第8話 のどかな休日?
教会を後にした三人は再びフラムシティの中心街に戻って来た。大きな通りや広場に面して、オシャレなカフェやレストラン、可愛いブティックなど様々な店が並んでいて相変わらず賑わっていた。
「どうする?このまま寮に帰る?」
ユウナが問いかけた。
「う~ん。僕、お腹空いたから何か食べていきたいな。キョウマはどう?」
ハルは、キョウマに声をかけたが全く反応がない。先程からずっと考え事をしているようだ。
「キョウマ?どうかしたの?」
「えっ?ああ、いや。何でもない」
ようやくキョウマは返事をした。しかし、ハルは少し様子がおかしいキョウマを心配した。
「何か、さっきから変だよ…大丈夫?あっ、分かった!キョウマも本当は腹ペコなんでしょ⁉」
お腹が空いているハルは、そのことしか頭にない。そんなハルに、キョウマはテキトーな返事をした。
「別に。そういうわけじゃないけど」
(天聖神話…どうしてこんなにも気になるんだ…)
結局、三人は近くのレストランに入った。大勢の人で一杯だった。それもそのはず、時間的に昼どきだ。そして、キョウマが気づいたとき、ハルは既に窓際の席に陣取っていた。
「ほらー!二人とも早く早くー!」
「ハル君いつの間に⁉」
ハルが急かすので、キョウマとユウナも席に着き、料理を注文しようとした。
「俺はチーズバーガーで」
「私はカルボナーラ!」
二人はさっさと決めてしまったが、ハルはまだメニューを睨んでいてなかなか決まらなかった。
「フライドチキンにしようかな?あ~でも、こっちのピザも美味しそう…」
「まだ決まってないのか?早くしないと店員さんが困っちゃうだろ?」
キョウマに促されて、ようやく決めたようだ。
「このピザを三枚、お願いします」
店員は注文を受けると、素早く去っていった。客が多いので、大忙しのようだ。そんな時には特に、ハルのような客はさぞ迷惑だろう。
「お前、一人でピザ三枚食うのか?メニューの写真見たらわりとでかいぞ?」
「大丈夫、お腹空いてるから」
ハルは、全然平気そうな顔をして言った。
「ところで、ハルっていつもあの教会に行ってるのか?」
そう質問されて、ハルは少し考えてから答えた。
「いつもってわけじゃない…かな。週に一回行けたらいいかなって感じ」
しばらくして注文した料理が届いた。キョウマが自分のチーズバーガーを食べ切った頃、ハルの方に目をやると、ずいぶん苦しそうにしていた。
「ダメだ…。やっぱり食べれないや…」
一枚目のピザはほとんど食べ切っていたが、二枚目三枚目は全く手付かずだった。それを見たキョウマは呆れていた。ユウナも同じく。
「そうだ!私が残りを食べてあげようか?」
「えっ?ホント…⁉」
「フフッ。言ってみただけ」
「なんだよもう…」
ハルが残念がっているとキョウマが口を開いた。
「じゃあ、俺が食べてもいいか?」
キョウマの意外な申し出にハルは驚いた。さっきから、キョウマはあまり乗り気ではなかったので、ユウナもより一層びっくりしていた。そして、ピザを手に取るや否やあっという間に全て平らげてしまった。キョウマが意外にも大食いだったのでハルとユウナは、唖然としていた。
「キョウマ君、そのピザそんなに美味しかった?」
キョウマは大きなピザを食べ終えたばかりだったが、その表情はすっきりとしていた。
「まあまあかな。特別美味しかったわけじゃないけど、残したらもったいないだろう」
食事を終えた三人は、フラムシティの街中を回った。人混みが凄かったので、すぐにでも迷子になりそうだ。「あれはカフェで、これは八百屋さんでしょう。で、あのお店は…何だ?」
1つのお店の看板がハルの目に留まった。「BARBERSHOP」と書かれている。
「バーバー…ショップ?おばあさんが働いてるお店ってこと?」
ハルがきょとんとした声で言った。
「ちげーよ。散髪屋のことだよ!記憶喪失の俺でも知ってるぞ」
ハルが随分とおかしな質問をするので、キョウマは面白がっていた。笑いを隠していたユウナが、明るい赤色をしたハルの髪を触りながら言った。
「ところで、ハル君って結構髪伸びてるよね?せっかくだから切ってもらったら?」
すると、ハルはユウナの手を払いのけ、首を横に振った。
