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ネクロマンサー異世界旅行記  作者: エンペラー
8/9

8話決着

 薄暗い鉄筋コンクリートビルの5階、そこに傷だらけの白蛇が身を潜めていた。


(あと1〜2分程度で完治できますね、しかし困りました……レミさんってぱっと見中学生ぐらいなのに相当強いんですね)


 レミの強さに感心しつつ、ふと木刀の方に目をやる。

小太刀の方が所々焦げてしまっていた。


(いくら武器強化魔法と鬼姫の札で強化されてても所詮は木って事ですね……これが無くなると俺に勝ち目がありませんよ)


 そんな心配をしていたとき。

紫色の細い光がコンクリートの壁に穴を開け白蛇の真横を通過した。


「にゃは、外しちゃったかにゃー」


壁の向こうからはレミの楽しそうな声が聞こえる。


「壁抜きなんて反則ですよ!そんなのFPSだけにしてください!」


ツッコミながらも回復したばかりの体を起こし走りだす。

 上下左右といろんな角度から壁を貫きレーザーが白蛇を目掛けて飛んでくる。

おそらく通気口のダクトを使って移動しているのだろうが流石は猫の獣人だ。

 白蛇が感心している間もレミは攻撃を止めない。

 まだ走れなくなるほどのダメージを受けてはいないがそれも時間の問題だろう。


「もっとちゃんとにげにゃきゃダメだにゃー」


 壁の向こうから楽しそうなレミの声が聞こえる。

(このままじゃラチが明きませんね……どうしましょうか……)

 飛び交うレーザーの中白蛇は次の一手を考える。

走りながら考えついた案はとても単純なものだった。

 そのまま廊下を走り抜け一番奥の部屋に転がり込む。


「そんにゃ所に入ってもにゃんの解決にもにゃらにゃいにゃー」


 扉越しでレミの呆れたという声が聞こえる。

扉に数十の風穴を開けレーザーが白蛇を目掛けて飛んでくる。

連射されたレーザーを白蛇は右手の小太刀で全て叩き落とす。

正面からしかレーザーが飛んでこないなら鬼の眼を使えば反応できる。


「死角からの攻撃じゃなけれこの距離でも弾けますよ、それともこの中に入って接近戦でもしますか?まぁ接近戦になればあなたに勝ち目はないでしょうけど」


 完全なブラフだ。

実際接近戦になると部屋の中ではナイフを持ったレミの方が有利。

さらに戦闘技術もレミの方が上。

 部屋にはいこられると勝機がなくなる。

白蛇はレミの魔力が切れるか、鬼姫が帰ってくるのを待つことが最善の策なのだ。


「確かににゃー部屋の中に入っても再生込みで五分五分ってところかにゃー、それにゃらここで乱射してた方が安定するかにゃー」


 今度は足元を狙った攻撃が行われる。

弾くよりも回避を優先しつつ避ける。

小太刀は短く足元を守りきれない。


「そんな攻撃じゃ当たりませんよ?」


 嘘だ。実際はレーザーに右足を貫かれていた。


「にゃかにゃかにイラってくるにゃー。しかたにゃいにゃー」


 ガチャンと言う金属音が鳴る背中から狙撃に使っていた大口径のスナイパーライフルを構える。


「狭い部屋に逃げ込んだことが仇とにゃったにゃー」


(どうするんですかね?音はライフルのコッキングに近かったのでスナイパーライフルなのでしょう。しかしスナイパーライフルでどうするつもりでしょうか?)


「レミはにゃー親切だから教えてあげるにゃー。射程を短くして威力と範囲を最大にするんだにゃー。まぁそれでも普通に打つより魔力を使うんだけどにゃ、わかりやすく言うとそんにゃ部屋が吹き飛ぶぐらいだにゃー、あと扉は開かにゃいよー」


(非常にまずい。もしレミの言葉が本当なら確実に死ねる。何処か逃げ場を探さないと……)


