5 パソルカード
「パソルカードですか……」
一体、どういうことか分からないという表情でシルビアが呟いた。
パソルカードとは何か、というと、人気の画家達が有名人のいろんな姿を描いたカードのことで、写真がないこの世界における日本で言うところのブロマイドのようなものだ。
それぞれの画家によって絵のタッチが違う為、1人の有名人でもいろんなコレクションが発売されている。
しかも、想像上のシチュエーションで描かれている為、いろんな衣装やポーズの物が販売されているのである。
では、この世界における有名人というのはどんな人たちなのかというと、舞台やオペレッタの俳優や音楽家のものが多いが、ウォーターリリー公爵家の人々もその見目の美しさと領民達からの人気からパソルカードになっている。
ウォーターリリー公爵家のパソルカードはそれは人気なようで、新作が発売されれば、領民達はショップに2時間くらい並んで買うらしい。
コレクターも多くいるらしく、ミモザのパソルカードはとても人気で販売終了してしまったものはプレミアがついて結構良いお値段になっているという噂を聞いたことがある。
もちろん、パソルカードはネモフィラ商会で扱っており、一応販売前に本人にどのようなカードが発売されるのか許可を取ることになっている。
明日、ジル達がパソルカードの件で来訪するのは、私のカードの新作が発売されるからなのだろう。
以前は勝手な想像で好みではないフリフリの衣装で描かれたりしたこともあり、ミモザはパソルカードに描かれることについて恥ずかしさを感じていたが、前世を思い出しアラサーのミーハーOLの思考回路となったミモザにとっては、ちょっと有名人になったようで新作のカードを見るのはとても楽しみであった。
そして、パソルカードを新しく開発するリップの広告として使えないかと考えたのである。
「ほら、自分で言うのもなんだけど、私のパソルカードってすごく人気じゃない?」
「ええ、街では手に入れるのに行列に並ばないといけないとか。けれど、それがなんの関係があるのですか?」
「って思うじゃない? それでね、新しい商品が出来たら、その商品を使っているところを私のパソルカードに描いて販売してもらうのよ」
そこまで私が言うと、シルビアはハッとした表情になって、
「確かに、お嬢様は領民や他の貴族達からの人気もありますし、お嬢様自ら愛用しているものと分かれば手に取ってくれる人も多いかもしれないですね」
と言った。
「そうと決まれば、明日にはお父様とネモフィラ商会と話を付けて、早速開発に着手するわよ!」
ミモザは心の中で、目指せこの国のインフルエンサー!と意気込んでいたが、
それを見るシルビアがまた心配しなければならないことが起きなければ良いのだけれど、思っていることなど知る由もないのだった。