死なない嫌悪感
ああ、神父様。
私は罪を犯しました。
ひどくおぞましい過ちを……
どうか、どうか聞いてください。
そして赦しをください。
私を罰から開放してください……!
私はとある会社に入社しました。
父の縁故です。父は建築会社を営んでおります。
そのつてで私はOLとして大手企業に勤められました。
けれど、職場にはあの男がいました。
上司である、大袋清司課長です。
あの男は、私を一目気に入り、粘着質に接してきたのです。
平気で肩を握り、髪の匂いを嗅いできました。
しかも見た目が醜悪なのです。
散らかったような頭髪。
男性用の香水を使っていても、酷い臭い。
ヤニ汚れの真っ黄色の歯。
脂ぎった顔にみっともない下腹部。
私は心底厭になりました。
セクハラまがいの言葉を臭い口臭で吐かれる嫌悪感はたまったものではありません。
同時に、悩みがありました。
私をつける人物――ストーカーです。
夜道を歩くと必ず後をついてきます。
郵便物やごみ箱を漁られました。
ドアノブを回されたこともあります。怖くて怯えることしできませんでした。
私は父に相談して、探偵を雇いました。
ストーカーの正体を掴んで、警察に引き渡そうと考えたのです。
探偵は優秀で、あっという間に調べてくれました。
ストーカーは――大袋課長でした。
私の中に殺意が芽生えました。
昼夜問わず、私を悩ましてきたのが、あの男だと知ると、自分が抑えられませんでした。
神父様。
誤解なさらないでください。
確かに私はあの男を殺しました。
だけど……それで終わりではなく、私に課せられた罪ではないのです。
父の会社には、父以外知らない、汚れ仕事をしてくれる社員がいました。
立ち退かない住民の家に火を放ったり、環境問題に取り組んでいて、父の仕事を邪魔する記者を秘密裏に抹殺したり……とにかくひどいことをする人たちがいました。
その社員たちが、大袋課長を殺しました。
私は後をつけられているのが分かっていて、とある廃ビルに入りました。
そこで大袋課長を社員たちが捕まえて、暴行しました。
痛めつけた後、バットで頭を思いっきり殴りました。
確実に、殺したんです。
呼吸もしませんでした。
心臓も動きませんでした。
何度も、何度も、確認したんです。
これで私の日常は戻ってきた。
安心して熟睡して、出社すると――大袋課長がいたんです。
確実に殺したのに。
絶対に殺したのに。
どうして――
その日から十日間、毎日殺しました。
心臓をナイフで刺して殺しました。
首から胴体を斬って殺しました。
喉に紐を結んで絞殺しました。
電気を使って感電死させました。
ガソリンを使って焼死させました。
川に突き落として溺死させました。
ビルの屋上から落下死させました。
他にも交通事故や自殺に見せかけました。
それでも、死ななかったのです……
最後の日、私たちは大袋課長をコンクリートで固めて海に投げ捨てました。
これで安心だと思いました。
だけど……ああ、私は、なんということを……
大袋課長は、あの男は、ああ……!
あの状態でも、生きていたのです!
どうやって海底から這い上がったのか分かりません。
でも、分かるのです。
だって、社員たちが、殺されていくから!
現場に海水とコンクリの欠片があるから!
ずるずると、引きずる音……
私に協力した社員たちは次々と殺されてしまった……
今でも、聞こえてきます……
ずるずる、ずるずる……
どうして、あの男は、死なないんですか?
神父様。助けてください!
神の力でお救いください!
警察でも駄目でした。
あの男は、どう足掻いても、私のほうに……
ああ! 聞こえてくる!
石が引きずってくる音が!
ずるずると、こっちに……!
厭ぁあああああああ!
誰か、助けて……
神父様、どうか……
赦しを……
……神父様?
「やあ。今日も髪が奇麗だねえ」
ずるずる、ずるずる……




