第3話 医務室
加筆修正しました(2018/8/17 22:00)
大食堂から5分ほど歩いたところに学生たちの学び舎がある。
医務室はその1階。
教室と同じくらいの広さに担当医が一人常勤している。
「失礼します」
がらがら……、とアランは医務室のドアを開けた。
普段は担当医がいる机の前に、誰も座っていない椅子が放置されていた。
留守らしい。
そして医務室の奥にはベッドが3つ用意されている。
今は誰も利用していないようだ。
「しかたない。担当医には後から説明するとして、先にベッドを借りよう」
アランはそういうと、私を一番奥のベッドの上に丁重に寝かせてくれた。
アランのおかげで私の精神は昏倒寸前だった。
何人の生徒に医務室へ運ばれる姿を見られたか、わかったもんじゃない。
途中から他の生徒たちの視線に耐えられなくなった私は、ヨガで習った瞑想に耽ることで精神の崩壊をかろうじて免れていた。
「大丈夫?」
「はい……おかげさまで」
アランの心配そうな表情を眺めていると、どこか安心する。誰も私を覚えていなくても、アランは相変わらずアランなのね。
「先生を探してくるよ」
「大丈夫。貧血みたいなものだから……少し横になれば治ります」
「でも……」
「担当医もすぐ戻ってきますよ。それほど長く席は外さないでしょうし……」
「……そうだね」
アランは納得した様子で頷いた。
「では、私は寝ます。色々とありがとうございました」
「……うん。おやすみ」
「おやすみなさい……」
瞼を閉じると視界が闇に覆われる。
今はただ……何も考えずに眠りたい。
ただそれだけだった──。
が、なんか視線を感じる……?
「……」
「……」
「……」
「……」
「……あの」
「どうしました?」
「申し上げにくいのですが、そんなに見つめられると眠れないです……」
「あっ、気が利かなくてごめん!」
慌てた様子でアランは謝罪すると、そのまま医務室のドアに向かった。
「それじゃ、お大事に」
がらがら……パタン……とドアが閉まる。
アランは抜けているところがあるけれど、本当に純粋だ。
友達思いで紳士で女性に優しい。
絵に描いたような王子さま。
再び瞼を閉じる。
と、銀華祭の夜に見た不審な銀髪少女の姿が思い浮かんだ。
『やっぱり最初は……アランって人がいいのかな。チョロそうだし』
あれはどういう意味だったんだろう。
アラン狙いの女子は山のようにいる。
彼女もその一人なのだろうか。
それに彼女が手にしていたゲーム機は一体なんだったんだろう。
見間違いではないと思うけれど、あのゲーム機に映っていたのは《祝福の鐘》だった。
そして、スチルに描かれた二人の人物はおそらく──私とミシェルだ。
まずは銀髪の少女を探し出そう。
何か分かるかもしれない。
でも……もし、彼女がアランとミシェルを貶めようとしているのなら……、悪役令嬢として私は彼女に制裁を加える必要がある。
……首を洗って待ってなさい。
必ず見つけ出して真相を暴いてみせるわ──。
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