91 ダンジョン都市アダック② 修
「えっ!? 玉の黄が人族語を喋った後にどこかに消えたんですか!?」
アニータは雷に打たれたように顔色を変える。
「うん……まぁ、上位種には話せる個体もいるから別に珍しいことじゃないとは思うんだけど、あんな魔物とは思えないような物体が喋ったからビックリしたんだよ」
「なるほど……この玉の黄に関する情報、具体的には人族語を話せることと『瞬間移動』することを売ってもいいですか?」
アニータは遠慮しがちにシルルンに尋ねた。
「えっ!? こんなの売れるの?」
「もちろんですよ!! 私は情報屋もやっていますからね」
「へぇ、そうなんだ。別に好きにしていいよ」
「ありがとうございます」
アニータは嬉しそうに微笑んだ。
ペットたちは特殊な魔物たちが落とした大量のドロップ品を口にくわえてシルルンの元に運んでいる。
シルルンはペットたちがドロップ品をもってくる度にペットたちの頭を撫でており、ペットたちは嬉しそうだ。
「す、すごい確率ですよね……棘は武器をよく落としますけど九割ぐらいが鉄の剣だと言われてるんですよ。だけど三十本中二十五本がミスリルソードで残り五本が魔導具の剣だなんて普通ありえませんよ」
アニータはシルルンのあまりの強運に、シルルンに対して敬語になっていたがはっとしたような顔をした。
(なるほど……リザが言ってたことはこういうことなんだ……)
アニータは確かに凄いと腑に落ちたのだった。
以下はアニータが『アイテム解析』で視た五本の魔導具の剣
風刃の剣 制限型の風属性の剣 日に十回だけウインドの魔法と同等の威力の風の刃を放てる。一日経てば元に戻る。
水刃の剣 制限型の水属性の剣 日に十回だけウォーターの魔法と同等の威力の水の刃を放てる。一日経てば元に戻る。
火刃の剣 制限型の火属性の剣 日に十回だけファイヤの魔法と同等の威力の火の刃を放てる。一日経てば元に戻る。
土刃の剣 制限型の土属性の剣 日に十回だけアースの魔法と同等の威力の土の刃を放てる。一日経てば元に戻る。
ハイ ヘドロの剣 永久型で闇属性の剣 人型特効 ハイ ヘドロの剣で斬られると以下のような状態異常を一度に発生させる。
即死 腐敗 呪い 弱体 猛毒 出血 麻痺 石化 激痛 失禁 混乱 眠り 暗闇 激臭 恐怖 萎縮 脱水 幻覚 失神。
アニータが凶悪過ぎると絶句した剣でもある。
そして、シルルンたちは地下十九階を探索していた。
遭遇する魔物は地下十八階と同様にアンデッド系が多数を占めていた。
「十九階に下りたからもっと黄色がでてくるかと思ったけど全然、でてこないね」
「普通はあんなに黄色はでないんですよ。それに二十階までは魔物の強さもほとんど変わりません」
「ふ~ん、そうなんだ」
(それならそれでペットたちのレベルを上げれるから問題ないね)
シルルンはにっこりと微笑んだ。
「ボス!! 宝箱があるので調べてきます」
リジルは風のように消えた。
「ていうか、ずっと思ってたんだけどなんで宝箱が通路の真ん中にあるんだよ」
シルルンは不可解そうな表情を浮かべている。
彼のイメージでは宝箱はボスが守っているか、隠されているものだと思っているからだ。
だが、シルルンたちはこれまでに四個の宝箱を発見しているが、全て通路の真ん中に置かれていたのだ。
リジルは宝箱を『危険察知』で調べて危険を感じないので罠はないと判断し、宝箱の鍵を二本の尖った針金を使ってあけ始めた。
「ねぇ、あなたはなんで『開錠』を使わないの?」
アニータの声に若干の非難の色が混ざる。
『開錠』『施錠』『罠解除』は盗賊に転職できれば所持している能力で時間効率が悪いからだ。
「ピッキングでしか開かない宝箱があるかもしれないからスキルを上げてるのよ」
「……なるほどね」
アニータは口ではそう返したが、本心では無意味だと思っていた。
『開錠』はピッキングのスキルの上位互換の能力なので、ピッキングで開くのなら『開錠』で開かないことはないからだ。
