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1 前世の記憶


ある日の昼下がり、

そのポカポカとした穏やかな気候と打って変わり、

屋敷の中の様子は騒然としていた。


「まさか、ミモザが流行病に罹るとは……」


この屋敷の主人であるルドルフ・ウォーターリリー公爵が、

ベットでうなされている1人の少女を見つめ、今にも泣きそうな表情でそう呟いた。


この公爵の妻であるカメリア夫人、息子のパーシーも同様の表情を浮かべている。


この公爵家が治める領地で1ヶ月ほど前から発疹とひどい高熱が出る病が爆発的に流行し始めた。

幸い、既存の薬が効果を示したことと、領地外との往来の制限を迅速に行ったことで死者や後遺症を持つ者を出さずに済んでおり、病は収束の方向に向かっているところでの出来事であった。


公爵家はその手腕と見目の美しさから領民たちからの信頼は厚かったが、

今回の迅速かつ的確な対応で評価をさらに上げていた。


ベットでうなされている1人の少女は公爵家の1人娘のミモザ・ウォーターリリー。

今般の領内の流行病の対応で公爵家の評価を上げた一因としては彼女の対応によるところも大きかった。

慈愛の心に満ち溢れた彼女は、自ら現地へ赴き食糧の供給や、看病を行ったのである。

結果として、彼女は流行病に罹ってしまうことになったのだが……。


もちろん、領内で死者や後遺症が残っている者が出ていない以上、彼女も死ぬことはないのではないかと思われていた。

ただ、彼女は生まれつき身体が弱かった。

普通の人よりも病気が深刻化しやすいのである。


「やはり、病が流行っている時に支援を許可するのではなかった……」


そう再び呟いたルドルフに、医師は


「今夜が山場です」


と告げたのだった。



〜〜〜〜


ミモザは熱に浮かされながら夢を見ていた。


自分が自分ではない誰かになって見たこともない服で見たこともない街を歩いている。

その夢では自分の意思とは別の何かが自分を動かしており、ミモザ自身はそれを俯瞰で見ていた。


その街は自分が暮らしている世界とはあきらかに違っていた。


その夢での自分の姿は、年齢は30歳手前くらい、髪の毛は黒に近い茶色、痩せ型でスタイルはそう悪くなかった。

顔も今のミモザに比べれば劣るが、肌は綺麗で、よく手入れされていることが分かる様子だった。


驚いたのはその服装である。

スカートは膝丈であった。貴族の社会であんなに足を露出する服は着たことがない。

公爵領の平民でも足を露出するような服装をするのは子供くらいのものだろう。

さらに、トップスはぴったりしたニット素材のもの1枚であった。

ニット素材はミモザのいる世界にもあるが、防寒のために寝室で着るような服にしか使われておらず、あんなにボディラインが出るように編むことができる物だとは知らなかった。


ミモザはそんな自分に少し驚きながらも、なかなか悪くないな、と思いながら観察し続けていた。


夢の中の自分はなんだかご機嫌で、棚に陳列してある、なにやらキラキラしたものを手にとりながら、


「このブランドの春コフレはこんなのか〜」



など、ミモザにはよく分からない用語を口にしていた。


「今年は青みピンクが流行なのね〜! 4月には後輩が入ってくるから可愛い先輩と思われたいし、買っちゃおうかな!」


そう口にした瞬間、夢の中の自分の表情が曇ったことに気付いた。

そして、続けてこう呟いたのである。


「あ、4月になる前に死んじゃうかもしれないんだっけ……」


その瞬間、ミモザの頭の中に夢の中の自分の記憶が一気に流れ込んできた。


自分の前世は29歳。日本という国で事務職OLであったこと。

両親とも仲が良く、実家に暮らしていて休日には一緒に買い物にいっていたこと。

可愛いコスメやファッションが好きで、ボーナスのたびに自分へのご褒美を買っていたこと。

そして、この頃に癌が転移していることがわかり、残り1ヶ月の命と宣告されたこと。


「そっか、私死んじゃったんだ……」


ミモザは夢の中の自分の記憶を思い出し、泣きそうになった。


娘が先に死ぬなんて自分はとんだ親不孝な子供だったな、とか

せっかく大学まで行かせてもらって、大手企業に就職できたけど、働いていた期間は7年だからあんまり恩返しできなかったな、とか

みんなは元気かな、とか

いろいろな思いがこみ上げてきたのである。



こみ上げてくる思いと、流れ込んでくる記憶により、負荷がかかったミモザの意識はそこでプツンと途切れたのであった。


〜〜〜〜


山場と言われた夜が明けた頃、ミモザは泣きながら目を覚ました。

目を開けるとそこには父親と母親、そして兄の心配そうに見つめる顔が並んでいた。


ミモザは冷静に


「なんだか既視感のある光景だな……」


などと考えていたが、

よく考えたら前世の自分が病院で死ぬ直前に親族に囲まれている時の光景だと思い出し、また泣きそうになった。


ミモザが目を覚ました事に気づいた母親が医師を呼ぶと、

熱や脈、そして視力や聴力の確認をされ


「まだ少し熱はありますが、発疹も引いており、快方に向かっているといって良いでしょう」


と告げた。


話しかけてくる家族にボーッとしながら返事をすると、安心してホッとした表情を浮かべている。

医師がもう少しミモザを眠らせた方が良い、と伝えると家族は名残惜しそうにしながらもしぶしぶ退室した。


ミモザは前世で家族を悲しませてしまったことを思い出し、今の自分を愛してくれている家族のことは悲しませないようにしよう、と強く思いながら再び眠りについたのだった。


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