第13話 図書室と秘密の本
本日の授業を終えた私は図書室の扉の前に来ていた。
ここにあの子がいるのか。少し緊張するわね。
まあ、ここにいてもしょうがないか。入ってみよう。
がらがら、と扉を開けて中に入った。
中は意外と普通だった。学校の図書室にしては少し広いかもしれないけど、滝が流れたり、妖精がいたり、ファンタジーな要素は見当たらない。どこにでもある普通の図書室。
入り口のそばには受付カウンターらしい場所がある。今は誰もいないみたいだけど。席を外してるのかしら。周囲を見渡してみるが、それらしい人は見当たらない。何人かの生徒たちが机で本を読む姿が映るだけだった。
困った。仕方ないから適当に本でも読みながら待ってみようかな。私は奥にある背の高い本棚が陳列されたスペースに向かった。
「んーっ……!」
背の高い本棚の上の方にある本に手を伸ばす小柄な女の子がいた。
「も、もう少し……っ!」
「……この本かしら?」
「えっ!?」
彼女の指先に当たっていた本を代わりにとってあげる。周りに人がいたことに気がついていなかったのか、彼女は私の顔を見ると恥ずかしそうに頬を上気させている。
ふーん。意外と可愛いわね。ミシェルほどじゃないけど、ミオと同じくらいには。
「どうぞ」
「あ、ありがとうございます」
私は手にした本を彼女に差し出した。彼女は目を緩めると嬉しそうに頭を下げた。肩にかかりそうな銀色のショートヘア。背の高さは私の肩くらい。彼女の胸元には図書委員を示すネームプレートが付けられていた。名前も記載されている。シロ・ルノアール、名簿で調べた名前と一致する。どうやら彼女が探し人で間違いないようね。
どういたしまして、と私は相手に警戒されないように柔らかく微笑み返した。
さて、何をどう切り出そうかしら。
あなた、銀華祭で何したの? と尋ねて大丈夫なのだろうか?
第一印象の感想では、シロは悪人には見えない。
でも案外こういう可愛い子ほど心が歪んでいるという可能性もある。
私も母に「外面だけはきれいね」とよく言われたものだ。
まずは彼女のプロファイルを把握しよう。
その後、事実関係を確認する。
それからでも遅くはないでしょう。
そうと決まれば、やることは懐柔ね。
仲良くなって自然と会話ができるようにならないと。
「……えっと、シロさんは図書委員なんですよね」
「あ、はい。何かお困りですか?」
「実は図書室に来たのは初めてで……普段はあまり本を読まないんですけど何かオススメとかあります?」
「オススメですか」
彼女は口に手を当てながら真剣な表情を浮かべた。
うーん、と唸りながら何やら考え込んでいる。
そうだ。
どうせならシロの趣味に合わせた方が仲良くなりやすいか。
本の感想とか言い合えるし。
なら彼女に今手渡した本について訊いてみよう。
「それはどんな本なのですか?」
「……えっこれ?」
「“100人の王子〜今夜は君と僕のパーリィナイツ〜 第2巻”ですか。ならそれの1巻を読んでみようかしら」
「ダメえぇ!!!」
シロは恥ずかしそうに叫んだ。
しかもさりげなく私と本棚の間に身を割り込ませてガードしようとしている。
まあ小さいから大して効果ないんだけど。
ただそういうことをされるとね。
弄りたくなるのが、この私である。
「そんなに秘密にされるとは……さぞや面白いのでしょうね」
「面白くないですっ! とてもつまらないですっ!! そ、そうだ。あちらに入荷したばかりの本があります。そちらをご覧になってみませんか!」
額に汗をかいた彼女はそういうと隣の本棚を指差した。
「なるほど。では……そちらに参りましょうか」
「え、ええ。早速案内しますね」
安心した表情を浮かべたシロはそちらに歩き始める。
私はその様子を見てから、
「でもやっぱりこちらの本も気になりますわ」
「!!」
ひょい、と高いところにあった第1巻を手に取った。
「ふーん。これはこれは……」
「ち、違います! これはちょっと過激なラノベというか。あっ……ああ……!」
所謂BLね。図書室に置くにしてはちょっと過激な内容みたいだけど。
うん……悪くないわね。
たまには男同士というのもいいかも。
……うん……あら……ほうほう、へえ、そんなことするんだ。
中身をざっと眺めた私は彼女に向き直った。
彼女は顔を真っ赤に染めながら目を伏せている。
「なかなかいい趣味をお持ちで」
シロは膝から崩れ落ちた。
あれ? 相手の趣味を誉めてあげれば喜ぶと思ったんだけど……何かセリフを間違えたかしら?
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