3話強くなれないんですか?
「クックックカカカカカこりゃ傑作じゃ」
鬼姫は石版を眺めてケラケラと笑う。
「ど……どうしたんですか?」
「最大瞬間魔力消費量が冒険者の平均の3分の1しかないんじゃ……クカカカカカ」
「そ……それって……」
「魔力量がやたらと多いくせに火力が全然無いんじゃ、まさに宝の持ち腐れじゃな」
半ば投げやりで白蛇は叫ぶ。
「どぉぉぉおおおしてだよぉぉぉぉおおおお」
「まあまあ一度落ち着くんじゃ……カカカ」
「これのどこが落ち着いていられますか!ファンタジーの世界に来て魔法が使えないとはなんたることか!」
「興奮しすぎて口調が変わっとるぞ」
「あっ……すいません落ち着きます」
そう言って白蛇は一度呼吸を整える。
「今の状況を整理すると俺は異世界に来て最上位アンデッド《ネクロマンサー》になって魔力がとんでもなく多くて不死身でこんなに最強のステータスなのに全然火力がないと?」
「そういうことじゃな」
「異世界に来た奴って強いのがセオリーじゃないんですか?」
「というかお主も能力は結構強いじゃろ」
「いや、こうなんかでかい魔法ドーンとか沢山の閃光撒き散らしながらの弾幕とかじゃないですか」
「いや魔法といえば幻術じゃろ」
「えーそうですか?」
「まあ、そんな事はどうでもいいんじゃ」
「どうでも良くはないですよ」
「じゃあこのまま魔法談義を日が暮れるまでするかの?」
「いや、遠慮しときます」
「じゃろ」
「じゃあどうやって戦えばいいんですか!」
「なんで戦う事がすでに決定条件なんじゃ?」
「そりゃ異世界に来て戦わない奴はなかなかいないですよ」
「戦争にでも行くのかの?」
「上官が怖そうなんで戦争するなら僕は魔王軍みたいな少数精鋭で鬼姫と一緒に二人で国と戦いますよ」
「妾一人でも小国なら落とせるぞ」
「俺に隣にバケモンいるんだが」
「鬼じゃからのぅ」
「でもこの世界での強さの意味ってなんですか?」
「簡単じゃ、強い奴のところには金が舞い込むんじゃ」
「なんで強いと金持ちになるんですか?」
「そりゃぁこの世界では練習すりゃ誰でも銃器以上の兵器となる、だから強い奴を金で雇うのがこの世界の基本じゃ」
「傭兵みたいな感じですか?」
「まあそんなところじゃな、あとはこの世界には魔物もおるからのぅ、強ければハンターのもなれるんじゃ」
「これこそファンタジーな世界ですね」
「そうじゃ、お主が一通り魔法の習得が終わったらギルドにでも行ってみるかのぅ」
「えっギルドなんかあるんですか!」
「この世界では一つの街に一つはあるぞ」
「へー」
「ギルドが無いとこの国の無職率がとんでもないことになるからのぅ」
「それこの国大丈夫なんですか?」
「貴族王族が金を稼いで、冒険者が金を回すそんな国じゃ」
「貴族達めっちゃお金持ってそうですね」
「貴族と上位の冒険者がこの国の85%のお金を持ってるんじゃ」
「うわーこの国やばそうですね」
「貴族や王族と冒険者との抗争がおきるぐらいじゃな」
「それやばいですよ」
「まあこの世界では強さか身分がとても大事じゃからな」
「てか俺ズバリ、強くなれないんですか?」
「まあ努力次第じゃな」
「努力って何すればいいんですか?」
「まあ慌てるな、お主よついてこい」
そう言って鬼姫は歩き出した。
◇◇◇
鬼姫に連れられ白蛇は砂漠にあるゴーストタウンに来ていた。
「ねぇー鬼姫いつまで歩くの?もう3時間ぐらい歩いたと思うんだけど……」
「もうすぐじゃよ」
「それ1時間前も言ってませんでした?」
「800年も生きてりゃ1時間なんてあってないようなもんじゃ」
「あーなるほど……てかなんかここ砂漠のクセの東京より都会じゃ無いですか?」
「ここは元々首都じゃったからのぅ」
「この誰もいない街首都だったんですか!」
「そうじゃよ、じゃがもう人はおらんがのぅ」
たしかに周りを見渡せば人どころか窓ガラスは粉々に割れビルは倒壊している。
「でもなんで人がいなくなったんですか?」
「魔物じゃよ」
「魔物ですか?」
「魔王軍が攻めてきて首都を落としよったんじゃ」
「すごいですね魔王軍これぞ異世界って感じですね!」
白蛇は楽しそうに言う
「まあそうじゃの……」
鬼姫は少しうつむく。