「ふぅ、鍵が開いたわ」
「あけたいデス!! あけたいデス!!」
「プルが宝箱を開けたいっていってるよ」
「いいわよ。どうせ薬草だと思うけど……」
今まで開けた宝箱は全て薬草だったのだ。
「やったデス!!」
プルは『浮遊』で浮き上がり、ふわふわと移動して宝箱に近づいて『触手』を伸ばして宝箱を開ける。
「玉があるデス!!」
「えっ!?」
リジルは宝箱の中身を凝視した。
プルは『触手』を伸ばして宝箱から玉を取り、ふわふわと『浮遊』で移動してシルルンの肩に着地して玉をシルルンに手渡した。
「ふ~ん……鉄みたいな玉だね」
大きさは十センチメートルほどで銀色に輝く玉だ。
シルルンはプルの頭を撫でる。
プルは嬉しそうだ。
「ちょっと見せてもらっていいですか?」
シルルンは玉をアニータに手渡すとアニータは『アイテム解析』で玉を視た。
「これは魔物専用の防具、魔装玉ですよ!!」
「えっ!? そんなのあるの?」
シルルンはびっくりして目が丸くなる。
「百聞は一見にしかずってやつですよ。試しにスライムちゃんに魔装換と言わせてみてくださいよ」
アニータはシルルンに魔装玉を返し、シルルンはプルに魔装玉を渡して思念で「魔装換と言ってみて」と指示を出した。
「……魔装換デス」
すると、魔装玉は変形してプルの体を一瞬で包み込んだ。
「すげぇ!!」
シルルンは感嘆の声を上げた。
プルの体は銀色のメタリックボディになっており、シルルンはプルの体を触ってみると鉄のように硬かった。
プルは状況が分からずに戸惑っている。
「この魔装玉は良質な鋼で作られているみたいで守備力が百上がって魔法防御が格段に上がるみたい。この魔装玉は守備力はおまけみたいなもので魔法防御に特化したものみたいです」
シルルンは魔法の袋から全身鏡を取り出してプルの前に置いた。
プルは鏡に映る自身の姿が銀色に変わっていることに驚きながらも体を動かして『触手』を出して動かしている。
不思議なことに鉄のように硬い体は自由に動かせるようだ。
「へぇ、こんなのがあるんだ。お店では見たことないけど競売でなら売ってるのかなぁ?」
「そもそも、魔物使いという職業が希少だから競売でも難しいと思いますよ」
「そうなんだ……」
シルルンは残念そうな顔をした。
魔装玉は姿や大きさが様々な魔物のために考案された鎧だ。
遥か昔の時代では今の時代と違って魔物使いは遥かに多く存在していたが、現在ではその技術はほぼ失われている。
「……なんか嫌デス!!」
プルがそう言うと鎧化が解除され、銀色の玉に戻って魔装玉は地面に転がった。
ちなみに、魔装玉を装備するには魔装換と言えば装着できるが、言わなくも着たいと思えば装着でき、外したいと思えば外せるのである。
プニとブラックは魔装玉に見向きもせず、エメラリーが魔装玉を体に取り込んでシルルンの足元まで運んできたが、それだけでエメラリーも興味がないようだ。
「まぁ、仕方ないね……」
(プヨプヨ系の魔物は装備品を嫌がるみたいだね)
シルルンは無理強いをさせる気はなく、魔装玉を拾おうとするとマルが魔装玉を口にくわえてシルルンを見つめる。
「つ、強くなるの!!」
マルは思念でシルルンに言った。
「あはは、着てみたら」
「マ、マソウカンなの!!」
すると、魔装玉はマルの体を一瞬で包み込み、薄い灰色だったマルのボディが銀色に輝くメタリックボディに変わっていた。
「おおっ!! カッコイイね」
シルルンはマルの頭を撫でる。
マルはとても嬉しそうだ。
「宝箱はどこにあるデスか?」
「デシか?」
プルとプニは興味深げな表情でシルルンに尋ねた。
「う~ん……通路にあるのはリジルが見つけると思うから、あるとしたら上か隠し扉の奥にあるんじゃないかな?」
「上デスか。いってくるデス!!」
「デシデシ!!」
プルとプニは『浮遊』で浮き上がって天井まで上がっていく。
「あんまり遠くまで行ったらダメだよ」
「分かったデス!」
「デシデシ!」
「フハハ!! 隠し扉か」
