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3 私を取り巻く環境


「ねぇ、シルビア。私とっても退屈だわ」


着替えを手伝ってくれているシルビアに私は言った。

今日はミモザが目を覚ましてから5日が経った朝であるが、ミモザを溺愛してやまない家族からの部屋からの外出許可が全く出ないのである。


「元はと言えば、お嬢様が無理をなさるのがいけないのです。少し我慢してください」


……この侍女は私に厳しい。

もちろん、みんなが心配してくれていることは分かってはいるのだが、どうにも退屈である。

貴族の令嬢の嗜みである刺繍をやってはみたが、ハンカチ5枚に刺繍を施したところで流石に飽きてしまった。

その中の1枚なんて刺繍しすぎて、もはや芸術作品のようになっている。金色の固めの糸を使って刺繍したものだから拭き心地は最高に悪いだろう。


しかも、病状が回復してからは基本的に毎日ドレスに着替えをさせられている。

公爵令嬢として、特に予定がなくても急な来客の対応が必要になったり、外出が必要な場合のためだ。

もちろん、夜会の時の豪華絢爛なドレスよりは少々華やかさは控えめなものだが、さすがは公爵令嬢のドレスである、とても品質が良いものだ。

以前のミモザはドレスに毎日着替えることなど当たり前だと思っていたが、前世の記憶を思い出した今となっては刺繍しているだけであればルームウェアのようなもので楽に過ごしたい。郷に入っては郷に従えと言うし仕方ないか……と、日本のモコモコ素材のルームウェアを懐かしんでいると、黙ってしまったミモザを見て流石に気の毒に思ったのか、


「明日には、ネモフィラ商会のロドリ様がご子息と一緒にお嬢様に会いにいらっしゃるそうですよ」


とシルビアが言った。


「ご子息って、ジルのことよね?」


と聞くと、ええ、とシルビアは頷き、


「なんでも、パソルカードのご相談だとか。」


と返事をした。


ネモフィラ商会というのは、ウォーターリリー家が出資している商社のようなものだ。

大きい貴族は大抵商会をもっている。

貴族の名義で商売をしないのは、貴族家が表立って利益を追求するのが良しとされない文化だからである。

ネモフィラ商会の商品については、ウォーターリリー家御用達の印がつくため、国内の貴族達や、商品ラインによっては領民達にも評価が高い。

売れるとあって、職人はさらに積極的にネモフィラ商会に扱ってもらおうと切磋琢磨するのである。


ネモフィラ商会はロドリ・クロードという男が代表を勤めており、彼はミモザの父であるルドルフの学生時代からの親友だ。

父に言わせると学生時代から商才に溢れていたらしい。元々彼は伯爵家の次男だったので、伯爵家の後継問題についても特に問題なく、父に丸め込まれる形で商会の代表となった。

仕事に忙殺されている彼はそれをたまに後悔しているようで、


「君のパパは僕をなんだと思っているんだろうね」


などと、私にお土産を渡しながら愚痴っているが、2人は仲良くしているようなので信頼し合っているのだろう。


そして、明日ロドリと一緒に会いに来るのはクロード家の長男であるジル・クロードだ。

年齢はミモザと同じ16歳であるが、ロドリの商才を受け継いでいるのか、とても頭がいい。

ゆくゆくは商会を継ぐのであろう、ネモフィラ商会の仕事の半分ぐらいは既に引継ぎが終わっているという噂である。

父親達が親友ということもあり、ミモザとジルは幼いころから良く一緒に遊んでいた。「幼なじみ」というやつだ。

そのため、ジルは公爵令嬢のミモザを「お前」などと呼んだりするが、変にへり下ってこない数少ない友人の1人だろう。


明日の友人の来訪と少なくとも自室からの外出禁止令は解かれ、屋敷内を自由に動けるようになりそうだと聞き、嬉しくなったミモザはウキウキしながら、


「ジルは甘いものに目がないから、お菓子を沢山用意しなければね。 マドレーヌとフィナンシェなんてどうかしら」


と言うと、機嫌を良くしたお嬢様の姿に、満足そうにシルビアは目を細めながら、


「きっと喜ばれることでしょう。 手配いたします」


と返事をした。

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