなら……部屋の装飾品かな」
「部屋の、装飾品?」
叶夢は不思議そうにこちらを見てくる。
届は自室、というよりも家の中全体の装飾の事を指していた。
以前紡希が家に来た時に『本当に住んでるんだよな?』と生活感がないと思われたくらいだ。
白花に装飾関連で触れられていないが、生活感があるとは思いにくいだろう。
「ああ……望月さんの家、小道具とか見当たらないですよね」
「え! きよりん、望月君の家に入ったことあるの?」
「大澤さん、それはおいおい話すから」
「男の方は面白い物を好むと思っていましたが、装飾とは意外ですね」
「望月君が男の子なのはわかるけど……中身は男の心が存在してる?」
「俺はれっきとした男だ。よかったな、意外な好みの持ち主で」
男はそもそもの話、明確に欲しいものが決まっていない方が多いくらいだ。
届が男なのか疑われるのは過去からの慣れっこであるが、いざ言われると居心地が悪いことこの上ないだろう。
そんな届を気にしないかのように、白花の髪を撫でている叶夢は自由気ままにも程がある。
白花が嫌がる様子を見せていなくとも、見ているこちらの身になって欲しいものだ。
「まあ、結局のところ、欲しいものはお金では買えない何かだからな」
「何というか、女の子にすら興味なさそうだね。きよりんが望月君を許すの、納得した気がする」
「私に興味無いのは色々と助かりますけどね……叶夢さん、勝手に納得しないでくださいよ」
叶夢が苦笑いしながら白花に謝っており、それを許す白花は見ていて微笑ましいものだろう。
この後、白花とはどのような関係なのか、などを叶夢から色々と聞かれるはめになった。
(……本当に何で聞いてきたんだ?)
届がつっかかったような表情をしている中、白花は不思議そうに首をかしげていた。
『いたるー……十日、どうしても無理か?』
その日の夜、届は紡希とゲーム後の雑談通話をしている。
紡希が十日にこだわる理由は理解できるが、こちらのモチベーション的に困る一面があるのも事実だ。
誕生日の日は顔に出さないが、心の中から『生まれた自分を憎んでいる』のだから。
――忌み子として生きて、誰にも頼れず、今を生きている自分を。
少しでも紡希には悟られたくないと思っており、結果的に避ける状態となっている。それは、信頼できる話し相手を二度となくしたくないエゴ……自分の弱みと言えるだろう。
届はどうしたものかと頭を掻いた。
「あれだよな、紡希のお気に入りキャラのシーズン始動日だから走りたいってことだよな?」
『推しキャラとなれば、お前だってランキングに名前を乗せたいだろ?』
「……俺だったら狡猾に考えて、紡希との固定であることも考えて、スタダ勢を先に行かせるかな。順位は四桁前半に入ればいいんだよな?」
目標順位とやり方の提示をすれば、紡希は納得したように声を漏らしていた。
届からしてみれば、スタダ勢とかち合うよりも、底辺狩りをして順位を上げる作戦を優先したいのだ。
順位維持組という壁さえ超えれば、紡希との実力を合わせれば余裕の圏内である。
紡希を納得させれば、十日は少しだけという名の数時間やることが確定した。
届は楽しく全力でゲームをしたい派なので、紡希のやる気には目を引かれるものがある。
「話は変わるんだけどさ……紡希は、誕生日好きか?」
『誕生日か、好きや嫌いで考えるようなタイプじゃないかな』
「と、言いますと?」
やはりというか、紡希の返答は斜め上を相変わらずのように行っている。
好きかどうかという質問に対して、自分の主張を通そうとする姿勢は……今の届からしてみれば羨ましいものだった。
『俺は誕生日がどうこうと言うよりもさ……今この時代で地を踏みしめ、こうして素敵な仲間と出会って生きている、その事実だけが嬉しいかな』
「相変わらず、羨ましい程のポジティブな奴だよ……お前は」
『届も好きな人や、心からの命の恩人が出来れば変わるぞ?』
「命の、恩人か……」
白花が命の恩人に当たるかと言われれば、食事に関しては確実に当たるだろう。
白花の事は気になっているにしろ、恋愛感情が湧いていないのもまた事実だ。
届が本気で命の恩人と思えているのは、今は一人だけだが、そのうち白花も命の恩人と思うようになるのだろうか。
(……あの人の言葉、こんな俺でもいずれ叶うのかな)
ふと息を吐きだしてしまい、紡希に不思議そうに言葉を返された。
届は悩んでも埒が明かないと吹っ切れて、再度スマホの画面を見る。
『思ったんだけどさ……誕生日が好きかって俺に聞いてきたの、届に好きな人が出来て、誕生日が近いとか!?』
「何でそうなる? 居るわけないだろ」
『いやー、ついに届にも春がきたのか……感動深いぜ』
「おい、二度と聞こえなくしてやろうか?」
『愛しき人の声が聞こえなくなるのは困るだろ!』
「なんでお前がキレてるんだよ!?」
邪推をされそうになったのは予想外だが、紡希のペースに巻き込まれるのは疲れる、と改めて思わされた。