9 大穴 修修
冒険者風の男は首都トーナの街から南東にある森を調査していた。
彼は冒険者ギルドからの依頼を受けており、他に仲間が四人いるが調査範囲を分担してそれぞれで動いていた。
しかし、男は突然地面の中に消えた。
いや、穴に引きずり込まれたのだ。
彼が穴から出てくることはなかった。
シルルンは特別厩舎を訪れていた。
「プルは岩の間の小さな隙間にいたんだよ」
シルルンはプルがいた岩場を指差す。
「あの小さな隙間デスか? 何かいるデス!!」
思念で返したプルが顔を強張らせる。
「えっ!? マジで!?」
シルルンは訝しげな眼差しを岩の隙間を向けると、そこには白ぽいミニスライムの姿があった。
「ふるえてるデス?」
プルは心配そうな表情を浮かべている。
「あはは、マジでいるね」
シルルンは『集中』を発動して紫色の球体を作り出し、紫の結界で白ぽいミニスライムを包み込み、一瞬でテイムに成功した。
「仲間になったデスか?」
「うん、なったよ」
その言葉に、プルは大喜びした。
シルルンは白ぽいミニスライムを連れてスライム小屋に戻ったのだった。
シルルンは白ぽいミニスライムをプニと名付けており、プルとプニを成長させるために様々な食材を与えた。
だが、大量の食材を食べさせても、彼らは二十センチメートルほどにしか成長しなかった。
次にシルルンはプルとプニのレベルを上げることを考える。
しかし、スライムは最弱なために小動物と戦わせることすらリスキーだった。
そのため、シルルンは小さな虫を大量に捕まえて、プルたちに攻撃させたのだ。
攻撃といっても、小さな虫の上にプルたちがピョンとジャンプして、重みで潰すだけの地味な作業だ。
しかし、レベルUPするとプルたちは格段に強くなった。
プルは『ビリビリ』に目覚めており、まずは『ビリビリ』を放って敵を痺れさせてから攻撃することが基本になった。
『ビリビリ』は雷属性攻撃と数秒間対象を痺れさせることができる能力である。
プニはブリザーの魔法とヒールの魔法が使える器用なタイプだ。
双方共にHPとMPは格段に上がったが、攻撃力や守備力はほとんど上がらなかった。
シルルンがプルたちをペットにしてから二週間が経過していた。
首都トーナの街では、武学にスライムテイマーが現れたという話題で持ちきりだった。
スライムのテイムは、ドラゴンテイムと並ぶほどの高難度な技術が必要だからだ。
スライムをテイムするにあたって重要なことは、一瞬でテイムを成功させなければ魔力の乏しいスライムが死んでしまうというところにある。
この噂が広まった理由は、キュリーがどの様にしてミニスライムを救ったのかをシルルンにしつこく尋ねたので、シルルンがペット化したと答えたからだ。
だが、話題には上がるが【魔物使い】としては微妙だった。
【魔物使い】は、対象に対して魔物を行使して無力化、あるいは殲滅することが目的の戦闘職である。
つまり、スライムをテイムする技術はドラゴンをテイムするのと同等だが、スライムは最弱の魔物で戦闘目的としては話にならない上に、スライムテイマーは弱い魔物しかテイムできないというのが通説だからだ。
しかし、【魔物使い】たちの間ではそうだとしても、スライムの愛好家たちの間ではスライムテイマーの出現は神が出現したのと同義だ。
そのため、シルルンの元に愛好家たちや金持ちたちが押し寄せたのだ。
愛好家たちはともかくとして、金持ちたちが押し寄せたのはレース界の影響だ。
スライムレースは女性に絶大な人気があり、多額の金が動く合法賭博である。
そのスライムをペット化して調教できるスライムテイマーは引く手あまたなのだ。
スライムレースのレース形式は、プロ戦とアマ戦の二種類がある。
プロ戦は花形であり、出場資格はスライムテイマーだけだ。
アマ戦はスライムテイマーから命名権を買ったスライムのみが出場可能である。
それゆえに愛好家たちや金持ちたちは、シルルンから命名権を買おうと押し寄せたのだ。