ブラックは『透過』で壁の向こうに消えたのだった。
「じゃあ、進もうか」
「見つけたデス!!」
「えっ!? マジで!?」
シルルンは面食らったような顔をした。
プルたちは壁と天井の間にある一メートルほどの隙間にいて、そこに宝箱があったのだ。
「開けるデス!! ……何にも入ってないデス」
プルは不満そうな表情を浮かべている。
「なっ!?」
唐突にシルルンたちの前に多数のスケルトン種が出現した。
通路の幅は十五メートルほどだが、通路の先が見えないほどスケルトン種の群れで溢れ返っていた。
「ど、どういうことなのよ!? トラップは無かったはずよ」
リジルは不可解そうな表情を浮かべている。
「い、いや、プルが上で宝箱を見つけて開けたんだよ。たぶん、その宝箱がトラップだったんだよ」
「えっ!?」
リジルは遥か上空にいるプルたちのほうを見つめて呆れ顔だ。
「プル、プニ!! 次からは宝箱を見つけたら開けたらダメだよ。トラップがあるかもしれないから危ないからね」
シルルンは思念でプルたちに指示を出した。
スケルトン種の群れはゆっくりとシルルンたちに近づいてくる。
「じゃあ、ハイ スケルトンはマーニャが担当。レッサー スケルトンはバイオレットで、スケルトンは残りで倒してよ」
ペットたちは頷いて一斉に突撃した。
「まぁ、注意するのはバイオレットだけだね。ていうか、この状況はレベル上げには最適だからプルは当りを引いたともいえるよね」
シルルンは満足げな笑みを浮かべながら視線をバイオレットに向けた。
バイオレットはレッサー スケルトンの攻撃を難なく避けて、爪の一撃を叩き込んでレッサー スケルトンを一撃で倒している。
すると、唐突に白く輝く光が放たれ、皆の視線が白く輝く光に集中する。
「あはは、誰かが進化したみたいだね」
進化したのはエメラリーで、エメラリーは嬉しそうにシルルン傍に駆けつけた。
エメラリーは全長一メートルから二メートルになっており、『強酸』とシールドの魔法に目覚めていた。
シルルンがエメラリーの頭を撫でると、エメラリーは嬉しそうに戦場へと戻っていった。
だが、再び白く輝く光が放たれる。
今度はバイオレットが進化して、バイオレットは嬉しそうにシルルンの元に駆けてくる。
「あはは、バイオレットも下位種から通常種に進化したようだね」
バイオレットの全長は八十センチメートルほどだったが、一・五メートルになっており、『威嚇』に目覚めていた。
シルルンはバイオレットの頭を撫でる。
バイオレットは嬉しそうだ。
「バイオレットは引き続き、レッサー スケルトンを任せるよ」
バイオレットは頷いて、再び戦場へと戻っていった。
「ま、魔物が進化するのを初めてみたわ」
アニータはただならぬ表情を浮かべており、リザとリジルも呆気に取られている。
通路にはスケルトン種の多数の死体が転がり、スケルトン種は死体の山を踏み越えてくる。
マーニャは死体の山の頂上に登って『風刃』を放ち、風の刃がハイ スケルトンに直撃して、ハイ スケルトンは崩れ落ちた。
タマたちは丸くなって突撃を繰り返しており、スケルトン種の群れはタマたち突撃される度に弾け飛んでいる。
「あはは、一方的でいい感じだよ」
「ただいまデス!! 宝箱を見つけたデス!!」
「デシデシ!!」
上空からゆっくりとプルとプニが下りてきてシルルンの前に着地し、プルとプニは宝箱を二個ずつ口から吐き出した。
「えっ!? 持ってきたの!?」
リジルは血相を変えて『危険察知』で宝箱を探ると、危険を感じないので瞳に安堵の色を滲ませた。
「ボス、宝箱は動かすだけでトラップが発動するタイプがあるから、プルちゃんとプニちゃんに伝えておいてね」
「うん、分かったよ」
シルルンは思念で「宝箱を発見したら触らずに戻ってこい」と指示を出し、プルとプニは頷いた。
リジルは四個の宝箱の鍵を順番に開けていく。
すると、エメラリー、バイオレット、スカーレットが帰還して、シルルンの傍でへたり込んだ。
