第8話 朝の教室とホームルーム
「う……ん……」
カーテンの隙間から柔らかな朝日が差し込む。私は半分眠った頭で、上半身を起こすと置き時計に手を伸ばした。時刻は6時。朝の食堂は6時半から8時まで開いている。だからまだ時間に余裕があるのだが……私はベッド出ると目を覚ますため、シャワールームに向かった。
「おはようございます! ……あれ?」
「あら、おはようミシェル」
朝6時半。
まだ食堂には他の生徒は誰も来ていない。
「朝早いんだね」
「ミシェルもね。まったく……他の生徒たちはだらしないわね」
私は欠伸を噛み殺しながら言った。
ミシェルの朝は早い。辺境の村で暮らしていた彼女は、日の出と共に活動を開始して、日が暮れると眠りについていたらしい。
だから、彼女はこの時間になるともうとっくに活動を開始している。それこそ最初の頃は学園生活のリズムに慣れるまで、夜の時間はほとんど筏を漕いでいた。その仕草に私の胸はきゅんきゅんと高鳴りっぱなしだったけどね。
とりあえず、注文カウンターまで行くと私は魚の定食を頼んだ。ミシェルはそれに続いて同じメニューを注文した。それから昨日と同じテーブルに座る。他愛もない会話を交えながら朝食を口に運ぶ。
こうしていると、私に起きた今の状況がまるで嘘のように感じられる。だけど、それは違う。目の前で食べているミシェルとの信頼関係は、昨日、一度白紙に戻っている。
彼女はとても人当たりが良くて物怖じしないから、すぐにでも仲良くなれたが……8ヶ月という長い月日で培った思い出はもう彼女の中には──ない。
「ごちそうさま」
朝食を食べ終えた私は、そっと箸を置いた。
◇
「アラン様! おはようございます!」
「おはよう、みんな」
時刻は8時半。教室のドアから入ってきたアランにクラスの女子たちが群がる。
アランは少し照れた様子で、笑顔を浮かべていた。
実に爽やか。実にイケメンである。そりゃ女子がほっとかないでしょうね。私は興味ないけれど、ほとんどの女子は彼に微笑まれたら、一発で陥落する。それくらいのスペックは余裕で感じさせる。
その彼が周囲を見回すと……私と目があった。私は少し……躊躇ったが、彼は嬉しそうに手を振ってきた。仕方なく私も微笑を浮かべて手を振り返した。
彼に群がった女子たちの視線に集まる。
さらに彼は自分の席に戻らず、なぜか私の席までやってきた。
「もう体調は大丈夫なの?」
「……はい。おかげさまで。先日は助けていただきありがとうございました」
「いや、僕は何もしてないよ」
「いえそんな……」
十分すぎるほどやってくれましたよ。
その証拠に周囲がざわざわと騒がしいでしょ?
これがただのクラスメイト同士の挨拶だったら、こんなことにはならない。
「あの方は……?」
「ほら、フレイム侯爵令嬢の──」
「昨日、大食堂の前でアラン様に抱きかかえられてたとか……」
「……あれから二人でどこかに消えていったらしいわよ」
うふふ。超迷惑。
関心の中心にあるアランはまるで気にしていない。
そういうところよ? アラン。
それから、アランは自分の席──窓際の一番後ろにあるミシェルの席の隣に座った。
どうやらミシェルにも挨拶しているようだ。
ミシェルは王族であるアランに遠慮しているのか、それとも王子様ということに憧れを感じているのか、少し浮かれている様子だった。
だめよ、ミシェル。
アランは良い人だけどただの天然ドジっ子だから。
騙されないで。
◇
それからしばらくすると、担任教師のダニーが教室に入ってきた。
彼はみんなの前に立つと、
「今日から一年君たちを受け持つことになった担任のダニエルだ。よろしく」
折り目正しく挨拶を済ます。こうしてみると彼も真面目な好青年だ。周囲のクラスの女子から好奇の視線が寄せられているのが感じられる。
私はミシェルの反応が気になって、後ろをちらりと覗き込む。案の定、少し目を輝かせている。私の視線に気がついたのか、彼女が声に出さずに口パクで言葉を伝えてきた。
かっこいいね!
だめよ、ミシェル。
ダニーは好青年に見えるけど、中身はただの世話焼きおばさんなんだから。
騙されないで。
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