「嫌だね。ぜっっったいに!」
「なんでだよ?」
キョウマが不思議そうに言った。
「僕って背が低いじゃん。だから、それを誤魔化すにはこれぐらいないと困るんだよ」
確かに平均的な身長のキョウマやユウナと比べると7cmか8cmほど低い。
「にしてもボリュームあるよな。ていうか、身長がコンプレックスだったのか?」
キョウマがニヤニヤしながら言う。
「うるさいなぁ。キョウマの髪だって変だよ!前から思ってたけど、そのピンと跳ねた部分どうにかしたら?寝癖でしょ?」
少し怒り気味なハルが、キョウマの髪の大きく跳ねた部分を指さした。
「ええ?ああ、これなら直そうとしたんだけど、どうしても跳ねちゃうんだ。きっと癖毛なんだよ」
ハルは何だか納得いかないという顔でキョウマの茶髪を見つめていた。
「まあでも、私は似合ってていいと思うよ。ハル君のボリュームのある明るい赤色の髪!」
ユウナに笑顔でそう言われ、ハルは少し照れくさくなって赤面した。
「な~んて、言ってみただけ」
「なっ⁉」
ユウナの余計な一言でハルは、照れていた自分が恥ずかしくなってさらに顔を赤くした。
「じゃあ僕からも言わせてもらうけど、ユウナが髪につけてるそのピンクのリボン!君の青色のロングヘアーには、全部似合ってないよ!」
ハルの言葉を聞いて、ユウナは素直にショックだった。
「な~んて、言ってみただけ…っていったぁぁ!」
ハルが言い終える前に、ユウナはハルの顔を平手打ちした。勢いでやってしまったのだ。そして、我に帰ったユウナがハッとして言った。
「ご、ごめん、ハル君!私、つい…」
「ま、まあ…いいさ。お互い様ってことにしとこう…」
キョウマは、二人のやり取りを見て大笑いしていた。
「ハハハハハ。ハル、お前髪も赤いし顔も赤い…首から上全部赤いじゃん!」
「キョウマ…ちょっと、黙っててもらえるかな…?」
ーエミューシティ レンジャー隊支部ー
「ダグラム支部長、大変です!」
廊下をドタバタと音を立て、大急ぎで走って来た緑色の髪の少年が言った。
「どうした?フルド」
「リアスタウンで、また新たに土砂崩れが…!」
ダグラムの表情が変わった瞬間だった。
「何⁉それは本当か⁉」
フルドは落ち着いた声で言った。
「はい、死者行方不明者がまた増えてしまいました…。ですが、そればかりではなく、避難所の状況もよろしくありません。疫病が流行っています。しかし、土砂崩れによって薬のほとんどが流されダメになってしまっていて、今はどうすることも……」
ダグラムは深刻な面持ちで言った。
「予想以上に酷くなっているな…。それに、土砂や瓦礫の撤去、行方不明者の捜索も思うように進んでいない…。もはや、我々だけで対処しきれるものではない。助けが必要だ…」
フルドは静かに頷いた。
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翌日の朝、リクトはいつものように長官室で仕事をしていた。
「長官、こちらが頼まれていた件の調査報告書です」
「ご苦労だ、フレイン」
リクトは、フレインの調査報告書に一通り目を通すと、苦い顔をした。
「長官、今月に入ってさらに被害が増えています。しかし、奴らのアジトの場所は未だに不明です」
「ガイス砂漠は広いからな、すぐに発見できるとは思っていない。だが、フラムシティとグノーシティを結ぶ最短ルートにあるガイス砂漠は物流において重要。いつまでも盗賊団を野放しにはしておけん。調査を引き続き……ん?」
リクトがそう言いかけたとき、外からポッポッポーとハトの鳴き声が聞こえた。気になったリクトは、長官室の窓を開けた。すると、そこには緑色のスカーフを付けた真っ白なハトいた。そのハトは、長官室の窓際に降り立った。
「長官、そのハトは?」
フレインが聞いた。
「こいつは伝書バトだ。エミューシティの支部長から緊急の伝達がある時はいつもこいつが手紙を持ってくる。どれどれ…」
リクトは伝書バトが持って来た手紙を読み始めた。
「なるほど、エミューシティがそこまで酷い有り様とは…。それにしても今朝から悪いニュースばかりだな、全く……」
リクトは大きなため息をついた。