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Red eyes the outsiders  作者: 二上たいら
Red eyes the outsiders

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9/90

かく価値ある言の葉 -3-

「一体何から話したものかしらね……」


 インスタントのコーヒーを透に差し出しながら静は遠い目をして呟いた。


「結局のところ大災害の話から始めるべきなのかしら……、あたしたちの呪いのようなものね。あれは」


 そう言って自分の分を一口すする。

 場所は静の個室に移っていた。

 個室とは言っても、病室を改造しただけの粗末なものだ。

 静の実際の活動拠点は地下の研究室のほうであって、こちらは単にプライバシーを確保したいときに使われるに過ぎない。


「黒崎拳は大災害孤児だった。比較的被害の少ない地域に住んでいたうちの父が引き取って帰ってきたの。傷だらけで、そして怯えてた。……彼と初めて目が合ったときのことは忘れない。彼の目はすでに真っ赤に染まっていたから。あたしは悲鳴をあげた。あの赤目の化け物の事件が起きた直後だったの。……そんなあたしに父は言ったわ。「静、この子がお前に何かしたのかい? ただ目の色が赤いからといって恐れたり、忌み嫌うのはおかしくないか。この子はお前のような人によって殺されかかっていたのだ」 あたしはその父の言葉を忘れないわ」


 このような発症者狩りは実際に行われたのだという記録もある。

 大災害直後のまだ不安定な状況下では、人は恐れる必要のないものまで恐れるものだ。

 恐怖を何かに理由付けしてそれを攻撃しなければ不安でたまらない。

 ましてや発症者は正真正銘の異能力者なのだ。


「立派なお父様ですね」


「そうね……。本当に。それでも黒崎拳という少年が取っ付き難かったのは事実なの。彼がそれまで遭ってきたことを考えれば仕方なかったのでしょうけれど、彼は一度も笑わなかった。当時まだ10歳の少年とは思えないほどに張り詰めていて、あたしたちの誰も信用していなかった。父ですらね。彼が信用していたのはただひとり、彼と共に引き取られてきた少年だけだった。さっきの写真に一緒に写っていたでしょ。彼よ」


 透はさっきの写真を思い出す。

 確かに写っていたのは二人の青年だった。

 拳に比べると少し幼く見えた、どちらかというとまだ少年の面影を残した男性。


「幸いね、そちらの彼はまだとっつきやすかった。特にあたしとは仲良くなって、そこから拳も少しずつ打ち解けてきてくれた。――嬉しかった。どうしてかしら、不思議よね。ほとんど何も話したことが無くて、怖いって思ってたくらいなのに、彼が傍で何も言わないでいても胸が高鳴った……」


 静は手の中のコーヒーにじっと視線を落とす。


「ああ、これが恋なんだなって気がついたのが拳が高校生になって、沙弥の、あたしの妹の世話をするようになってから……。妹は病弱でね、その上事故で角膜の移植手術を受けて、そして発症したの。そんな妹に負担が少ないように年齢の比較的近くて、同じ発症者で、信頼の厚かった拳を父は妹の近くに置いておきたかったのでしょうね。それから拳は変わった……。どんなに話をするようになっても張り詰め続けていた彼の緊張が少し和らいだ。能力のために両目を眼帯で塞がなければまともな生活もできない妹に、世界について語る拳の横顔を見たときあたしは確信した。彼は妹に恋をしている、と。そしてあたしは拳を妹に取られたくない、と。――だって酷い話だと思わない? 拳は発症してて、その能力のためにまともに世界を見ることなんてできていなかった。彼が妹に語りかけていた世界の姿は――あたしが彼に語ったものよ」


