4 研究者は変わり者?
3日後、ミモザはシルビアを連れて商品開発室に来ていた。
今日は打ち合わせ当日である。
パッケージについては、散々いろんな人に意見を聞いて改善に改善を重ねたし、素材も我が公爵家の薬草園で栽培した物を検証に必要なくらいは採取して持ってきた。
「よお、待たせたな」
前の打ち合わせが長引いちまって、と言いながら、出されたお菓子を食べながら応接室で待っていたミモザをみつけ、ジルが近づいてきた。
「構わないわ。 相変わらず、ネモフィラ商会で取り扱っているお菓子は美味しいわね。 今日はジルもあとはこの件だけでしょ?」
「まあな。 今日は開発に協力してくれる研究者を紹介するんだけど……。 驚いて逃げ出すなよ。 じゃあ、行くか!」
とニヤニヤしながら意味深なことを言いつつ、ジルは私を連れて歩き始めた。
「それで、どんな人なのよ」
歩きながらミモザが聞くと、
「まあ、一言でいうと優秀だけど変わり者だ。 王都の学院の出身で、首席で卒業してる。 研究熱心で、ウチの商品開発部じゃ結構成果出してるんだぜ。 ただ、一癖あるっていったほうがいいのか。 女には人気ないかもなー、ウチの使用人の女性はあんまりあいつの部屋には寄り付かないもんな」
「そうなの。 まあ、想像の範囲内だと嬉しいわ」
この世界で出会ったことがある人種じゃないことは確かだな……と考えていると、部屋の前に着いた。
扉のプレートには、“商品開発室2 エレン・ギルバード”と書いてある。
優秀だと開発室が個室なのか……? はたまた、変わり者過ぎて個別対応にされてしまったのか……。
そんなミモザの想いを知る由もなく、ジルは躊躇なく、扉を開けた。
強めに薬品の匂いが漂うその部屋の中にいたのは、
黒髪で少し脂ぎったボサボサの長めの髪の毛に、黒縁のメガネをかけた、日本で言うTHE・研究者な見た目の男だった。
来ている白衣は何かで少し汚れている。歳はミモザたちより上のようだがあまり離れている感じもしない。
清潔感はあんまりないが、前世の記憶があるミモザにはそんなに違和感はない姿だった。確かに、女子ウケは最高に悪いだろうけど。
「おう、エレン。例の件打ち合わせの時間だから来てやったぜ」
ジルが部屋に入りながら言うと、
「坊ちゃん、今日は何かありましたっけ?」
と、エレンが惚けた表情で言った。
「お前はいつもそうだな。 新商品の開発で、ウォータリリー家の令嬢連れてくるって言ったろ」
「もうそんなに日にちがたったんですね。 最近家に帰らず篭りきりで作業をしていたので日付感覚がなくなってしまっていました」
そう言ってエレンはミモザの方を向くと、
「はじめまして、ミモザ様……でよろしかったでしょうか。 私、エレン・ギルバードと言います。 今回のプロジェクトの担当をさせていただきますのでよろしくお願いいたします」
と挨拶をした。
あら、ちゃんと挨拶できるじゃない。礼に始まり礼に終わる文化で前世を過ごしたミモザは意外とちゃんとした男なのかしら、と評価を上げた。
「様は付けなくていいわ。 エレンさん、よろしくね」
「では、ミモザさんで。 私の方も“さん”はいらないです。坊ちゃんもエレンって呼んでますし」
「じゃあ、エレンと呼ばせていただくわ」
「いやー、それにしてもミモザさんのことはパソルカードでは見たことありましたけど、結構そのまんまの美少女なんですね」
「あら、ありがとう」
なんだ、エレンいいやつじゃない。
「でも胸はカードの方が大きいですけどね、ウヒョヒョっ」
前言撤回。やっぱこれは女性に嫌われるわ。
言葉を失っているミモザとシルビアを見て、ジルはいつものようにケラケラと笑っていた。