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黒い夏の記憶   作者: 鳥居 左近
1/1

Nさんとの出会い

※一部ノンフィクションですがどこからどこまでとかはお答え出来ません。 


 私の名前は鳥居 左近。あまり売れないが作家をやっている。主に書いているジャンルは怪談、ホラーだ。30歳目前で職業作家を名乗るとああ、ニートの。とか言われるのと、言われないのにそういう目で見られることが最近少し辛かったりするため身分は隠しつつ、大学、昔の職の縁をたどり、資料集めとして直接生の怪談を聞く機会を作っている。

 しかし、中には本に出来ないような、本当に【厄い】話を拾ってしまうこともある。


 大学時代の後輩が、Nさんというとんでもない人を紹介してくれたのだが、Nさんはめちゃくちゃ【厄い】話しかくれない人で、今だかつて私の飯の種になったことはない。それでもNさんの話を聞きに行ってしまうのは、自分が【死】にひかれているからなのか。まあ、そんなNさんとの話をここでは書いていこうと思う。余談だが私はNさん自体が怖くて仕方ない。 



 喫茶店で待ち合わせをした。Nさんとは面識がないので後輩のサモア(ハワイ系の力士みたいな風貌だからあだ名)が仕事帰りに連れてきてくれる手はずになっていたのだが


「先輩すんません、急に今から来いって、取引先に呼び出されて行けなくなっちゃったんで、ちょっとなんとか合流してください!!」


「は!?おい、サモア、Nさんてどんな格好の人なんだよ!?」


 電話はすぐに切れて、そのあと繋がらなくなった。


 どうしようもないのでアイスコーヒーを頼み待つこと10分。約束の時間、17時になろうとしていたがNさんは現れない。喫茶店の窓から見える空は紫に夕焼けのグラデーションが混じり、明るいのだか暗いのだかわからない怪しげな雰囲気を漂わせていた。この店の名前は【カフェ・トワイライト】怪談を聞くには洒落た場所だし今なら最高に盛り上がるのだが。


 カランカラン


 17時ちょうどになり、そんな音と共にドアが開いた。温いような、涼しいような外の湿った空気と一緒に入ってきた人物は二十台前半の儚げな印象の女性だった。

 店内を見回す彼女の視線に合わせてざっと私も確認したが、数組の客がいた。近い年齢のサラリーマンが壁際にいた。彼の恋人かと推測したが、予想外に彼女は私の前までやってきてNさんだと言った。バカな。サモアにこんな美人の知り合いがいるわけがない!?と軽いショックはあったものの、サモアに連絡も取れないので私は取材を開始した。


「で、Nさんはサモアから私が怪談の収集をしていることを聞いたと」


「ええ、普通の人より色々見てるのでよろしければお聴きいただけると無駄にならないかなと思いまして」


 無駄にならない。なんとも珍妙な言葉のチョイスだ。どうせ怖い思いしたのだから少しでも元をとろうといった考えから出たのだとすると、意外に強かな性格の人なのかもしれない。少しのやり取りのあと、Nさんは話を始めた。






 それは照りつけるような暑い夏の、なぜか寒いある日のことでした。


 ひゅー


 ラジオから聞こえてくればきっとかわいらしい音だったと思います。

 子供が夏の祭りで笛でも吹いたような風切り音がしたので、音の聞こえる空を見上げたところ


 あ!?


 と、私は目を疑うようなモノが落ちてくるのを見てしまったんです。


 それは大きな大きな黒い黒い子供が笑顔を浮かべて落ちてくるところでした。


 輝くような満面の笑みを浮かべて上空で太陽になったその顔から放たれた光によって町も、人も、一瞬にしてクチャクチャに熔けて燃えて消えてしまうのでした。


 両親は早くに戦争でやられてしまったからこの恐ろしい光景に合わなくてよかったなあと、思いました。町にいたのは、お祖母ちゃんと、仲良しのジュンちゃんと、好きだったあの子と・・・・・・全部、全部、大切なモノはあの地獄の光の中で焼き付くされてしまいました。




