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第10話 赤光の馬

「あ、あなた……何者?」

「アリーナ・フレイム。一五歳。侯爵令嬢。好きな食べ物は……アップルパイ」


 私は軽口を叩きながら、怯える彼女に近寄ろうと、足を一歩前に踏み出した。

 彼女の体が小さく震える。今にも逃げ出しそうな雰囲気である。ミオの魔法を使えば逃すことはないが、これ以上のランニングはご遠慮願いたい。


 ちらっと空を見上げた。


 そこには青い鳥が私たちを見張るように旋回している。ピィー、と甲高い鳥の鳴き声が響き渡る。一見すると普通の青い鳥に見えるけど、あれはミオが生み出した魔法の鳥。上空から周囲を観察することができる。


 大食堂から逃げ出した女子生徒を追いかけようとしたところ、丁度昼食を済ませたミオを発見した。ミオに事情を説明すると、


「……それなら私、丁度いい魔法を持ってます」


 そう言うミオの右手から青い鳥が顕現した。私を襲った時の攻撃魔法とは違う。穏やかな青い光を帯びた小鳥。偵察用の魔法らしい。上空から大聖堂の方角へ走る不審な女生徒を見つけるのは実に簡単だった。


「な、何の用?」

「あなたが虐めたミシェルのクラスメイト……と言えば察してもらえるかしら」

「侯爵家の令嬢が、田舎娘とつるむというの……?」


 怯えていた瞳が憎悪に変わる。ミシェルの何がそんなに気に食わないのか、皆目見当がつかないが、なんであれ、ミシェルに働いた所業を許すつもりは毛頭ない。


 私の瞳の奥に宿る憎悪の炎は、あなたを一瞬で黒焦げにする自信がある。先ほどから丁寧に対応しているのは、間合いを狭めて確実にあなたを仕留めるためよ……ふふふ。

 隣にいるミオが「ぴぃぃ……」と何故か青ざめた顔で震えている。


「田舎娘……ね。そういうあなたはどこの誰なのかしら」

「ファスター伯爵の令嬢、クラーラ・ファスターよ」


 ファスター伯爵家といえば、多くの騎士を輩出している東の名門。


「名家のご令嬢が善良な民を迫害するとは性根が腐ってるわね。歪んだエリート意識というやつからしら。実に醜い。ねえ、あなたもそう思わない? ミオ」

「おっしゃる通りです! ごめんなさい!」


 飛び火したミオは涙目だ。

 はあ……、これではまるで私が悪い人みたいじゃない。


 ゆったりとした足取りで、刺激しないように彼女に近寄る。


「何故あんなことをしたの?」

「何故……? わ、わからない」

「は?」


 予想外の返答に私は思わずキレそうになった。右手に黒い魔力の光が宿る。後ろに立っていたミオは小さな悲鳴をあげると尻餅をついた。

 クラーラは震えた声で、


「わからない……何故私は彼女をあんなに憎んだのか……、ただ頭の中が黒く塗りつぶされて……胸のあたりが気持ち悪くなって……気がついたら自分の感情を抑えられなくて──ああ、まただ! 憎い……っ! あの女が……ミシェルとかいう女が憎い……!」


 クラーラが両手で頭を押さえながら、苦しむようにもがいている。その彼女の全身が赤い光に包まれた。──魔法の光だ。ミオが片手に宿した量とは桁違いの量の魔力が彼女の全身から放たれようとしている。


「うっ……うううぅ……!」

「え? ちょ、ちょっとあなた、もう少し冷静になったほうがよろしいのでわ……?」

「や、やばい量の魔力ですよ! アリーナさまあああ!?」


 ミオが地面に伏して頭を抱えながら怯えている。


「ぐッ……あああぁぁぁあああッ!!!」


 クラーラの咆哮が天に轟く。それと同時はなられた赤い光は中空に舞い、光の帯となり1点に向けて収束する。それはやがてとある動物の形へと変容した。馬の形状、頭部から生える長い角。あまりにも有名なそれは──。


「ユニコーン。さすが名門貴族のご令嬢。腐った性根の割に品位を感じる魔法ですわね」

「あわわわわ、あ、あれ! ぜったいまずいですよっ! 逃げましょうよ!」


 パニックになるミア。

 この姿を見れただけでも連れてきた甲斐があるというものだ。


「馬の足から逃げられるわけがないでしょう。おバカさんね」

「そ、そんなあああっ!」


 ユニコーンとクラーラに向き直る。ユニコーンが顕現した衝撃で、周囲の木々は焼き払われている。その様子からあのユニコーンが攻撃魔法で、先日のミオの雷鳥とは比較にならないやばいやつだということよくわかった。


 クラーラが狂気を孕んだ視線でこちらを睨んだ。


「──ミシェルの味方をするあなた達も──憎いのよっ!」

「あっそう」


 左手でユニコーンに触れると、それはあっけなく霧散した。


「……え?」


 呆けたクラーラの表情。

 何が起きたのか理解できていないのでしょうね。

 左手首に光っているブレスレットに口づけを交わすと、ミシェルの愛に深い感謝を捧げた。


「──さて、これから起こることは……全部、正当防衛よね」

「ひぃ……!」


 クラーラは小さな悲鳴をあげた。


読んでいただきありがとうございます。

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