第2話 武器
―レンジャー隊本部 ミーティングルーム―
「これよりミーティングをはじめる」
長官のリクトが言った。ミーティングルームに多くのレンジャー隊員が集められた。そこには、昨日入隊したキョウマとハルの姿もあった。
「皆に集まってもらったのは他でもない。今、指名手配されているライガについてだ。知っているとは思うが、既に奴はエミュー湖近くのディーネ遺跡、このフラムティ外れにあるサラマンダー遺跡のそれぞれから虹色の勾玉を盗みだした。そこで、ライガ対策の話がフレインからある」
リクトがそう言うとフレインが壇上に上がった。紫色の髪の爽やかな感じの若い男性だった。彼はレンジャー隊員というわけではないが、モンスターや災害への対処法について、その知恵で最近レンジャー隊に協力している人物。豊富な知識を持ち、温厚な性格で周りからの信頼も厚い。キョウマは壇上に上がったフレインを見て、首をかしげた。
「どうしたんだ、キョウマ?」
ハルが尋ねた。
「いや…あの人どこかで見たような気が…」
キョウマは記憶をなくしているが、どこか引っかかるのを感じた。キョウマが考えているうちにフレインの話は進んでいた。
「先日、サラマンダー遺跡で精鋭レンジャー5名がライガと戦いましたが全く歯が立たなかったそうです。このことからも分かるように、ライガは見た目は普通の少年ですが圧倒的な実力を持っている。これからは、人員を増強し勾玉を守っていく必要があります。ストーリア大陸の平和のためさらに…」
彼の話は数分間続いた。だが、キョウマはフレインのことを考えていて話があまり耳に入ってこなかった。そして、フレインの話が終わった後リクトが再び壇上に上がった。
「話は以上だ。それでは、任務に取り掛かってくれ!」
レンジャー隊員たちは一斉にミーティングルームから去っていった。
「そういえば、僕たちまだ何も任務ないよね」
ハルがそう言っていると、後ろから一人の少女が話しかけてきた。
「昨日特別入隊したキョウマ君とハル君っていうのはあなたたちね」
「誰だお前?」
キョウマが振り向いてサラッと言うと、彼女は、はきはき喋った。
「私はユウナ!私も昨日入隊試験を受けて入ったばかりなんだよ。よろしくね!」
キョウマは雑な返事をした。
「なんだよ…。それで、一体俺たちに何の用だ?」
「そうそう、長官から頼まれてあなたたちを探していたの。ちょっとこっちに来て」
そう言うと、ユウナはキョウマとハルをある場所へ連れて行った。そこはレンジャー隊の武器庫だった。
かなり古くて錆びている剣や、最近造られたばかりのような盾などたくさんの武器がしまってある。とても広く物騒な感じがした。
「レンジャー隊に入ると、武器をもつことが許されるの。モンスターや犯罪者に対抗するためにね。だから、
本来レンジャー隊は自分の魔法を武器に宿して戦うことがほとんどよ。だけど、あなたたちは武器無しでツインベアを倒した。長官に認められるのも当然ね」
「その話はもういいとして、俺たちも武器を貰えるってことか?」
キョウマが聞いた。
「そう。武器の種類はたくさんあるけど、私たち新人が選べるのは剣と槍だけ。二人はどっちがいい?」
キョウマは悩んでいる様子ではなかったが、ハルはとても悩んでいた。ハルは、レンジャー隊に入る前からこのことについて考えていたが結論は出ていなかった。
「俺は剣にしよう。ハルはどうする?」
「う~ん…」
決めきれないハルを見て、ユウナは無性にイライラした。なぜそこまで悩むのかと。
「キョウマが剣にするんなら…槍にしようかな…」
「はいはい、槍ね」
ユウナは、武器庫から新品の槍を取り出そうとした。
「ちょっと待ってよ。まだ決めたわけじゃ…」
ハルが焦って言うと、ユウナは少し怒ったような口調で言った。
「これ以上悩んでもしょうがないでしょ!ツインベアと戦うのは迷わなかったのに、何でこんな事で悩むのよ!」
ハルは言い返さなかった。自分でも確かにそうだと思ったのだ。キョウマはやれやれといった感じだった。
