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スライムスライム へなちょこ魔物使い  作者: 銀騎士
鉱山 採掘編

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97 ダンジョン都市アダック⑧ 修


 左側の戦場では木偶車の緑の突撃を男重戦士が大型の盾で受け止めたが後方に吹き飛ばされた。


 この木偶車の緑は胴体の部分が数匹の木偶、脚の部分に二匹の車輪、胴体の上部に棘が合体したような姿をしていた。


 だが、木偶や車輪、棘が合体したわけではなく、このような姿で木偶車は自然発生するのだ。


 男暗黒剣士は木偶車の緑の側面から大剣の一撃を叩き込んで後方に跳躍した。


 二人の男魔法師はファイヤボールの魔法を唱えて、激しい炎が木偶車の緑を包み込んで木偶車の緑は燃え上がる。


 だが、木偶車の緑は平然とウインドの魔法を唱えて、風の刃が男魔法師たちに襲い掛かる。


 男魔法師は慌ててマジックシールドの魔法を唱えて、透明の盾が男魔法師の前面に展開されて風の刃を防いだ。


「あ、危ないところだった……」


「やはり焦らずにどちらかは防御にまわったほうが安全だな」


 男魔法師たちは思わず額に汗がにじみ出る。


 木偶車の緑は後退しながらヒールの魔法を唱えて傷を回復し、男暗黒剣士たちに向かって突撃した。


「埒が明かんな……一気に片をつける」


 男暗黒剣士は『決死』を発動して黒いオーラを身に纏って爆発的な速度で木偶車の緑に一気に肉薄して大剣を振り下ろし、体の上部にある棘を斬り落とした。


 木偶車の緑は面食らって動きを止めた。


 その隙を男暗黒剣士は見逃さずに大剣を振り下ろして木偶車の緑の胴体を斬り裂いたが、木偶車の緑はヒールの魔法を唱えて傷を回復させながら後方に逃走する。


 男暗黒剣士は後退し続ける木偶車の緑にぴったりとはりついて大剣の連撃を放って木偶車の緑を斬り裂き続けたが、木偶車の緑はヒールの魔法を連続で唱えて傷を回復しながら部屋の中央にある魔法陣を踏んで姿が掻き消えた。


「ちっ、逃がしたか……」


 男暗黒剣士は苛立たしそうに眉を顰めた。


「相変わらず、『決死』は凄まじいな……」


 男重戦士はただならぬ表情を浮かべている。


「……逃げられたのは痛いがこれで助けにいける。向こうはかなりの負担になっているはずだ」


「ああ、分かってる」


 男重戦士の言葉に、男暗黒剣士は同意を示して頷いた。


 男暗黒剣士たちは右側の戦場に向かって歩き出したのだった。



















 一方、右側での戦場では激しい乱戦になっていた。


「くそっ!! きりがないぜ!!」


 男格闘家はレッサー ファンガスに蹴りを叩き込んで、レッサー ファンガスが展開している透明の盾を突き破って腹まで貫通し、レッサー ファンガスは絶命して倒れた。


 レッサー ファンガスの全長は一メートルほどだが人型の茸のような姿をしていた。


 辺り一帯には五センチメートルほどの小さな茸が多数動き回っており、冒険者たちに体当たり攻撃を仕掛けているが放置されていた。


 彼らがどれだけ冒険者たちを攻撃してもダメージを与えることはできないからだ。


 だが、レッサー ファンガスが男格闘家の背後からが忍び寄って『眠りの息』を吐き、黄色の風が男格闘家の体を突き抜けた。


 男格闘家は激しい睡魔に襲われて自身の頬を両手で叩いて意識を保とうとした。


 だが、前方からレッサー ファンガスが『痺れの息』を吐き、黄色の風が男格闘家の体を突き抜けて男格闘家は体が麻痺して膝から崩れ落ちた。


 周辺には小さな茸たちだけではなく、レッサー ファンガスも多数いるのだ。


 すると、地面にうつ伏せに倒れた男格闘家を見下ろす魔物がいた。


 その魔物の全長は二メートルを超える人型の茸のような姿をしていた。


 通常種のファンガスだ。


 ファンガスは周辺に『胞子』を撒き散らし、一センチメートルほどある胞子が男格闘家や絶命したレッサー ファンガス、小さな茸たちに着床し、数秒で発芽して凄まじい速さで大きくなっていく。