「出力最大、吹っ飛ぶんだにゃー」


 さっきまで空気中にあった魔力が無くなっていくのが分かる。

おそらくこれもこの世界に来たせいなのだろう。


『フルバースト』


 ためられた魔力が開放され、紫の大きな光の柱が部屋を焼き尽くす。

それはまるで幾つもの雷を集めたようだった。

 扉を蒸発させ充満していた煙が腫れてくる。

そこには焼け焦げた布切れとさっきまで白蛇が履いていた靴、焼け残った足の骨が転がっていた。


「にゃーんだ、窓かにゃー」



◇◇◇


「ほれほれ、もっと攻撃せんか!」


白騎士が大剣を振り回している中、紙一重でひょいひょいと鬼姫が避け続ける。


「どこを狙っとる、ほれ、右じゃ右」


 鬼姫は思い切り足に力を込め蹴飛ばす。

 蹴飛ばされた白騎士は民家を三軒破壊して静止する。


すると鬼姫と白騎士に壊された家に帰ろうとしていた見た目30代ぐらいの男が鬼姫に向かってくる。

その顔は驚きつつも怒っていると言った感じだった。


「おい!どうなってるんだ……俺の家が……家がバラバラじゃないか!」


 男が声を荒げる、至極当然の反応である、ただ家に帰ろうとしたら和服の少女と白騎士に家を破壊されたのだから。


「すまんのぅ、後で治してやるからちと離れてくれんかの?」

「人の家壊してそれはないだろ!」


 男が鬼姫に向かって叫んだ瞬間吹き飛ばされた白騎士が斬りかかる。

「ヒェ……アレ……生きてる?」


 振りかざされた大剣を軽く掴み止める。


「言ったじゃろ?離れてるんじゃな、死ぬぞ?」


 男は驚きつつも走り去る。


「さてと……」


 鬼姫は2本の角を生やし不良のように関節を鳴らす。

 白騎士は余裕そうな鬼姫に向かって飛びかかろうと距離を詰めるが、斬りかかる前に見事な蹴りによって上空に打ち上がる。

 打ち上がるった白騎士に間髪入れず鬼姫は飛び上がり嵐のようなラッシュで畳み掛けさらに上へ飛ばされる。

 次の瞬間白騎士は地面に叩きつけられる。

 鬼姫が『風』と書かれた札を足場にし白騎士を蹴り落としたからだ。

叩き落とされた白騎士はなんとか立ち上がろうとするが鬼姫から受けたダメージのせいで立ち上がれないでいる。


「久しぶりに楽しい戦いじゃったぞ」


 鬼姫は白騎士の頭を掴み力を込める。

 頭を潰された白騎士はゴキブリのように暴れダランと静止する。



 ふと鬼姫は周りを見渡し気付く。


「……調子に乗りすぎたのぅ、後片付けが大変じゃのぅ……」


◇◇◇


 白蛇に麻痺していた痛覚が戻り激痛が走る。

(あ……あぁ痛い……というか下半身の感覚が全くない……どうなってるんでしょう)

 コンクリートに寝そべった状態の白蛇は自分の体に視線を移す。


「あぁ……ぁ……」


声が震える。


 何も無い、そこには何も無かった。

今まであった足も手も白蛇を守っていた木刀も。

そこには血溜まりしか無かった。

 今まで生きていた中で間違いなく一番のダメージだ。

体を見た時の恐怖と木刀がないことへの不安が白蛇を包み込む。

 幸いな事にレミは音で白蛇を探していたらしい、フルバーストとほぼ同時に下に飛び移ったので爆音で音がかき消されたのだろう。

時間はまだ十分にある。


(傷は……治るんでしょうか……そんな事を考えても仕方ないですね……そもそも今の状況から勝てるんでしょうか)


 今できる事を思い出し考える。

自分の持っている力と言えば再生能力と刀を使える腕前と多少の格闘術、しかしフルバーストというわけのわからない技があるせいで近づけば死ぬ。

……というか位置がバレれば死ぬ。


(何か木刀もないですし……再生も即死させられれば意味ないですし……再生?そういや俺の再生ってなんで使えるんでしたっけ?)


「隠れてにゃいで早く出てくるんだにゃー」


 上の階からレミの声がする。

 白蛇の右手はまだ治りきっておらず筋肉や骨が所々見えいる。

 そんなボロボロの右手に魔力を込める。

 するとそこからダガーを持った高さ1mほどの骸骨が生まれる。

 忘れていた力、白蛇はネクロマンサーだ。


(そういや俺こんな事も出来るんでしたね)


 そんなことを考えながら意識を骸骨達に集中する。

 すると頭の中に複数の視界が流れこむ。

 まるで大量の監視カメラの映像を大きな画面で見ているようだった。

 だが不思議と頭は疲れないし全ての視界を把握できる、おそらくこれもネクロマンサーになってしまったことに関係するのだろう。

 白蛇は骸骨達をレミの方に向かわせる。


「ここから逆転ですよ」


 間髪入れず骸骨を生み出し送り込む。

 作戦もクソも無いゴリ押しだ、鬼姫が相手なら生産が間に合わなかっただろう。

(この戦いが終わったら兵法などを学んだ方が良さそうですね)

 迫りくる骸骨の波はまるでゾンビ映画のワンシーンのようだった。


「うっわにゃにこれ!すごい数」


 骸骨を送り込んだ上の階からレミの驚く声と銃声が聞こえる。

 レミの銃撃により頭を粉砕された骸骨の視界が消えていくが白蛇が骸骨を生み出すペースの方が早い。

 レミはハンドガンで弾幕を張りながらもじりじりと後ろに下がっていく。

そんな姿が骸骨を通じて白蛇の頭に入ってくる。


「勝ちましたね」


 白蛇は勝ちを確信する。

 傷だらけではあるが魔力はまだ有り余っている。

 つまりまだまだ骸骨を生み出せ続けられる余裕がある。

 生産もレミの消費よりも早い、ここから導き出される答えは勝利だ。

 どっと今までの疲れが回ってくる。

(ここで気を抜いてはいけませんね、とりあえず無力化するかとどめを刺すかしないとですね)



「うわ!まだくるのかにゃ⁉︎」


 ーー次々と迫り来る骸骨。倒しても倒してもジリ貧。

 