そして、キョウマは新品の剣を、ハルは新品の槍をそれぞれ手に入れた。その剣と槍は、まるで澄み切った二人の心を映しているかのように光っていた。
「あと、今日は私たち新人レンジャーの仕事はないそうよ。本格的に活動するのは明日からだって。他に何か聞きたいこととかある?」
すると、キョウマが口を開いた。
「そういえば、虹色の勾玉ってなんだ?」
その発言を聞いてハルとユウナ顔を見合わせて驚いた。
「キョウマ君、虹色の勾玉を知らないの⁉」
あまりに驚かれたので、キョウマは困った様子だった。そこで、キョウマは自分が記憶喪失で名前以外何も思い出せないということをユウナに話したが、さらに驚かれるだけだった。
「そうなの…分かった。説明するよ。虹色の勾玉っていうのは、昔、魔法と一緒に天界から私たちが暮らすこのストーリア大陸に贈られたものよ。自然を豊かにして、そのバランスを保つ力があるの。人類が発展したのは、虹色の勾玉のおかげと言っても過言ではないって言われてる。全部で五つあって、昔の人がそれを祀った神殿が今も遺跡として残ってる。サラマンダー遺跡とかね。でも、虹色の勾玉は元々あった場所、つまり遺跡から離れるとその周辺の自然のバランスは崩れてしまうの。昨日のツインベアだって、今までは山から降りて町で暴れることなんてほとんどなかった。だけど、ライガがサラマンダー遺跡の勾玉を盗んでフラムシティの周辺の自然のバランスが崩れたせいで、混乱し凶暴化したのよ。エミュー湖のディーネ遺跡周辺なんて災害まで発生してる。最近は世の中が混乱してる隙に悪事を働く犯罪者も増えてレンジャー隊は大変よ。だから、一刻も早くライガを捕まえて勾玉を取り返さないといけないの」
ユウナの詳しい説明にキョウマは相槌を打った。
「じゃあ、何でそのライガって奴は虹色の勾玉を盗んでるんだ?」
ユウナにもそれは分からず口籠ってしまう。ライガが虹色の勾玉を盗んいる理由、実はそれが一番の謎だった。金が欲しいのか、人々を困らせたいのか、何が目的なのか誰にも分からなかった。そもそもライガがどんな人物なのかも分からなかった。過去の経歴など一切不明で、雷属性使いのとてつもない実力をもった謎の少年としか言いようがなかった。
「ライガが何を望んでいるのかはみんな分からない。だけど、どんな理由があったとしても人々が苦しんでいるんだ。ライガのやっていることは間違ってるよ」
ハルは自分なりの答えを言った。キョウマも確かにそうだと思った。そして、もしかすると自分の記憶喪失は最近の混乱と関わりがあるのではないかとも思った。
その後、三人は武器庫をあとにした。
「そういえば、二人は寮に入るの?私は入るよ。寮はレンジャー隊本部の敷地内にあって便利だし」
ユウナが言った。キョウマは寮があることを聞いて喜んだ。いつまでハルの家に泊めてもらうわけにもいかないと思い、住む場所が欲しかったからだ。
「じゃあ入ろうかな」
それを聞いたハルは一瞬悲しそうな顔をした。
「なら、僕も寮に入るよ。家に帰っても誰もいなくて寂しいだけだし…」
「誰もいないって…そういえばハル、親は?」
ハルは答えなかった。キョウマは特に何も考えずにそう言ってしまったが、すぐに聞いてはいけないことを聞いてしまったと後悔した。
ーレンジャー隊本部 長官室ー
「ではフレイン、ライガを探すのは無駄だというのか?」
リクトが言った。
「無駄とは言いません。しかし、僕の考えとしてはライガを探すのに人員を割くよりも残りの勾玉を守ることに人員を割くべきかと…。恐らくライガは他の勾玉も狙うはず。勾玉がある場所で待っていれば奴は現れる。そのとき奴を捕らえる方がむやみに探しすよりいいのではないかと思います」
フレインが熱心に説明した。
「確かにそれも一理ある。検討しよう。明日も策を聞かせてくれ」
「もちろんですよ。世の中の平和のためです」
「では、私はこのあと会議があるので、失礼するよ」
リクトはそう言って部屋を出て行った。
「……ライガ…貴様らの思い通りにはさせない。フフフフフフ……」
フレインの独り言と不敵な笑い声が誰かに聞こえることはなかった。