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純愛

作者: 神谷

大陸歴―1892年―

西方大陸の中心に位置する小国、アルバイン公国の小さな村を治めるトルメリア男爵は、貴族であったがとても貧しかった。しかし、トルメリア男爵は優れた人格者であり、貴族だからとおごらず、時には村人とともに鍬を握って畑を耕し、時には病気になったが貧しくて薬の買えない村人の為に少ない身銭を切って薬を買い、献身的に看病した。そのため、村人たちからはとても慕われており、貧しいながらも幸せに暮らしていた。

そんな男爵には今年12歳になるミルという女の子がいた。

ミルはきれいな茶髪が目を引く美しい娘で、小さいころから村のお年寄りの手伝いをしたり、父や若い村人たちに混ざって畑仕事を手伝ったりしていたので、村でも評判だった。

そして、今日もミルは父と村人達とともに畑仕事に精を出していた。

畑仕事が始まってから数時間後、休憩することになるとミルは父と村人に水の入ったコップを渡した後、小さな木製のバケットを抱えて一人の男の子のもとにかけていく。

男の子の名前はウォン。この村で数少ないミルの同年代の子供で、ミルの初恋の相手だ。


「ウォン、お疲れ様!」


「お、おぅ…お疲れ様」


「ドーナツ作って来たんだけど、食べる?」


「…食べる」


ミルがバケットから取り出したドーナツを受け取ったウォンは、座っている大きな切株に、もう一人座れるように移動してドーナツをほおばり始めた。

そんな彼の行動に頬が熱くなるのを感じたミルは、頬を手で押さえて頬の熱を抑えてから座り、おいしそうに自分が作ったドーナツを食べるウォンを眺めた。

はつらつとしたミルに対してウォンは内気な性格だったが、ミルはそんな彼が大好きだった。また、ウォンも内気な自分に声をかけてくれるミルのことが大好きだった。

男爵や村人たちもそんな二人を祝福していて、この幸せがいつまでも続くよう祈った。






が、幸せはそう長くは続かなかった。


時は流れ大陸歴1901年、西方大陸に衝撃が走った。アルバイン公国の西に位置する大陸の覇者、ラヴィアス帝国の皇帝ラヴィアス十二世が何者かに暗殺されたのだ。

ラヴィアス皇室はこれに対して激怒し、軍やギルド、傭兵といったものを総動員させ、暗殺者捕縛に動き出した。そして暗殺者捜索が始まってから数日後、暗殺者が軍によって捕縛された。

この知らせを聞いた皇室は一安心し、暗殺者を拷問して黒幕の名を聞き出そうとした。

が、暗殺者は煮えたぎる油をかけられ、強姦され、生きたまま皮をはぎ取られても口を割らず、数日後水責めの途中で息を引き取ってしまった。

これにより、皇室は黒幕を明らかにすることが出来なくなってしまい、ひどく慌てた。皇室としては数日で黒幕が明らかになると思っていたのだ。しかし、このままではラヴィアス皇室の体面に関わると思った皇后が、暗殺者が女のアルバイン公国人だったことから【暗殺者はアルバイン公国ヒルスト・アルバイン大公が手引きした】と結論づけ、アルバイン公国に向け軍を派遣した。

突然、軍事行動を開始したラヴィアス帝国に対して、アルバイン大公は皇室に対して抗議を申し立てたが、それが聞き入られることはなく、両国は戦争に突入することとなった。

これによりアルバイン公国内では戦争に参加する若い男児が強制招集された。もちろんそれはウォンも例外ではなかった。


トルメリア男爵領の若い男性たちが戦争に向かう前日の夜、村の畑の切株で真新しい軍服に身を包んだウォンが腰かけていた。

彼の頬には紅葉が一枚。

先ほどまで話していたミルにつけられたものだ。

一緒に逃げようと話す彼女を突き放し、罵詈雑言を浴びせ拒絶した。その結果、涙を流す彼女から平手打ちをもらった。つらかったが、不器用な彼にはこうするしかなかった。愛する祖国と家族、そして彼女を守りに行くために。

そして翌日、ウォンは数名の村人たちとともに戦場へ向かった。この時の見送りにミルはこなかった。


それから数日後、国中から集まったアルバイン公国軍は必死の抵抗を示した。が、相手は大陸の覇者。武器も人員も何もかもが劣るアルバイン公国軍はラヴィアス帝国軍に瞬く間に蹂躙され壊滅、公都侵入を許し大公は家臣に城へ火を放つよう言いつけ、公妃や子供たちとともに燃え上がる城の中で命を落とした。


戦争が終わるとアルバイン公国はラヴィアス帝国の属国となりラヴィアス帝国の第三皇子が大公の地位に就いた。不思議なことに戦争責任はヒルスト・アルバイン大公一人にあてられ、戦前と違うのは大公が変ったことくらいだった。

数ヶ月も経つと少しずつ公国は復興してきており、トルメリア男爵領の村も、戦争終了の頃と比べてみると少しずつ活気が戻ってきた。そんな中、村の切株から見つかった一通のボロボロの手紙がミルのもとに届けられた。

その手紙を読んだミルは床に座り込み泣き崩れた。

手紙にはたった一言、「愛してる」


数百年後、ラヴィアス帝国は革命により倒れ、ラミノン共和国と名が改まった。

そして、ラミノン共和国のアルバイン州の小さな村に住む少女ミルが村の噴水の前で恋人を待っていいた。

そんな彼女を村人たちはほほえましく眺めていた。

今日はミルの恋人が軍の徴兵から三年ぶりに帰ってくる。そのため、ミルは真新しいワンピースを着てお気に入りのベレー帽をかぶっている。


突然風が吹いた。


風で帽子が飛び、ミルは慌てて追いかける。風に乗った帽子はゆらゆらと飛んでいき噴水からどんどん離れていく。そしてもうあきらめようかと思ったその時、パッと腕が伸びてきて帽子をつかまえた。

帽子を取ってくれた人にお礼を言おうとミルが顔を上げるとそこには世界で一番愛している人が…


「お帰りウォン」


そういうとミルはウォンに抱き着きウォンの車の助手席に乗り込んだ。


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