 身近に3人の発症者、それは一体如何な生活だったのだろうか。

 千人に一人と言われる発症率の中、それだけ発症者が身近な環境はこの特捜が正式に発足する以前では静の生家くらいのものだったのではないだろうか。


「あたしは拳に想いをぶつけることがどうしてもできなかった。だってどうしたって破れるもの。だからあたしはね、体だけで拳に近づいたの」


 静が肩を落とす。

 元々小さな体のこの人はそうするとさらに小さく、静が今話す彼女自身が高校生か中学生かの頃よりも小さくなったかのようだった。


「でもそれはそれで幸せだったのよ。拳が妹を抱こうだなんて考えもしないことは分かってたし、少なくとも彼があたしを抱いてるときに沙弥のことを考えたりできるような人でないことは分かってたから。……けどその幸せも長くは続かなかった。……美奈を身ごもったから」


 静は小さく頭を振る。


「もちろんあの子を授かったことに感謝はしているけど、その時あたしがどれだけパニックに陥ったか分かるかしら。その時のあたしは、自分が何かを得たなんて考えられなかった。失うことばかり考えて、でも堕ろす勇気も無くて……そうしてる間に母に気づかれたの。母はすぐに拳に話をしにいったわ。あたしは母の部屋で震えてた。すごくすごく長い時間そうしていたように思うけど、実際にどうだったかは分からない。部屋の扉が開いてそっちを見ると拳がいた。そして彼は言ってくれた。「産んでくれるか?」って。涙が枯れるくらい泣いたつもりだったけど、また涙が溢れてきた。その後あたしたちはすぐに籍を入れたわ。父も母も内心どう思ってたかはわからないけれど、反対はしなかった。でも結局その蜜月もわずか半年で終わった。……コーヒーのお代わりいる?」


「えっと、はい、お願いします」


 透からカップを受け取って、静はさっきお湯を沸かしたコンロにまた火を入れた。


「拳になにがあったのか、それとも最初からそれが目的だったのかは分からない――」


 カチャカチャとインスタントコーヒーを淹れる準備をしながら静は話を続ける。


「あたしと拳が結婚して半年後、突然拳はあたしの父と母を殺し、妹を連れて消えた……」


「静さん……」


「あたしと風、もうひとりの子のことね、あたしたちは拳を追ったけど、手がかりは見つからなかった。風も拳からなにも聞かされていなかったの。そして拳と沙弥は完全にあたしの前から姿を消した。それが12年前。そう、もう12年も経つのね……」


 お湯はすぐに沸いて、静はそれをカップに注ぐとかき混ぜて勝手に砂糖を入れると透に差し出した。


「翌年、美奈を産んだあたしは大学に入ってこの病気の研究を始めた。あたしの人生を無茶苦茶にしたのはこの病気だと信じてたから、なんとしてもこいつを克服してやるんだってそう思ってた。バカね、そんなことしても拳が戻ってくるわけじゃないのに……。そして大学で出会ったのが御剣浩介氏、あたしの師匠になる人だった。名前、聞いたことある?」


 透は首を横に振る。


「そう、当時は赤目症ウイルスの研究と言えば彼の名前が一番に挙がったものだったわ。ウイルスの抽出培養に成功して、人間以外には感染しないことを発見したのも彼だった。ただその一方で彼は行き過ぎているところがあった。人体実験も辞さない構えで、やがて大学とも対立していった。彼がそこまで赤目症ウイルスに拘る理由。もう大体想像はついているんじゃないかしら?」


 御剣浩介、その名前を聞いたときに考えないわけにはいかなかった。

 この煉瓦台で御剣という苗字は少なくともありふれたものではないし、透にとって身近な人ひとりを除いて他にその苗字の人間など知らない。


「……その人が京子さんのお父さんだったから、ですか……」


「その通り、彼は娘の赤目症を治すためならなんでもするとあたしに言ったことがある。事実彼はなんでもしたわ。過度な人体実験から、果ては黒魔術まで試した。狂ってた、という人もいるわね……。そんなだったから彼は大学を放逐されて、行くアテを失った彼をあたしが引き取った。幸い、両親の残した遺産は莫大でね。小さい研究施設くらいなら建てることができた。そこで彼は初めて心身ともに研究にのめり込んで行ったわ。でも結局それも長くは続かなかった」


