第1話 冒険の始まり
「ついに見つけたぞ…虹色の勾玉…‼」
「そこまでだ、ライガ!それをわたすわけにはいかない!」
「力ずくでも君をこの場で捕らえる!」
「チッ。レンジャー隊め…しつこい奴らだ。いいぜ、やれるもんならやってみろ!」
昔、天界と言われる伝説の場所から魔法が地上へ伝えられた。その時伝わった魔法には様々な種類がある。人々は魔法を発展させ生活を向上させた。
だが、その力を利用して悪事を働く者や人々を襲うモンスターもいた。それらに対抗するため、平和を守るレンジャー隊が結成された。レンジャー隊は、自分がもつ剣や槍などの武器と魔法を組み合わせて戦う。また、災害から人々を救うのも彼らの仕事だ。これは、そんなレンジャー隊に憧れる少年ハルと主人公キョウマの物語...
「早く明日にならないかな~」
フラムシティに住む13歳の少年ハルは、明日レンジャー隊の入隊試験を受けるつもりだ。この世界では、13歳になるとレンジャー隊に入ることができる。ハルはその日の夜、期待と不安でほとんど眠れなかった。
次の日の朝、ハルは試験会場であるレンジャー隊本部に向かった。試験では個々の魔法の技量が試される。ハルはこの日のためにずっと自分の魔法を磨いてきた。今の彼の目に曇りはなかった。不安は完全に消え去り、一歩ずつ確実に目的地に近づいていた。だが、彼は急に道を外れ近くの路地に駆け込んだ。
「おい、君。大丈夫か?」
驚いたことに、その路地にハルと同じくらいの年の少年が倒れていたのだ。
ハルが声をかけるが応答はない。どうやら、意識を失っているようだ。正義感の強いハルはその少年を放っておくことができず、ひとまず試験を諦めて彼を自分の家へ連れ帰り、家のソファに寝かせた。その少年は悪夢にうなされているのか、酷く苦しそうな表情だった。ハルは余計に彼のことが心配になった。
それから数時間後、ようやくその少年は目を覚ました。
「良かった。意識が戻ったみたいだね」
「ここは…ど…こ…だ?」
「僕の家だよ」
ハルは自然に答えたがその少年はとても困っている様子だった。
「そういえば、君の名前は?なんであんな場所で倒れてたの?何かあったの?どこから来たの?」
その少年は、不機嫌そうに言った。
「お前さぁ、人にあれこれ聞く前に、まずは自分が何者なのか答えるべきじゃないのか?」
「ごめんごめん。僕はハルっていうんだ。よろしく」
「…キョウマだ。俺の名はキョウマ」
その少年は相変わらず不機嫌そうだった。
「君、ここの近くの路地で倒れてて意識がなかったからとりあえず僕の家に運んだんだ。一体、何があったの?」
キョウマは難しい顔をしていた。
「…分からない。自分の名前以外何も思い出せない…」
ハルは驚きを隠せなかった。記憶喪失になる人が、極稀にいると聞いたことはあるが本当にいるとは思っていなかったのだ。
「ハル、助けてくれたことには感謝している。だが、これ以上世話にはなれない」
その口調は不機嫌そうだった時とは違い、本当に感謝の念というものがこもっていた。そしてキョウマは、ハルの家から出ていこうとした。
「ちょっと待ってよ。どこ行くんだよ?」
「俺は、俺自身が何者なのか突き止めないと」
「ど、どうやって?」
キョウマは答えることができず、黙り込んでしまった。ハルは、そんなキョウマにこう言った。
「僕と一緒にレンジャー隊に入らないかい?」
「レンジャー隊?なんだそれは?」
キョウマは不思議そうにしていた。記憶をなくしている彼にはなんのことかさっぱりだった。ハルはハルでレンジャー隊を知らないキョウマにびっくりした。キョウマはレンジャー隊について説明されたが、ハルがなぜ唐突に自分をレンジャー隊に誘うのか分からなかった。
「君とならなんだか良いチームになれそうだし」
「意味わかんねーよ!それに、レンジャー隊なんて俺には関係ない。悪いが他を当たってくれ」
「待ってよ!レンジャー隊にはさ…」
ハルがそう言いかけたとき、近くから建物が崩れるような大きな音が響いた。
「今の音…公園の方からだ!」
「おい、どこ行くんだ!」
ハルはキョウマをおいて全速力で走り出した。嫌な予感がしたのだ。何か大変なことになっているのではないかと。そして公園に着くと、モンスターが暴れていた。ハルの嫌な予感は的中していた。
「あれはツインベアか!」
ツインベアとは2つの頭があり、高い戦闘力を持つ熊のようなモンスターである。それが町の公園で暴れているのだ。周辺は既にパニック状態だった。
一般の人々の多くは日常生活で役立てるのにちょうどいい低級魔法しか使えない。それは、とてもモンスターに対抗できるものではない。放っておけば、ツインベアはこの先にある住宅街まで来てしまい、多くの人が危険にさらされてしまう。ハルは自分がツインベアを食い止めるしかないと覚悟を決めた。
「僕はレンジャー隊員になる男だ。負けてたまるか!いくぞ、ツインベア!くらえ!火属性の魔法攻撃、火炎弾!」
火炎弾は命中したが、ツインベアはピンピンしている。そして、ハルを攻撃対象と認識したのか、ハルに接近してくる。それも、大声で吠えながら。