 男格闘家は『胞子』が腕に着床して恐怖に顔を歪めていた。


 しかし、彼の身体には背中と脚にも『胞子』が着床して三箇所同時に発芽して苗床にされていたが、『痺れの息』により全身が麻痺していたので知る由もなかった。


 絶命したレッサー ファンガスの死体に着床した『胞子』も発芽し、レッサー ファンガスから養分を吸収して凄まじい速さで大きくなり、十秒ほどでレッサー ファンガスに姿を変えた。


 だが、小さな茸たちに着床した『胞子』は発芽しても養分が足らず、小さな茸たちは十センチメートルほどになるだけだった。


 地面に落ちた『胞子』は雑草や微生物から養分を吸収して小さな茸に姿を変えていた。


 ファンガスは男格闘家を見下ろすだけで何もしなかった。


 男格闘家が死に至るまで苗床にするためだ。


 だが、ファンガスの上半身が横にずれ落ちて、ファンガスは倒れる。


「この糞忙しい時にお前は何をやってるんだ!!」


 青いマンティスの背に乗った女は苛立たしげに声を荒げた。


 ファンガスが斬り裂かれて絶命したのは青いマンティスが鎌の一撃を放ってファンガスを両断したからだ。


 すると、男格闘家の身体から成長した三匹のレッサー ファンガスが青いマンティスに向きを変える。


 レッサー ファンガスたちは青いマンティスに襲い掛かるが、青いマンティスは鎌の連撃を放ってレッサー ファンガスたちを瞬殺する。


「キュアボール!!」


 女魔物使いはキュアボールの魔法を唱えて、エメラルドのように光り輝く緑の球体がうつ伏せに倒れた男格闘家の体に吸収されて男格闘家の麻痺が回復する。


「マ、マジでやばかった……」


 男格闘家は腰袋から三本のポーションを取り出して一気に飲み干したが、『胞子』に体力を大幅に奪われているのでふらついていた。


「ふん……お前の役割は後衛二人の護衛だ。すぐに下がれヒールボール!!」


 女魔物使いはヒールボールの魔法を唱えて、金色に輝く球体が男格闘家の体に吸収されて男格闘家は体力が全快した。


「すまねぇな……」


 男格闘家は申し訳なさそうな表情を浮かべている。


 青いマンティスは反転し、女魔物使いたちは凄まじい速さで前衛たちに向かって駆けていった。


 男格闘家は後衛たちの元に駆け戻る。


 だが、女魔法師に鋭い視線を向けられる。


「調子に乗って前線に出て悪かったよ……もう離れないからよ」


 男格闘家はバツが悪そうに頭を掻く。


「当たり前よ!!」


「当たり前だ!!」


 女魔法師と男司祭は声を揃えて叫んだ。 


「ちっ、こういう戦い方は好かん……」


 女魔物使いは前衛たちの元に向かいながら苦々しげな表情を浮かべていた。


 彼女が後衛を気にしながら戦わないといけない状況だからだ。


 本来なら女魔物使いのポジションは前衛だ。


 彼女はペットであるハイ スパイダーを使役しながら、彼女が青いマンティスの背に乗って敵を粉砕するスタイルなのだ。


 当初は女魔物使いたちと男暗黒剣士たちは左側の戦場で木偶車の緑と戦っていたが、魔法陣から魔物の群れが出現したことにより男暗黒剣士の判断で分隊したのだ。


 だが、男暗黒剣士が出現した魔物の群れを過小評価していたために、ファンガス種は増殖してその数は五十匹を超えていた。


 女魔物使いたちが前衛の元に到着すると男重戦士がキュアポーションを飲みながら奮闘しており、二人の男重戦士が地面に突っ伏していた。


 ハイ スパイダーは移動しながらブリザーの魔法やパラライズの魔法を唱えて、ファンガス種の群れを足止めしながら凄まじい速さでファンガス種に一瞬で肉薄して前脚の爪でファンガス種を突き刺して食い散らかしている。


