第4話 医務室と白衣眼鏡
加筆修正しました。(2018/8/18 22:20)
なにやら人の動く気配で目が覚めた。
レースのカーテンの隙間から差し込む光が眩しい。
まだ日が出ているようだが、どれくらい眠っていたのだろう。
私はゆっくりと上半身を起こした。
両手を上げて、んっ、と軽く背伸びをする。
……固まった背中の筋肉が少しほぐれて気持ちいい。
「起きたのか?」
「あ、はい」
レースのカーテン越しに男性の声が聞こえた。
知性を感じさせる凛とした低い声。
かつかつかつ、と革靴の乾いた足音が近づいてくる。
しゃっ、と勢いよくカーテンが開かれた。
そこには黒縁メガネの白衣を着た男性がいた。
彼の名前はエリアス。
涼しげな目元はどこか他人を見下している印象を受ける。
が、実は勉強のしすぎで目が悪いだけで、本人は目つきが悪いことを少し気にしているという、ほほえまエピソードを読んだことがある。
「おい、ツラをもっとよく見せろ」
「あ、はい……!」
エリアスはそう言うと、ぐいっ私に顔を近づけた。
ち、ちかい……!
普通に息をしたら呼吸が当たる距離だ。
そういえば、このシチュエーションどこかで見覚えが……そうだ!
ゲーム中で、ミシェルが医務室でエリアスに介護されるシーンだ。
ミシェルも頬を赤らめて困惑していたけど、確かにこれは──困る!
眼鏡の奥にある彼の目がすっと細くなる。
「妙だな……脈拍がどんどん上がっていく」
ミシェルの右手が私の首に触れる。
そこで脈を測っているらしい。
なんでそこで測るのっ?
左手首で測れば良くないっ!?
「む……診察で息を止めるな、馬鹿者」
「いたっ」
私が呼吸を止めていることに気がついたエリアスは私の頭を小突いた。
別に痛くないけど、理不尽すぎる。
「ただの心労だろう。入学式にはたまにいる。歩けそうになったら、帰って早めに休め」
「……ありがとうございます」
彼はそういうと自分の机に戻った。
キィ、と椅子がきしむ音。
それから、コーヒーを口に運ぶと本を片手に読書を始めた。
私も深く息を吐いた。
それから外を見ると、まだ青空が広がっていた。
柱に飾られた時計を見ると時刻は3時過ぎ。
どうやら2時間くらい寝ていたらしい。
おかげで頭もスッキリした。
医務室まで運んでくれたアランには感謝しないと。
エリアスの言う通り、心労で倒れる直前だったと思う。
今度、アランの好きなパフェでもご馳走してあげよう。
この情報はゲームでも極秘事項だから、きっと驚くはず。
その様子を想像して、私はくすっ、と笑った。
さて、なんか余裕もでてきたし、暗くなる前に調べごとを済ませておこう。
私はベッドから出ると、靴を履いた。
「いくのか?」
「はい。ありがとうございました」
「アランにも礼を言っておけ。それと……ミシェルという子も」
「ミシェルも?」
「医務室に運ばれた君の噂を聞いて様子を見にきたよ」
「──!!」
「ん……どうした? 急に顔色が良くなったな」
「な、なんでもないです。失礼します!」
「ああ、お大事に」
私はそういうと医務室を出た。
ピシャリと、扉を閉めると壁にもたれかかった。
ミシェルが見舞いに来てくれた。
まだ会話も碌に交わしていない、見ず知らずの私のために。
それだけのことで、嘘みたいに心が軽くなった。
思わず口元がにやけてしまう。
これもアランが人目もはばからず、医務室に私を運んでくれたおかげ、ということにになるのかな。
だったら、死ぬほど恥ずかしかったお姫様抱っこも笑って許せる気がする。
今度、パフェでもなんでも好きなだけ奢ってあげるとしよう。
私は軽い足取りで職員室に向かった。
──よし、調査開始だ!
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