だが、シルルンのペットで命名権を買える個体はすでにいなかった。
赤いスライムたちの命名権はすでに販売済みで、並色たちは命名権、占有権を売ったらハズキたちにシルルンが殺されるからだ。
愛好家たちや金持ちたちは残念そうに帰っていったのだった。
シルルンは特別厩舎を訪れていた。
彼が魔物使いに目覚めたことで魔物が飼われている区画の入室が認められたからだ。
特別厩舎に在籍している生徒は四年生に一人、三年生に二人だったが、そこにシルルンが加わることになる。
シルルンは厩舎の中を見て回ったが、空の檻ばかりで魔物はほとんど飼育されていなかった。
すると、男生徒と女生徒が傍らに一匹ずつ魔物を従えて、シルルンに向かって歩いてくる。
その魔物は上位種であるハイ ウルフだった。
ハイ ウルフの全長は二メートルを超えており、高い攻撃力と魔法を使いこなす優秀な魔物だ。
そのため、ハイ ウルフをテイムできれば一流の魔物使いとして認められるのだ。
「初めましてシルルンくん!! 僕は三年のテックと言います。以後お見知りおきを」
テックの眼差しには、シルルンを深く尊敬しているのがありありと窺えた。
「私は三年のミーラといいます。よろしくお願いします」
ミーラはにっこりと微笑んでペコリと頭を下げた。
「う、うん……」
(同学年なのに丁寧な話し方で、なんかやりにくいね……)
シルルンは複雑そうな顔をした。
ミーラは熱い眼差しでプルとプニを見つめている。
彼女はシルルンが僅か二ヶ月足らずで、魔物使いの最高峰であるスライムテイムに成功したこと対して、尊敬の念を抱かざるにはいられなかった。
テックとミーラは先先代からの【魔物使い】の家系で、小さな頃から修練に励んでいた。
だが、武学入学時点で自力でのハイ ウルフのテイムはできなかったので、彼らは先代からハイ ウルフを『譲渡』してもらったのだ。
彼らが自力でハイ ウルフをテイムできていれば、武学ではなくS学に在籍していただろう。
しかし、『譲渡』といっても魔物使いなら誰でもできるわけではなく、ある程度のテイム技術が必要なのだ。
彼らの場合は、先祖代々受け継がれてきた先代の技術によるものが大きかった。
それを彼らはよく理解しているからこそ、シルルンが誰の教えもなくスライムテイムに成功したことを天才の偉業に他ならないと素直に思っており、できるならば教えを乞いたいと考えていたのだった。
「それにしてもハイ ウルフは強そうだね。僕ちゃんも足と壁になる魔物をテイムしようかな」
シルルンは興味津々といった様子でハイ ウルフたちを見つめている。
「それなら僕たちと一緒にテイムに行きませんか?」
「ん? テイムに行くの? 森に?」
シルルンは目をパチクリさせる。
「はい。修行に行こうかと二人で計画していたんです。できればレッサー マンティス(カマキリの魔物)やレッサー ビートル(カブトムシの魔物)を狙おうかと思っています」
テックは探るような眼差しをシルルンに向ける。
ビートル種は基本的には草食なので、攻撃しなければ襲い掛かってくることは少ないが、マンティス種は肉食で獰猛な上に狡猾で極めて危険な魔物なのだ。
「僕ちゃんは足としてはロパロパを考えてるんだけど、壁の候補をどうしようかと考えてるんだよ」
シルルンは視線をハイ ウルフたちに向ける。
一般的には壁の候補は、ハイ ウルフのような魔物が理想なのだ。
「ロパロパを狙うんですか!! しかも足として」
テックは面食らったような顔をした。
ロパロパ種は、スライムのようなぷよぷよボディで、クラゲのような姿で脚が十本生えており、足が速く垂直な壁でも走行可能な脚力を備えている。
だが、接近すると『酸』を吐き、執拗に追いかけてくるので危険な魔物だ。
「まぁね、あれに乗ってみたいんだよ」
シルルンはふふ~んと胸を張る。
「僕たちにも手伝わせてください。お願いします」
