15 謎は深まるばかり
ミモザは大人しく手を引かれながら青年と一緒に走り、屋敷の敷地内から出ることができた。
停電は脱出のために仕組まれたものだったのかしら。
敷地の外に出ると、そこにはこれまた用意周到に屋敷からは死角になる位置に馬車が止めてあった。
「さあ、これに乗って。 あなたを家まで送ってくれるから」
イケメン騎士が言った。
ミモザは、これは助けたと見せかけて、どこかへ売り飛ばされる二重の罠か?だけどイケメンだから信じちゃう。これで売り飛ばされても仕方ないか。結婚詐欺に引っかかる女ってこんな気持ちかしら。と余計なことを考えながら、
「助けていただいて、ありがとうございます。 この御恩は必ずお返しいたしますわ。 失礼ですがお名前をお伺いしておりませんでしたの。 教えていただけますか」
と言うと、イケメン騎士はまたふわりと笑って、
「すぐにわかるよ。 今日はゆっくり休んでね」
と言って、用意してあった馬にさっそうと飛び乗り、去っていった。
「リアルで名乗るほどのものじゃないんで、的なやつ初めて見たわー。 イケメンは何やっても許されるのね」
そうムードも何もない独り言を呟いてミモザも用意してあった馬車に乗り込んだのだった。
〜〜〜
ミモザをのせた馬車は、人身売買の取引場にいくわけでもなく、ウォーターリリー家の屋敷に到着した。
港に連れて行かれるかもしれないと警戒していたミモザはちょっとほっとした。
屋敷へ入ると家族がミモザに駆け寄ってきた。
「お前はどうしてそうやって家族を心配させるんだ。 とにかく無事でよかった」
父がミモザを抱きしめながら言う。
「心配ごめんなさい。お母さまもお兄さまもこんな夜遅くまでごめんなさい」
母と兄もミモザを抱きしめている父の後ろで安心したためか目を潤ませている。
そのちょっと後ろにはジルの姿もあった。
「俺が付いてたって言うのに、危険な目に合わせて本当にすまない」
ジルが珍しく落ち込んだ表情をしているので、攫われた先で食事やお風呂を満喫したミモザは返って申し訳ない気持ちになりながら
「気にしなくていいわ。 特に乱暴されたりはしなかったのよ」
と言った。
「それより、私はどうして攫われたの? 迎えにきた騎士さまは誰なの?」
ミモザはジルと家族にそう問いかけると、心配性の父はミモザの体調を気遣い、
「それは明日説明する。 とにかく疲れただろうから今日はゆっくり休みなさい」
と言って、強制的にシルビアに部屋に連行させた。
シルビアも全く、また心配かけて、という表情だ。
むむ、いろんな謎は深まるばかりだ。
今夜は色々考えてしまって熟睡できる気がしない。