第14話 意気投合
本棚にもたれかかりながら、肩で息をするシロ。
先ほどまで雪のように白くて美しかった頬は赤く上気していた。
私は手に持っている“100人の王子〜今夜は君と僕のパーリィナイツ〜”の第1巻に目を落とした。どうやら、いきなり彼女のウィークポイントを見つけられたようだ。どうしよう。これをネタに彼女をゆすろうかしら。うーん。
……そうね。それよりももっと上手い使い方があるわね。
「……この本」
「は、はいっ!」
「とても気に入りましたわ。紹介していただきありがとうございます」
私は頬を緩めるとちょっと照れ臭そうにお礼を伝えた。
そんな私の反応に少し安心したのか、シロは「ほ、ほんとですか?」と唇を震わせながら答えた。私は小さく頷くと、10人の男性たちが楽しそうに笑っている挿絵のページを開いた。
「特にこの男性が素敵ですね。独特な雰囲気がありながら優しそう。それでいて頼りになりそうな……」
「……ラインハルト様ですか?」
「そう。ラインハルト様」
「私も……その、好きです……」
「ほんとに? 私たち、気が合いますね」
私はさりげなく彼女の腕にそっと触れた。
先ほどまで涙目だった彼女の瞳に光が浮かぶ。
これは同志を見つけた喜びの光だ。
もちろんラインハルト様なんて全然知らない。
ただ、このページがシロのお気に入りなのはすぐにわかった。
ページを長く開いていた癖が付いていたのだ。
図書室は多くの生徒が利用するけれど、2巻を取りに来たということは、直近の1巻の読者はシロに違いない。それに、本は目につきにくい場所に隠れていた。多くの生徒に読まれるとは思えない。つまり、この癖はシロがつけた可能性が高い。
10人の中にシロが特別に好きなキャラクターがいる。あとは文学少女が惹かれそうな男性像。さらに誰でも好印象を抱きそうなありふれた言葉を並べる。
「独特な雰囲気」「優しそう」「頼りになる」
彼女の反応を確かめながら、その言葉を口にする。彼女は視線を落として、下の方にいるキャラクターを見た。さりげなくその辺りを指差すと、あとは彼女が自分の好きなキャラクターを自白してくれた。
「でも……他の人には内緒ですわね。お母様に知られたら怒られてしまいそう……」
「そ、そうですね!」
嬉しそうに何度も頷くシロ。
これでお互いの秘密が共有され、お互いの趣味も一致した──と思わせることができた。心の距離はぐっと縮まったはず。ふふふ。
「よかったらあちらで少しお話ししませんか? 私、シロさんともっと仲良くなりたいです」
「い、いいんですか? その……私もお話ししたいです!」
シロをナンパすることに成功した。
相手を精神的に追い詰めるために習得した心理テクニックをこんなことに使えるとは思わなかったけど、何事も勉強しておくものね。
読んでいただきありがとうございます。
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