「キュアボール!! キュアボール!!」


 女魔物使いは連続でキュアボールの魔法を唱えて、エメラルドのように光り輝く二つの緑の球体が倒れている男重戦士たちの体に吸い込まれる。


「がぁああああああぁぁ!!」


「あんたがいてくれたら意地でも立ってみせる!!」


 男重戦士たちは気合とともに一気に立ち上がった。


「くくっ、その意気だ」


 女魔物使いの顔に満足げな笑みが浮かびあがる。


 すると、ハイ スパイダーが女魔物使いの傍に帰還して女魔物使いに身を寄せた。


 女魔物使いは『魔物解析』でハイ スパイダーを視る。


「毒か……それも猛毒だな……」


 女魔物使いは『浄化』を発動して手でハイ スパイダーに触れるとハイ スパイダーの毒が消え去った。


 基本的に魔物使いは職業的に『浄化』を所持していない。


 だが、彼女は『二重職』を所持しており、二つの職業に就いていた。


 その職業は魔物使いと回復師で、回復師は最上級職のひとつで非常に珍しい職業であり、回復に特化した職業なのだがファテーグの魔法が使用できないことが唯一の欠点だ。


 そのため、女魔物使いはファテーグの魔法を所持しておらず、男重戦士たちが「意地でも立ってみせる!!」と言ったのはスタミナが切れているからだ。


 スタミナは体力と連動しており、体力を大きく失って体力を回復してもスタミナは減ったままでいずれ動けなくなるのだ。


 男重戦士たちは正面からファンガス種の群れに突撃する。


 ハイ スパイダーはこれまで遠距離攻撃や一撃離脱に終始していたが、一転してファンガス種の群れに突撃した。


 女魔物使いが傍にいることで行動不能に陥る『痺れの息』などの状態異常を心配する必要がなくなったハイ スパイダーの攻撃は凄まじいもので、瞬く間にファンガス種の群れが食い殺されていく。


 その攻撃の速さは三人がかりの重戦士たちよりも圧倒的に早かった。


 ハイ スパイダーは単独で難なく魔物の群れの主力の前に辿り着く。


 魔物の群れの主力は巨大な木の魔物と三匹のファンガスだ。


 ハイ スパイダーは真ん中のファンガスに前脚の爪を放ち、前脚の爪が前面に展開する透明の盾を容易く貫いてファンガスの胴体をも貫通した。


 だが、主力であるファンガスは高レベルで体を貫かれても倒れることはなかった。


 ハイ スパイダーは前脚の爪の連撃を真ん中のファンガスに放ったが、真ん中のファンガスは攻撃を受けながら『胞子』をハイ スパイダーに放つ。


 それに連動して左右のファンガスが『痺れの息』と『猛毒の息』を吐き、黄色い風と緑色の風がハイ スパイダーに襲い掛かり、ハイ スパイダーは後退しようとしたが、すでに後方はファンガス種の群れに塞がれていた。


 ハイ スパイダーはそれでも胞子と黄色い風は回避したが、緑色の風が直撃して猛毒に侵される。


 怒り狂ったハイ スパイダーは一瞬で真ん中のファンガスに肉薄して前脚の爪の連撃を放ったが、真ん中のファンガスは『再生』で体力を回復している。


 左右のファンガスは『痺れの息』と『猛毒の息』を吐き、黄色の風と緑色の風がハイ スパイダーに襲い掛かり、ハイ スパイダーはファンガス種の群れの中に斬り込んで黄色の風と緑色の風を躱した。


 ハイ スパイダーは長期戦になると考えて、戦闘空間を広げるためにファンガス種の群れを凄まじい速さで食い殺していく。


「なっ!? また毒か……キュアボール!!」


(それにしてもオティーニル(ハイ スパイダー)がてこずるとは敵の主力も相当強いようだな……)