「……これは、ちょっとマズいことになったにゃ」


 この白蛇とかいう男はまだ前座。

 本当の目的は鬼姫。こいつに割いてやる時間はこれっぽちもないのにゃ。


 「っていうかやつはどんだけ魔力持ってんだにゃ……ッ⁉︎」


 今のところ順調に追い詰めて勝っているはずにゃ。それにいま骸骨を相手にするこのハンドガンだって一発も外れていにゃいのに。しかしまったく減っている気配のにゃい目の前の敵。

 そこでようやく、自分が思っているより焦っていることに気付いた。


「ーーッ!あまり時間をかけると鬼姫が戻ってきてしまうの……にゃッ!」


 倒し損ねて、起き上がりかけた骸骨に刺さるは一発の銃弾。

 本当にこれ、どうやって抜け出せばいいのにゃ……⁉︎

 あぁ!もう最悪にゃ、作戦にゃんてどうでも良い生きて帰ることを最優先にするにゃ。

ポケットから黒い塊を取り出す。

見た目は白騎士を呼び出したものとよく似てはいるがドス黒色に染まっていた。

「ねぇ、白蛇くん見てるかにゃー?あの化け物じみた鬼をあんにゃ白騎士一体で処理出来ると思ってたかにゃー?鬼姫を殺す切り札、君に使うにゃーここまで追い詰めた君が悪いんだにゃー」


レミは黒い塊を放り投げハンドガンで射抜く。


「生物が操れる中で最強の人型魔物だにゃー。名前はアレス」


筋骨隆々でカブトに籠手の半裸、首にはドクロにネックレスを巻いた戦闘民族のような見た目で2本のククリナイフのような曲がった剣を持つ魔物だ。

アレスは出現した瞬間に黒いオーラを放つと骸骨達は砂のように崩れ落ちていく。


「そんにゃ雑魚じゃアレスの前にすら立てないにゃー」


アレスはゆっくりと階段を降り白蛇の方に近づいてくる。

(ヤバいですよあの存在感、間違いなく戦ったら死にますね……早く鬼姫が来てくれないと)

 白蛇は治ったばかりの足で立ち上がり走り出す。だがアレスは逃げることを許さない、音速を超える速度で白蛇の前に立つ。

 すれ違いざまに白蛇を切らなかったのは遊ばれているからだろう。

カブトに覆われた隙間から見える血走った目がどこか笑っているように見えた。アレスが2本の剣を振り上げる。

 この剣が振り下ろされた瞬間白蛇は死ぬのだと感じる。


「鬼姫、助けてください!」


 もう、どうにでもなれと白蛇は叫ぶ。

2本の剣が天高くから雷のように振り下ろされる。








が、それは白蛇の頭に触れることなく金属音と火花を散らす。


「お主よ、すまんの、遅れた」

「遅いですよ!あと数秒でも遅れていたら俺死んでましたよ!」

「主役は遅れて来るもんじゃよ、後は妾に任せて下がっとれ」

「はい、任せましたよ」

「うむ」


白蛇は10メートルほど距離を取る。

 先に動いたのは鬼姫だった。

 超音速起動の戦い、それの戦いは白蛇ですら目で追うのがやっとだ。

アレスは2本の剣を振るたびにコンクリートの壁が崩れ落ちる。

 何度か刃を交え火花を散らし、4度目の接触で鬼姫が空中でアレスの腹を蹴飛ばしアレスは壁を三枚ほど砕き静止する。

鬼姫は綺麗に着地し刀を納め目を閉じる。

 抜刀術の構えだ。

 抜刀術とは刀を鞘に収める事で相手に間合いを読まれにくくかつ、鞘を滑らせる事で威力も上がる、だが抜刀術を放ったあと隙ができる諸刃の剣のような技だ。

 蹴飛ばされたアレスは起き上がり剣を構える。

 鬼姫が目を開くと2本の角が生える。

 アレスは地面を蹴り消える。

それと同時に鬼姫も消えた。刹那二人がすれ違い、動きを止める。

数秒後アレスの右肩から血が吹き出る。


「ほう、首を狙ったんじゃが避けたかの、運のいい奴め」

「ウォオオオオオオオ!!!!」


 アレスが叫ぶと右肩から吹き出ていた血が止まり傷が塞がる。

鬼姫が陽炎のように歪み増える。

速さにモノを言わせた分身だ。

その分身が同時にアレスに斬りかかる。

アレスは回転し分身を切り刻む。

だがアレスには防ぎきれずに。細かい切り傷が増えていく。

鬼姫の分身が一人になりさらに鬼姫は加速する。

アレスはその場に止まって飛び交う斬撃を受け流す事しか出来ない。


「そろそろ終わりにしようかの」


そう言い鬼姫は刀に黒い炎を纏わせアレスに斬りかかる。

アレスはそれを2本の剣で受け止めるが『黒炎』は剣ごとアレスを焼く。

アレスはなんとか火を消そうと暴れるが消すことはできず灰となって消えた。


「こんなもんで妾を殺そうとは舐められたもんじゃのぅ」



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