第5話 職員室と眼鏡先生
「アリーナ君ではありませんか。体調はもう大丈夫ですか?」
「はい。ご心配をおかけしました」
職員室の一番窓際の席に座っていた担任に声を掛けた。
担任教師の名前はダニエル。
ダニーという愛称で親しまれている。
癖っ毛にまん丸眼鏡の人懐っこい雰囲気。
母性を刺激する、どこか頼りないタイプの眼鏡キャラ。
同じ眼鏡キャラでもエリアスとは真逆だ。
さて、どう切り出そう。
そういえばダニーにも私が医務室に運ばれたことが伝わっているのね。
少し顔が赤くなる。
冷静になるのよ、そのおかげでミシェルが見舞いに来てくれたのだから。
プラマイでプラよ。
そうだ、この件……使えるかも。
「そういえば、先ほど体調が悪くなった時に親切にしてくださった方がいらっしゃるのです」
「アラン君のこと?」
「いえ、女性の……銀髪の少女です。お礼をしたいのですが、名前を聞きそびれてしまいまして」
「なるほど。学年はわかる?」
私たちは支給された制服を着用している。
首元のリボンの色で学年を識別できる。
今年の1年は赤。2年が緑。3年が青だ。
銀華祭でみた銀髪の少女はコートを着ていた。
それに彼女の手元に意識がいっていたので、他はうろ覚えね。
顔もすでにおぼろげになっている。
印象が残っているうちに彼女の特定を急いだ方が良さそう。
「わかりません。何か、顔と名前がわかる名簿はありませんか?」
「あるよ。見るかい? 持ち出しは厳禁だけど、僕の前で見るなら許可するよ」
「はい。お願いします」
そういうとダニーは分厚いアルバムを机の袖机から取り出した。
全部で三冊。
それぞれに各学年の生徒の情報がまとまっているらしい。
とりあえず……2年から調べてみよう。
幼い感じがしたので、1年かもしれないと思ったが、同学年だったら見覚えがあって不思議じゃない。
だから2年生から調べることにした。
「……」
ペラ、ペラ……とページをめくっていく。
魔法学校には各領地から魔法の素質がある者、優秀な者、爵位を持つ貴族のご子息、ご息女が集う。だから、生徒数は意外と多く、全体で1000人は在校している。つまり1学年に300人くらいの生徒がいる。
男女比はほとんど1:1だから150人。頭髪のバリエーションは豊かだ。金髪と茶系が多い。ついで銀髪。あとはその他。そうなると1学年に銀髪の女子は……40人くらいか。
2時間もあれば全学年、調べることができそうね。見間違いを考慮して、一応銀髪は全員頭の中に入れておこう。下校時間ギリギリになるけど、間に合わなければまた明日。でもなんとか今日中に終わらせたい。
「……お茶、入れようか?」
「大丈夫です」
ぺら……ぺら……。
「……お腹空かないかい?」
「……大丈夫です」
ぺら……ぺら……。
「……暑くない?」
「…………大丈夫です」
……ほっといてくれたらいいのに何かと世話を焼きたがる。
まるで田舎のおばあちゃんみたいだ。
そのうち漬物でも出してきそう。
私はやんわりと断りながら、ページをめくっていく。
◇
「いた」
「お、見つけられたかい?」
やはり2年で正解だったみたいね。
銀髪のショートヘア。幼い顔立ち。背は私より低い。
あの夜に抱いた印象に近い人物だ。
もちろん間違っている可能性もある。
でも、その時はまた調べにくればいい。
「ああ、この子か」
「ご存知なんですか?」
「図書委員をしてるよ。放課後、図書室に行けば会えると思うよ」
ダニーは一見頼りないけれど、記憶力が凄まじい。
一度見たものは、ほとんど忘れないと豪語している。
実際にゲーム中も記憶力を試すイベントがあって、ミシェルを驚かせていた。
その彼が言うのなら間違いないだろう。
早速、明日の放課後、図書室で彼女に会いたい。
そうすれば、今、私に何が起こっているのかわかるかもしれない。
私は手に持ったアルバムに力をこめた。
よければ評価、ブックマークを頂けると更新の励みになります。
何卒、よろしくお願いします。
お盆の週は連日更新予定です