 女魔物使いはキュアボールの魔法を唱え、エメラルドのように光り輝く緑の球体がファンガス種の群れの隙間を通り抜けてオティーニルに吸収される。


 オティーニルの体から猛毒が浄化し、オティーニルは獰猛な笑みを浮かべてファンガス種の群れに襲い掛かる。


 女魔物使いは『魔物解析』で敵の主力を視た。


「なるほどな……」


(ファンガスたちのレベルが三十もあるのか……)


 女魔物使いは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら『魔物解析』で巨大な木の魔物を視た。


 すると、巨大な木の魔物はハイ トレントだった。


「なっ!? 初めて見る魔物だと思ったが上位種なのか!!」


 女魔物使いは声と表情を強張らせる。


 ハイ トレントの全長は十メートルを超えており、ヒールの魔法、キュアの魔法、ファテーグの魔法、『HP回復』、『MP回復』、『スタミナ回復』を所持していた。


 つまり、回復に特化した個体であり、オティーニルがファンガスを倒しきれないのはハイ トレントがファンガスを回復していたからだった。


 男重戦士たちはファンガス種の群れを攻撃していたが『痺れの息』を受けて地面に倒れ込んでいた。


 ファンガス種の群れは一斉に『胞子』を飛ばして男重戦士たちに無数の胞子が直撃したが、男重戦士たちが着込んでいる全身鎧を貫通することはできなかった。


 無数の胞子は地面に落ちて根が激しく暴れて、そのほとんどが生物に触れることができずに枯れ落ちる。


「キュアボール!! キュアボール!! キュアボール!!」


 女魔物使いはキュアボールの魔法を連続で唱えて、エメラルドのように光り輝く三つの緑の球体が男重戦士たちに吸収される。


「がぁあああぁぁあああぁぁ!!」


「くそったれがっ!!」


「何度もすまん!!」


 男重戦士たちは憤怒の形相で立ち上がり、女魔物使いは視線を後方に向けた。


 すると、後衛たちはファンガス種の群れを上手く処理できているようで健在で、女魔物使いはほっとしたような顔をした。


 オティーニルは周辺のファンガス種の群れを食い殺して、視線をハイ トレントたちに向ける。


 すると、ファンガスが二十匹ほど増えており、ハイ トレントを護っていた。


 高レベルのファンガスたちはオティーニルが危険だと判断して新たな戦力を生み出していたのだ。


 つまり、『胞子』をハイ トレントに飛ばしたのだ。


 ハイ トレントは回復に特化しているのでいくらでもファンガスを生み出すことが可能で、苗床となる個体が強いほど強いファンガス種が生まれることになる。


 オティーニルは怒りに身を震わしながら突撃を諦めた。


 だが、ファンガスの群れに広範囲の炎が襲い掛かり、炎に焼かれたファンガスの群れは絶叫してのたうち回る。


 男暗黒剣士たちが駆けつけたのだ。


「突っ込むぞ!!」


 男暗黒剣士たちはハイ トレントに目掛けて突撃する。


 炎に焼かれたのは半数ほどのファンガスたちで、残りの半数が男暗黒剣士たちの突撃を阻んで乱戦になる。


 男暗黒剣士は透明の盾を展開したファンガスに大剣を振り下ろし、透明の盾ごとファンガスを両断してファンガスは一撃で即死した。