「どうしてですか?」


「どうしてかしらね……。どこで知ったのか、そして何のためか分からない。けれど消えてから8年。拳は再びあたしの前に現れた。京子ちゃんを連れて、ね……」


「京子さんが? でもどうして……」


「浩介氏はあたしの研究室に来るときに、京子ちゃんと別れたのよ。自分の研究が非人道的なことを理解していて、それに京子ちゃんを近づけたくなかったのね。奥様は亡くなってらしたから、京子ちゃんは急にひとりでの生活を強いられた。もちろんお金の面では絶対に苦労はさせなかったと断言できるけれど……、実のところ京子ちゃんはあんまりにもしっかりしてて、目を向ける必要が無さ過ぎたのね。そんな京子ちゃんに拳が近づいたのだと思うわ。そして拳は京子ちゃんに彼女の父親がどんな非人道的なことをしているか、すべて教えてしまった……」


 その後のことは容易に想像がついた。

 京子は根っからの正義漢だ。

 自分の父親が自分の為に非道に手を染めていると知れば、他人が他人の為にやっていることより怒り狂うだろう。

 少なくとも3年前の京子はすでにそうだった。

 4年前ならそれほど大差はあるまい。


「それで、浩介さんはどうなったんですか……」


「亡くなられたわ。でもあれは事故だったの。拳たちが突入してきたときに実験体の一体が暴走してね、実験体から京子ちゃんを守るために盾に……。その後、拳と京子ちゃんは共にその実験体を追いかけて始末した。あたしはその間、浩介氏の研究成果を残すことに必死になってた。京子ちゃんがあたしを嫌ってるのはきっとその所為ね……。そしてその後、京子ちゃんは特捜が捕らえられなかった発症者を始末した功績を買われて特捜に入り、あたしもまた浩介氏の研究成果を引きついでこの記念病院の研究施設に移った。拳はまたしても消えたわ。そして今日になるまで一切その痕跡を見せなかった……」


 ふぅと静はひとつため息をつく。


「あたしの9歳から今までの人生なんて言葉にすると一時間もかからないのね。まるで人生より言葉のほうが価値があるみたいだわ……」


「そんなこと、ないですよ……」


 少なくとも透が今の静の話を飲み込むには今しばらく時間は必要そうだと思った。


「……拳はどうだった? 元気そうだった?」


 静は複雑そうな笑みを浮かべていた。

 どうして、恨み言のひとつもでないのだろう。と、透は不思議に思った。

 自分を捨てた男をどうして愛し続けていられるのだろう。

 口の中に微妙に苦い何かが広がる。

 その、黒崎拳という男と京子はどんな関係だったのだろう。

 京子の気持ちは明らかだと思った。

 けれど、その思いは叶えられたのだろうか。

 それとも静と同じように……。


 透もまた笑みを浮かべた。

 多分、静と同じで笑うことに失敗した笑みだった。


「元気そうでしたよ。俺とまた会いそうだってそんなことも言ってました」


「そう……拳がそう言うのなら、そういうつもりなのでしょうね。それなら……透くん。ひとつお願いがあるのだけれど」


「はい? 俺にできることなら……」


「もし拳にまた会うことがあったら伝えて欲しいの。“絶対境界線には穴がある”って」


「え……?」


 もういい加減この辺でビックリ箱はネタ切れとお願いしたいところだった。

 絶対境界線とはこの煉瓦台を実質的に封鎖する最低幅200メートルの地雷原と高さ20メートルの壁のことだ。

 煉瓦台全域を取り囲むため、爆撃によって焼かれた森林の面積実に40平方キロメートル、埋設された地雷の数800万個。

 全域に監視装置が張り巡らされ、万が一に地雷原を抜けたとしても即国防軍が駆けつけてくる仕組みになっている。穴なんて間違いにも存在の仕様が無い。それはこの20年間、否18年間、ただの一度も外部感染者を出さなかったことが証明して――、


