宿屋の経営
ギルドに向かう途中、たまたま出会ったトムと
話をしながら歩いていると少年たちに囲まれた。
相当煽られて、トムも限界だろう。
トムの肩に置いた手からトムの体に力が入るのが分かる。
「トム、ダメだ。」声を押し殺して自制を促す。
「なんでだよ!ユーキ、離せよ!」
「勉強もダメ、働いてもダメ、何ができるんだろうねえ。」
「貧乏人は何をしてもダメだねえ。」
少年たちが煽るごとに、トムの顔が歪み、体に力が入る。
これは両手で押さえつけないとキツイかと思ったとき、
「お前ら、興味深い課題を見つけたな。」と声がした。
いかにも体育教師といった雰囲気の中年男だった。
今度は少年たちの顔が一瞬歪んだが、すぐに作り笑顔になった。
「トム君がいたので旧交を温めていただけですよ。」
「ええ、久しぶりに会えたので嬉しくなってしまって。」
「それでは、僕らは失礼いたします。」
「うちの、生徒どもが御迷惑をおかけしたようで、すみません。」
あの少年たちの教師なのだろう。
頭を下げて謝ってはいるものの、教師の外見に凄味があるので、
威圧感がある。
「来ていただいて助かりました。ところで課題というのは?」
「今、課外研究中なんですよ。街での経済活動を研究するのです。」
うん。人間は外見で判断してはいけないね。
「それでは私も失礼します。」
また、頭を下げて、教師は去って行った。
「なんで離してくれなかったんだよ。」
教師が行ってしまってからトムが俺に噛み付いて来た。
「ああ、悪かった。」素直に謝る。
多分、トムも手を出さずに済んで助かったとは思っているのだろう。
だからこそ、素直に謝ってやる。
トムが心配なので、トムの姉が看板娘をしている宿屋まで
連れて行くことにした。
道中、ずっとトムは俺に文句を言っていた。
「?、何かあったんですか?」
トムが俺に文句を言いながら帰ってきたので、流石に看板娘の表情も曇る。
「なんでもねえよ。」トムはそのまま自分の部屋に行ってしまった。
「王都立学校の連中に絡まれてな。」
それから、少々看板娘と話をした。
宿屋の経営は一時期は本当に苦しかったがギルドの方針転換もあり回復してきていること、
ユンゲルスさんやユンガーさんのように朝食だけ食べに来てくれる人もいて
そういう人はずっと通って来てくれていること、
トムは学校を止めてしまったので復学は難しいこと、
「そんなに心配してくれていたんですね。
私はてっきり派手なことをしたいだけだと思っていました。」
看板娘はトムがそこまで考えていたとは思っていなかったようだ。
「これからは賞金稼ぎが上手く行かないのをからかうのはやめた方がいいだろうな。」
と最後に独り言を言って、ギルドに向かった。
ギルドの窓口では、メリッサさんが相変わらず眠そうにしていた。