 高い攻撃力を誇る暗黒剣士にとってファンガスなど話にならない相手だ。


 男暗黒剣士は瞬く間にファンガスを斬り殺していくが、男暗黒剣士に追従する男重戦士が『眠りの息』を受けて眠りに落ちて棒立ちになる。


 残りの男重戦士たちは『猛毒の息』を受けて、猛毒に侵されながらもファンガスを一匹ずつ仕留めていた。


 だが、炎に焼かれたファンガスたちは死んではおらず、『再生』で体力を回復しており、さらにハイ トレントがヒールの魔法で傷を負ったファンガスたちを回復していた。


 体力が全快したファンガスたちは一斉に『胞子』を撒き散らし、ファンガスたちの死体を苗床にしてファンガス種が増殖した。


「馬鹿なっ!? これでは斬れば斬るほど増えるだけではないか!!」


 男暗黒剣士は苛立たしげに声を荒げる。


「奴らを増やさないためにはファイヤで焼き払うしかない。いったん後退するぞ!!」 


 男暗黒剣士は眠りに落ちている男重戦士を叩き起こした。


 猛毒に侵された男重戦士たちは頷いて後退し始めて、男暗黒剣士たちは戦場から離脱する。


 オティーニルは男暗黒剣士たちが駆けつけたことで敵の戦力が分散し、高レベルのファンガスを一匹仕留めて食い散らかしていた。


 彼がファンガス種を食べているのはファンガス種を増やさないようにするためで、彼だからこそできる戦術だ。


 しかし、男暗黒剣士たちが後退したことで全てのファンガスたちがオティーニルに集中し、オティーニルは再び遠距離攻撃に切り替えるしかなかった。


 男暗黒剣士たちが戦場から後退すると、男怪盗が駆けてきて男暗黒剣士に耳打ちした


「な、何だと!?」


 男暗黒剣士は視線を魔法陣に向けて目を見張る。


 魔法陣から先ほど戦った木偶車の緑が傷を回復させて出現したからだ。


 しかも、その後ろには新たな木偶車の緑を二匹引き連れていた。


「あの二匹は特化型で俺たちが戦った木偶車より数段強い個体だ」


 男怪盗は表情を強張らせる。


「撤退する」


 男暗黒剣士は凄まじい怒りが眉の辺りに這いながらも即断した。


 男怪盗は撤退を知らせる笛を吹き、耳をつんざくような高音が周辺に響き渡る。


「こ、これは全軍撤退の笛の音!?」


 女魔物使いは不可解そうな表情を浮かべている。


 男重戦士たちは速やかに後退していき、女魔物使いは思念でオティーニルを呼び戻し、後衛たちが後退するのを確認してから男暗黒剣士たちと合流した。


 この全軍撤退の笛の音は絶対で、無視すれば取り残されるだけなのだ。


「いったい何が起きたんだ?」


 女魔物使いは不審げな眼差しを男暗黒剣士に向けた。


「魔法陣を見てみろ」


 女魔物使いは男暗黒剣士に言われたままに視線を魔法陣に向ける。


「木偶車が三匹か……これでは仕方がないな……」


 木偶車の緑たちはゆっくりとした速度で、男暗黒剣士たちのほうに向かって接近している。


「そういうことだ」


 男暗黒剣士と女魔物使いは殿を務め、仲間たちが戦場から完全に離脱するのを確認してから後退を始めたのだった。


  


















