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Red eyes the outsiders  作者: 二上たいら
Red eyes the outsiders

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赤の代弁者 -4-

 特捜本部に留置所があることは知っていたが、京子は自分が檻の内側に入れられる日が来るとは思っていなかった。

 まあ警察に連行されたところを特捜が発症者がらみであると横槍を入れてくれなければ、もっとひどい待遇を受けていたに違いない。

 それに比べればたとえここが留置所でも気分はそれほど悪くなかった。

 手錠も無いし、携帯電話を持ち込んでテレビも見られる。

 監視カメラはついてるし、承諾なしに打たれた抑制剤で頭はくらくらする。


 ……ちくしょう、なんとも素敵だ。


 取調べは恐喝というよりは懇願だった。

 現在は特捜庶務課とは言え京子は元3課課長で、抑制剤を打たれているとは言え発症者だ。

 いかに外部世界が彼らに人権を与えたとは言え、バケモノには違いない。

 しかし京子は証言を一切拒んだ。

 まず第一にトールを売る気にはなれない。

 彼が意味も無く殺人を犯すような人間ではないことを京子は十分に知っていた。

 続いて弓削朝子がまだ出てこない。

 京子は彼女が意図的にこの状況を作り出したのではないかと疑っていた。

 最後にどうせ物証が足りない。

 少女は銃殺されたが、京子は銃を持っていない。

 捨てたわけでもない。

 硝煙反応も調べられたが、出るはずがない。

 このまま行けば一月もしないうちに拘留期限が切れて釈放されるだろう。

 京子はそう踏んでいた。

 一番の問題は結局少女の能力がなんだったのか、ということだ。

 何度思い返してみても少女の意識には無数の意識が折り重なるようにして存在していた。

 自分の能力によく似ているものだ、と京子は仮定した。

 京子は他人の意識に入り込み、その現在も過去も覗き見る。

 その際に、相手の情報が自分の中に書き込まれる。

 自身の一部となる。

 少女のそれは京子の能力をより強くしたようなものだ。

 無数の他人が少女の中に存在している。

 そしてそれを統合した上で、七瀬奈菜という個性を維持していた。

 もしくは、七瀬奈菜を飲み込んだ何かが七瀬奈菜を演じていた。

 他人の意識を覗き見してきた京子だからこそ分かる。


 あれは異常だ。


 対処の必要がある。情報を集める必要がある。

 だが殺害するなんて論外だった。

 まずは一刻も早くトールと接触を取る必要がある。

 少女を殺害した彼であれば、なんらかの情報を持っているに違いない。

 ごんごん、と鈍い音に顔をあげる。

 携帯電話から顔を上げると弓削朝子が立っていた。

 その後ろには相変わらず日比谷真夜が控えている。

 鉄壁だな、と京子は思った。


「謝罪と用件とどっちが聞きたい?」


「用件で」


「被害者の能力を教えて。――それでここから出してあげるわ」


「イヤ」


「イヤって、あなた……」


 弓削朝子がこの取引材料を引き出してくるのにどれほど苦労したかは、目の下のクマで分かる。

 犯人を目撃しているに違いない重要参考人を釈放させるためには色々と取引が必要だったに違いない。

 だがそんな朝子の事情など考慮するつもりはない。


「そっちが掴んでる情報を教えて。交換条件よ」


 朝子は絶句した。

 容疑者として拘留されている人間がこんなに強気に出てくると誰が思うだろうか。


「釈放よりそっちのほうが重要だと思ったわけね」


「だってあなたどちらにしても私を釈放する気でしょ。私が犯人について一言も言わないのを知って、無理に拘留し続けるより泳がせようと思った。違う?」


「…………」


 沈黙もまた答えだ。それは京子が実践したばかりのことだった。


「釣り餌になってあげるから情報をちょうだい。被害者のことも話す。ただし犯人については何も知らない。それでいいでしょ」


 弓削朝子は折れた。

 無駄に京子と意地の張り合いを続けても意味が無い。

 それに状況は京子が思っているよりもずっと悪かったのだ。