「どうしたんですか?」
「いや、なんでも無いぞ」
「そうですか?疲れたんなら休みましょうか?」
「たわけ、疲れておるのはお主の方じゃろ」
「バレました?」
「バレバレじゃ」
そんな他愛もない話をしながらテクテク歩く。
「ところでまだ着かないんですか?」
「この階段を上がったところじゃ」
そういうと鬼姫は高い壁に張り付いている階段を指差した。
「何ですかこの壁というか城壁?50メートルはありますよ」
「この壁は城下町を守るための壁じゃ」
「じゃあさっきまで歩いていた町はなんですか?」
「あれも町じゃが普通の国民が住んでたんじゃ」
「じゃあ壁の向こうはどんな所なんですか?」
「そりゃ安全なところに住みたい貴族や上位の冒険者、皇族なんかがすんでおったのぅ」
「なんかそれ酷く無いですか?」
「この国の上層部はみな金と自分のことしか考えておらんからのぅ」
「この国ほんと大丈夫なんですか?」
「反乱が起きまくってる国じゃからのぅ」
「なんかこの国もうダメじゃ無いかな」
「そうじゃのぅ」
「近くで見るとこの階段結構長いですね」
「これしきのことでへばるんじゃないぞ」
「えー」
少女と高校生が急な角度のオンボロ階段を上る。
「ほれ、まだまだあるぞ頑張るんじゃ」
「これ、僕は鬼姫と前の世界で戦ってたからいいものの一般人は登れませんよ」
「長い階段なんぞ日本には何処にでもあるじゃろうに」
「今の時代どこでもエスカレーターかエレベーターが付いてますよ」
「たしかにそうじゃな、一応人が居ところにはテレポーターがついておったんじゃがのぅ」
「そんなのもあるんですか!」
白蛇のテンションが上がった。
「魔法がある世界じゃからのぅ」
「じゃあそれ使いましょうよ」
「それが動けばもう使っとるわ」
「えっ?動かないんですか?」
白蛇のテンションが下がった。
「魔力が切れとるんじゃ」
「魔力が切れるってどう言うことですか?」
「この世界ではの、魔力を特別な石に込めて電池のようにして機械を動かしとるんじゃ」
「魔力の汎用性めっちゃ高いですね」
「まあこんな魔力の使い方しとるのはフィーレメント帝国だけじゃがのぅ」
「でも魔力が切れてるだけなら充電できないんですか?」
「出来ないこともないがのぅ、妾の魔力の3分の1ぐらい持ってかれるからのぅ」
「それでも鬼姫の魔力ってすごい量あるんだよね」
「そうじゃ」
「テレポーターってどんなけ魔力使うんですか」
「物体を生きたまま瞬間移動させるのは難しいんじゃ」
「えー、結局階段登るしかないんですね」
「うむ、そうじゃな」
「もうそろそろ上が見えて来ましたね」
「もうすぐ登り終わるのぅ」
「マジでこの階段作った貴族と皇族は絶対ぶっ飛ばす」
「もしそうなったら面白いんじゃがのぅ」
「じゃあ当面の目標は強くなって王族と貴族をぶっ飛ばすでいきましょか?」
鬼姫は呆れて一言
「お主バカじゃろ」
「バカとは結構ストレートですね」
「ほれそんなこと言っとる間に頂上じゃ」
「風強ッ!……わぁ!景色キレー」
「金持ちしか住めんかった町じゃからのぅ」
「もうリゾート地ですね」
「もうここに人が住めないのが勿体無いのぅ」
「ここ人住めないんですか?」
「魔王軍の幹部ベルの部隊との戦闘で魔力が溜まりすぎたんじゃ」
「魔力が溜まり過ぎるとダメなんですか?」
「魔力が溜まり過ぎると魔物が沸くんんじゃ」
そう言って鬼姫は地上を指差す。
「お主よあれが見えるかのぅ」
「何ですかあれ……でかいサソリですか?」
「そうじゃあれが魔物じゃ」
「あれが魔物ですか……なんか気持ち悪いですね」
「まあ、あんなのが湧いてくる町には誰もすまんからのぅ」
「そりゃゴーストタウンにもなりますね」
「まあここなら多少派手に暴れても誰も文句なんぞ言うまい」
「確かにそうですね」
「じゃあここから下りて魔法の練習じゃな」
「そうですね、でもどうやって降りるんですか?階段なさそうですよ」
「お主よちょっと下を覗いてみるんじゃ」
「分かりました……でも高いとこ苦手なんですよね」
「まあまあ騙されたと思ってやってみるんじゃ」
白蛇は城壁の上から地面にを覗き込む。
「うおっ……高ッ!」
鬼姫は悪戯っぽく笑い後ろから白蛇を押す。