「あ――」


 そう、疑いようはなかった。

 何故誰も気づいていないのだろう。

 外部感染者が出たということは絶対境界線を抜けて誰かが煉瓦台を出て行ったということなのだ。

 それ以外には考えられない。


「ちょっとまって、でも確保された外部感染者の中に煉瓦台出身者はいなかった」


「考えられる可能性はいくつかあるわ。ひとつは煉瓦台住人が穴を抜けて脱出、まだ発見されていないという可能性。この場合はもう手遅れでしょうね。だからこの可能性は排除しましょう。次の可能性は内側から出た煉瓦台の誰かが意図的にウイルスをばら撒いてまたこっそり戻ってきた。この場合は明らかに意図的にウイルスをばら撒こうという意思が見て取れる。再び同様の事件が起きる可能性が高いわ。次に外側から誰かが入ってきて、感染してまた出て行った可能性。この場合は単なる無知か、それとも意図的なテロかは判断がつきづらいわね。そしてこれらに付随して、穴はどちらが用意したものか……」


「穴、とは言っても実際的な穴とは限りませんよね」


「ええ、振動感知の地雷も観測装置もあるし、地下数メートルに届く探知装置付きの杭がこれでもかと埋め込まれてる。それでももちろんその下を抜けるということも可能でしょう。でもやっぱり現実的なのは何らかの発症者の能力が使われたという可能性ね……。地雷も探知装置も無視できるような能力……」


 透の心臓がどくんと跳ね上がる。

 地雷も探知装置も関係なく、易々と絶対境界線だろうと、壁だろうと越えていける能力。

 透には心当たりがあった。

 当然のようにあった。

 <垣根無き者>笹原美禽。

 彼女の能力ならば越えられる。

 そしてそれ故にその正確な能力は秘密にされている。


「透くんはなにか思いつくことは無い?」


「い、いえ、なにも、……なにもないです」


「そう……」


 舌が絡まったが、静は何も追求してはこなかった。


「どちらにせよ、問題はあまり大っぴらにできないってことなのよ」


「どうしてですか? 特捜だけでなく、もっと手を広げて問題に対処するべきなのでは?」


「それは貴方たち第二世代の考え方ね……」


 第二世代、特捜に入ってから何度か聞いた言葉だった。

 煉瓦台が封鎖されてから生まれた子供や、封鎖されたときにまだ物心ついていなかったような、そんな煉瓦台封鎖以前を知らない人たちのことだ。

 もっと直接的に“カゴ生まれの鳥”という人もいる。


「第一世代の人たちにはどうしてもこの煉瓦台に“閉じ込められた”という感覚を持っている。それは封鎖されたとき9歳だったあたしですら感じているのよ。そういう人たちがもしも煉瓦台の外に出られる穴があると知れば……。もちろんほとんどの人は大丈夫でしょう。しかしそれを見つけ出そうとする人がいるかもしれない。そしてたったひとりにでも見つけ出されたら、今度こそ終わりかもしれないわ。だから公にはしたくないの」


「ならどうして旦那さんに教えようとするんですか? 何を考えているか分からない人なんでしょう?」


「そうね……、ひとつは拳を疑っているから、あの人が穴をあけたのかも知れない。もうひとつは拳を信じてるから、あの人なら穴を見つけて塞ぐことができるって……」


「矛盾してますよ……」


「そうね、でもどちらもあたしの素直な気持ちなの。透くんも大人になればきっと分かるわ」


 静はにっこりと自信ありげに笑った。


「分かりませんよ」


 分かるわけがない。

 裏切られても愛して、そして疑いながらも信じてるだなんてあんまりにもバカげている。

 裏切られたなら敵だし、疑うならとことんまで疑うべきだ。

 それが透の生き方だったし、それを変える気も、変わる必要性も感じなかった。


「いいわ、拳と会ったときに話すか話さないかは透くんに任せる。それまでに対処が終わっちゃう可能性もあるしね。とにかくこのことは口外しないで、特捜関係者でも信用するべきじゃないわ。特捜には第一世代が多いもの」


「分かりました。けれどそのうち誰かが気づくと思います」


「ええ、それは仕方ないわね。それまでになんとかしたいのだけど……、まあ物理的な穴が開いてることと、自衛隊の活躍に期待しましょう。あちらは半狂乱で穴を探し回ってるしね」