「う~ん、どうしょうかな……」
(一人で行ったほうが早いけど、プルとプニを鍛えるのにはちょうどいいかもしれないね)
シルルンは考え込むような表情を浮かべている。
テックとミーラは緊張した面持ちでシルルンの返答を待っている。
「分かったよ。とりあえず、行ってみようか」
シルルンはにっこりと微笑んだ。
「ありがとうございます。予定は明後日でいかがでしょうか?」
「じゃあ、それで」
(森に行く前に装備を整える必要があるね)
シルルンは踵を返して、特別厩舎を後にしたのだった。
男は森の中の開けた場所で、仲間たちの帰りを待っていた。
「おかしい……」
(集合時間から三時間が経過しているのに、なぜ誰も戻って来ないんだ……)
男は不可解そうな表情を浮かべている。
彼の名はベータ。
ベータは冒険者ギルドから調査依頼を受けて、首都トーナの街から南東にある森の調査をしており、彼は部下四人と手分けして調査していたが集合時間になっても誰も帰還しなかったのだ。
調査内容は、森での行方不明者が多発している原因を調べることだ。
森の中心部には魔物の上位種が存在していることが確認されているが、冒険者ギルドが依頼した内容は、中心部には行く必要のない内容なのにも拘わらず、五組以上の冒険者が行方不明だった。
他にも森で生計を立てる者たちや、武学の学生だけでも百人以上が行方不明になっており、多数の捜索依頼が冒険者ギルドに寄せられている。
ベータは森の外周付近を調査し、その情報を吟味して部下たちと共に森の内部調査を行う予定だった。
彼は六時間待ってみたが部下たちは帰還せず、仲間たちが調査していた場所に向かう。
ベータは森の中を油断せずに慎重に進んでいく。
彼は中心部以外でハイ スパイダーを目撃したという情報を思い出していた。
つまり、彼は部下たちがハイ スパイダーに殺られた可能性が最も高いと考えていた。
仮にハイ スパイダーに出くわしたら、ベータと部下たちが揃っていても生存は極めて困難で、ハイ ウルフですら勝てる見込みは薄い。
それほどハイ スパイダーは強いのだ。
ベータはハイ スパイダーが頻繁に森の外周付近に現れるのなら、早急に冒険者ギルドに報告しなければ大変なことになると考えていた。
「――っ!?」
ベータは地面にあいている巨大な穴を発見して怪訝な表情を浮かべた。
(大きな葉を使って穴を隠そうとしている……誰かが罠を仕掛ける途中なのか?)
ベータは難しそうな表情を浮かべていたが、巨大な木の後ろに身を隠して大穴を監視したが、一時間が経過しても誰も現れることはなかった。
ベータは鞄から松明を取り出し、火をつけて大穴の中を覗き込む。
「深すぎて底が全く見えん……」
(これは罠を仕掛けるために人が掘った穴ではない……)
表情を強張らせるベータは鞄からロープを取り出し、身を翻して近くの木にロープを結ぼうとした。
すると、大穴から魔物たちが姿を現してベータに向かって襲い掛かったが、ベータは素早く横に転がって攻撃を避ける。
その魔物はレッサー ラット(ネズミの魔物)で、数は四匹だ。
レッサー ラットは極めて数が多く、最弱の魔物と言われている。(厳密に言えばレッサー ラットよりも弱い魔物はいる)
だが、彼らは『毒牙』や『毒爪』を所持しており、攻撃を受けると毒に侵される可能性があるので厄介だ。
「ちぃ、四匹か……」
(毒消しがあるからなんとかなるか……)
ベータは意を決したような顔をした。
しかし、大穴からさらにレッサー モール(モグラの魔物)二匹が飛び出てきた。
「馬鹿なっ!?」
(レッサー モールは単体でしか行動しないはずだ……それがなぜ多種の魔物と一緒にいるんだ)
ベータは信じられないといったような表情を浮かべている。
だが、大穴から体の横幅が一メートルを超える巨大な魔物が、上半身だけを露にしてベータを睨みつけた。
「あ、あれは何だ?」
(モール種の通常種なのか……?)