「接近戦ならこれだ!火炎脚!」
炎をまとったキックで攻撃したが、その抵抗も虚しく、ハルはツインベアに殴られ吹っ飛ばされた。
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!ハァハァ…僕の攻撃が効かないなんて…どうすればいいんだ…?」
ツインベアは、止めを刺そうと再びハルに近づいてくる。その時、小さな竜巻がツインベアに炸裂した。ハルが後ろを振り向くと、そこにはキョウマの姿があった。
「キョウマ…?君が助けてくれたの?」
「別にそういうわけじゃない。お前との話が途中だったし、何があったのか気になって追って来ただけだ」
この状況でも町の住民と違い、キョウマは落ち着いていた。
「ていうか、キョウマは魔法使えるの?さっきの風属性の魔法みたいだけど…」
「話は後だ。奴はまだ倒れてない。協力して奴をたおすぞ!」
ツインベアは竜巻の攻撃を受けてたじろいでいたが、再び襲いかかろうとする。キョウマは竜巻攻撃、ハルは火炎弾で応戦したが、ツインベアはなかなかしぶとかった。
「この熊思ったよりタフだな・・・。だが、そろそろ終わりにしてやる。ハル、俺に続け!」
「わかったよ。けど、どうするつもりだ?」
「まあ見てろ。うおぉぉぉぉ・・・くらえ、サイクロン!」
キョウマの凄まじい暴風でツインベアは空中へ持ち上げられ、かなりの高さから落とされ、地面に強くたたきつけられた。タフなツインベアでも流石に起き上がれなかった。
「今だハル!」
「任せろ!火炎弾!・・・ってこれは・・・!」
「すごい・・・火炎放射だ!パワーアップしたのか!」
ハルは火炎弾を使うつもりだったが、繰り出されたのは火炎放射だった。その激しい炎の勢いにキョウマも驚いていた。
ツインベアは炎に包まれ、ようやく力尽きた。
「やった…僕たちツインベアを倒したんだ!」
ハルは大喜びだった。キョウマもすっきりとした表情だった。するとそこに、通報を受けて出動した数名のレンジャー隊員が到着した。彼らはとても驚いた様子だった。
「もしかして、君たちがあのツインベアを倒したのかい?」
ハルは自信満々に答えた。
「そうですよ!!」
「フッ…俺のおかげだろうが…」
キョウマがボソッと言ったが、ハルの耳には入らなかった。
「本当か!?大したものだ。ありがとう、ツインベアを倒しくれて。本当は我々が対応すべきだったのに…申し訳ない。君たちのおかげで助かった。感謝する」
「当然のことをしたまでですよ」
ハルは得意気に言った。
「なるほど…君たちがやってくれたのか」
「ちょ、長官!」
後からそこに現れたのはレンジャー隊の長官リクトだった。彼は凄腕のレンジャー隊員であり、抜群のリーダーシップを持つ人物だ。
「近頃、災害や犯罪が多くてレンジャー隊は人員不足なんだ。そこで、君たちレンジャー隊に入るつもりはないか?少しでも多くの優秀な人材が必要なんだ」
「えっ⁉」
ハルは驚きのあまり言葉を失った。
「剣などの武器も使って戦うところを、無しで戦い、勝ったんだ。私は君たちの勇気と実力を買っている。レンジャー隊員としての素質は十分ある。本来ならば入隊試験を受けなければならないが特別に免除しようと思う。どうだろう?」
ハルは一瞬固まってしまったが、すぐに返事をした。
「ほ、本当ですか⁉僕ずっとレンジャー隊に憧れてたんです。もちろん入隊させて頂きます。キョウマもそうするだろう?」
「俺は別に…」
キョウマはあまり乗り気ではなかった。
「キョウマ、さっき僕が言いかけたことだけど、レンジャー隊は色々な場所で活動している。だから、レンジャー隊には色んな情報が入ってくる。もしかしたらいずれ君に関わる情報も手に入るかもしれない。それに、キョウマの魔法すごいじゃん!サイクロンっていったら、風属性の魔法の中でもかなりハイレベルな技だよ!」
キョウマにはなぜ自分がそんなものを使えるのか分からなかった。戦っているときは、無意識にあの魔法が出て来たのだった。そして、ますます自分が何者なのか知りたくなった。
「分かった。お前と一緒にレンジャー隊に入ってやるよ!」
「よし。では、これからよろしく頼むぞ!」
リクトも笑みを浮かべた。だが、すぐに険しい表情になった。
「長官!大変です!」
隊員の一人が駆け寄って来て言った。
「また、虹色の勾玉が盗まれました!」
「何だと⁉またなのか⁉犯人は誰なんだ⁉」
先ほどまで喜んでいたリクトだったが、人が変わったかのように怒っている。そんなリクトを見て、その隊員はとても言いづらいそうだったが質問に答えた。
「恐らく…ライガかと…」
「やはりそうか…警戒を早急に強化せねばならんな…」
こうしてキョウマとハルの冒険が始まった。二人はやがて、思いがけない事件へと巻き込まれていくのだが、
このときの彼らにはそんなこと知る由もなかった……
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