タマたちはスケルトン種の多数の死体が邪魔で思うように動くことができず、いったん後退して死体を踏み越えてくるスケルトンを待ってから攻撃を仕掛けている。
マーニャはエメラリーたちが下がったので『風刃』を連発して、風の刃でスケルトン種を皆殺しにしていた。
その姿は猫じゃらしに夢中になる猫そのもので、一発の風の刃でスケルトン種は二十匹ほど貫かれて、スケルトン種はその数を急速に減らしている。
シルルンは思念で「スケルトン種の死体を『捕食』して」とプルに指示を出した。
プルは『浮遊』でふわふわと移動して死体を次々に『捕食』してシルルンの傍に戻ってきた。
残っている死体は、マーニャが登っている死体の山だけだ。
シルルンは思念で「エメラリーたちの体力とスタミナを回復して」とプニに指示を出した。
プニはヒールの魔法とファテーグの魔法を唱えて、エメラリーたちの体力とスタミナが全快し、エメラリーたちは再び戦場に戻っていった。
シルルンはプルとプニの頭を撫でる。
プルとプニは嬉しそうだ。
「フハハ!! 大漁だ!!」
ブラックが地面から姿を現してシルルンの前に宝箱を並べていく。
その数は十個で様々な色が塗られた宝箱だった。
リジルはまだプルたちが持ってきた宝箱の鍵をあけており、十個の宝箱を横目に溜息を吐いた。
「う~ん……」
(ブラックは危なくなっても壁をすり抜けて逃げれるからなぁ……)
シルルンは思念で「危険な宝箱もあるから注意しろ」とブラックに伝えたのだった。
「宝箱がいっぱいデス!!」
プルは瞳を輝かせている。
リジルはプルたちの宝箱の開錠に成功し、ブラックが取ってきた宝箱を『危険察知』で探って開錠に取り掛かり、全ての宝箱の開錠に成功した。
「あけるデス!!」
「デシデシ!!」
プルたちは『触手』を使って自身で取ってきた宝箱を開ける。
「また玉デス!!」
「玉デシ!!」
プルとプニは宝箱から玉を取り出してポイッと後ろに投げ捨てて次の宝箱を開けた。
「……今度も玉デス」
「……デシデシ」
プルとプニは玉をポイッと後ろに投げ捨ててガッカリしている。
アニータは地面に転がった四つの玉を拾って『アイテム解析』で視た。
「う、嘘でしょ!? これ四つとも魔装玉じゃない!! あ、あり得ないでしょ……」
アニータは信じられないといったような表情を浮かべている。
プルとプニはブラックの傍に移動して、羨ましそうに宝箱をじーっと見つめている。
「フハハ!! 開けたいか?」
「あけたいデス! あけたいデス!!」
「デシデシ!!」
「我はこの黒い宝箱を開ける。お前たちも好きな色の宝箱を開けるとよい。主君もひとつどうか?」
「あはは、なら青い宝箱をもらうよ」
シルルンはズラッと一列に並んでいる宝箱から青色の宝箱を『念力』で掴んで自身の前に移動させた。
「なっ!?」
宝箱が勝手に動いたように見えたリザとリジルは目を見張った。
しかし、アニータがいるのでリザはどの様な能力なのかシルルンに追及しなかった。
プルとプニはどの宝箱を開けようかと宝箱の上を『浮遊』で移動して行ったり来たりしている。
「ボス、プルちゃんとプニちゃんは何をしているの?」
「あはは、ブラックが好きな色の宝箱を開けてもいいって言ったから迷ってるんだよ」
「……ボス、試してみたいからブラックちゃんに私も宝箱を開けてもいいか聞いてみてくれないかしら」
「自分で聞いてみたらいいじゃん。僕ちゃんのペットたちは人族語を理解しているんだから」
「わ、分かったわ……」
リジルはおずおずとブラックの前まで移動する。
「わ、悪いけど宝箱を一個開けさせてもらえないかしら」
リジルは緊張した面持ちでブラックに言った。
「フハハ!! 好きにしろ」
「……ボス、何て言ってるの?」
リジルには「ぴゅぴ~ぴゅぴ~」と鳴いているようにしか聴こえず、リジルは困惑した表情を浮かべている。
「あはは、好きにしろって言ってるよ」
「……ブラックちゃん、ありがとう」
リジルは直感で黄色の宝箱を選んで開けた。
すると、宝箱の中身は薬草だった。