ベータは目を大きく見張って息を呑む。
レッサー ラットたちはジリジリと距離をつめていたが、一斉にベータに向かって襲い掛かる。
その瞬間、身を翻したベータは必死の形相で逃げ出した。
しかし、レッサー ラットたちはベータを追いかけて、その内の一匹がベータに飛び掛かる。
ベータは反転して剣を真横に振るい、レッサー ラットは身体が上下に分かれて大量の血を撒き散らしながら地面に落ちた。
二匹のレッサー ラットが同時にベータに目掛けて飛び掛り、ベータは左手に持つ盾で右のレッサー ラットの攻撃を受けながら、剣で左のレッサー ラットの首を刎ね飛ばす。
左のレッサー ラットは断末魔の絶叫を上げることもできずに、胴体から血を噴出させて動かなくなった。
右のレッサー ラットは怒りの形相でベータに向かって飛び掛ったが、ベータは正面から剣を振り下ろし、レッサー ラットは体から血飛沫を上げて体が真っ二つに裂けて息絶えた。
その光景を目の当たりにした最後の一匹は大穴へと引き返していく。
森の中をベータは全力で疾走していた。
彼はハイ スパイダーに部下たちが殺されたと考えていたが、大穴が原因だと直感していた。
彼の部下たちは森の外周付近をそれぞれが調査いていたからだ。そして、そこから導き出される答えは、大穴は何箇所も存在するということである。
ベータはそれらが地下で繋がっていると推測しており、地下に広がる巣の規模は計り知れず、早急に調査団を派遣する必要があると考えて、全力で冒険者ギルドに向かうのだった。
シルルンたちは学園から一番近い武器防具屋を訪れていた。
商店などは区画整備されたエリア内にしかなく、近いと言っても何十キロメートルも離れているのである。
「プルたちは手がないから防具だよね」
シルルンたちは防具が置かれている区画に移動する。
「でも、防具も鎧とかは着れないから兜とかだよね」
シルルンは鉄兜を二つ手に取って、プルとプニに被せるとすっぽりと入った。
「真っ暗デス!!」
「デシデシ!!」
プルたちは鉄兜で視界が塞がって暗闇に包まれていた。
「あはは、じゃあ、これはどうかな」
シルルンは鉄兜を元の位置に戻し、魔法使いが被るような帽子を手に取ってプルに被せた。
「なんか嫌デス……」
プルは不満そうな顔をした。
「えっ? 似合ってるんだけどなぁ……」
シルルンはプルから帽子を取って、プニに被せようとしたがプニも嫌そうな顔をした。
「う~ん、スライム種は頭装備が嫌みたいだね」
シルルンは眉を顰めながら帽子を元の位置に戻すと、いつの間にかシルルンたちは女性客に囲まれていた。
女性客たちはうっとりとした表情でプルとプニを見つめている。
「……」
(プルたちは学園でも人気があるけど、外でも人気だね)
シルルンは満足げな笑みを浮かべながら、弓が置かれている区画に移動する。
彼は短剣よりも弓の方が得意なのだ。
棚には木の弓、鉄の弓、鋼の弓、ミスリルの弓が飾られていた。
「木の弓は論外だね……最低でも鋼が欲しいよね」
シルルンは鋼の弓を手に取って、全力で弓を引き絞る。
「ぐっ……」
(引けるには引けるけど何度も引けないし、実戦では使えないね……)
シルルンは残念そうに鋼の弓を棚に戻した。
彼は幼き頃から武術や学術を親により強制的に学ばされていた。
そのため、一般的な【村人】【街人】より遥かに強いが、鋼の弓を引くということは鋼の棒を曲げる膂力が必要だということなのだ。