 これは連続殺人事件だった。

 京子は3課の応接室を占拠して、朝子から奪い取った事件の資料を読みふけった。

 被害者はいずれも発症者。

 能力が確認できない無能力者であり、いずれも発症から数日のうちに殺害されている。

 殺害方法はすべて銃殺だった。

 頭部に至近距離から一発。

 被害者が抵抗しようとした形跡はひとつもない。

 つまり無能力者が確認されると誰かがすっ飛んでいって殺してる。

 疑う余地も無くそういうことだ。

 そしてその誰かとはトールだ。

 京子は腕を組んで唸った。

 トールが生きていたことは嬉しい。

 水瀬や美禽も無事かもしれない。

 だがではなぜトールはこれまで特捜に連絡をしてこなかったのだ。

 ビビリ屋のことが頭をよぎった。

 それは無い。

 水瀬以外の2人は京子が自ら発症したところを拾って特捜に引き込んだのだ。

 初めから別の組織のスパイだったなんてことはまずありえない。

 何かがあってトールは特捜に戻れなかった。

 そして今は連続殺人犯になっている。

 信じられない、とは思わなかった。

 トールが一線の向こう側の人間であることは知っていた。

 いわゆる“やらかしてしまう”側である。

 だが彼は決して快楽主義者などではなく、どちらかといえば組織志向で真面目なタイプだ。

 彼が納得できる理由があったから彼はこの殺人を始めたに違いない。


「ねえ、確認されてる無能力者はすべて殺されてるのね?」


 端末相手に仕事に取り組んでいる朝子に声をかけた。


「あんたねぇ、部外者なんだからもうちょっと遠慮してよ」


「で、全部なの?」


「全部よ。全部」


「殺されてから無能力者だと分かったって場合はない?」


「無い」


「殺害時までに無能力者の情報を取得できた部署ってある?」


「まあ、そこに行き着くわよね」


 朝子は立ち上がって京子を応接室に押し込んだ。

 そして声を潜める。


「特捜が無能力者が見つかったという情報を得られたのはこれが2度目。他はすべて遺体についてきた予備情報だった。だから特捜関係者は除外していいわ」


「病院関係者ね……。その線では追ってるの?」


「今の病院に手を出すのは難しい……」


 現在、内部世界の病院は国際機関となっている。

 疾病予防管理センター(CDC)が中心となった対策チームが立ち上げられて赤目症の研究を行っているのだ。

 そしてそのチームの内部世界班を率いているのは黒崎静だった。

 そして彼女は再建された煉瓦台記念病院の院長でもある。


「探りは入れてるけど、どうしても後手に回る。ようやく無能力者が見つかったら連絡をもらうという約束を取り付けたところで、あんまり刺激したくないというのもある。一応、院長に事件と関わりのありそうな職員を探してくれって頼んだけど、その院長が一番怪しい」


 まったくもって同意だったが、今回に関しては京子は黒崎静はかかわりがないと見ていた。


「黒崎静はワケの分からないものを失わせたりはしないわ。徹底的に解剖して調べつくすでしょ」


「それもそうね。でもまあ病院相手はやりにくい。全職員となると今では外部世界のほうが人数多いしね。規模が大きすぎる」


「組織的な犯行かしら?」


「分からない。だからその線も考えてる」


「目的はなに?」


「最初は赤目原理主義者だと思ってた。能力を持たない発症者は欠陥品だと考え、処分する、みたいな。まあ今もこの線は消さない。犯人が被害者を無能力だと思っている可能性は高い」


「今は?」


「その、なんだったかな、意識を蒐集する能力とでもしておこうか。それが邪魔な誰か、という気がする。まあなんにせよ私はそっちに期待してるから」


「邪魔な誰かの線?」


 訊ねると朝子は立ち上がり首を横に振った。


「ううん。あなたから犯人の線よ。ふぁぁ、あなたにはこっそり監視をつけてあるから自由にやってね。私はそろそろ仮眠するわ。おやすみなさい」


 けだるそうに手をひらひらと振って朝子は応接室から姿を消した。

 まったくもってやりにくい相手だった。まあ向こうも同じことを思ってそうだけど。

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