「うぅ……やっぱり……」
(普通のダンジョンではありえないけど、このダンジョンの宝箱は運のような何かが作用して宝箱の中身が変わるのね……)
リジルは壁に手をついて落ち込んだ。
彼女は今後、このダンジョンで宝箱を開けてはいけないと思ったのだった。
結局、プルとプニは宝箱を選びきれずに残りの七個の宝箱を開けることになり、順番に宝箱を開けていくが六個の宝箱が玉(魔装玉)だった。
「玉しかでないデス!!」
「デシデシ!!」
プルとプニは頬っぺたを膨らませて怒っている。
残った最後の宝箱をどちらが開けるかプルとプニは悩んだが、『触手』を伸ばして同時に宝箱を開けた。
「……また、玉デス!! でも、二個あるデス」
「……デシデシ」
プルとプニは『触手』で玉を取ってシルルンに手渡した。
「う~ん……今までの玉より小さいね……てか、これは卵じゃね?」
「卵デスか!?」
「デシデシ!!」
シルルンに卵と言われてプルとプニは途端に瞳を輝かせた。
魔装玉は十センチメートルほどだが、この玉は五センチメートルほどしかなかった。
「ちょっと見せてください」
アニータはシルルンから二個の玉を受け取って『アイテム解析』で視た。
すると、ミニミニタマゴと表示されているが、それ以外の情報は視れなかった。
「これはミニミニタマゴという卵でそれ以外は不明ですね」
アニータは複雑そうな表情を浮かべてミニミニタマゴをシルルンに返した。
「あはは、やっぱり卵みたいだね。温めると中から何か出てくるかもしれないよ」
「温めるデス!!」
「デシデシ!!」
「卵はぶつけたりすると割れるから注意して温めるんだよ」
「分かったデス!!」
「デシデシ!!」
シルルンはミニミニタマゴをプルたちに手渡した。
プルとプニは卵を頭にのせて温めている。
「ぬう? こっちは黒い玉が三個だ」
ブラックは黒い宝箱の中から黒い玉を『触手』で取り出してシルルンに手渡した。
「う~ん……これは黒いけど、楕円形だからどうみても卵だよね」
楕円形の黒い玉は三個とも二十センチメートルほどの大きさだ。
「見せてください」
アニータはシルルンから三個の黒い玉を受け取って『アイテム解析』で視た。
すると、ミニタマゴとミニシリーズが孵化すると表示されているが、それ以外の情報は視れなかった。
「これはミニタマゴで、ミニシリーズが孵化すると出ています」
「へぇ、やっぱり、卵なんだ……けど、ミニシリーズって何なんだろうね」
「聞いたこともないので分かりませんね」
アニータは申し訳なさそうな顔をした。
「……う~ん」
シルルンは逡巡していたが、はっとしたような顔をして視線をマーニャに転じた。
マーニャがミニ キャットだからだ。
「……まさか、そんなわけはないよね」
「ぬう、卵などいらぬ。主君に任せるとしよう」
「あはは、分かったよ、とりあえず温めてみるよ」
シルルンは魔法の袋からベルトを取り出して、卵が落ちないようにシャツを縛ってシャツの中に三個のミニタマゴを入れた。
「あとは僕ちゃんの宝箱だけだね」
シルルンは自身の前にある青い宝箱を開ける。
「あはは、弓が入ってたよ」
シルルンは青い宝箱の中から白く光り輝く弓を取り出した。
「ちょ、ちょっと見せてください」
アニータはシルルンから白く光り輝く弓を受け取って『アイテム解析』で視た。
すると、アイテム名は水撃の弓で永久型の水属性で虫族と亡者族の特攻と表示されていた。
「こ、これは凄い弓ですよ!! 棘の黄が落とした氷撃の剣と同じシリーズの弓ですよ」
アニータは興奮して鼻息が荒い。
「ふ~ん、そうなんだ」
シルルンはアニータから水撃の弓を受け取り、水撃の弓でスケルトン種の群れに狙いを定めて水弾を放った。
水弾は凄まじい速さで飛んでいき、スケルトン種を次々に貫いて通路の奥へと消えていった。
「な、なんて威力なの!?」
アニータは呆けたような表情を浮かべている。
「ね、ねぇボス!! その弓……私には扱えないかしら?」
「無理だと思うわよ」