「あっ……」
白蛇は重力が無くなる瞬間を感じた。
「うおぉぉぉぉぉおおおおおお死ぬぅぅぅぅぅぅぅぅううううう」
風が頰をものすごい速度で通り過ぎる。そしてどんどん地面が近ずいてくる。
ゴキッという鈍い音とともに地面に激突する。痛い。意識が飛びそうなほどの激痛と衝撃が全身に走る。
「あががが」
痛みで言葉が出ない。微温い液体がべっとりと身体中に触れる。腕がちぎれて胴から離れる。まるで赤く染まってしまったお好み焼きのように体が潰れてしまっている。
壁の上から鬼姫が問いかける。
「おうおう、お主よ大丈夫かの?」
「がぁぁあ、な……なんで」
「お主よ体をよく見てみるんじゃ」
白蛇が体に目をやると千切れたはずの腕が体に近ずいて引っ付いてスゥと痛みが消える。
「こ……これは」
「これがお主の力じゃ」
よッ!その掛け声とともに鬼姫が城壁から飛び降りる。
「うおっヒーロー着地」
パンパンと和服についた埃を払いながら鬼姫が話し始める。
「いいかの、お主よこのぐらいの衝撃やダメージでは絶対死にはせんぞ」
「確かにそうですね……でもそれ言ってくれれば良かったんじゃないですか?」
「まあ……そうじゃのぅ」
これ、悪戯しようとしたら本当に落ちたなんて言えんのぅここは何か話しを変えねば。
「でも自分で言うのもあれですけどバラバラになっても1分経たずに再生とかめっちゃ強いですね」
「確かにこの再生速度でほとんど疲労がないってどんな体の構造しとるんじゃ」
「これって疲れるんですか?」
「いいかお主よ、アンデッドはのぅ体のほとんどが魔力でできとるんじゃ」
「そうなんですか?」
「そうじゃのぅ……一度胸に手を当ててみるんじゃ」
そっと白蛇は胸に手を当てた。
(なんだ、何かがおかしい、いつもと感覚が違う……こう何か足りないような……)
「何かわかったかのぅ?」
「なんか足りない感じがするんですよ」
鬼姫はにやりと笑い一言
「心臓じゃないかのぅ?」
「それだ!心臓がないんだ!」
「そうじゃろ」
「すげーなんかこの感覚不思議ですね」
「お主の体は今魔力でできとるから血液を循環させなくてよくなったんじゃ。だから心臓が止まっとるんじゃ」
「なんか悲しいですね」
「そうかのぅ同じユウスケって名前の漫画でも終盤に心臓がとまっとったじゃろ、悠介と幽助じゃからまあ大丈夫じゃろ」
「レイガン使えないですよ」
「まあそう言うわけでお主の体は魔力でできとるんじゃ、そして体を再生するには魔力がいるんじゃ」
「魔力を使うとどうなるんですか?」
「お主の体はさっきも説明した通り魔力でできとるんじゃ。つまり魔力が減ると体の構成成分が減るということじゃ」
「じゃあ体を再生させまくれば身長が縮んじゃうんですか?」
「その前に死ぬぞ」
「それマジですか?」
「マジじゃ、まあ気にすることないがのぅ」
「なんでですか?」
「お主の魔力量はこの鬼の妾の8倍とかいうインフレにインフレを重ねたソシャゲの域じゃからのぅ」
「じゃあいくらでも再生できるんですか?」
「6時間ぐらい妾にバラバラに切られ続けても多分大丈夫じゃろ」
「不死身じゃないですか、それ」
「体が跡形もなく吹っ飛ばない限りは不死身じゃのぅ」
「これでこそ異世界ってもんですよ、ここから俺の時代が始まるんですね」
「まあ魔法の使えんお主ならこの世界の10歳児、まあ小4ぐらいの餓鬼にも殺されると思うぞ」
「この世界のガキですら一般人を跡形もなく消し飛ばせるほど強いんですか?」
「まあ強さか家柄がすべての世界じゃからのぅ」
「じゃあ異世界での俺つえーライフはできないんですか?」
「まあ妾が教える魔法をちゃんと習得できれば結構いいところまで行くかものぅ」
「マジすかそれ!」
「お主よ多分忘れておるじゃろうが、お主は冒険者の平均の3分の1ぐらいしか火力が無いからのぅ守りメインじゃろうな」
「異世界に来たのに守りメインってなんか悲しいですね」
「まあここに人はおらんからのぅ、今から魔法を少し教えてやるとするかのぅ」
「今からですか!」
「不服かのぅ?」
「いえ、よろしくお願いします」
「じゃあ早速始めるとするかの」
今回はちょっと解説と白蛇くんと鬼姫さんの雑談多めになりました。