すると、シルルンの隣で弓を物色していた男が鋼の弓を手に取った。
男の身体は筋骨隆々で腕は丸太のように太かった。
男は余裕の表情で鋼の弓を引き絞り、満足げに鋼の弓を手にして去っていった。
鋼の弓の値段は三百万円だ。
「まぁ、分かってはいたけど遠距離攻撃はどうしてもほしいよね」
シルルンは視線をクロスボウが飾られている方に転じる。
そこには弓と同様に、木、鉄、鋼、ミスリルのクロスボウが飾られていた。
シルルンは鋼のクロスボウを手に取った。
彼が手に取ったクロスボウは巻き上げ式のクロスボウである。
通常のクロスボウは弦を引く際にかなりの力が必要だが、巻き上げ式の場合はリールを巻くだけで弦を引くことが可能なのだ。
彼は巻き上げ式のミスリルクロスボウが欲しいと思ったが、値段が五千万円と高額で所持金が全く足りなかった。
シルルンは巻き上げ式の鋼のクロスボウと鋼の矢百本と矢筒も購入した。
値段は巻き上げ式の鋼のクロスボウが八百万円で、鋼の矢が一本千円、矢筒が一万円だ。
シルルンたちは鎧が置かれている区画に移動し、シルルンは肩当を探していた。
彼が肩当を探しているのは、肩当があったほうが肩にのっているプルたちが動きやすいと考えたからだ。
シルルンはプルとプニをテーブルの上に下ろし、金色の肩当を手に取って身に着ける。
「かっこいいデス」
「デシデシ」
プルとプニは瞳を輝かせる。
シルルンははにかんだような笑みを浮かべて全身鏡の前に移動した。
「へぇ、悪くないかも……」
シルルンは自信ありげな顔をした。
「ぷっ……」
「馬鹿じゃないの……」
「似合うわけないじゃん」
その声に、シルルンは焦って振り返ると、女性客たちが小馬鹿にした様子でニタニタと笑っていた。
シルルンは赤面して金色の肩当を元に戻し、プルとプニを連れてその場から逃げ出したのだった。
彼が身に着けた肩当が革製だったらまだマシだったかもしれないが、さすがに白ぽいシャツに金色の肩当は似合わなかった。
シルルンは白ぽいシャツと黒ぽい半ズボンとサンダルを購入し、着ていた服などは捨てた。
シルルンたちは出入り口に向かって歩いていくと、出入り口からパールが入店した。
「ひぃいぃ!!」
シルルンは瞬間的に商品棚の後ろに身を隠す。
「シルルンじゃない」
だが、パールはシルルンの目の前にいた。
「ひぃいいいいぃ!!」
(なんで気づかれるんだよ!?)
シルルンは目の中に絶望の色がうつろう。
「ふう、どれも結構な値段ね……」
パールは視線を皮製品が並ぶ区画に向けて小さな溜息をついた。
「……」
(多分、消耗品を買うお金がないんだろうね……パールぐらいの実力だと武具の消耗頻度も桁違いだろうし……)
シルルンは難しそうな顔をした。
そもそも、シルルンたちが通う第二武学は難民たちが多数を占めており、親がいないことが当たり前なのだ。
そのため、様々な雑用をこなして金を稼がないと装備品すら購入できない状況に陥ることになる。
だが、貴族だったパールたちは金を稼ぐという行為自体をしたことがなかった。
「僕ちゃんが買ってあげようか?」
シルルンは探るような眼差しをパールに向ける。
「そんな悪いわよ」
パールは顔を顰めて俯いた。
「ふ~ん……じゃあ、僕ちゃんいくよ。バイバーイ」
シルルンたちはその場から立ち去ろうとすると、パールがシルルンの首根っこを掴んでシルルンは振り返る。
すると、パールが鬼の形相で睨んでいた。
「ひぃいいいいいぃ!! 」
(なんでだよ!?)