「えっ!? なんでなのよ?」
リジルは訝しげな眼差しをアニータに向ける。
「強い魔導具には使用条件があるのよ。その水撃の弓は上級職以上で『集中』と弓術のスキルレベルが三十以上いるのよ」
「そ、そうなんだ……」
リジルはがっくりと項垂れて、リザは悔しそうに手を強く握り締めていた。
「ま~っ!!」
マーニャが戻ってきてシルルンの脚にしがみつき、戦闘を繰り広げていたペットたちも帰還した。
「ん? どうやらスケルトンの群れを全て倒したようだね」
シルルンは思念で「休憩だよ」とペットたちに指示を出し、何気にマーニャを『魔物解析』で視た。
マーニャ ミニ キャット レベル27 全長約30センチ
HP 1060
MP 670
攻撃力 780
守備力 520
素早さ 950
魔法 ウォーター マジックリフレクト ブリザー ファイヤボール ディスペル
能力 危険察知 回避 威圧 堅守 風刃 壁盾 結界 伸縮自在 必中 全特効 魔法軽減 能力耐性 物理軽減 魔導具軽減 炎刃
「……おいおい、マジかよ」
(『全特攻』が乗ったらシャインの攻撃力を超えてるじゃん……それに『魔導具軽減』って初めて視たよ)
シルルンは大きく目を見張って『魔導具軽減』の存在に驚きを隠せなかった。
彼は軽減系能力の対策としてラーネに紅蓮の剣を買い与えたが、これでは結局、確率依存に逆戻りだと思ったからだ。
ちなみに、プルとプニが宝箱から取り出した十個の魔装玉の中には、ミスリルで作られたものが交ざっていたが、そんなことは知らずにシルルンの魔法の袋に入れられたのだった。
シルルンたちは地下十九階を難なく進んで十字路に差し掛かった。
「ボス! このまま進むとトラップがあります」
「このトラップは有名な転移トラップなのよ。私が知る限り、このトラップを抜けた話は聞かないから右に進むのがいいと思うわ」
「……そうね、私たちが潜ってたときもここは迂回してたのよ。このトラップがまだここにあるということは誰もこのトラップを抜けてない証拠ね」
宝箱は一度取ると場所が変わり、トラップも発動して生き延びると場所が変わるのだ。
「ふ~ん……」
(けど『危険探知』が発動してないからたいしたトラップじゃないんじゃないかな?)
シルルンは訝しげな表情を浮かべている。
「フハハ!! 望むところよ!! 蹴散らしてくれるわ!!」
ブラックは直進して突き進んで、その姿が掻き消えた。
「えっ!?」
アニータは驚きのあまりに血相を変える。
「じゃあ、僕ちゃんも行ってくるから皆はここで待っててよ」
シルルンはブラックを追いかけて歩き出し、その姿が消えた。
「ま~っ!?」
マーニャもシルルンを追いかけて駆け出して姿が消えて、リザたちは呆然と立ち尽くしたのだった。
シルルンたちは大部屋に転移した。
すると、五百匹ほどのスケルトン ナイトがブラックを追いかけていた。
「おおっ!! 主君も来られたか!!」
ブラックは素早さを生かした戦法で奮闘していた。
「……」
(地下二十階までは通常種が多くて特殊な魔物の黄も少ないはずなのに、スケルトンナイトがこんなにいたら完全にハメられたと思うだろうね)
シルルンは難しそうな表情を浮かべている。
「主君!!」
ブラックがシルルンの傍に駆けつけて、シルルンはブラックに飛び乗った。
「リザたちをあんまり待たせても悪いから一瞬で終わらせるよ」
シルルンは『反逆』をペットたちに発動した。
「まっ!?」
マーニャは自身の力が一気に膨れ上がったことに戸惑いを感じて思わずシルルンを見つめた。
だが、彼はこの溢れ出る力はマスターから与えられた力だと直感で理解した。
マーニャは『炎刃』放ち、炎の刃がスケルトンナイトの群れを貫いていく。
たった一発の『炎刃』でスケルトンナイトは五十匹ほどが焼き消えたのだった。
「エクスプロージョンデス! エクスプロージョンデス!!」
「エクスプロージョンデス! エクスプロージョンデス!!」
「エクスプロージョンデシ! エクスプロージョンデシ!!」
