七 叛逆
城中へ上がり、目付け部屋へ向かったが
まだ神谷は出仕していなかった。
目付けは巳の刻(午前十一時)からの出仕だ。
控え室で十兵衛は神谷を待った。
もう、彼の腹は決まっていた。
お馬廻り役昇進などどうでも良い。
十兵衛はこの上意討ちのために
父と家族、角蔵、安右衛門、妙と言う、
かけがえのない大切な人々を失った。
人斬りのために。
これも皆、自分の弱さのためだった。
だが、もう違う。
真剣勝負が自分の基本と悟った。
白刃に怯まなければ怖いものはない。
思い通りにられ!と十兵衛は思った。
長い時刻が経った。
やっと神谷が現れた。
十兵衛を見て機嫌が良かった。
見届け人から報告を受けているのだろう。
目付け部屋で十兵衛は神谷の前へ座った。
「見事であった。御城代もお喜びである」
十兵衛は無言で頭を下げた。
「で、お馬廻り昇進の話だが、
格別なお沙汰で近習とすることに決まった」
それでも十兵衛は一言も発しない。
「禄高五百石。身にあまる名誉である」
十兵衛は一言も発せず顔も上げない。
神谷は言葉を続ける。
「ただし、近習職は表の名目役で、
お主には上意討ち人を続けてもらう」
「お断り申したら、どうなりまするか」
「以前のお納戸役に戻るまでじゃ」
「上意討ちもお断り申す」
即座に神谷は言った。
「それはならぬ!上意討ち役は申付ける!」
十兵衛は初めて顔を上げた。
「私は本日、当藩を出奔しまするゆえ、
そのお役目を果たすは無理にござる」
神谷の顔色が変わる。
「なにィ!出奔と!!」
「命ぜられたゆえ、役目を果たしたが、
その理由があまりにも理不尽!」
神谷の表情が怒りに変わる。
十兵衛のような平藩士に面と向かって
こんなことを告げられたことはないのだろう。
「その理不尽な上意討ちのために
何人もの大切な人間たちが命を落とした」
立ち上がる十兵衛。
「御免!」
立ち上がって部屋を出て行く。
叫ぶ神谷。
「慮外者!出会え、出会え!」
大廊下に並ぶ部屋から
大勢の若い武士たちが出て来る。
「十兵衛を城から出すでない!
討ち取れ!!」
武士たちが手に手に大刀をつかみ、
雪崩を打って十兵衛を追う。