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Red eyes the outsiders  作者: 二上たいら
Red eyes the outsiders
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地は途絶えしも其は近く -14-

 空は茜色から深い藍色に染まり始めていた。

 結局、京子からの電話の後すぐに215号線はバリケードに突き当たり、透たちは車から降りるしかなくなった。

 地図を見る限りはエリアC23に該当する。

 絶対境界線からは平均2エリア、距離で4キロという地点だ。

 3人は真っ直ぐに西に向かえばエリアC21に辿り着くと考え、山中に足を踏み入れたが、それは大きな過ちであった。

 木々の密生した山中は時間の経過とともに闇を濃くし、腐葉土は足を絡め取る。

 コンパスこそあったものの、ただ西に真っ直ぐ向かうということが難しい。

 特に身長ほどもある対物ライフルを抱える透は軽装の女性2人に比べ遅れがちになった。


「先に行け、先に」


 何度かそう提案したが、それは却下される。

 遭難の恐れもあるし、火力という面に関しては透に頼りきりになるチームである。

 つまり女性2名では万が一の事態に対処できない可能性がある。


「力、使おうか?」


 美禽が透のそばに来て囁いた。

 足場を作る能力である美禽は触れている仲間と能力を共有することができる。

 ゆえに透と美禽が協力すればこの腐葉土に足をとられることもなく、また山の斜面も無視して移動できる。


「それはダメだ」


 だが所有の関係性が無ければ肉体接触を持てない水瀬は美禽と能力を共有することができない。

 また美禽のこの能力を知るのは今のところ透と京子だけのはずだった。

 本来なら封印隔離対象になるはずのこの能力を隠し通すためには、秘密の共有は最小限に抑えなければならないだろう。

 もちろん水瀬が信用できないというわけではないのだが……。


「分かった。それじゃちょっと辺りを見てくる」


 そう言って美禽は手近な木に掴まると、するするとそれを登っていった。

 実際には能力の助けを借りているのだろうが、傍目には単に身軽なだけに見える。

 尻軽らしい軽快な動きだった。


「いよっと――」


 木の上から一気に飛び降りてきた美禽はうまく腐葉土に着地した。


「絶対境界線にかなり近いよ。森に切れ目が走ってるもん」


 仕事柄、透らは何度か絶対境界線に来たことがある。

 焼夷弾で森を焼き作り上げられた地雷原はおよそ半数が隠されておらず、示威的に外部世界との断絶を突きつけてくる。

 腐食し、もはや爆発しないものもあるだろうが、それに命を賭ける気にはとてもなれない。


「あまり近付きたくはないな……」


 自衛隊は地雷設置後に上空から散布地雷を撒きなおしたという念の入れようだったので、絶対境界線の周りにも地雷がある程度転がっている。

 そもそも絶対境界線とは言っても、別に地面に線が引いてあるわけではない。

 露出した地雷がその代わりを担っているとは言っても、やはり境界ははっきりとはしていないのだ。


「どっちにしても絶対境界線を越えられてしまった場合は、国防軍の管轄だ。俺たちは絶対境界線に沿ってC21を目指そう」


「……異議はないけど、ひとつ質問」


 先頭を切って進む水瀬が聞いた。


「……今回の相手は外に出ようとする感染者。発症者じゃない。抵抗されたときはどうするの?」


 発症者相手の交戦規定はひどく緩い。

 それ以前に一般市民でも発症者に危害を加えることで罰せられることは基本的に無い。

 だが相手が感染者となれば話は違ってくる。

 彼らは管理自治機構の保護下にあり、一定の権利を有しているからだ。

 また基本的に特捜3課は対発症者を任務としており、感染者を相手にしたマニュアルが存在しない。

 今回は緊急事態のため透らが出張ることになったが、本来ならこういう任務は1課、または2課の仕事のはずだった。


「確保する」


 言っては見たものの、それをどうやってするのかの具体的なイメージはつかめなかった。

 おそらくは出動命令のかかっているであろう1課が早々に追いついてきてくれることを祈るだけだ。

 だが編成や準備に時間のかかる1課では3課に比べどうしても初動で遅れる向きがある。

 あまり期待通りにはならないに違いない。


「そう考えるとさー、あたしたちって手錠も持ってないよね」


「接敵、射殺、解決だからな。いつも」


 <かくも脆き>を撃ち殺してから引き金を引くためらいは無くなりつつあった。

 引き金を引くことで守れるものもあると気づいたからだ。

 それは多分いいことなのだろう。

 透はこれからも引き金を引き続けなければならないのだから。


「……制圧用の武器を発注しておくべきね」


「次への課題だな。いいことだ。だが今回は間に合わないので、手持ちの装備でなんとかしよう。別に稀代の格闘家が相手とかいうわけでもないんだろう」


「……資料にはそんなことは書いてなかったわね」


「近接格闘なら任せといて!」


「うん。それじゃ一応は説得を試みるが、万が一の場合の制圧は美禽に任せる。警戒しなくちゃいけないのは、第三勢力だな」


「……規模もなにもわからないものね」


「でもまさか何十人もいたりはしないだろ。羽田の時だって死んでるのは1人だけだし、誰かが脱出したということもない」


「そいつらがコミュニティなら話は早いんだけどね」


「その場合は俺の出番か。もし感染者のグループだとするとよくないな」


 歩きながらしばらく第三勢力への対応について話し合うが、なかなかいい案が出てこない。

 そのうちに存在するかも分からない第三勢力への対応を考えるのに嫌気が差して、三人は黙々と歩き始めた。

 そして数分、透が頭に思い浮かべたエリアコードを重ねた地図でC21に到達したかどうかという辺りだった。

 耳をつんざく爆音が轟き渡った。

 あまりの音量に空気がびりびりと震える。

 耳を押さえ、雷鳴かと思って空を見上げるが雲は雷を生むにはあまりにも薄い。

 否、それだけではなかった。

 空が紅く照らされている。


「美禽!」


「うんっ!」


 小柄な少女は一気に木を駆け上がった。

 その間も断続的に爆音は続く。

 透も爆音方向に向けて視点を飛ばしたが、これはあまりうまくいかなかった。

 木々で視界を遮られるために、あの地下のカーテンと似た効果が発生しているのだ。


「大変! 森が燃えてるよ!」


 木の上から飛び降りてきた美禽が叫ぶ。

 だが問題はなぜ森が燃えているのか、ということのほうだ。

 自然発火の可能性を考慮に入れるほど透は愚かではない。

 無論これは人為的な火災であろう。

 つまりこれが絶対境界線を越える手段なのだろうか。

 確かに熱で誘爆する地雷もあるだろうが、ほとんどのものには効果あるまい。

 それに羽田弘文の時に山火事が起きたという報告はなかったはずだ。


「急ぐぞ。美禽、水瀬!」


 悪い予感がした。

 どうか外れていてくれ、そう祈りながら透は腐葉土をかき分けるようにして走った。

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