シルルンは失禁しそうになる。
パールは鉄の剣と皮製の防具を凝視している。
シルルンは鉄の剣と皮製の防具一式を購入し、パールに手渡した。
「ありがとう」
パールはこぼれるような笑みを浮かべている。
シルルンたちが出入り口に向かって歩いていくと、後ろから声を掛けられる。
「シルルンじゃない!! 買い物が終わったら学園に顔をだそうと思ってたのよ」
リザは満面の笑みを浮かべてシルルンたちに向かって歩いてきた。
「やぁ、久しぶりだね」
シルルンはにっこりと微笑んだ。
「……誰?」
パールは不審げな表情を浮かべている。
「……リザとは森で会ったんだよ」
「……」
パールは殺気に満ちた目でリザを睨んだ。
「そっちこそ誰よ?」
リザは訝しげな眼差しをパールに向ける。
「学園の戦士科の生徒だよ」
「幼馴染よ!!」
パールは顔を強張らせて声を荒げた。
パールとリザの視線が交差して、激しい火花が散る。
「ひぃいいいいいいぃ!?」
(なんでこうなるだよ!?)
シルルンは恐怖に顔を歪める。
だが、しばらくするとリザが視線を外し、シルルンはほっと安堵の胸をなでおろした。
「それより、肩に乗ってる子は可愛いわね」
リザは目を爛々と輝かせてプルの頭を撫でようとした。
「『ビリビリ』デス!!」
プルは『ビリビリ』を吐き、電撃がリザの手に直撃する。
「痛っ!! 何これ!!」
リザは痛みに顔を歪めて手をさすっている。
一般人なら倒れるほどの威力が『ビリビリ』にはあるのだ。
「あはは、プルは馴れてないと『ビリビリ』を吐くんだよ」
シルルンはフフ~ンと胸を張った。
「何よそれ!!」
リザは苛立たしげに眉を顰める。
しかし、それを見ていたパールは不敵な笑みを浮かべており、シルルンの前に立って、身も凍り付くような殺意の眼光を輝かせた。
「ひぃいいい!?」
シルルンは恐怖に身体を強張らせる。
それに連動したかのようにプルも萎縮し、プルはパールに頭を撫でられた。
パールが勝ち誇ると、再び、両者の間に激しい火花が散る。
「ひぃいいぃ!!」
シルルンは恐怖に怯えた表情で後ずさるが、今度もリザが視線を外した。
リザが視線を逸らした理由は彼女のほうが実力が数段上だからだ。
「そんなことより、私は泊まるところがないからシルルンの部屋に泊めてほしいのよ」
リザはしれっと言った。
彼女はハイ スパイダーに破壊された鎧を買い換えて金欠なのだ。
「えっ!? お金ないの?」
シルルンはびっくりして目が丸くなる。
「そうお金がないの。別にいいでしょ森では一緒に寝てたんだから」
リザは意地の悪い微笑みを口元に浮かべる。
「なっ!!」
パールは大きく目を見張って絶句した。
「あんたも一緒に泊まればいいじゃない。私は構わないわよ」
リザは得意げな表情を浮かべている。
「ぐっ……」
パールは忌々しそうに体を震わせている。
勝負の行方はリザの勝利で幕を閉じた。
シルルンはリザに部屋を借りる金を貸すと提案したが、何を言ってもうやむやにされて、リザがシルルンの部屋に泊まることになったのだった。
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プル&プニ スライムソーサラー レベル1
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プル スライムソーサラー レベル10
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魔法 ヒール ブリザー パラライズ
能力 稀に統率 糸 毒牙 溶解液
レッサースパイダーの糸(1m) 200円
スパイダーの糸(1m) 200円
レッサー スパイダーはスパイダーに進化すると弱体化する。
そのため、ハイ スパイダーに進化できる個体は極めて稀だが、ハイ スパイダーに進化できれば爆発的に強くなる。