 モノローグの中で、尚も惨状を晒していく町を、本当にどす黒い感情で見つめる人物の追体験をしたというNさんの話を聞いて、私は広島か長崎の原爆投下所縁のナニかを想像した。そしてそれは大方何かの形で情報を目にしたがゆえに無意識のうちに作り上げてしまった情報を夢に見てしまったのだろうとも思った。


「夢とかではなく追体験をみたんですよ。テレビとかで戦争の話をやっていて、うたた寝してしまったから見た夢とかなら良かったんでしょうけど」


 言外に私の思うところを否定されて、薄気味悪い空気を感じた時、見計らったように手元のアイスコーヒーの氷が溶けて、カランと音をたてた。


「じゃあ、なんでそんなモノをみたんでしょうか?心霊現象と言い切る理由は?」


 私がそう尋ねるとNさんはニヤリと黒い笑顔を見せた。喫茶店の中の客はみんな帰ってしまっていた。

 透けるように白い肌にリップで強調された形のよい唇は非常に魅力的に見えたが、私はその柔らかい笑顔に空恐ろしいモノを感じていた。


「少し、歩きませんか?」


 彼女は私の質問に答えないまま、外に出ることを提案してきた。

 まだだ、ここからまだある。私の作家としての勘がそう告げていたため私は彼女について店を出た。サモアとは結局連絡がつかなかった。


 30分程歩いたところで彼女は話の続きをしてくれた。


「見てください、あの古いアパート」


「結構古いですね。それこそいわくありげですがなにかあるんです?」


 彼女はまたしても蠱惑的な黒い笑みを浮かべていた。嬉しそうに細められた目は黒一色で、明るいのだか暗いのだかわからなかった紫の夕焼けの空は今まさに闇に落ちようとしていて、私の背中を寒気がはしっていた。


「今朝、先程の話の光景を見るまであの二階の部屋に住んでました。もうすぐきますよ?」


「え?何がです?というか、住んでいたって」


 私がそう口にすると、パトカーと救急車かサイレンをならしてアパートに集まりしばらく訳もわからぬまま見ていると中から遺体とおぼしき担架が出てきた。


「え!?」


「あの人の記憶がさっきの話の正体です。心霊現象だったでしょう?それが見たくて上に住んでいたんですよ」


 目の前の女が言ってる言葉に恐ろしい響きを感じる。人が死ぬのを待って断末魔の残留思念を見るためだけにアパートを借りていたと言っているのだ。私には最早この女が魔性のモノにしか見えなかった。



「信じちゃいました?ただのブラックジョークです。あのお部屋のお爺さんが亡くなりそうな雰囲気だったのを知っていたんで、もしかしたら?と思って見に来たらたまたまこんなことになっちゃっただけですよ」


 嘘だ。こいつは知っていた。少なくともそのお爺さんが死んでいることを。


「せんせい?作家さんとお話できるのって私憧れだったんですよ」


 嘘だ。俺はサモアにも作家だとは教えていない。あくまで個人の趣味の収集だと伝えていた。 


「怖くなっちゃいましたか?」


怖い。たまらなく逃げ出したい。気取られる訳には行かない。


「Nさん、ちょっと話をまとめて書きたいから今日はここまでにしましょうか?サモア連絡が取れないのでよろしければこれを」


 携帯番号の入った名刺を渡す。



「まあ、またお話したいモノを見たらかけても?」


 ごくりと喉が鳴った。


「ええ、是非」


 そのあとNさんと別れた私は自室に帰って奇妙な電話をとった。


「あ、すみません。こちら警視庁、丸の内署の角田と申します。鳥居 左近さんの携帯番号でよろしかったでしょうか?」


 角田と名乗った刑事の話によると、サモアが廃ビルで首を吊っているのを発見したらしい。

死後三日はたっているとのこと。落ちていた携帯に私から着信があったのを見て、確認されたとか。


 サモアとは夕方前には電話している。


 気が狂いそうだった。


 そしてNさんの顔をまるで思い出せないことに不安を覚えた私はこの日の記録を資料に留めることにした。


 しかしこれは私とNさんの怖い話の始まりに過ぎなかった。

 




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