「エクスプロージョンデシ! エクスプロージョンデシ!!」
プルとプニは『並列魔法』と『連続魔法』を発動してエクスプロージョンの魔法を唱えて、八発の光り輝く球体がシルルンたちを追いかけるスケルトンナイトの群れに直撃して、凄まじい大爆発が発生してスケルトンナイトの群れは一瞬で全滅した。
シルルンたちは最後の一匹がいる場所に移動して、朽ちた椅子に座る漆黒の骨の魔物と対峙した。
「ほう、あれを倒すか……ここ数百年、我に辿り着いた者はいなかったのだがな」
シルルンは『魔物解析』で漆黒の骨の魔物を視た。
すると、スケルトンロードと判明した。
スケルトンロードはシルルンが視たことがない『眷属召喚』と『駿足』を所持していた。
『眷属召喚』は術者より弱い同属を召喚できる能力で、『駿足』は素早さが一・五倍になる能力だ。
「あはは、これじゃあ本末転倒だね」
シルルンは呆れたような表情を浮かべている。
スケルトンナイト五百匹に対して、スケルトンロードが弱すぎるからだ。
「まーっ!!」
シルルンたちに追いついたマーニャがスケルトンロードに『炎刃』を放ち、炎の刃がスケルトンロードに凄まじい速さで飛んでいく。
スケルトンロードは左に跳躍して炎の刃を回避した。
だが、炎の刃は『必中』によりスケルトンロードを追いかけて、スケルトンロードは炎の刃に貫かれて一瞬で炭に変わって崩れ去った。
スケルトンロードが死んだことにより、巨大な宝箱が出現する。
「へぇ、ボスを倒しても宝箱が出るんだね」
シルルンは思念で「宝箱を一時的に『捕食』して」とブラックに指示を出した。
ブラックは宝箱を『捕食』して、シルルンたちは朽ちた椅子の後方に出現した魔法陣を踏んで姿が掻き消えたのだった。
「ど、どうするのよ!?」
アニータは動揺してヒステリックに叫んだ。
「どうもこうもないわよ!! こんなに『危険察知』で危険を感じるのに私たちが追えば間違いなく足手まといになるだけよ!!」
「ぐっ……た、確かにその通りね……」
アニータも『危険察知』を所持しているので脳内で警鐘が鳴り響いていた。
「……ここは待つしかなさそうね」
リザは表情を曇らせた。
彼女はシルルンを追おうと思えば追うことができたが、リジルたちを守る者がいなくなるので動かなかったのだ。
タマたちやスカーレットたちが心配そうにシルルンたちが消えた通路を見つめている。
「ただいま」
シルルンたちは唐突にリザたちの前に出現した。
「えっ!?」
時間的に五分も経っておらず、あまりに早いシルルンたちの帰還にリザたちは呆けたような表情を浮かべていた。
「お、お帰りなさいボス!!」
リジルは嬉しそうに声を弾ませた。
リザはシルルンを心配していたことに対して羞恥の表情を浮かべていた。
彼女はアニータにシルルンは凄いと言っていたからだ。
「そ、それで、どういうトラップだったんですか!?」
アニータは興奮して身体を震わせている。
「うん、スケルトンナイトが五百匹ぐらいいて、スケルトンロードがボスだったよ」
「ご、五百!?」
アニータはガツンと頭に衝撃を受けたような顔をした。
「……そ、それで倒したんですか? 五百匹ものスケルトンナイトを……これほど早く……」
アニータは戸惑いながらもなんとか言葉を吐き出した。
「まぁね。だけどボスのスケルトンロードより、明らかにスケルトンナイト五百のほうが強いと思うけどね」
「……」
(異常な幸運をもっているから凄いと思っていたけど、幸運も強さも異常だったのね)
アニータはリザが言うシルルンの凄さを履き違えていたと実感したのだった。
シルルンたちは戻らずにそのまま直進して進み始めた。
「このルートは私も知らないから注意が必要ね」
リジルとアニータは注意深く通路を探りながら先頭を進む。
だが、通路は行き止まりになっていた。
「……なんだか拍子抜けもいいとこね」
アニータは顔を顰めて苦笑する。
「私も宝箱くらいはあると思ってたわよ」
リジルも決まりの悪い顔をした。
