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第7話 事務室と小鳥

 雷鳥の魔法を放った彼女の名前はミオ。

 南東の国境沿いにある城塞都市を収める城伯の一人娘だそうだ。


 些細な小競り合いから女生徒達と口論になり、辺境出身者を侮蔑するような差別的発言にキレたらしい。学園内の喧嘩に魔法はご法度、裁判沙汰になることを伝えたら全員、顔を青くして震えていた。


 その場には、寮母も立ち会ってくれた。

 そして、寮母は私に彼女らの処遇を一任させてくれると言ってくれた。この場では侯爵令嬢である私が一番高位であることからの配慮だろう。流石に場慣れしている。


 手に余るようなら先生方にお任せするとも言ってくれたが、私が対応するからと伝えると、事務室を出て仕事に戻っていった。


 ミオと口論していた女生徒達には「次、目障りな真似をしたら潰す」と告げると首を激しく縦に振って部屋に帰った。人相の悪さは自覚してるけど、こう言う時は手間が省けてとても便利ね。


 そして、事務室に私とミオだけが残された。ちなみに、ミシェルは先に自室へ返している。


「さて……」

「ごめんなさい」

「あなたに聞きたいことがあるの……」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい、殺さないでえ!」

「……少し黙りなさい」

「ぴぃ!」


 鳥みたいな鳴き声を上げるミオ。

 怯えているのか、さっきからずっと小さく震えてる。

 嗜虐心がそそられる。

 ちょっと苛めたくなるが、まずは聞くことがある。


「あの雷の鳥の魔法。どういった魔法だったの?」

「……」

「喋っていいわよ」


 どうやら私のさっきの言いつけを守っていたらしい。

 ちょっと彼女が気にいってきた。

 ミシェルには内緒で……私のものにしようかしら。


「……その、雷属性の攻撃魔法で……当たるとビリってします」

「ふーん。私に当たって消えたけど、それはあなたが仕組んだの?」

「え? いえ、そんなことできないです。フレイム様が打ち消したんじゃ……」

「──そうね」


 やはり私が打ち消したのか。

 ミオが喧嘩相手を脅かすために、見せかけの魔法を放った可能性がこれで消えた。

 ちなみに私は魔法もなしに、彼女の魔法を打ち消す手段は持っていない。

 ということは──。 


 私は左手に視線を下ろした。

 左手首にはミシェルがくれたブレスレットが巻かれている。


 あの時、雷鳥を打ち消した後、このブレスレットが銀色に淡く光っていた。

 信じがたいけど、このブレスレットが魔法を打ち消したのかもしれない。

 でも、本当にそんなことが……?


「……確認する必要があるわね」

「?」

「あの魔法をもう一度私にうちなさい」

「えええええええええ!?」

「さっさとする。魔法学園を追い出されて路頭に迷いたいの?」

「……や、やらせていただきます! で、でも……」


 この期に及んでまだ何かに躊躇うミオ。

 あなたに選択権なんてないのに……ああ。


「わかってるわ。この件であなたが不利になることはない。食堂での無礼も訴えないでいてあげる。それでどう?」

「は、はい! それなら……」


 まあ、あなたは面白そうだから逃がさないけど。

 ミオは右手を私に向けると、その手に魔法の光が宿る。


「い、いいんですか? 本当に大丈夫ですか?」

「どうぞ」


 えい! っとミオが小さく気合を入れると、彼女の手から先ほどと同じ雷の鳥が顕現する。その鳥は一直線で私に飛来した。


 可愛らしい見た目とは裏腹に、その危険性はとても高い。ミオは「ビリっとする」とか控え目に表現してたけど、実際はもっと悲惨な結果になる。それが攻撃魔法というものだ。


 対魔法というものは存在する。でも、自動的に攻撃魔法を防いでくれる装飾品なんて聞いたことがない。存在するとしたら、それは──国宝級のマジックアイテムだ。そんなものがこの場にあるなどありえない。でも……。


 私は左手を雷鳥に伸ばす。

 すると──。


 パンッ!


 と、食堂の時と同じように雷鳥は霧散した。

 

「す、すごいです!」


 ミオが驚嘆の声を上げる。それはそうだ。

 魔法抜きで魔法をレジストするなんて通常はありえない。

 奇蹟に近い所業だ。


 私はブレスレットを確認する。

 やはり銀色の淡い光を放っている、これで確定だろう。


「そ、そのブレスレット。何かのマジックアイテムですか……? あんなに魔法を簡単にレジストするなんて聞いたことないです……それはもしかして伝説の──」

「愛の力よ」

「伝説の……え? 今なんと……?」

「愛の力よ。ミシェルの愛が私を守ってくれたのよ」


 確信した。

 ブレスレットに込められたミシェルの私に対する愛が、危険な魔法から私を守ってくれたことを。絶対にそうだ。間違いない。私は左手を頬に寄せるとブレスレットに頬摺りをした。ああ……なんて愛しい存在なの、ミシェル。離れていても私を守ってくれるなんて。


「あ、あの……フレイム様……?」

「ああ、まだいたの。もう帰っていいわよ。ご苦労様」

「ほ、本当ですか!? やった……!」


 何がそんなに嬉しいのか。

 目に涙を浮かべながら歓喜の表情を浮かべるミオ。


「用ができたらまた呼ぶから」

「えっ!?」


 そして私の一言で、その表情が凍りつくのだった。


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