 静は苦笑して、透は少し安心した。

 別に静と透だけが事態を知っていて、2人だけでそれに対処しなくてはいけないわけではない。

 煉瓦台の封鎖を守るという点において、外部世界の全ては味方なのだ。


「――――!!」


「――――!!」


 ちょうどそんなちょっとした安心感を覚えたその刹那だった。


「特種警報!?」


 透の携帯が耳障りな音を発し始めた。

 とっさにスマホを見たが、幸い特級ではなく通常の範囲内の警報だった。

 しかし<穴>の話を聞いた直後ではどうしても心の奥底にざわつくものを感じないわけにはいかない。


「静さん、それじゃあ、また――」


「待って!」


 立ち上がりかけて呼び止められる。透は中途半端に立ち上がったままで静の次の言葉を待った。


「あのね、あたしは拳に結局愛してるって一度も言えなかった……。あの人が本当に愛してるのは沙弥だって分かってたから。でもそれって言わない理由にはならないわ。ならないのよ」


 静の言いたいことは分かった。それはもう痛いほどに。


「言葉にするというのはとても大切なことなの。だから――」


「はい、ありがとうございます!」


 透は今度こそ走り出した。

 静の夫、黒崎拳のこと。

 京子のこと。

 穴のこと。

 多くのことが頭の中で渦巻いていた。

 けれど今は一度それを全て忘れてしまおう。

 何故なら透は特捜3課の隊員で、その最優先任務は煉瓦台の治安を守ること。

 だからまずは任務だ。




「もういいわよ。出てらっしゃい」


 透が出て行った後の個室で、2人分のカップを片付け始めた静がそう呟いた。

 数秒経って、壁面からひとりの男性と、彼と手を繋いだ少女――黒崎美奈が現れる。


「うー、つまんなかったよぅ。美奈も聞きたかったー」


「ごめんごめん。大人の話だったのよ。それで、彼はどうだったの?」


 静はもうひとりの男性のほうにそう訊ねる。


「<ここに在らず>深海透、発症者である以外は取り立てて普通の少年にしか見えませんでしたよ」


「うーん、まあ能力名についての法則は興味深いサンプルではあるわね。分析系能力は全て同じ答えを返す、か。分からないのはどうして拳が彼に接触したのか、ね。偶然だなんてことはありえない。拳は見つかりたくなければ誰にも見つからずに京子の病室に出入りするでしょう……。美奈、パパはどこまで追いかけられたの?」


「いつもと一緒。三坂のビルで通り抜けられなくなっちゃった」


「そう、お疲れ様。キャンセラーは厄介ね。任意発動だとしたら1課に動いてもらうわけにもいかないだろうし……」


 静は美奈の頭を撫でて、男性に穏やかな笑みを見せた。


「ねぇ<かく価値ある言の葉>、こちらもせっぱ詰まってきているし、そろそろどうやって境界線抜けをやったのか教えてもらえないかしら」


「約束はまだ果たされていないよ。<三枚舌>」


「あたしはただこの煉瓦台を心から守りたいだけなのだけどね……」


「私は煉瓦台も世界もどうなろうとあまり関係ないんだよ……」


「…………」


「…………」


 2人はしばらくの間見つめあっていたが、やがてどちらともなく笑い出した。


「やめましょう。あたしたちがいがみあっていても何にもならないわ。美奈、彼をいつもの場所へ」


「は~い」


 美奈が<かく価値ある言の葉>の腕に触れたかと思うと、2人は落ちた。


「まったく……愛してる、ねぇ……」


 ひとり残された静はカップを拭いて戸棚に戻して苦笑した。


「なんて価値のない言葉」

 <かく価値ある言の葉>が静に向けて言った<三枚舌>というのは能力名ではありません。静は発症していない普通の感染者です。

 次回からは今回の外部感染発生前後にまで時間を遡ってとある2人の話になります。

 次回、空は続くとも郷は遠く。

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