「あはは、撤退するみたいだね」


「それでどうするのよシルルン?」


「う~ん、そうだね……木偶車も三匹いるし、キノコも状態異常攻撃をしてくるから僕ちゃんが両方とも倒すよ」


「……待ってよシルルン……木偶車は私にやらせてよ」


 リザは恐ろしく真剣な表情を浮かべている。


「えっ!? リザだけで三匹も倒せるの?」


「それは無理。一匹だけなら互角に戦えると思うのよ」


「じゃあ、ステータス的に一番弱い木偶車を任せるよ。残りの二匹は素早さと防御力が高いからね」


 リザは満足げな顔で頷いた。


 シルルンは『魔物解析』で木偶車の緑たちを視た結果、素早さが七百の木偶車の緑は車輪が八個もついていた。


 そして、守備力が七百ある木偶車の緑は木偶が多数合体したような姿で巨大だった。


「あの二匹は特化型と言われる木偶車で特化型がでた時点で撤退するのが普通なんですよ。つまり、それほど強いということです」


 アニータは表情を曇らせる。


「えっ!? じゃあ、どうやって先に進むの?」


「戦場から離脱すれば木偶車は追ってこないんです。ですから、しばらく待つと木偶車は魔法陣に戻っていくので基本的には手薄な時を狙うんです」


「主よ!! あの大きいのは私にお任せください!!」


 ロシェールは跪いて目を爛々と輝かせてシルルンを見つめている。


「えっ!? あのデカイのに一人で大丈夫なの?」


「無論です。私にお任せ下さい」


「わ、分かったよ……じゃあ、任せるね」


「はっ、見事期待に応えてみせます」


 ロシェールは自信に満ちた表情を浮かべている。


「あのぅ……もしかしてですが……私たちだけで特化型と戦うんでしょうか?」


 女怪盗たちは不安そうな表情を浮かべている。


「君たちはリザとロシェールがヤバそうになったときに君たちの判断で動いてほしいんだよ。リザとロシェールもそれでいいよね?」


 リザとロシェールは無言で頷いた。


「じゃ、じゃあ、誰が残った特化型と戦うんですか?」


 女怪盗は腑に落ちないような表情でシルルンに尋ねる。


「マーニャだよ」


「えっ!?」


 女怪盗たちの顔が驚愕に染まり、皆の視線がマーニャに集中した。


 マーニャは名前を呼ばれたのでシルルンの前までとことこと歩いてきた。


「ま~っ!!」


「マーニャに特化型を任せるよ」


 シルルンは素早さの高い木偶車の緑を指差した。 


「まーっ!!」


 マーニャは元気いっぱいに鳴いた。


 だが、仲間たちは顔を見合わせて心配そうな表情を浮かべている。


「そこの冒険者!! 俺たちは撤退する。俺たちをあてにしてるなら撤退したほうがいいぞ」


 そう言い放った男暗黒剣士はシルルンたちを見もせずにシルルンたちを横切っていく。


「うん、お疲れ。伝える義務もないのにわざわざありがとう」


 シルルンも彼らを見ることなく返した。


「――なっ!?」


 男暗黒剣士は足を止めて振り返り、思わずシルルンたちを見つめた。


「――っ!?」


 女魔物使いにいたってはシルルンの発した言葉が急には理解できずに思わず二度見してしまう。


「ぷっ……」


(さすが主だ。言うことがいちいちかっこいい……)


 ロシェールは誇らしげな表情を浮かべている。


「おい!! 分かっているのか!? 相手は木偶車三匹だぞ!!」


 女魔物使いはシルルンに激しい怒声を浴びせる。


「……やめておけ。奴らが決めることだ」

 

「そんなことは分かってる!! お前は勝てると思うのか!?」


「……無理だろうな」


 男暗黒剣士はシルルンたちを一瞥して無表情で答えた。


「そう思うならなぜ止めない!! 全滅するかもしれないんだぞ!!」


「警告はした。判断するのは隊のリーダーだ」


「だから、そんなことは分かってると言っているだろ!! お前は負けると分かっているのになぜ止めないと私は聞いているんだ!!」


「お前を除隊する。お前は強いがリーダーの命令を聞けない仲間はいらないからな」


「な、なんだと!?」


 女魔物使いはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。


 男暗黒剣士は無表情のまま踵を返し、振り返りもせずに去っていった。


「……じゃあ、木偶車のほうはさっきの段取りでキノコのほうは僕ちゃんが相手をするよ。ブラックとプルは傷ついた仲間の回復をお願い」


 シルルンは重い空気が流れる中、仲間たちに作戦を説明した。


「……ちょっと待て、その段取りとはどういうものなんだ?」


 女魔物使いはいつの間にかシルルンの傍に移動して鋭い視線をシルルンに向けており、その声は恐ろしく冷たい声だった。


「あんたさっきからうるさいわねぇ……仲間じゃないのに作戦を教えるわけないでしょ!!」


「お前には聞いていない。私はこいつに聞いている」


「な、なんですって……」


 リザは今にも爆発しそうなほどに険しい表情を浮かべている。


「お前がこの隊のリーダーなんだろ?」


「まぁ、そうだけど、最初にいっておくけど木偶車もキノコも倒そうと思えばすぐに倒せるんだよ。だけど、仲間たちやペットたちの経験値を上げたいからゆっくり倒すつもりだよ。これで分かったでしょ?」


