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Red eyes the outsiders  作者: 二上たいら
Red eyes the outsiders

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25/90

空は続くとも郷は遠く -4-

 2019年9月20日。

 地獄の蓋が開いた。

 白瀬信行はそんなことを考えた。

 煉瓦台に隣接する小都市、八坂が国防軍により封鎖されておよそ24時間が過ぎていた。

 その間に数回に渡り広報車と思しき車が大音量で屋外に出ないように警告を告げては通り過ぎていく。

 事実上の戒厳令だ。

 信行は情報を得ようとしてテレビをつけたが、ブラウン管には砂嵐が映るばかりで、ラジオもまたノイズしか発しようとはしなかった。

 最初は聞き取れていた警察無線も今は完全に沈黙しており、煉瓦台と同様の情報規制が敷かれたと覚る。

 勿論携帯は圏外になり、普通の電話機も不通状態になっていた。

 一方この状況下にありながら宗谷美咲はというと現状になんら不満を抱いていないようで、買い置きのカップ麺を食べては寝て、あとの時間は信行にぴったりと張り付いている。

 逃げるつもりもなかったが、逃げように狭い室内ではどうしようもない。

 問題は後どれくらいこの状況が続くのかだった。

 幸いアパートの室内には後数日は食っていけるだけの備蓄があった。

 節約すれば一週間は持つだろう。

 状況が長く続くようならは自衛隊からの支援だってあるはずだ。

 だが例え自衛隊からの食糧支援があるとしても信行はそれを受け取りに行く気にはなれなかった。

 食料の配給があるならばそこには多くの人が集まるはずであり、それだけ感染の危険性が高まる。

 それならば食料を節約しながらギリギリまで耐えるべきだ。

 一先ずは水、電気、ガスのライフラインが生きていることに感謝する。

 しかしその一方で疑問も生じる。

 これが本当に感染漏れであるならば、封鎖するだけの現状では、八坂市内での感染拡大は避けられない。

 八坂市は人口7万弱の人口減少地域であるとはいえ、全域が封鎖されているのならば、自衛隊は新たな7万の感染者を生み出す状況を黙認するというのだろうか。


「ちゃうと思うで」


 ごろりと信行の脚の上で寝返りをうって、美咲がじっと信行の顔を見上げる。


「カビの生えたパンを食べるようにしてるんとちゃうかな」


「なにそれ?」


「外側から切り取ってカビが生えてなかったら食卓へ」


 美咲の言いたいことを具体的に言うならば、封鎖区域を外側からブロック単位で非感染を確認しながら狭めていくということになるだろうか。

 赤目症ウイルスの感染確認そのものはそれほど手間のかかる作業ではない。

 一人当たりにかかる時間はそれほど長くないはずだ。

 ただしその手段が、赤目症ウイルスと感染被疑者の血液を反応させるという手段でさえなければ……。

 そして赤目症ウイルスがBL-4ウイルスである以上、その取り扱いは厳重な無菌室で、防護服を着て行われることになる。

 建前上BL-4対応の移動式無菌室を自衛隊は所持していることになっているが、その台数は……全国で4台。

 八坂に即時出動できるのはその内の1台がいいとこだ。

 たった1台の無菌室で、7万人の血液を順次調べていく。

 行かざるを得ない。


「一日に千人こなしても70日か……」


 もちろん千人というのは信行が考えた適当な数字に過ぎない。

 実際の処理速度はまったくの不明だ。

 1万人かもしれないし、100人かも、10人かもしれない。


「それもそんなにかからんと思うよ」


「なんでや?」


 美咲はまた寝返りをうつ。

 長い髪がその顔を覆い、表情が見えなくなる。

 だが元々美咲はあまり表情を出すほうではない。

 大して違いはない。


「封鎖をそんなに続けてられへん。それに大規模なBL-4施設ならすぐ傍にあるやん」


「そうか――」


 “壁”だ。

 世界でもCDCやUSAMRIIDに次いで大規模なBL-4対応施設を擁する煉瓦台との絶対境界線に築かれた“壁”なら、こういった事態に対処するべき区画が必ず用意されているはずだ。

 外堀を自衛隊の移動車両が処理し、内側は“壁”に移送する。

 となれば、内側の処理はより感染の可能性の高い区画から始まることになるだろう。


「最初に感染者が確認されたんは何処なんやろ」


「さあ? ここから遠ければ何処でもええけど」


「なんで?」


 じっと美咲の目が信行を見つめる。

 その奥に非難がましい光を見つけて信行は戸惑った。


「……ここは市街の中では奥まったとこにあるやん」


「だから?」


 ぎゅっと美咲の手が信行の肩を掴んだ。

 そしてそのまま膝の上に跨るように、信行の体にしがみつく。


「…………」


 何故か美咲は怒った顔で信行にキスをした。

 二度、三度、何度も……。


「今のうちに一杯、しとこ……」


「なんっ……」


 何故? と聞こうとした唇さえ塞がれる。


「……“壁”に送られるにせよ、自衛隊に検査されるにせよ、しばらく一緒にはおられへんよ。そしてそれが最後になるかも知れへん。どうせなら……」


 美咲の手が信行の体を押し倒す。


「どちらかだけが感染してるなんてことがあらへんようにしたいやん」


 そして美咲の体が信行の体に覆いかぶさろうとして、


 乱暴に叩かれる部屋の扉と共に、


 わずかな甘い蜜月は終わりを告げた。

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