「ん? 突き当たりに扉があるじゃん」
「えっ!?」
リジルとアニータは血相を変えて突き当りの壁を注視するが扉は見えなかった。
「ちょっとボス、冗談はやめてよ」
リジルは呆れた表情を浮かべている。
「なっ!? 冗談だったの!?」
アニータは突き当たりの壁を手で触って調べていたが中断した。
「えっ!? 見えないの?」
シルルンは不可解そうな顔をした。
「シルルン、私にも扉なんて見えないわよ」
「えっ!? マジで!? 扉が見えてる者は手を挙げて!!」
リザ、リジル、アニータは手を挙げず、シルルンはペットたちを見回すが誰も手を挙げなかった。
「見えてるデシ!」
プニは手の変わりに『触手』を伸ばしている。
「えっ!? プニは見えてるんだ!?」
「なっ!?」
リザたちは面食らってぽかんとする。
「プルは見えてないの?」
「見えないデス……」
プルはしょんぼりしている。
「そうなんだ……じゃあ、プニと行ってくるよ」
シルルンはプルをブラックの頭にのせて、突き当たりにある扉を開けて中に消えた。
「き、消えた!? ほ、本当に扉はあったんだ……」
アニータは愕然とした表情を浮かべており、リザたちは呆然と立ち尽くしたのだった。
「ち、ちきしょう!! 何なんだよあいつらは!?」
このダンジョンのどこかにある一室で、遠見の水晶に映るシルルンたちを見ていた一匹の魔物の声が部屋中に響き渡る。
その魔物はシルルンたちに敗れた玉の黄だった。
このダンジョンでの玉の黄の役割は、一言で言えば侵入者の監視だ。
進入者が弱ければ放置するが、侵入者が地下三十階を守護する者を倒せると判断した場合、これを撃退、あるいは殺すのが玉の黄の役目だ。
そのため、玉の黄はこのダンジョンの最下層に存在するコアから特別な力を与えられていた。
本来、玉の黄のサモンの魔法は一度の召喚で、一匹しか召喚できない上に木偶、車輪、棘しか召喚できないのだ。
だが、玉の黄は与えられた特別な力を使ってハイ ゴーストやスケルトンナイト、スケルトンメイジを召喚し、大兵力でシルルンを迎撃したが、シルルンたちは玉の黄の予想よりも遥かに強く、さらに特別な力を使い大量の木偶の黄や棘の黄を召喚したがそれでもシルルンたちを撃退できなかった。
しかし、特別な力を使うには代償が存在する。
特別な力を使って対象を撃退、あるいは殺すことができれば代償は発生しないが、対象を撃退、或いは殺すことができなければ代償が発生する。
その代償とは、特別な力を与える部屋を設置しなければいけないというものだ。
つまり、攻撃対象がその部屋に入れば特別な力を与えられて強くなるのだ。
だが、玉の黄にもまだチャンスはあった。
今回の場合、玉の黄を撤退させたシルルンが地下十九階に進入したことにより、地下十九階が勝負の階となる。
玉の黄は代償により特別な力を与える部屋を地下十九階に設置しなければいけないが、その部屋をシルルンに発見されなければいいのだ。
そのため、玉の黄は数百年の間、突破されていない転移のトラップの通路の先に特別な力を与える部屋を設置したが、シルルンがこともなくトラップを突破してその部屋を発見したから玉の黄は怒り狂っているのだった。
「ちくしょう!! ちくしょう!! どうすればあいつらを止められるんだ!!」
玉の黄は怒り狂って地面をゴロゴロと転がっている。
手足がないのでそれしかできないからだ。
だが、怒りに任せて転がっていた玉の黄の動きがピタリと止まった。
「……次で絶対に潰してやるからな」
玉の黄は意地の悪い微笑みを口元に浮かべるのだった。
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スケルトンロード レベル24 全長約2メートル
HP 2000
MP 800
攻撃力 600
守備力 650
素早さ 600
魔法 エクスプロージョン シールド
能力 堅守 魔法耐性 能力耐性 威圧 眷属召喚 駿足
スケルトンロードの骨 判定不能
 