「分かるかっ!! 全く分からんっ!! 私が聞いているのは木偶車をどうやって倒すのかと聞いているんだ!!」


「だから、その気になれば僕ちゃんとペットたちで余裕で倒せるんだよ」


「ほう、だったらオティーニルの攻撃を防いで見せろ!! 行けっ!! オティーニル!!」


 女魔物使いは言葉ではオティーニルにそう命令したが、思念で「攻撃するふりをして驚かせろ」と命令していた。


 だが、オティーニルはピクリとも動かなかった。


「馬鹿なっ!? なぜ動かないオティーニル!!」


 女魔物使いは大きく目を見張った。


 オティーニルは思念で「体が動かない」と女魔物使いに返答した。


 彼が動けないのはシルルンが『念力』で押さえつけているからだ。


「オ、オティーニルに何をしたんだ!?」


「これ以上僕ちゃんたちの邪魔をするんならこのハイ スパイダーをもらうよ」


 シルルンは掛け声もなしに見ただけで紫の球体を作り出し、紫の結界でオティーニルを包み込んだ。


「む、紫の球体包囲型……そ、そんな馬鹿な……た、頼むから私からオティーニルを奪わないでくれ」


「もう僕ちゃんたちの邪魔をしないと誓うかい?」


「わ、分かった……邪魔はしないで見てるからお願いだ……」


「……ならいいけどね」


 シルルンは『念力』と紫の結界を解き放ち、動けるようになったオティーニルは女魔物使いの傍に駆け寄ってガタガタと震えている。


「お、お前ほどの勇者がこれほど怯えるとは……」


(この少年は全く強くは見えないのにどれほどの化け物なんだ……)


 女魔物使いは畏敬の念を抱かずにはいられなかった。


「ヘケヘケ族に似てるデス」


 プルは女魔物使いを見て嬉しそうに言った。


 ヘケヘケ族とはオーガキャンプでシルルンたちが助けたコアラの亜人のことだ。


 プルはヘケヘケ族が気に入っていたので覚えていたのだ。


「う~ん、言われてみればちょっと似てるかもね。君はもしかしてヘケヘケ族なのかい?」


 シルルンは女魔物使いに尋ねた。


 シルルンたちが出会ったヘケヘケ族の身長は一メートルほどしかなく、全身がグレーの毛で覆われていて目がクリクリしていた。


 だが、女魔物使いの身長はヘケヘケ族と同じぐらいだが全身が毛で覆われておらず、変わりにグレーの毛の耳とシッポがついており、顔は人族に近い顔立ちをしていた。


「ほう……ヘケヘケ族を知っているのか……だが、私はヘケヘケ族ではなく、コアラの獣人で名はヒュラだ」


「僕ちゃんはシルルン……コ、コアラも獣人がいるんだね……」


(コアラがいるならどんな動物でも獣人はいそうだね)


 シルルンは驚きを隠せなかったのだった。

面白いと思った方はブックマークや評価をよろしくお願いします。


感想でシルルンのステータスをみたいとの要望があったので追加しました。

基本的に主要メンバーのステータスは大きくレベルUPするたびに記録してありますが、追加するタイミングを外し続けてズルズルときてます。



シルルン 魔物を統べる者 レベル206

HP 6600

MP 0

攻撃力 2660+ミスリルソード 薄いミスリルの弓 雷撃の弓 水撃の弓

守備力 2120+白ぽいシャツと黒っぽい半ズボン

素早さ 3600+サンダル 速さの指輪+10 偽装の指輪

魔法 無し

能力 反逆 逃走癖 集中 危険探知 魔物探知 魔物能力耐性 魔物解析 魔物契約 念力 魔物融合 魔物号令 並列斬り 弓神 集中 三連矢 六連矢 毒矢 爆裂矢 十六連矢 大魔物使い 魔物探知 魔物解析 魔物合成 能力合成改 魅了無効 空間操作無効


だが、シルルンが自身の強さを知らないのはいうまでもない。

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